英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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53話 実技テストVI

9月22日——

 

先日、学院祭でのVII組の出し物が最近流行を始めたロックバンドというのに決まり。 準備と練習を開始した。

 

色々と壁があるものの、仲間と協力して乗り越えようと張り切っていた。 だが、リィンとクロウの衣装案の意見の違いに不安を覚えていたりもした。

 

「ふーん、エマは気をつけたい方がいいんじゃない?」

 

「そ、そうします……」

 

「……なんでレトが心配するの?」

 

「入れ替わった仲だからだろう」

 

「——コホン。まあ学院祭は楽しみだと思うけど、気持ちを切り替えなさい。 来月は知っての通り特別実習も実技テストも無し。 だから今回は“区切り”として、ちょっと頑張ってもらおうかしら?」

 

そう言うと……サラ教官は懐から銃と剣を取り出し、それをレト達に見せつける。

 

「!」

 

「まさか……」

 

「……試合の相手は教官ご自身というわけか」

 

「けて、5月の実技テストの再現になるのかしら? 今回ばかりはあたしも本気を出させてもらうわ。 3名でかかって来なさい! メンバーは自由……っと思ったけど、どうにもリベンジしたい人達がいるみたいね?」

 

挑発的な笑みを口元に浮かべながらサラ教官の視線はレト、リィン、マキアス、ユーシスの4人を捉えた。

 

折角巡り巡って来たチャンス、汚名を返上するために3人は無言で頷き、サラ教官の前に出た。

 

「……って、レトは来ないのか?」

 

「負けて悔しくない訳じゃないけど、3名だしリィン達に譲るよ」

 

「そ、そうか……」

 

そう言われては仕方なく、3人は得物を抜きながらサラ教官の前に出た。

 

「——準備はいいわね。入学して半年、君達ならやれる筈よ……サラ・バレスタインという“壁”——見事乗り越えてみなさい!」

 

始まったリィン達の実技テスト。 以前とは違いちゃんと戦術リンクが機能、さらに活用してサラ教官と互角に渡り合えている。

 

実力は拮抗しているが、数ではリィン達が有利。 次第に推していき……ついにはサラ教官に膝をつかせる事が出来た。

 

「はあっ……はあっ……」

 

「さ、流石というべきか……」

 

「フン……」

 

「やれやれ……半年でここまで来たか。 まさか、あれほど息の合った連携を見せるまでに、大きく成長していたとはね……ふふっ、教官冥利に尽きるわね」

 

そう言うと、サラ教官は何事も無かったかのようにスクっと立ち上がる。

 

「——さあ! 残り3組、続けて行くわよ! 同じく3人ずつ呼ぶから、準備をしておきなさい!」

 

休む間も無く連戦、サラ教官の前に今度はレト、エリオット、エマの3名が出た。

 

「後衛2人の魔法主体かぁ……僕が抑えている隙に撃つ、これが定石だね」

 

「分かった、それで行こう。 2人となら絶対に上手く行くよ!」

 

「はい。 必ず白星を取りましょう!」

 

エマとエリオットは魔導杖を、レトは槍を取り出して構え。 サラ教官も銃と剣を構えた。

 

「さあ——かかって来なさい!」

 

それが合図となり、同時にレトが後方2人の詠唱の足止めのため飛び出した。

 

「飛ばして行くわよ! はあああああ!!」

 

雷神功。 開始早々、サラ教官は自身に落雷を落とし、身体能力を飛躍的に上昇させた。

 

「(狙いは僕を見越しての短期決戦……!)でも……させないよ!」

 

朧月陣(ろうげつじん)。 レトも足元に翠色に光る円形の陣を展開して自身を強化、踏みつけて加速しながら槍を突き出す。

 

「せいっ!」

 

「はあっ!」

 

互いの攻撃を見切り、ゼロ距離で最大威力の攻撃が何度も交わる。

 

「グリムバタフライ!」

 

「ファントムフォビア!」

 

同時に範囲の広いアーツをサラ教官の左右で発動し、無数の黒い蝶と巨大な骸骨が襲いかかる。

 

「甘いっての!」

 

「きゃっ!?」

 

「うわっ!」

 

電光石火。 サラ教官ら一瞬でエリオット達の前に躍り出て剣を地面に突き刺し紫電を走らせ、飛び退くと同時に銃を乱射した。

 

「——ヒートウェイブ!」

 

咄嗟に方向転換し、火のアーツを発動させたレト。 本来は攻撃魔法のヒートウェイブを巧みに操り、炎の壁となり銃弾だけを燃やした。

 

「さすがにキツイはね……特にレト!」

 

「それはどうも!」

 

それから何度も、目にも留まらぬ速さでレトとサラ教官は武器を振って火花を散らせ。 その合間にエリオットとエマによるアーツの援護により少しずつ追い詰めていく。

 

「常世に響け——ノクターン・ベル!」

 

「あぐ………!」

 

エリオットが隙を見て発動した魔導杖を使った戦技……複数の鐘が鳴り響き、共鳴しながら音を増幅させてサラ教官の頭の中を揺らすような音が轟く。

 

「………………」

 

鐘が響き渡る中、レトは手の中にある一つのクオーツに目を落とした。

 

(クロスベルの幻獣を倒した時に出たクオーツ、試した事無いけど……これで!)

 

鐘の音を振り払って来たサラ教官の剣の一撃を槍で受け止めながら、空いた手でアークスを開いて軽く放り。 剣を弾くと同時に異質な雰囲気を放つクオーツを指で弾いて盤にはめ込み、落ちて来たアークスを掴むと即座に発動した。

 

「——発動……ソル・イラプション!」

 

太陽のごとくアークスを輝かせながら発動したのは火・風・空の三属性を持つ「陽」を象徴する失われた魔法。

 

レトの頭上に巨大な球体の魔法陣が出現、陣自体が燃え上がり……小さな太陽を生み出した。 そして太陽はサラ教官に向かってゆっくりと落下を始めた。

 

「ちょっ!? そんなのありーー!?」

 

物量で迫られ避ける事も出来ず、太陽が着弾すると……サラ教官がオマケに見える程、戦場を焼き尽くした。

 

「おお〜」

 

「な、なんて威力……」

 

「ひえぇ……」

 

爆煙が収まっていくと……中から黒焦げ一歩手前のサラ教官が出て来た。 雷神功による強化も解除されており、かなりのダメージを負っていた。

 

「な、何よそれ……反則じゃない……」

 

「そうみたいですね。 ただのクオーツではない事は分かっていたけど……まさかここまでの威力だったなんて。 導力が全部持ってかれたし」

 

(あのクオーツは……)

 

勝敗は決したが、納得のいかない風にサラ教官はレトを睨みつけた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「はあっ……はあっ……」

 

数十分後……グランドには息絶え絶えで地べたに寝転んでいるサラ教官と、同じく息を荒げているVII組の面々がいた。

 

あの後、サラ教官は残りを……合計12人と相手をした。 成長した生徒全員の相手したので当然だろう。

 

「あー……さすがにクッタクタ……全く、特にレトと相手するのが反則なのよ……あの《死線》1人でも足止めされたんだから、そもそも《剣帝》なんて相手できるわけないじゃない(ブツブツ)」

 

サラ教官はチラリとレトを見ながら、ぐちぐちと小言を愚痴る。

 

「あ、あはは……負荷とかもかけて、これでも手を抜いた方なんですけど……」

 

「あなたも大概ね……」

 

手を抜いていてはテストにならないと思うが、レトにはむしろそれが丁度良かったりもする。

 

「ま、それはそうと……正直、ちょっと感心したわ。 これで心置きなく実習地が発表できるわね……っと」

 

すると、サラ教官はその場で軽く脚を振り上げ、振り降す勢いで軽やかに立ち上がる。

 

何事も無かったかのように懐から今月の実習先と組み分けが書かれているプリントが入っているファイルを取り出した。

 

「それじゃ、次の実習地の発表と行くわ。 さ、受け取りなさい」

 

そう言われるがままにプリントを受け取っていく。 定例となりつつあるこの特別実習、

 

 

【9月特別実習】

 

A班:リィン、アリサ、フィー、マキアス、エリオット、クロウ

(実習地:鋼都ルーレ)

 

B班:レト、エマ、ラウラ、ユーシス、ガイウス、ミリアム

(実習地:海都オルディス)

 

 

ルーレとオルディス、どちらも帝国の五大都市の一つであり、どの都市もVII組は過去の特別実習中、途中で経由している。

 

「これは……」

 

「ルーレに、オルディス……それぞれ帝国の五大都市か」

 

「そ、そうなんだけど……」

 

「ル、ルーレもそうだが、オルディスといえば……」

 

「……人口40万を誇る帝国第二の巨大海港都市。 貴族派のリーダー的存在、『カイエン公』の本拠地だな」

 

「ああ、そういえばそうだったね。 レグラムで会うまで忘れてた」

 

本当に忘れていた風にポンと手を叩いて思い出すレト。 だが、問題はそこではなく……ユーシスが問題(ミリアム)を指差した。

 

「じょ、冗談は止めてもらおう! この状況で、貴族派最大の都にこのガキを連れて行けと……!?」

 

「た、確かに……」

 

「そのチビッコにとったら完全に『敵地』ってわけか」

 

「下手したら火炙りかも」

 

革新派、もとい《鉄血の子ども》の1人であるミリアムは、貴族派にとって天敵でしかない。 もし問題でも起きればタダでは済まないだろう。

 

「んー、大丈夫だと思うけど。 オルディスなら何度も潜入してるし、皆も一緒にいることだし♪」

 

「くっ……何を呑気な」

 

「……流石に心配だな」

 

「まあまあ。 最悪の場合は僕の顔を使えば問題ないよ。 カイエン公限定だけど効果は絶大だよ」

 

レトの正体がレミスルト皇子だという事はVII組を含めた、ごく僅かな人物しか知らない。 その中にカイエン公も入っており、可能なら止めることも出来るであろう。

 

「それは……そうですが……」

 

「……レトは自分が皇族だってバレるのヤバいんじゃなかったっけ?」

 

「使えるコネは使っておかないとね」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「まあ、そのあたりの事は色々考えてるから安心なさい。 ただ、テロリストの件といい、安穏とできる状況じゃないわ。 オルディスもそうだけど……当然、ルーレの方もね」

 

その言葉にアリサが反応する。 ルーレにはR Fグループと、四大名門のログナー公爵がある。 どちらの実習先も簡単には終わらないだろう。

 

不安が広がる中……サラ教官が手を叩いて視線を集める。

 

「さっきも言ったけど、そのあたりは一応考えているわ。 来月は学院祭で、特別実習も無し。 その意味で——今回の実習もこれまでの“総括”と言えるわね」

 

今まで培ってきた経験を発揮される特別実習になる、そう考えるとVII組はそれぞれ気を引き締める。

 

「備えるべきは備えて……そして胸を張って臨みなさい。 君達がこれまで築き上げてきたVII組の成果に恥じないためにもね」

 

『はい……!』

 

サラ教官の激励にレト達は大きく、ハッキリと返事を返した。

 

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