英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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46話 ガレリア要塞

レトは窮地を救ってくれた人物を追いかけて躊躇なくローエングリン城最上階から飛び降り、エベル湖の()を走っていた。

 

「——いた!」

 

まるで待ってくれてたように探していた人物を見つけた。 しかしその場所は結界で囲まれた神殿の中……あそこに辿り着くにはかなり迂回しなければならない。

 

「くっ……仕方ない!」

 

走りながらケルンバイターを抜き、宝珠が輝き出し……

 

「せやっ!!」

 

結界を斬り裂いて神殿の最奥までショートカットした。 中に入ると同時に結界は元に戻り、着地して顔を上げると……そこには青い逆三角形の宝石を見上げている甲冑を着た長い金髪の美女がいた。 レトは静かに彼女の元に歩み寄り……

 

「母上……」

 

「——お久しぶりですね、レミィ。 どうやら己の真実を知ったようですね」

 

美女……身食らう蛇が第七柱、《鋼》のアリアンロードは振り返り、レトと向かい合う。

 

「………………」

 

「貴方は緋の魔女の手により、かの焔の聖獣によってこの時代に送られました。 この事実を知っているのは現皇帝と、私のみ……」

 

「……それを聞いたとしてもまだ分からない部分が多過ぎます。僕の前にローゼリアの婆様が現れたのも、父が古文書を渡して試練を受けさせたのも……」

 

そこで言葉を切り、自分の胸に手を強く当てる。

 

「何より……僕がかの獅子心皇帝と槍の聖女の間に生まれたなんて……!!」

 

そう、レト……レミスルトは《獅子心皇帝》ドライケルス・アルノールと《槍の聖女》リアンヌ・サンドロットの間に生まれた子ども。 そんな歴史を揺るがす真実と……この時代で現皇帝ユーゲンス三世が座る席に最も相応しい人間であった。

 

「いかに貴方が否定しようとそれは事実。 変える事の出来ない運命です」

 

「……クロスベルから帝国に帰った時に、皇帝から聞かされて驚きましたが……信じられないだけであって否定している訳ではありません。 それより、僕は知りたい事は山ほどあります……」

 

「…………1つだけ、お答えしましょう」

 

「では…………母上は、僕を愛してましたか?」

 

「!?」

 

予想外の質問だったのか、初めてレトは彼女が驚いた顔を目にした。

 

「僕を剣帝として招き入れるより、なぜ母上が今の時代で生きている事より、この先結社が何をするのかより……今はそれだけ、それだけが知りたい真実です」

 

今水面下で起きつつある帝国の現状より、結社の野望よりもレトはそれが1番聞きたかった……

 

「ええ、もちろん。 レミィも、あの方も、等しく愛おしい……」

 

アリアンロードはゆっくりとレトに歩み寄り……優しく抱きしめた。 初の家族との抱擁が固い甲冑越しだったがレトにはとても暖く感じられた。

 

「……ぁ……」

 

「この身になって久しく、もう貴方を抱きしめる事は諦めていましたが……」

 

すぐ横にある顔は凛とした戦士の顔ではなく母の顔をしており、レトは優しく抱き返した。

 

「母上……」

 

「レミィ……」

 

お互い時を埋めるように抱きしめ、しばらくしてから離れた。

 

「私は貴方の隣には歩いてはいけない。 むしろ貴方が行先に立ち塞がるでしょう……ですがレミィ、貴方は貴方の信じる道を歩いて行きなさい。 あの方と同じように、自由に」

 

「……はい!」

 

次に会う時は敵になるかもしれない……だが2人には苦悶の表情は見えず、アリアンロードはレトに剣十字のペンダントを首に掛けてあげた。

 

「これは……」

 

「私の母から譲り受けたサンドロット家の家宝です。 貴方のそのバレッタもドライケルスが使っていたもの……貴方が持っていた方がいいでしょう」

 

「このバレッタが……父上の……あまりこれを使っている想像も出来ませんし、なんか畏れ多い気もしますね」

 

レトは後ろにある髪をひとまとめにしている丸型のバレッタに触れる。

 

「ふふ、彼はお守りとして持っていたようですが……」

 

そこでアリアンロードはレトに歩み寄り……最後にある1つのお願いをした。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

翌日、8月30日——

 

「レト、本当に誰とも会ってないのだな?」

 

「だーかーら! 誰にも会わなかったって!」

 

朝早くにレト達B班はレグラムを後にしてガレリア要塞に向かおうとする中……レトはリィン達に、特にラウラに言い寄られていた。

 

昨夜、レトはボートに乗って追ってきたラウラ達と合流すると……ラウラはレトに詰め寄って“誰かと会ったか?”と何度も聞き返されている。

 

「じゃあなんであの時、母上って呼んだの?」

 

「見間違えたんだよ。 かなり似てたから」

 

「ふむ……?」

 

「………………」

 

ここまで聞き返してくるのは、宝珠の呪縛から助けられた後にリィンが“槍の聖女”と呟いてしまったからである。 レトは鬱陶しそうに

 

(レト、その……例えあの時救ってくれたのが槍の聖女ではなかったとしても。 そなたの母君は……)

 

(……分かってる。 ラウラにだけは教えておくけど……あったよ、僕の母上に)

 

「ま、誠か!?」

 

(シ、シッーー!!)

 

慌ててラウラの口を塞ぎ、不振に思ったリィン達にレトは愛想笑いを送る。

 

「あ、あはは……」

 

(す、すまぬ……)

 

夏季休暇の時、クロスベルから帝国へラウラも同行しており。 バルフレイム宮にある翡翠庭園でレトとラウラはユーゲンスからレトの出生について聞いていた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

約1ヶ月前——

 

アークスからの通信でレトは大陸横断鉄道に乗り、降りる予定だったはずのトリスタを通り過ぎて帝都に向かっていた。

 

「別にラウラも着いてこなくても良かったのに……」

 

「私も同行しても構わないと言われたのだ。 皇帝陛下が何を仰られるのか私にも興味がある」

 

「にゃー」

 

少し乗り気ではないレトに対し、ラウラは興奮が隠しきれない感じだった。 レトはそれなりに顔を合わせていたが、ラウラはそうではなく、皇帝陛下と対面する事に緊張を感じていた。

 

それからすぐにヘイムダル中央駅に到着、大通りに出ると少し離れた場所に導力リムジンが止まっていた。 レトはその側に控えているご老人に見覚えがあり、歩み寄ると老人がレト達の接近に気付くと恭しく礼をした。

 

「お待ちしていました。 レミスルト様」

 

「ご苦労様」

 

「そしてアルゼイト卿のご息女、ラウラ様とお伺いします。 話は聞いておりますので、どうぞこちらへ」

 

「感謝する」

 

この場で話す事を嫌がったレトは早々に導力リムジンに乗り込み、バルフレイム宮に向かって走った。 といってもヴァンクール大通りを真っ直ぐに進むだけで、特に渋滞もなく数分で到着した。

 

降りると運転していた執事が2人を案内し、翡翠庭園に連れてこられた。 室内にある巨大なガラス張りの庭園……行事などには使われる事もあるがまず足を踏み入れる事のない場所。 ラウラは少し気負い、レトはどこ吹く風と流して庭園を歩き……紅い服とマントを羽織っている金髪の男性……ユーゲンス皇帝が腕を組んで直立不動で立っていた。 その隣には王妃プリシラもいた。

 

「——来たか」

 

「及びに預かりこのレミスルト、ただ今参りました」

 

「うむ。 してそちらが……」

 

「はっ。 レグラムを統べるヴィクター・S・アルゼイトが娘、ラウラ・S・アルゼイトと申します」

 

2人は皇帝の前で跪いた。 ユーゲンスは頭を下げて跪くラウラを見て呟く。

 

「……サンドロット(S)を受け継ぎしものが一緒に来るとは……これもまた必然か」

 

「陛下?」

 

「表を上げよ」

 

聞き取れなかったが、許しを得た事で2人は顔を上げて立ち上がる。

 

「今日そなたに来てもらったのは他でもない。 そなたの出自について、話そうと思ったからだ」

 

「……やはり存じていたのですね。 私の出自について」

 

「ハーメルの件は聞いている。 それを利用しようとした第一飛空艦隊ついてもな。 大佐には然るべき処分を受けてもらった」

 

「そうでしたか……ご配慮、感謝します」

 

ドレックノール要塞での一件、あの後どうなったかレトは知る由もなかった。

 

「話が逸れたな。 その前に聞いておきたい、そこのアルゼイトの娘にも聞かせてもよいのだな?」

 

「はい。 ラウラには聞く権利があると思います」

 

「レト……」

 

「道理だな。 よかろう」

 

レトはユーゲンスが言うラウラが聞く権利に語弊を感じた。 レトが認めたからではない、もっと別の理由で……

 

「単刀直入に言おう。 そなたは200年前の獅子戦役終結時代の人間だ。 父は……かの《獅子心皇帝》ドライケルス・アルノール。 母は《槍の聖女》リアンヌ・サンドロット」

 

「なっ!?」

 

「まさか……」

 

「………………」

 

ユーゲンスの口から出てきた真実にラウラとプリシラは驚きの声を上げ、レトは黙ってそれを聞いた。

 

「知っていたようだな?」

 

「いえ……漠然ともしかしたらって」

 

「どうやらハーメルで会っていたそうだな。 かの聖女と」

 

「なにっ!?」

 

ラウラはレトが槍の聖女と戦った事に驚愕した。 当時レトがハーメルに向かった事は知っていたが、そこで何をして何があったのかは聞いてなかったようだ。

 

「それは本当か、レト!?」

 

「本人とは言ってないけど、まさしく槍の聖女その人って人には会ったよ」

 

「……お前にしては怪我が大きかったのは、そのためか。 かの聖女と手合わせを……」

 

「手合わせというより指導剣だったけどね。

まあそんな事より……どうしてその事実を陛下ご自身が?」

 

ここで1番レトが聞きたかったのはそこだ。 一体どういった経緯でレトの出生や両親について知る事が出来たのか疑問であり、ユーゲンスは腕を組みながら答える。

 

「代々、皇帝を継ぐ者はある皇帝の座と共に一封の手紙を授与されていた。 その手紙の宛先は不明だが……ドライケルス大帝が書いた手紙とされていた」

 

「手紙……?」

 

「その手紙の裏面には“七耀暦1188年に開けよ”と書かれていた。 アルノールはその手紙を予言書のように保管し……200年の時を経て私の代で封を開けることができた。 そして手紙にはこう書かれていた……“近々、焔の聖獣が槍の聖女の間に生まれた我が息子をそちらに送る”と」

 

「それが……」

 

「年が明けて2ヶ月後……カレル離宮に一体の大型の魔獣が侵入した。 室内に突然現れた事もあり騒然としたが……私は魔獣、いや女神が遣わした聖獣に歩み寄った」

 

「あの時は本当に驚きました。 心臓が飛び出そうになったくらいです」

 

プリシラは頰に手を当てながら困惑した顔になる。 当時の事を思い出しているのだろう。

 

「焔の聖獣は傷付き、今にも倒れそうだった。 そして、聖獣が口に籠を咥えていた。 私は籠を受け取り、中を開けると……」

 

「赤ん坊の僕がいた、と」

 

自分がこの時代に来た経緯を知るも、やはりレトは腑に落ちないかおをしていた。

 

「お前が持っている槍と武術書、古文書はその時一緒に入っていたものだ。 そして当時、その場には私とプリシラの他にオリヴァルト、四大名門の領主もいた。 私は真実を話し、この事実を公開しないと固く命じた」

 

「それで……他の貴族はともかく、四大名門の領主が僕に優しかったのは……」

 

「あなたにも辛い思いをさせてしまって……オリヴァルトの事もあり、私はあなたを受け入れようとしましたが……それを許さぬ貴族が」

 

「いえ。 兄はともかく、血筋が明確ではない私は皇族の中でも異端……真実はそうでもないですが、現代で自分がかの獅子心皇帝の子であると公表しても信用してもらえず、不敬罪になるのが落ちです。 それに……兄さんとアルフィン、セドリックが僕に良くしてくれたので寂しくはなかったです」

 

「そうか……」

 

胸に手を当てて答えるレトを見て、ユーゲンスはフッと小さく笑う。

 

「レミスルト。 私はお前に何もしてやる事は出来ない……だが、お前は自分で道を示した。 この先も、己が信じる道を歩いて行け」

 

「もちろん、僕は自由に生きますよ。 父のように……ノルドの高原で寝そべりながらでも」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「………………」

 

(《槍の聖女》リアンヌ・サンドロット……どうして今もなお生きているのかは定かではないが、この地に来て、彼女の子がレトである事が改めて確証を得た)

 

(え……)

 

(ミリアムが言った通り、似ているのだ。 そして昨夜一瞬だけ感じた気配、やはりそなたと似ていた)

 

そう言われると照れくさいのか、レトは頰をかいた。 と、レトは先ほどから導力カメラを大事そうに抱えており、ある写真を見るたびに頰を緩ませていた。

 

「……ん?」

 

「あ……」

 

階段を降りるとあの3人組がおり、レトの顔を見るや否や気まずそうに顔を背ける。 しかし、レトは無視するようにその横を通り過ぎた。

 

「………………」

 

「済まぬな。 だが、私も擁護する気にはなれない。 私ばかりに目を向けるばかり、そなた達は4カ月前……いやそれ以前から成長を止めている」

 

ラウラ本人の口から出てきた本音の事実に、3人は衝撃を覚え……ただ立ち竦んだ。 ラウラは礼をすると、先に行ったレトを追って駅に向かった。

 

「良かったのか?」

 

「ああ。 現実を突きつければ、彼女達は近い未来屈してしまう。しかし私は言おうか渋いてしまい……結果先にレトに言われてしまった」

 

「レトに関しては説教と言うより、あの子達に対しての不満を言っただけだけどねー」

 

「けど、これで彼女達も考え、前に進めるといいのですが……」

 

「——それをどうするかも彼女達次第だよ」

 

駅前の階段の上で待っていたレトがエマの質問に答える。

 

「レト……」

 

「これ以上、彼女達に何かを喋るつもりはない。 今僕達がすべきなのはガレリア要塞に向かう事だよ」

 

「……ああ、そうだな」

 

「レト、おやつかってー」

 

「しょうがないなー。 500ミラまでだからね」

 

「やったー!」

 

「あはは……」

 

「今日も今日とて賑やかなことだ」

 

「フフ、ではゆくとしようか」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

少しレグラムの地から去るのを名残惜しみながらも列車は北上して行き……バリアハートを経由してケルディックに到着した。

 

駅に降りると、駅内は鉄道憲兵隊の隊員がそこらかしこにおり、かなり物々しかった。 この警戒にリィン達は驚いていると……

 

「ふふっ、奇遇ですね」

 

声をかけられ、振り返ると……そこにはクレア大尉が立っていた。 鉄道憲兵隊が警備しているから彼女が指揮していてもおかしくないだろう。

 

「クレア大尉……!」

 

「あー、クレアだ! ひょっとしてボクに会いに来たとか?」

 

「ふふ、偶然ですよ。 アイゼングラーフが通るので警備体制を敷いているんです」

 

「あ、そっかー」

 

「でも会えてよかった。 2ヶ月ぶりくらいですね」

 

「えへへ……」

 

あやすようにクレアはミリアムの頭を撫でる。 その光景を彼女達が《鉄血の子供達》を当てはめながら微妙な顔をして見ていると……アナウンスが流れ出した。

 

「………………」

 

「定刻通りですね」

 

すると、振動が伝わり始め、その振動が次第に大きくなり……高速で深紅の列車が駅内に進入した。 早過ぎるため紅い線にしか見えない列車は数秒で駅を抜けてしまった。

 

「今のが《鋼鉄の伯爵(アイゼングラーフ)》号……」

 

「帝国政府の専用列車だね」

 

「ボクも乗ったことがあるけどすっごく速いんだよねー。 内装も豪華でキレイだし」

 

「ふーん、って事はあの列車に兄さんが乗っていたんだね」

 

「! おい、レト……!」

 

アッサリと自分の兄がオリヴァルト皇子だと明かすレト。 名前まで言ってはいないがリィンはすぐに誤魔化そうとし……クレア大尉は苦笑した。

 

「ふふ、お気になさらず。 レミスルト殿下についてはご存知です。 といっても、知ったのはつい先月の事ですが」

 

どうやら既に認知だったようで、リィンは少し気疲れたように溜息をついた。

 

「ちなみご存知ですか? 鋼鉄の伯爵という名前の由来ですが……オズボーン宰相にちなんで付けられたそうです」

 

「確かに鉄血宰相などと呼ばれているようだが……」

 

「でも……宰相閣下はたしか平民出身でしたよね?」

 

「ええ、ですが11年前、陛下より宰相に任ぜられる時、伯爵位を賜ったそうです。 その時、今の列車の名前も合わせて付けられたのだとか」

 

「なるほど……」

 

(11年前……百日戦役、ハーメルの悲劇が引き金となって引き起こされた戦争を……)

 

11年前があの百日戦役が引き起こされた年……レトはその戦争を終結させた鉄血宰相に複雑な心情を抱いた。 と、そこでずっとリィンが狐につままれた顔をしていた事にラウラ達は気付いた。

 

「どうしたのだ? 呆けたような顔をして」

 

「なんだ、疲れでも出たのか?」

 

「いや………その、トワ会長やオリヴァルト殿下の姿が列車の窓の外にちらっと見えてさ」

 

「へー、よく見えたね?」

 

「アイゼングラーフの速度で……なかなかの動体視力ですね」

 

「いや……まぐれですよ」

 

「ちなみに列車内に乗客は41人いたよ。 その中にトワ会長と兄さん、宰相閣下もいたよ」

 

「……レトさんはそれ以上でしたね」

 

と、そこで今度はクロスベル行きの大陸横断鉄道が到着するというアナウンスが流れてきた。

 

「そろそろみたいだね」

 

「ああ……待たずに済んだみたいだ」

 

しばらくして列車が到着し、乗客が降りる中先頭車両からアリサ達B班が降りてきた。

 

「——それではクレア大尉」

 

「またねー、クレアー」

 

「ええ、どうか気をつけて」

 

クレア大尉と別れて列車に乗り込み、ガレリア要塞に向かって出発した。 B班が席に座り、A班は立つ中……レグラムでの実習内容をかいつまんで説明した。

 

「——なるほど。 A班も色々あったみたいね」

 

「うーん、聖女の霊っていうのはさすがに信じられないけど……」

 

「やれやれ。 夢でも見たんじゃないのか?」

 

「あはは……そうかもね。 母上は夢幻のような人だから……」

 

「へー、そうなんだ。 幽霊だと思ったけど……」

 

「…………ん?」

 

リィン達はレトを見る。 今聞き捨てならない事を言った気がしたが……レトはよく分かってなく、首を傾げていた。

 

「まー、とりあえず。 その話は置いといて。 カイエン公なんていう大物中の大物が動いているみたいだし」

 

「B班の行ったジュライ特区ではそういう話は無かったわね……まあ、帝国政府の直轄地だから貴族が治めている場所じゃないけど」

 

「確か8年前に併合された地域だったか?」

 

「ああ、特に揉めることなく帝国領になったパターンだな。 沿岸地域の経済特区になってなかなか賑わってたぜ」

 

「………………?」

 

クロウはヘラヘラと笑いながらそう言っていたが、レトにはどうにも違う感情を感じ取ったが……それが何なのか分からず首をひねる。

 

「ちなみにこの中で、ガレリア要塞を列車で通ったことがある人は?」

 

いつの間にか話は進んでおり、その質問に当てはまるのはミリアム、クロウ、エリオット、フィー、レト、ラウラの6人だった。

 

「ふむ、なるほどね。 まあレトとラウラに関しては夏季休暇の時ここを通っているはずだから当然か」

 

「へー、半々くらいだね」

 

「はは、こりゃあ反応がちょっと楽しみだな」

 

「確かに」

 

「……あはは……」

 

レト達の反応にリィン達は疑問を感じながらも列車は双龍橋を通り、丘陵地帯をしばらく走っていた。 そして……リィン達はガレリア要塞を目にした。

 

「これは……」

 

「………………」

 

「……正気か……?」

 

「こ、これが……ガレリア要塞……」

 

「……なるほど。 確かにドレックノール要塞と匹敵する規模だ」

 

ガレリア要塞を一度目にしている6人はそうではないが、初見の残りは言葉も出なかった。 一度ドレックノール要塞を目にした事のあるガイウスとアリサでも驚きを隠せなかった。

 

「……サラ教官。 この場所で俺達に何を見せるつもりですか?」

 

「——決まっているわ。 軍隊というものの本質……その根底にある力がどういったものであるのか。 これ以上ないくらいに分かりやすく見せてあげるわ」

 

ガレリア要塞の中に入り、レト達は列車が到着しサラ教官に引率される形で外に出た。

 

整備員や出入りの業者達もこの要塞に降りるのを見ていると……列車がガレリア要塞を出発、クロスベルへと向かって行った。

 

「確かこの先は……クロスベル市でしたか」

 

「こんな軍事施設のすぐ先に巨大な貿易都市があるんですね……」

 

「ええ、ここから30分くらいね。 通商会議が開かれる超高層ビルっていうのもこの要塞の屋上から見えるわよ」

 

「——来たか」

 

そこに、ナイトハルト教官が出迎えて来た。 しかしその服装はいつもの教官服ではなく、第四機甲師団の隊服を着ていた。

 

「あ……」

 

「あ……ナイトハルト教官!」

 

「どうも教官……いえ、ナイトハルト少佐殿。トールズ士官学院、一年特化クラスVII組。 担任教官を含め、全員の到着を報告します」

 

「11:30——了解した。 ようこそガレリア要塞へ」

 

ナイトハルト教官……いやナイトハルト少佐はレト達の方に向き直った。

 

「改めて——帝国軍・第四機甲師団に所属するナイトハルト少佐だ。 実習期間中、お前達の案内役、および特別講義の教官を担当する。 それでは付いてくるがいい——」

 

ナイトハルト少佐の案内で先ずは滞在中の宿泊部屋……というより休憩室に案内され。 荷物を置いた後会議室で今後の予定を説明された。

 

「——今回の特別実習は今日を入れて残り2日……その間、お前達は実習課題に取り組む必要はない。 代わりに実地見学と特別講義に参加してもらう」

 

「実地見学……」

 

「それは……どういったものでしょうか?」

 

「——本日14:00。 本要塞に付属する演習場で第四機甲師団、第五機甲師団による合同軍事演習が行われる。 お前達にはそれを見学してもらう」

 

「軍事演習の見学……!」

 

「だ、第四機甲師団って……!」

 

「エリオットのお父さん、クレイグ中将率いる師団ね。 帝国正規軍の中でも最強の機甲師団と言われているわ。 この少佐殿はその師団のエースになるわね」

 

「コホン、私の事はともかく。 先程も言ったように参加ではなく見学だ。 その意味では気楽なものだと高を括るかもしれないが……まあ、それは実際に目で確かめてもらおう」

 

ナイトハルト少佐にしてはハッキリと言わなかったが、論より証拠の方が分かりやすいと判断したのだろう。

 

今日の予定を確認した後は要塞の方で用意された食事を取る為に、一行は食堂へと向かい……

 

「………………」

 

その味に悪い意味で言葉を失っていた。 塩辛いコンビーフに味気のない豆のスープ、保存を考えたであろう堅い黒パン……VII組の面々は文句しか口に出来なかった。

 

「はあ、リベールの王国軍の方が万倍マシだよ……」

 

「ん、確かに。 消しゴムみたいなレーションとベニヤ板みたいなクラッカーよりマシだね。 さらにリンゴとチーズだけあるだけマシだと思う」

 

いくら保存が利いて備蓄しやすいからってコレはない……が、次にナイトハルト少佐の言葉でリィン達は納得した。 戦争時に、兵士達の士気が下がらないように、と。

 

それを聞いて、とにかく栄養としてマトモな飲み水と一緒に詰め込み……13:30まで自由行動とされ、各自ガレリア要塞を見学しに回った。

 

「………………(ボ〜)」

 

レトは先ほど列車で潜り抜けた連絡橋で、空を見上げてボケっとしながら手摺の上に座っていた。

 

(あ、あれが通商会議が行われる……中枢塔(アクシスピラー)よりは低いかな)

 

「邪魔をする」

 

少し垣間見る超高層ビルディング《オルキスタワー》は既に除幕式を終えたようで、この距離からでも天辺が見える。 そこに、ガイウスとユーシスがやってきた。

 

「何を腑抜けた顔をしている」

 

「んー? んー、ちょっとねー」

 

「……ローエングリン城での出来事を考えていたのか?」

 

「その事にはちゃんと区切りをつけているよ。 今はゆっくりしているだけ」

 

ピュイ!

 

その時、唐突にレト達は鳥の鳴き声が聞こえ辺りを見回す。

 

「なんだ……」

 

「鳥の鳴き声……」

 

「まさか……!」

 

この声に聞き覚えがあったのか、レトは空を見上げてる。 すると……一体の白い隼が飛来、連絡橋の手摺に止まった。

 

「ピューイ!」

 

「ジーク!」

 

白い隼……ジークはレトを見ると会えて喜んでいるように鳴き、また飛んで差し出されたレトの右腕に止まった。

 

「これは……隼か」

 

「白い隼……リベールでは縁起の良さそうな鳥だな」

 

「ジーク。 ここにいるって事はクローゼさんも来ているんだよね?」

 

「ピューイ。 ピュイ、ピュイ」

 

「そう……」

 

ジークは鳴きながら右脚を出し、括り付けてあった筒を見せる。 レトは筒を受け取り、中を開けて丸まっていた手紙を広げた。

 

〈拝啓 レト・レンハイム様

 

いえ、今はレト・イルビスと名乗っておいででしたね。 暑さもそろそろ峠を越え始めたこの頃、どうお過ごしでしょうか? 私は毎日が大変です。 レトさんもオリヴィエさんが作ったというクラスで頑張っているそうですね。 影の国で元気なお姿を見られましたが、遺跡やお宝を目にして1人で走ったりはしてませんか? あなたは周りを振り回すのが本当に得意ですからちょっと心配です。 私は今、お祖母様の……女王の代理として西ゼムリア通商会議に出席しようとしています。 聞けばレトさんも学業の一環としてガレリア要塞に居られるそうで、お互いに頑張りましょう。 また、元気な姿でお会いできる事を楽しみにしています。

 

敬具 クローディア・フォン・アウスレーゼ〉

 

華麗な字と白隼の印が押されている手紙を読み終え、レトは苦笑すると手紙を懐に入れ、学院指定のメモ用紙とペンを取り出して返事を書き始めた。

 

「誰からだ?」

 

「リベールでお世話になっていた人からだよ。 この子の友達でもある」

 

「ピュイイ、ピュイ、ピュイ?」

 

「あー、今ルーシェはいないんだ。 ジークなら飛んでいつでも来られるからまたの機会にね」

 

「ピューイ!」

 

「……なぜ言っている事が分かるんだ?」

 

鳴き声で会話が成立している事にユーシスは疑問に思えるが……第三学生寮で寝ている緋猫も似たようなものなので会えて深く突っ込まなかった。

 

「——書けた。 ジーク、これをクローゼさんによろしくね」

 

「ピュイ!」

 

書き終えた手紙を筒に入れてジークの脚に括り付け、ジークは白い翼を広げ……ガレリア要塞を超えてクロスベルに向かって飛んで行った。

 

(今この帝国は革新派と貴族派の対立による内戦がいつ起きてもおかしくない状況にある。 戦乱の中で僕がどうするか……見極めないと)

 

ジークが飛び去るのを見送り、レトは振り返って帝国を……その先を見つめた。

 

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