学院祭初日の夜……初日の学院祭はつつがなく、とても盛況だった。 そしてVII組のメンバーが食堂で明日の出し物について話し合っている中……
「あーーっはははっ!!」
「ナァ……」
レトは1人、自室で《赤い月のロゼ》を馬鹿にするように読みふけっていた。 それを側で見るルーシェも呆れたような顔をする。
「あのローゼリアの婆様がレイピアと大型拳銃を二丁に加えて法剣を使うなんて……全く想像出来ないんだけど!」
レトはお子様体型のローゼリアに武器を持たせた姿を想像し……
ちなみに、《カーネリア》という七耀教会を題材にした星杯騎士団についてそれなりに詳しく書かれている小説がある。
最後にはヒロインが死ぬ事になるのだが……モデルとなった女性は今もなお、とても元気に生きていたりする。
「……母上も含めて、女性の化け物って多過ぎないかな……」
まさしく小説は事実より奇なり。 事実、《
「ナァ………(ピクッ)」
「——ん?」
唐突にレトは小説から顔をそらし、天井を漠然と見つめる。 ルーシェも何かを感じ取ったのか微動だにしない。
(この霊力の流れは……)
そう考えていた次の瞬間……部屋の外からゴーンゴーンと鐘の音が響いてきた。 いつも学院で鳴っている鐘ではない……まるでローエングリン城で響いた鐘と同じ音色だった。
気になりベットから身を起こし、道に面している窓を開けると鐘の音が大きくなった。 それと同時に寮の入り口が蹴破るように開き、食堂で会談していたはずのリィン達が飛び出して行った。
目的はもちろんこの鐘の音についてだろう……そう踏んだレトも身支度を済ませ、窓の縁に足をかけて跳躍、屋根伝いに学院前まで飛んだ。
鐘に導かれるまま旧校舎に向かうと……旧校舎がローエングリン城と同じように青白い光を放っていた。 さらに半球状の同色の壁が旧校舎を取り囲んでいた。
「皆!」
「レト」
「遅いぞ。 何をやっていた」
「ちょっとね」
置いていかれた感もあるが、遅れたことを軽く軽く謝罪する。 状況を把握すると……前触れもなく旧校舎の鐘が鳴り、すぐに今のような事態になったようだ。
この事態を見て学院長が教員やトワ達に指示を出し、学院祭を中止するという話に流れになって行っていた。
「ま、待ってください!」
「まさか……学院祭を中止にするつもりですか?」
「仕方ないわ、この状況じゃ。 こんな異常事態……夜が明けても続いたりしたら、とても来場客は入れられない」
「周囲にどんな被害があるかもわからない状況だし。 学院……ううん、トリスタにも避難指示を出す必要があるかも……」
「そ、そんな……」
「チッ……そうなっちまうか」
「……危機管理の観点からすれば当然かもしれませんが……」
この異常事態を見れば当然の決断。 しかし納得もできない……明日に向けて頑張って練習を続けて来たVII組や、他の学生達の成果が報われなくなっしまう。
「この一ヶ月——俺達、それに他のクラスも学院祭に全てを賭けてきました」
突然、リィンがこの一ヶ月や、今までの学院生活で思った事を話し始めた。
「単なる意地の張り合いだったり、身内への見栄もあるかもしれません。 皆で一緒に何かを成し遂げるのが単純に楽しかったのもあります」
「リィンさん……」
「………………」
「だけど——それだけじゃない。 俺達がここにいるのは“証”……それが残せるかどうかなんです。 勝ってもいい、負けてもいい。 大成功でも、大失敗でもいい。 これまで教官や先輩達に導かれお互い切磋琢磨してきた、全てを込めるためにも……どうか俺達に“明日”を掴ませてもらえませんか!?」
「あ———」
「……………………」
説得するように、しかし思いを告げるようにリィンは叫ぶ。 思いは確かに伝わったが、ヴァンダイク学院長は無言のままだった。
「ぼ、僕からもお願いします!」
「……自分からもお願いする」
「フッ、出来る悪あがきなど知れてはいるだろうが……」
「それでも、可能性がゼロでない限り最後まで諦めたくありません」
「同感。 いっぱい練習したし」
「ボクもボクも! これで終わりはやだよー!」
「元より、この建物の調査は我らの役目でもありましたゆえ」
「今回の異常事態についても私達が調べるのが筋でしょう」
「僕も、皇族としてではなく一学生として、この事態を解明して食い止めてみせます」
「……………………」
意思は固く止めても無駄のようで、サラ教官はやれやれと首を振る。
「あんた達……」
「ふう……本気みたいだね」
「やれやれ、聞いてるこっちが気恥ずかしくなってくるぜ」
「ふーむ、意気込みはともかくこの障壁をどうするかですが…………おやぁ、リィン君? 腰の所、どうしたんですか?」
「え——」
トマス教官がそう言い、リィンは腰を見下ろすと……腰のベルトに懸架していたホルダーが光っていた。
「……これは……」
「アークスのホルダー?」
「ああ、どうしてこんな——」
不可思議に思いながらもリィンはアークスを取り出した。 アークスを開くと中心から結界と同じ光を放っていた。
「……!」
「そ、それって……」
その淡い光は特別オリエンテーリングの際にアークスが発した光と同じだった。 その光に呼応してか、他のVII組メンバーのアークスも同じ光を放ち始める。
初めてリンクした時と同じ、全員の心が一つになる感覚……そらを初めて味わうクロウとミリアムも、驚きつつも心地よさそうだった。
「!」
「リィン?」
突然リィンが結界の前まで歩み寄り、光を放つアークスを掲げて結界に触れると……結界とアークスが共鳴するような反応を示し、弾かれることなく手は結界をすり抜けた。
「だ、大丈夫!?」
「これは……旧校舎そのものと共鳴し合っているのか?」
「——ええ。 間違いないと思います。 そして、俺達VII組メンバーなら旧校舎の中に入る事が出来る」
それを聞いたレト達は、意を決して結界の前まで歩く。 それを見送る事しか出来ないサラ教官は溜息をつく。
「はあ……参ったわね——学院長、すみません。 どうやら育て方を間違えてしまったみたいです」
「フフ、この上なくよくやってくれたと思うぞ。 それに、どのように育つか選ぶのもまた若者達じゃろう」
どうやらヴァンダイク学院長は旧校舎の異変の調査を認めたようで、旧校舎に向かおうとするVII組メンバーの前に立った。
「——現在、19:40。 VII組の面々は24:00までの探索を許可しよう。 それ以上はさすがに“明日”に障りがあろうからな」
「あ……」
「それでは……」
「君達の“証”を残すためにやれるだけやって来なさい。 多少の無茶なら許可するわ」
「それと一応、女神の加護を。 無理をせず退くというのも勇気のうちだと思いますよ〜」
「みんな……! くれぐれも気を付けて! わたしたちも出来る限りバックアップするから……!」
「技術棟も開けておくから整備が必要なら来るといい。 それと、売店や食堂も閉めないように頼んでおくよ」
そしてトマス教官、トワ会長、ジョルジュ先輩達の応援を受け。 リィン達は旧校舎へと足を踏み入れるのだった。 が……
ゴチーン
『………………』
「…………え、なに? この流れて僕だけハブられるの!?」
抵抗無く通過しようと結界に向かって歩こうとしたら……結界に阻まれて片方の頰が潰れながらレトは叫ぶ。 結界の先にいるリィン達に手を伸ばそうとするも、返ってくるのは固い感触だけだ。
「え、嘘……マジですか!?」
「な、なんでレトだけが……」
「……まさかレトって本当はV組?」
「いやなんでV組? でもまあ、アークスも反応しているのにどうして通れないのかしら?」
「ふむ……(
(古のアルノールの血が? いえ、もしくは緋の力の所為で候補者であろうと試練自体が彼を拒絶している?)
どうしてレトだけが通れないのか不審に思う中、サラ教官は諦めを促すようにポンとレトの肩を叩いた。
「なんだか分からないけど、レトはお留守番みたいね」
「くううぅっ! こうなったらケルンバイターで……!」
「あわわ! ダメだよそんなことしちゃ!」
「やめなさい! 何が起こるか分かったもんじゃないわ!」
「中にいるリィン君達に何かしらの影響を与えるかも知れないし、力づくはやめた方がいいかな」
「この程度の結界、ケルンバイターの前じゃバターにも等しいのに〜!!」
ケルンバイター取り出して振り回すレトを慌ててサラ教官達が抑え込む。
「すまないレト。 後のことは俺達に任せてくれ」
「お前はルーシェと戯れながらゆっくり待っているといい。 椅子に座って構えるのは得意だろう?」
「無用だと思うが、もしもの時があれば会長達を頼んだぞ」
「それじゃあ、行ってくるねー!」
結界に張り付くレトを置いて、リィン達は旧校舎に入って行ってしまった。
それを見送る事しか出来ないレトは……隅に寄って体育座りして蹲っていた。
「シクシク……グレてやる……執行者になってやる……」
「ナァ(ポンポン)」
「この程度で執行者になられたらたまったもんじゃないわよ」
「あはは……よくわからないけど、皆が無事に帰って来るのを一緒に待ってようね」
ルーシェに膝を叩かれながら慰められ、レト達はリィン達の帰還を待ち続ける。
「あーあ、世界滅びないかな——ん?」
「!? フーーッ!!」
不意に、落ち込んでいたレトは顔を上げ。 ルーシェは背中の毛を立てて空を睨みつける。
「……ちょっと用事を思い出しました。 ここは任せます」
「え、ええぇっ!?」
「ちょっと、レト!」
トワやサラ教官は驚愕し、止める間も無く……何かを感じ取ったレトはルーシェを乗せてその場から飛び出した。 その背中を……
「済まぬな。 お主に行かれると試練にならんのでな」
遠くから緋い瞳が見つめていた。
レトはさらに街を飛び出し、レトは西トリスタ街道から外れた林の中に入った。 少し待っていると上空から風を切る音が聞こえて来た。 すると夜空から巨大な翼の生えたトカゲのようは影が現れ……深緑色の竜がレトの前に降り立った。
「——レグナート! 急にどうしたの?」
『久しいな。 緋き獅子の心を持つ人の子よ。 そして……其方も。 幾千の時が流れ、もう会う事は無いと思っていたが……』
かなりの高さから急降下したのは恐らくレーダーに感知されずに帝国に侵入したかったのだろう。 レグナートはレトを一瞥した後、その頭上に乗る緋色の猫を見た。
「ナァー」
『…………話には聞いていたが。 元の姿はおろか念話すら出来ないとは。 《鋼》か……遥か東の地で起こる《黄昏》も既に末期……この時代で、とうとう災厄が起こるやもしれんな……』
「……歴史は繰り返される……か」
ふと、何かを思い出したレトは頭の上に乗るルーシェをレグナートに見せながら指差した。
「そうだレグナート。 ルーシェについて何か知らない?」
「ニャッ!?」
『ふむ、其奴の正体を知らなかったのか?』
「うん」
レトはルーシェが普通ではないとは思っていたが、長年の付き合いもあり深く調べようとはしなかった。
『そうか……其方の頭に乗るのは我れらの
「へぇ、そうだったんだ。 昔から成長してない事や、妙に賢いとは思ってたけど……そうだったんだ。 もしかして父上は君の名をあやかって士官学院に《トールズ》って名前をつけたのかな? 獅子も猫だし」
「……フン……」
『フフ、素直では無いのは相変わらずだな』
口で発生する器官が無いとはいえ、レトにはレグナートの口元が緩んだように笑ったように見えた気がした。
「それでレグナート。 盟約から解放されて自由になった君が僕に何の用なの?」
『少し話がしたいと寄ったのだが……また、ただならぬ事態になっているようだな』
レグナートはレトから視線を離して学院の方を向いた。 その視線の先には旧校舎がある。 恐らく異質な気配を感じ取ったのだろう。
「あっちは僕の仲間に任せておいて平気だよ。 それより本題に」
『ああ。 話ついでに少し土産をな』
レグナートの頭上がキラリと光、光がレトの元に落ちてくる。 片手を前に出して受け取ったのは……手の平サイズの白い鉱石だった。
「これは……白い鉱石?」
『遠い東にある枯れた泉にあったものだ。 清浄な気配を感じたものでな……一眼見た時、お前の顔が思い浮かんだので土産にとな』
「へぇ、ありがとうレグナート!」
レトは月に向けて白い鉱石をかざす。 月明かりに晒された鉱石は光量を増して光を反射させる。
と、そこでレトはレグナートの視線に気づく。 レグナートはまるで観察するようにレトの事を見ていた。
『……また強くなったようだな。 人の子の生涯は我にとって刹那の間とはいえ、その短かき命を大きく輝かせる。 フフ、銀の剣士から受け継いだ意志と劔……己が物にしたか。 さしずめ、今のお前は《緋の剣士》と言った所か』
「そんな大層なもんじゃないけどね。 僕は僕のしたい事を、歩きたい道をただ歩いているだけ。 その道は険しく、辛いし間違っているかもしれないけど……後悔だけはしないつもり」
「ナァ……」
『そうか…………——ム?』
レグナートが異変に気付いた瞬間……前触れもなく、レト達の周囲に金色に光る……幻のような無数の蝶が飛び交い始めた。
「フーーッ!!」
「金色の……蝶?」
『——フフ、フフフ』
続いて、女性の笑い声がまるで周囲の蝶から発せられて来た。 囲まれた状態からなので四方から声が響いてくる。
『近くにはいないようだな』
「もしかしてまた執行者!?」
『和やかな所悪いんやけど邪魔するんよ。 身食らう蛇の執行者。 No.III、《黄金蝶》……今はそう名乗っておきましょうか』
「なっ!?」
まさか予想通りとは思わず、レトはケルンバイターを抜き首を常に振って辺りに漂う黄金の蝶を警戒する。
『伝説に名高き女神より遣わされし聖獣……お目にかかれて光栄どすえ。姿を見せない無礼をお許し頂ければ幸い』
『フム……あの時の輩どもと同じ者か』
「No.III……会った事は無いと思うんだけど?』
『お初にお目にかかります。 カンパネルラやマクバーン、それに《鋼の聖女》や《蒼の深淵》も気にいってはる《緋の剣帝》……興味が出るのは当然どす』
「……とーっても、不本意ですけど……」
『ふふ、いけずやなぁ』
レトは剣帝の名に色が付けられている事や、使徒や執行者に目をつけられている事を不満に感じる。
『共和国もそうだけど、なんだが帝国でも面白くなりはったようで。 少し見に来てみれば……本当に面白くて、見逃せない場面に巡り会えた。 ふふ、執行者の半数に気に入られているレーヴェの弟子に……まさか
「あの子?」
『ええ、まさかあそこまで感情豊かになるなんて……でも、腹の奥底はまるで変わってないようで安心したわあ。 それでこそ、《月光木馬團》の最高傑作』
「月光……木馬……?」
どこかの組織を示していると思われるが……その問いを聞く前に、徐々に飛び交う蝶の数が減って来ていた。
「! 待て!!」
『今日はもういぬとしましょう。 次に会えるのはいつになるかは分からない。 けど、その気があるなら東に来ひんさい。
最後に「ほなさいなら」と言い全ての蝶が消え……その場は静寂に包まれた。 狐につままれたような気分になる中、ルーシェが先に静寂を破った。
「ナァー。 ニャーニャー」
『! そうか……ツァイトも壮健であったか。 それは良き朗報だ』
「……この雰囲気からよくその話を持ち出せるね」
「フン」
本当に強引な空気の変え方だが、苦笑したレトは肩から荷が降りたようにリラックスした。 と、その時、突然レグナートが顔を空に向け。 翼を羽ばたかせ始めた。
「行くのかい?」
『ああ。 済まぬな、このような場で立ち会ったとしても、我は力になれぬ』
「気にしないで。 人間が引き起こした物は人間が沈めないと行けない……そこに聖獣の無理強いは出来ないよ」
『感謝する——さらばだ、緋き人の子よ』
強くなっていく風に比例し、徐々にレグナートの体が浮き上がり……レグナートは空高く、闇夜の中に消えて行っしまった。
「旧校舎の方も一大事だけど、こっちはこっちで一大事だねー」
「ナァ」
「……うん。 そろそろ明日になる、行こう」
もうじきレト達VII組が掴む“明日”が来る。 それを見届けるためレトは再び旧校舎に向かった。
旧校舎が見えてくると……あの旧校舎を覆う青白い結界が消えていた。 と、そこでトワが近付くレトに気がついた。
「——あ、レト君!」
「全くどこほっつき歩いていたのよ?」
「あはは……それよりもこれは?」
「ふふ、どうやらリィン達がやってくれたみたいね。 今から私達も中に入るんだけど……当然、あなたも来るわよね?」
「もちろん」
「ナァー」
◆ ◆ ◆
結界が消えた旧校舎に入り、レト達は奥の部屋にある昇降機で旧校舎の最下層である第七層に辿り着いた。 最下層には光る歯車が駆動している巨大な門があり、門の中はまるで異次元に繋がっているかのように空間に渦が巻いていた。
レトは特に何事もなかったかのように普通に中に入ると……そこは不思議な空間に浮かぶ遺跡だった。
「へぇ……」
「これは圧巻ね」
「……あ! クロウ君!!」
「——え!? み、皆!?」
門の側にはクロウ、エリオット、ミリアム、ラウラの4人がいた。
「どうやってここに……」
「ラウラ。 大丈夫のようだね」
「うん。 レトがいないかといって、この程度で根を上げてはいられないからな」
「オメェらがここに来れたって事は……奥でリィン達がやったようだな」
ここにレト達が来れた理由に検討がついたクロウは側にあった転移装置に歩み寄る。
「転移装置で最奥に行くぞ。 早く来い」
「う、うん!」
「ど、どうなったんだろう?」
(——レト。 おおよそ同じ道筋だった)
(………、そう……恐らく、リィンが……)
「…………」
ラウラが密かにレトの耳元でそう囁き、レトは1人納得した。
そして転移装置が起動し……最奥に到着し、さらに奥へと進んだ。
「ここが最奥……」
「……あ! 見て!」
「いたか」
するとら奥にあった扉の前でリィン達が倒れていた。 気絶しているが目立った外傷は無かった。
「しっかりしなさい!」
「だ、大丈夫っ!?」
「ん……」
呼びかけに応えるようにリィンが目を覚まし、それにつられて他のメンバーも次々と目を覚ました。 身体を起こし、辺りを見回すと……全員がまるで狐につままれたような顔をしていた。
だが、確実にいえる事は、VII組は試練に打ち勝った事だろう(1人を除き)……
「グハ……」
「(ポン)気落ちするな」
「(ポン)ナァ」
そこまで考え、仲間外れにされたレトがダメージを負い、励ますようにラウラとルーシェが肩を叩く。 と、そこでようやくリィン達が結界で阻まれたはずのレト達がここにいる事に気が付いた。
「もしかして異変が収まったのー?」
「えへへ、うんっ! 鐘の音も完全に止んだし、あの障壁も無くなったよ!」
「ちゃんと調べてみないと判らないけど……旧校舎も今まで通りに戻ったみたいだね」
「そうですか……良かった。 これで、明日の学院祭を中止にしなくて済みますね?」
安心したリィンがそう問いかけると、サラ教官は険しい顔をした。 リィン達はまさかと思ったが……サラ教官は真剣な表情で口を開いた。
「それは無理ね」
「うん。 無理無理」
便乗してレトも首を振る。 それを聞いたリィン達は困惑しながら驚いてしまう。
「え……」
「そ、そんな……異変が収まったのに!?」
「オイオイ、サラにレト。 そいつはあんまりだろ?」
「いやいやクーさん。 現実的に無理だから」
「現実的?」
「だって——もう日付変わっているから」
「あ……」
「もう、レト君……意地悪を言っちゃ駄目だよ」
「“明日”の学院祭は無理でも、“今日”の学院祭なら開かれる。 つまり、そういうことさ」
レト達が意地悪をしている事に気付くと、リィン達は気疲したように、しかしホッと胸を撫で下ろした。
「な、なるほど……」
「そうか……もう日が変わっていたのか」
「はあ〜……ビックリしたぁ」
「サラ、紛らわしすぎ」
「ふふっ……ごめんごめん。 さあ、学院長の言い付けもあるし、今夜はとっとと帰って寝なさい。 本番はあくまで“今日”の午後……ステージでの出し物でしょう?」
「はい!」
「ふふっ、それじゃあシャワーでも浴びて早めに寝ましょう」
「……深夜だから早めも何にもないと思うけど」
「それを言ったら——」
ガコン!
その時……正面にあった扉から重々しい音がして来た。 するとリィン達は扉の窪みを見て“赤い宝玉”がないと言う。 レト達が来た時には元からそんなものはないが……その疑問を解く前に、扉が開き始める。 そこには……
「こ、これは……」
(灰色か……)
(……
——灰色の巨人が膝を立てて鎮座していた。