英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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54話 紅き翼

 

 

9月25日——

 

今日から特別実習……普通であれば朝早くからそれぞれの班で実習地に向かっている筈だった。

 

しかし、今日に関してはいつもと違った。 8時を過ぎてもVII組のメンバーはまだ寮のロビーに集まっており、その理由も定かではなかった。

 

特別実習前日、夕食の場でサラ教官が9時に学院のグランドに集合するようにと言ってきたからである。

 

「朝9時にグラウンドに両班集合……か」

 

「一体、何を企んでいるのやら」

 

「……サラが唐突なのはいつもの事」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

今回向かう実習地へ向かう時間を考えればもう出発する必要がある。 故にサラ教官の意図が読めなかった。

 

「……大分思わせぶりに控えているけどシャロン、貴女何か事情を知ってるんじゃないかしら?」

 

「ふふ、滅相もありません。あくまで皆様のお見送りをさせて頂いているだけですわ」

 

後ろを向きながらアリサにジト目で睨まれるもシャロンは澄ました顔をして微笑む。 絶対に何か知っている風に見えるがこのまま気にし続けてはいられない。 遅れて降りてきたエリオットとクロウと合流して、レト達は学院を目指した。

 

朝早いが学生の姿も疎らに見えるが、レト達は真っ直ぐグラウンドに向かった。

 

「あ……」

 

「やっぱり……」

 

グランドに続く階段を降りると……サラ教官と一緒にシャロンがグランドで待っていたが、慣れたものでアリサは溜息しか出なかった。

 

そしてラインフォルトの主従関係が成せる見技を流し、サラ教官は話を進めた。

 

「さて。 A班、B班揃ったわね。09:00——ジャストタイミングじゃない」

 

『?』

 

何の意味か分からず、聞き返そうとした時……頭上から甲高い音が徐々に聴こえてきた。

 

(この音……アルセイユ?)

 

「風を切る音……いや……」

 

「飛行船の音だね」

 

「な、なんだって?」

 

レトが音の正体に検討が付いている中、フィーの出した答えに驚きつつ、全員が音の正体を確かめようと空を見上げると……

 

「あ!?」

 

「あ、あれは……!?」

 

「おいおい……なんだぁ、ありゃあ!?」

 

「——来たわね」

 

空高くに浮いていたのは巨大な紅い飛行船。 かなりの高度を飛行していても目視出来ることからかなりの大きさを誇っているのを感じられる。

 

リィン達は学院に向かって降下し続ける飛行船を呆然と見上げていた。

 

「………………」

 

「な、な、な……」

 

「なんだこれはあああっ!?」

 

「マキアスうるさい」

 

だがマキアスの絶叫も当然かもしれない。 何も聞かされずに集められこんな光景を見せられては、驚くのも当然だろう。

 

「あはははっ、カッコイーっ!」

 

「紅い飛行船……いったいどこの……」

 

「正規軍の飛行艦……にしては武装が少くない?」

 

「……しかし……このシルエットはどこかで……」

 

紅い飛行船を見てラウラの記憶に引っかかったのを見て、レトが少し嬉しそうな顔をして答えた。

 

「《リベールの白き翼》……《アルセイユ号》だね。 まさかもうII番艦が完成してたなんてね」

 

「あ!」

 

「い、言われてみれば!」

 

「《リベール王国》の高速巡洋艦……」

 

「オリヴァルト皇子がリベールから帝都に凱旋した時、乗っていたという船だな」

 

「レトは乗ってなかったのー?」

 

「僕はリベールから徒歩で国境を越えて、エレボニアへ。 その後はパルムを経由してレグラムに直行したからね。 でも乗った事はあるよ」

 

疑問を解消している間にも……導力飛行船は、ゆっくりと空から降下し士官学院のグラウンドギリギリに着陸した。

 

士官学院のグランドに着陸した紅い飛行船。 艦橋にはエレボニア帝国を象徴する黄金の軍馬の紋章が刻まれている。

 

「おー、スッゴイねー」

 

「本当に、紅いアルセイユ……」

 

「エレボニアの紋章……帝国の船である事は間違いなさそうだが」

 

「——やあ諸君❤︎。 10日ぶりになるかな?」

 

甲板から聞き覚えのある声にリィン達は驚き……レトは苛立ちを覚える。

 

現れたのは声の主であるオリヴァルトと、護衛のミュラーだ。

 

「オリヴァルト殿下……!」

 

「それにヴァンダール家の……」

 

「また会えたな、諸君」

 

「ハッハッハッ。 反応は上々のようだね。 うんうん、これなら帝都市民へのお披露目も成功間違いなしだろう」

 

「し、市民へのお披露目……?」

 

「あはは……もう何がなんだか……」

 

「——いいからその顔3秒以内に下げて。 はいイーチ(バンバン!)」

 

「2と3は!?」

 

飛行船に加えオリヴァルトが出てきて驚くのも疲れてしまう。 だがレトは問題無用で銃を抜き、1秒を数える間も無く空に空撃ちし。 オリヴァルトは反転して頭を抑えながら倒れた。

 

「チッ……」

 

「お、おいレト……」

 

「出会い頭に辛辣ね……」

 

「——レミスルト。 やるならちゃんとこの男の眉間を狙ってくれ」

 

「ごめんなさい、ミュラーさん。 次は外しません」

 

「僕の心配をしてー!?」

 

「まあそれはともかく……」

 

「酷い……」

 

「今回、自分はもちろんこの阿呆……(放蕩)皇子も脇役に過ぎない。 主役はあくまでこの艦とこちらの方になる」

 

「??」

 

「こちらの方……」

 

「(起き上がって来ないなー……って) この気配は……」

 

「——久しいな。 《VII組》の諸君。 初めての者も多そうだが」

 

ミュラーに促されるように現れたのは……軍帽を被っている光の剣匠、ヴィクターと遊撃士のトヴァルだ。

 

「あ……」

 

「そ、その声は——」

 

「そう来たかー」

 

「《光の剣匠》……」

 

「父上っ!?」

 

「ラウラのお父さん?」

 

「トヴァル殿もご一緒か」

 

「はは、お互い凄い状況で再開したもんだな」

 

「どうしてそこに……そ、その帽子は一体!?」

 

「見るからにそうだとは思うけど……」

 

ラウラはなぜ父であるヴィクターが軍帽を被ってそこにいるのか分からず、その疑問にミュラーが答えた。

 

「——紹介しよう。 今後、本艦を指揮していただくヴィクター・S・アルゼイド艦長だ」

 

「………!」

 

「あ……」

 

「あはは、そう来たかー」

 

「フフ、まあ詳しい経緯は後ほど説明させてもらおう」

 

「な、なんだこれは!?」

 

そこへ、朝練に来ていたパトリックと、アンゼリカ、ジョルジュ、トワ会長がグランド入ってきた。

 

こんな大きな飛行船だ。 遅かれ早かれ気付かれていただろう。 パトリックは開口一番に驚愕し、開いた口が塞がらなかった。

 

「わああっ、綺麗な飛行船!」

 

「やれやれ。 これは大したものだね」

 

「凄いな……聞いていたスペック以上にとんでもない性能みたいだ」

 

レト達と同じような反応で驚く中、続いてヴァンダイク学院長がやって来た。 学院長はレト達の隣まで歩み寄り、同じように紅い艦を見上げる。

 

「………!」

 

「学院長……」

 

「あの、これって……」

 

「ふふ、驚くのも無理はない。 理事長の提案で今回は特別な計らいとなってな。 その艦で、それぞれの実習先まで君達を送ってくれるそうだ」

 

「ええっ!?」

 

「ヒュウ、マジかよ!?」

 

「ふふ、あくまでお披露目の処女飛行のついでとしてね。 一旦帝都に向かってからルーレに直行してくれるって」

 

ついでかもしれないが、その飛行に同行出来る事を光栄に思っている。

 

「はは……何というか」

 

「お、驚き過ぎて頭がクラクラしてきました……」

 

「——それでは殿下。 そろそろ参ると致しますか」

 

「ああ、宜しくお願いする」

 

ヴィクターの言葉にオリヴァルトは前に出て、両手を広げた。

 

「ようこそ、《VII組》の諸君! アルセイユII番艦——高速巡洋艦《カレイジャス》へ!」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

トールズ士官学院から離陸したカレイジャスは帝都の外周を反時計回りに一周した後、A班の実習先であるルーレに向かって進路を進めていた。

 

その間に指揮所(ブリッジ)でカレイジャスの性能と所属が皇族という扱い、どこの軍にも所属しない中立の船である事と。 子爵閣下の存在も含め他の2勢力の牽制としてこの《紅き翼》は空を駆ける。

 

「ほうほーう(パシャ!)」

 

説明が終わった後、レトは艦内を自由に見学しており。 前方甲板から見える空の景色を導力カメラに収めていた。

 

「この景色を見るのはアルセイユ以来だなー。 雲ばっかだけどまあ、悪くない」

 

「ハッハッ、気に入ってもらえて何よりだ」

 

写真を撮るレトにオリヴァルトが歩み寄る。 レトは振り返らず、導力カメラのファインダーを覗く。

 

「まあね。 いつ見ても空は変わらず、雲は揺蕩う……いつもの光景だけどね」

 

「フッ、常に誰にでも等しく、美しく咲くバラと違って、空は移ろいやすいからね。 レミィはいつも浮雲のような子だよ」

 

「さあてね」

 

導カメラばかりいじくり、オリヴァルトに顔も向けないが、レトはちゃんと聞いていた。 これが2人の兄弟としての形なのだろう。

 

その後、レトが抱きついてきたオリヴァルトに蹴りを入れている間に……カレイジャスはノルティア州上空に入り、ルーレに降りるA班に一時の別れを告げ、カレイジャスはルーレ空港に降り立った。

 

直ぐにA班は下船し、間も無く再びカレイジャスは離陸。 B班を乗せたまま西へ……オルディスに向かって進路を進めた。

 

「次はオルディス。 小1時間くらいで到着すると聞いた」

 

「列車ならその倍以上かかる。 渡りに船だな」

 

「うーん。 ガーちゃんでひとっ飛びだったからよく分かんないなー」

 

3階の連絡区画にある談話室、艦内の見学も終えてしまったのでレト達はそこでオルディスについで話していた。

 

「この中でオルディスに行ったことがある人は?」

 

「僕も任務で何度か来てるよー」

 

「僕とラウラもこの海の先にあるブリオニア島に向かう時に経由したからね。 少し街並みは把握しているよ」

 

「案内は任せるが良い。 最も、直ぐに不要になると思うがな」

 

「なら、それまでは任せるとしよう」

 

「フフ、盛り上がっているようだな」

 

と、そこへヴィクターがレト達の元にやって来た。

 

「父上……!」

 

「ヴィクターさん、指揮の方はいいんですか?」

 

「既にラマール本線沿いにオルディスに向かって進路を進めている。 1、2時間程のフライトで現状を維持……小休止程度に席を離れただけだ。飛行中は問題ない」

 

「へー」

 

どうやら水平飛行に入ったようで、席から離れたヴィクターはラウラの隣に座った。

 

「オルディスはルーレ以上に複雑な都市になっている。 其方達も気をつけるがよい」

 

「はーい!」

 

「お気遣い感謝します、子爵閣下」

 

「それでオルディスを回った後、進路としては、次は帝国南部辺りにカレイジャスを?」

 

「うむ。 南に反時計回りでセントアークへ。 そこからバリアハートに進路を進める予定だ」

 

2勢力に睨みを効かせるに有効なのは革新派の本拠地のヘイムダルと、貴族派の四大都市……妥当なルートだろう。

 

「セントアークはともかく、バリアハートにはかなり睨みを効かせられますね」

 

「……度々、迷惑をかけます」

 

「なに。 先に話した通りいつものいざこざだ、そなたが気にする事ではない」

 

「そーそー、気にはなーい気にしなーい」

 

「そうですよ。 あまり1人で気負わ過ぎないでください」

 

またアルバレアの責任を自分で負おうとするユーシスにレト達が慰めの声をかけ、それを見たヴィクターは笑いながら立ち上がる。

 

「さて……後半刻程で到着する。 それまでは寛いでいるといい」

 

「はい」

 

「ありがとうございます」

 

そしてヴィクターはエレベーターの方まで歩き、上に上がってブリッジに向かって行った。

 

「? 半刻ってどれくらい?」

 

「1時間くらいだよ。 一刻で2時間。 けどそれまでどうしようか……」

 

「学院祭の運営を決める方は、全てA班に集中してしまいましたし……」

 

「到着するまで各自自由にしていれば良いだろう」

 

「えー、つまーんなーい!」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

それから2時間後……カレイジャスはラマール州に入り、オルディスに到着した。 レト達はヴィクターとオリヴァルト、クルーの方々にお礼を言いカレイジャスを降り、オルディスの地に降り立った。

 

「とーちゃーーく!!」

 

「ええい、静かにしろ!」

 

早速騒ぐミリアムをユーシスが抑えつける。 このオルディス空港はバリアハート同様貴族の物となっている、という偏見がある。 故にこの空港内にいるのは基本貴族で、嫌な視線が集中してしまったが……カレイジャスから降りたことからか、直ぐにその視線は収まった。

 

だがこのままジッとしている訳にもいかず、レト達は空港から商業区画に移動した。 商業区画は高台にあり、オルディス湾と海を一望でき、広場の中央には海の大精霊と信仰された女性の像、(あお)のオンディーヌが置かれいた。

 

「わぁ、綺麗な海……」

 

「壮観だな」

 

「エマとガイウスは初めてだっけ?」

 

「さすがは《紺碧の海都》と言った所か。 だが、先にも言ったと思うがここは四大名門筆頭にして、帝国最大の貴族、カイエン公爵家の源泉だ。この膠着状態の中、あまり騒ぎを起こすなよ」

 

「……トラブルを呼び込むレトがいる以上、それは難しそうだがな……」

 

チラリと、ラウラはレトを見た後、小さく嘆息した。

 

「さて、先に宿泊行こう」

 

「確か北通りにある宿場でしたね」

 

「先ずは荷物を置いてからだな」

 

北通りに向かい、工房の向かいにあった宿酒場《海風亭》に入った。 そしてカウンターにいた茶髭の男性に声をかける。

 

「すみません。 トールズ士官学院・VII組の者です」

 

「ああ、君達が。 話しは聞いている、私はこの海風亭の店主、エドモンドだ。 どうかよろしく頼む」

 

「はい。 3日間お世話になります」

 

2階に案内され、当然男女別の部屋割りになっており。 荷物を置いた後、1階で再び集まり。 レトはエドモンドから特別実習の依頼が入っている封筒を受け取り、中身を広げた。

 

依頼は4つ。 浜辺の魔獣の一掃。

晩餐会に使う食材の調達。

海都に出入りする不良の調査。

偽ブランド商人の追跡。

 

「今回は少し多いな」

 

「総括と言うくらいだ。 この程度でなければ話にならん」

 

「そうですね。 最初は代表的な通りを歩きつつ実習を進めて行きましょう」

 

「よし。 VII組B班、早速特別実習を始めようか」

 

「おおー!」

 

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