英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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51話 試練の幕引き

 

 

「——メルトレイン!」

 

特攻するリィン達を援護するように、アリサが燃え盛る矢の雨……メルトレインを浴びせ……

 

「……排除する」

 

一拍外してフィーの銃撃が正面から巨人……オル・リガディアを蜂の巣にする。

 

「——ッ!!」

 

しかしオル・リガディアは怯むことなく、リィンとラウラが左右から回り込み。 レトが直進する。

 

「エマ!」

 

「レトさん!」

 

魔導杖を構えてエマが地のアーツを発動した。 オル・リガディアを上から重圧で押し潰す……グランドプレスが発動し動きを止めた。

 

「ふぅ——せいっ!」

 

間髪入れずレトが槍の石突きで胸の鎧を強打し、オル・リガディアは地面を引きずりながら後退する。

 

だが、オル・リガディアは痛みも感じずに、強化された剣による渾身の一撃がリィンを襲う。

 

「——はっ!」

 

が、リィンは直前で時のアーツ……クロノドライブを発動し、加速して回避した。 オル・リガディアの剣が地面を削り、すぐに大勢を立て直そうとするが……

 

「——遅い!」

 

背後に回り込んだラウラが洸翼陣で魔法攻撃力と防御力を下げ、それを対価に物理攻撃力と防御力を向上させて飛びかかる。

 

「砕け散れっ!」

 

振り下ろされた剛剣。 オル・リガディアの背に亀裂が走った。

 

「フィー!」

 

Ja(ヤー)!」

 

ラウラに合わせるように掛け声をかけてフィーは双銃剣を十字に構え特攻。 オル・リガディアの左脇腹にフィーの十字斬りが炸裂する。

 

「やあっ!」

 

それだけでは終わらず。 間髪入れずに銃撃の嵐……リミットサイクロンを放った。

 

「……とどめっ」

 

最後に銃口に導力エネルギーを込め、特大の一発を放った。 弾丸は一直線にオル・リガディアへと向かって行くが……突如轟いた雷光がフィーの一撃を打ち消した。

 

リィン達が驚愕に目を見開いたのも束の間、オル・リガディアがフィーに向けて剣を突き出す。

 

「あぐっ!?」

 

瞬間、フィーの身体を稲妻が駆け抜けた。 この戦技は以前のオル・ガディアが使用していたのと同じ雷招来。 しかし、その威力は桁違いだった。

 

「フィー!? ——ぐあっ!?」

 

フィーの名を叫ぶラウラだが、直後にオル・リガディアの横薙ぎが襲い、大剣で受けるも弾き飛ばされてしまう。

 

「ラウラさん!」

 

「くっ……はあっ!」

 

続けて残りの4人にも剣が向けられ、雷撃が放たれたが……一瞬で発動してレトのクレセントミラーで防ぎ、弾き返した。

 

「アリサ、2人を頼む!」

 

「分かったわ!」

 

反射でオル・リガディアが怯んだ隙にリィンが駆け出した。

 

「二の型——疾風!」

 

咆え、リィンは多方向から高速の斬撃を見舞う。 本来、疾風は多勢に対して使用——斬りつけると同時に駆け抜けながら別の敵を斬る技だが、対象がこれだけ大きければ連撃を繋げる事が出来た。

 

リィンが時間稼ぎをしている間、アリサは治癒系の戦技——セントアライブで傷付いたラウラとフィーを治療し。 レトが火のアーツ……メルティライズで自身を強化し、エマが時のアーツ……クロノブレイクを発動した。

 

「——解け……童子切!! 結べ……蜻蛉切!!」

 

レトは速度が落ちた瞬間を狙い一気に距離を詰め突撃しながら突きを放ち。 続けて槍を薙ぎ払ってオル・リガディアの胴体を横一閃、大きな切り傷を残した。

 

「続けて行くぞ!」

 

「了解!」

 

「はい!」

 

リィンが速度で撹乱、エマが動きを制し、レトが攻める……2人の回復する間の時間稼ぎとしてその工程を繰り返していた。 だがオル・リガディアもただではやられてはくれず。

 

動いていないアリサ達の方に歩み始めた。 接近に気付いたが、動けるまでまだ少しかかるようだ。

 

「させません!」

 

「燃え盛れ!」

 

エマは移動妨害のアーツからすぐさま迎撃のアーツの駆動に切り替え、リィンの太刀を炎が包む。

 

オル・リガディアは熱を感じたのか、踏み出すのをやめて飛びかかるリィンの業炎撃を正面から迎え撃った。

 

「——滅ッ!」

 

リィンの太刀がオル・リガディアの剣と衝突し、火花と衝撃波が巻き起こる。

 

「——なっ!?」

 

最中、リィンは絶句する。 先ほどまでレト達が刻んでいたオル・リガディアの傷が、徐々に修復されていたからだ。

 

(……自己再生能力……硬い上に厄介だね)

 

「——エクスクルセイド!」

 

レトが少しやっかんでいると、オル・リガディアの足元に金色の十字が浮かび上がった。 そして十字から衝撃が放たれ、その隙にリィンは後退する。

 

そしてリィンは皆に目配せをし、レト達は頷いた。 オル・リガディアの再生能力を見て、自身の最大級の戦技を持って一気に倒す……全員がその結論に至ったのだろう。

 

「——せいやっ!」

 

作戦が決まり、リィンは業炎撃の突撃から一転……力を抜き、オル・リガディアの剣に弾かれるように宙に舞い、空中で飛ぶ斬撃——弧影斬を放つ。

 

オル・リガディアはこれを左拳で搔き消すが、リィンに合わせたアリサの炎の矢——フランベルジュが剣を振り切ったことで伸びた右の肘関節へと突き刺さる。

 

「白き刃よ——お願いっ!」

 

エマの周囲に白い羽を模した剣が現れ、魔導杖を振るうと白き刃達が飛翔、オル・リガディアの硬い体に突き刺さり後ろに押し出した。

 

だがオル・リガディアは後退するのを地を踏みめて止め、剣を天に掲げて振り下ろそうとしたが……

 

「せいっ!」

 

振り下ろした剣の先にレトがおり、一瞬の交差と鍔迫り合いの後……オル・リガディアの剣が半ば斬り落とされた。 振り返らず姿勢を正そうとするレトのその左手には、魔剣ケルンバイターが握られていた。

 

『——っ!』

 

一瞬だけ動きの鈍ったオル・リガディアに、ラウラとフィーは互いに頷き——駆けた。

 

瞬間——2人のアークスが赤く輝いた。

 

それは不思議な現象だった。 治療を受けたとはいえ、未だにダメージが残っていたはずなのに、それが一瞬のうちに消えたと思えば、身体中に力が満ち溢れてきたのだ。

 

いける……そう確信した2人はフィーのクロノドライブで速度を上げ、オル・リガディアの真正面から特攻を仕掛ける。

 

「……ほいっと」

 

その途中、フィーは空中に閃光弾——Fグレネードを投げ、辺りに目映い閃光が包んだ。 オル・リガディアには目や頭どころか首すらない以上、効果はないだろう。 だが……ほんの僅かに注意を上に逸らすことができた。

 

「——せいやあっ!」

 

再び背後に回り込でいたラウラの回転斬り——洸円牙がオル・リガディアの両膝裏を刈り取るように薙ぐ。 ぐらりとよろけたオル・リガディアが上を向けば……そこには三角飛びで天井高くまで登り、双銃剣を十字に構えるフィーの姿があった。

 

「……行くよ」

 

呟くようにそう告げ、フィーは天井を蹴る。 重力の力も借り、放たれたスカードリッパーを受け、ついにオル・リガディアは地に転がった。

 

武器も失い、ここまででは危険と感じたオル・リガディアだったが……

 

「逃がさないわ——メルトレイン!」

 

「踊れ、炎よ——アステルフレア!」

 

降り注ぐ矢の雨と青白い炎がそれを阻んだ。

 

「お2人とも、今です!」

 

「承知!」

 

「Ja!」

 

アリサとエマが足止めしている間に大勢を整えたラウラとフィーは、寸分違わぬタイミングで頷いた。

 

「アルゼイドの秘剣——とくと見よ!」

 

ラウラの大剣に白光する導力がけたたましく覆う。 それはまるで留めなく溢れ出る、泉が如き峻烈の輝きだった。

 

「奥義——洸刃乱舞!」

 

先月のレグラムの実習で一層磨きをかけたラウラの戦技。 光の剣による袈裟斬り、逆袈裟と続きます、そのままの勢いで遠心力を最大に、一回転して左薙ぎが一瞬のうちに放たれ、さらに横薙ぎによって生まれた導力の奔流が、渦を巻いて再び襲いかかる怒涛のようか攻撃。

 

「……行くよ!」

 

オル・リガディアの鎧が砕け散り、大勢が大きく崩れる中、流水を彷彿とさせる柔らかな動きで低い構えを取ったフィーは一筋の閃光となって駆けた。

 

閃光は縦横無尽にあらゆる方向から走り抜け、オル・リガディアを通過する度にその強固な鎧を打ち砕いていく。

 

「——シルフィードダンス!」

 

最後にオル・リガディアの懐に潜り込み、たつまきが如く回転しながら銃を乱射した。 《西風の妖精(シルフィード)》の名に相応しい、華麗で優雅かつ鮮烈な戦技である。

 

「……一丁上がり」

 

すっと音もなく着地したフィーの背に、オル・リガディアが怒気を孕む雄叫びを上げ突進してくる。

 

「………………」

 

「——聳え立て、大いなる塔」

 

だがフィーはその様子をいつもの落ち着いた眼差しで見つめるだけ。 すると……フィーの足元に陣が展開され、陣から塔が這い上がりフィーは上に上げらる。

 

オル・リガディアは勢いあまり塔と衝突するが、塔はビクともしなかった。 塔は1つだけではなく、合計6つ……6つの塔で六角形を描きオル・リガディアを囲うように設置された。

 

「ロードアルベリオン!!」

 

アークスが赤く輝き。 エマが乗る塔以外の5つの塔の頂上に導力……魔力が充填され、そして充填された5つの魔力は中心にいるオル・リガディアの頭上に集まり——集束された光線がオル・リガディアに降り注いだ。

 

「静かに眠ってください……」

 

衝撃によって巻き起こった突風がエマの頰を撫で、アークスが赤く輝きながら続けてレトが駆け出し追撃を仕掛ける。

 

「天月が迷夢……どうかご照覧あれ!」

 

瞬間、レトの姿が搔き消え、全方向から槍が現れオル・リガディアに突き刺さりサボテンのようにし。 その刺々しい姿も一瞬で終わる。

 

「——連羽朧切!」

 

頭上で槍を回転させて遠心力によって攻撃力を増し、次に放たれた横薙ぎでオル・リガディアの鎧にヒビが走る。

 

しかし、オル・リガディアは怒りの咆哮を上げながら剣を振り上げる。

 

「そこ、危ないよ」

 

だがレトは防御や回避行動を取ることなくオル・リガディアに向かって振り返り、伝わるはずのない警告を告げる。

 

「——導力エネルギー充填……っ」

 

オル・リガディアの背後で……レト達同様にアークスを赤く輝かせているアリサが弓を引き、前方に光り輝く導力術式の陣展開させていた。

 

すぐさまオル・リガディアは剣に電撃を纏わせて阻止しようとするが……間に合わない。

 

「これが私の切り札よ! ロゼッタアロー!」

 

弦を手放した瞬間、陣から数本の光の矢が放たれ、オル・リガディアの身体を穿つ。 そして、本来ならそこで終わるはずのロゼッタアローに、先が出た。

 

「——まだ終わってないわ! もう一発!」

 

陣の中心で導力が集束していき……

 

「いっけえーっ!」

 

アリサの咆哮とともに弾けた導力は、真っ直ぐと放たれ……オル・リガディアの左腿を貫き、膝を突かせた。

 

『リィン!』

 

そして5人は叫ぶ。 今まで繋いできた道を託すように、この試練を終わらせてくれる名を。

 

「——焔よ、我が剣に集え……っ」

 

刀身に手を添え、アークスの輝きにも劣らない赤い焔が太刀を包み込んでいく。 リィンは振りかぶりように大きく構え、地を蹴って駆ける。

 

膝をついているオル・リガディアに袈裟斬り、振り下ろされてからの左薙ぎの二撃を放ち、上段に構え……

 

「はあああああああっ!!」

 

両手でしっかりと柄を握れば——赤き焔は、蒼き焔へと変貌を遂げた。

 

「——斬ッ!!!」

 

強烈な振り下ろしがオル・リガディアを両断……二つの柱となって炎上し。 オル・リガディアの身体が靄となって消滅した。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

『——乾杯っ!!」

 

心地良い音を響かせながら、各々がグラスの注がれていた飲物をあおる。

 

「——っぷはあっ! この一杯が最高なのよぉ!」

 

中でも一番美味しそうに飲んでいたのはサラ教官だった。 一口で空になってしまったジョッキに、トワが瓶のビールを注ぐ。

 

「あら、悪いわねぇ」

 

「いえいえ、サラ教官もお疲れ様でした」

 

「ありがとう。 トワにも見せて上げたかったわ。 蝶のように舞い、蜂のような鋭さで敵を穿つあたしの勇姿を」

 

(ほとんど何もしていよね……』

 

したり顔で言うサラ教官に、トワは「あはは……」と苦笑いを浮かべる。

 

旧校舎の地下第五層で現れた巨人を倒し、“互いの精神が入れ替わる”という試練を見事に乗り越えたレト達は、サラ教官の珍しい計らいで、トリスタにあるキルシェで労いの意味を込めたささやかな宴会を行なっていた。

 

メンバーはVII組の面々と、トワやアンゼリカ、ジョルジュといった協力者達、そして……アルフィン殿下かは頂いたお菓子を届けにきて、入れ替わっていたリィンとアリサと出くわし色々と誤解をしたエリゼだ。

 

「それでレト君……エマ君の身体はどうだった?」

 

「え、ええっと……」

 

「柔らかかったかい?細かったかい? それとも……あのたわわに実ったメロンを食べギャフン!?」

 

「ア、アンゼリカ先輩! いい加減にして下さい!」

 

ほぼ狂気染みた目でレトに迫るアンゼリカを、エマが背後からトレーを全力で脳天に振り下ろして鎮めた。

 

「そういえば……例の扉は皆が出た瞬間消えたんだってね?」

 

「うん。 いつの間にか、跡形もなくね」

 

結局、オル・リガディアを倒した後、サラ教官の待つ広間に戻ると……あの赤い扉は音もなく、姿形も残さず消えてしまっていた。 謎を解こうにも証拠すら今回、残っていない。

 

「ふう……」

 

宴会は夜を迎え、未だに皆が盛り上がりを見せる中……レトは二階に登り、手摺に寄りかかって小休止していた。

 

と、そこへエマが階段を登り近寄ってきた。

 

「あの……レトさん」

 

「——エマの言いたい事は分かるよ」

 

「え……?」

 

レトはエマの言葉を先に遮り、エマは虚をつかれたような顔をする。

 

「エマを見ているとローゼリアの婆様を思い出すんだ。 つまり……魔女なんでしょう?」

 

「……………!」

 

「エマが何の目的でここにいるのかはわからないけど……邪魔をするつもりはないよ。 婆様にはお世話になっていたから寧ろ協力してもいいくらい」

 

「あ、あはは……おばあちゃんがレトさんに迷惑をかけていないようで安心しました。 そうですか……1、2年前におばあちゃんが頻繁に外に出ていたのは、レトさんに会いに行っていたからでしたか」

 

昔の出来事を思い出しながらエマは1人納得する。 そこでレトが「丁度良い」、と唐突に自分の過去……魔女と関係するに出生ついて掻い摘んで話した。

 

「——と、いうわけ。 僕はかの獅子心皇帝と槍の聖女の息子ってわけ」

 

「お、驚きました。 おばあちゃんに聞いていた人がまさかレトさんだったなんて……」

 

「聞いていた? 婆様から?」

 

「はい。 ドライケルスとリアンヌには一人息子がいて、今も生きていると。 最初、それを聞いた時はその人物が不老かなにかと思っていましたが……まさか時を超えて、私と同い年だとは思いもよりませんでした」

 

「それはお互い様だよ」

 

「——おーい! レトに委員長ー! 何してんのさー!」

 

階下から大きく手を振るミリアムに声をかけられ、2人は苦笑して返事を返しながら階段を降りていく。

 

「………………」

 

そして、密かに会話をしていた2人の真下……ラウラが立っていた。 その表情は少し暗く、俯いていた。

 

「おーい、ラウラー! ラウラも早く来てよー!」

 

「! あ、ああ……今いく」

 

またもやミリアムに呼ばれ、ラウラは気丈に振る舞いながらミリアム達の元に向かい、トリスタの夜は更けていく。

 

余談だが、この後ラインフォルトの技術者達によって、アークスに残ったデータは解析され、現存する全てのアークスにアップデート作業が行われた。

 

近い将来、VII組絆によって新たな機能が解放されるのを、この時はまだ誰も知らない——が、それは後にこう呼ばれる。

 

“オーバーライズ”、と。

 

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