10月30日——
あの楽しかった学院祭から数日が経った。 後夜祭の最後、ヴァンダイク学院長が告げた衝撃的な真実……ガレリア要塞が列車砲ごと消滅したこと。 普通ではありえない事態と、クロスベルが隠し持っていたとされる兵器の破壊力を前に、帝国はかつてないほどの緊張に見舞われていた。
ローゼリアの言葉通り、祭りの後には必ずさらに巨大な出来事が起こる……それが現実になってしまった。
「………………」
朝のHR。 VII組の教室内は葬式のように静まり返っており、正面にある時計の音だけが鮮明に聞こえてくる。 教室の外もここと同じ状況らしく、学院全体が沈黙している。
「だあああっ……!HRはとっくに始まってるのにサラ教官はどうして来ないんだ!?」
サラ教官の遅刻か、それとも静寂に耐えられなかったのか……恐らくその両方で、マキアスが机を叩きながら立ち上がり静寂を破った。
だがマキアスの気持ちも分からない訳ではなく、レト達は一度教室の後ろに集まって話し合う。
「やっぱり、今まで通り学院生活を送れる訳にはいかないようだね」
「……無理もないさ。 教官達も今後の対策を検討してるんだと思うし……」
「はい……今朝の会議も長引いているみたいですね」
「しかし信じられないな……あの巨大なガレリア要塞が“消滅”してしまったとは……」
「正確には“一部を除いて”らしいけど……ナイトハルト教官が助かったのは奇跡に近かったみたいだね……」
「あのでっかい《列車砲》も消えて無くなったんだ……ちょっと信じられないかも」
「しかし、一体どんな兵器が使われたというのだ……? とても人の手によるもとのは思えぬのだが……」
「……判らない。 でも、現在の導力技術では不可能なことだけは確かだわ」
「フン……そんな“兵器”を今まで属州扱いしてきたクロスベルが保有している……帝国正規軍も躍起になる筈だ」
「——一応、一部始終を入手したけど……見る?」
「な……」
以外な声が降りかかり、リィン達は席に座って導力パソコンを起動させるレトに集まる。
「一体どうやって手に入れたんだ?」
「この前の演習中にネットワークのトンネルを掘っておいてね。 まあ細かいことは気にしなーい」
「き、聞かない方がいいのかな……?」
「俺に聞かないでくれ……」
そんな事がありながらもレトの導力パソコンに映し出されたのは……ガレリア要塞から写るクロスベル方面の映像。
音声は無く映像だけで、画面の端から何やら砲弾らしい2つの物体が弧を描きクロスベルに向けて飛来していた。
「これは……列車砲を撃ったの!?」
「まさか!?」
「6日前の昼……どうやらクロスベルに帝国軍、共和国軍が侵攻したようだね。 帝国軍は列車砲を取り出し導力戦車でクロスベルに進行。 共和国は導力戦車と飛行艇で……」
「両軍の同時攻撃……そんなの、1時間でクロスベル占領されるわよ!」
「だが……それは覆された」
「最初に両国軍が進軍した第一陣。 帝国軍は巨大な青い巨人が蹂躙し、共和国軍は紫の翼を持つ巨人が……そして、帝国軍は……」
「列車砲を使ったわけか」
映像が再び再生され砲弾がクロスベルに迫る。 その時、オルキスタワーから飛び上がった白い人型の巨人が迫る砲弾に手をかざすと……球状の力場に防がれ、砲弾が弾かれめ爆発した。
「なっ!?」
「防いだのか!」
驚く間も無く二門目の列車砲が砲弾を発射した。 白い巨人は砲弾に向かって右手を振り払った。 すると、砲弾周囲の空間が歪み……球状の力場の中で爆発させた。
そして白い巨人が透明になってその場から消えてしまい……次に姿を現したのはガレリア要塞の目の前だった。 手をかざし、二門の列車砲とガレリア要塞を包み込み……そこで映像は途切れた。 レト達は察した、今のでガレリア要塞は帝国時報に掲載された写真の通りになったのだと。
「交差する鐘か……それに人形兵器、どうやら結社が裏で糸を引いているようだね」
「あ、あれがクロスベルが保有している兵器……まるで歯が立たないじゃないか……」
「……なんか、旧校舎で出てきたアレに似てるね」
「あの騎士人形か……確かに、あれが動かせるのなら——」
「待たせたわね」
と、言葉を遮るようにサラ教官が入ってきた。 早速HRを始めるかと思いきや……HRどころか授業自体が中止になったと告げられた。
どうやらこの事態に対してオズボーン宰相が全国民に向けての声明を発表を決定し、VII組メンバーは正午にここで声明を聞く事にし、一旦解散となった。
リィン以外はそれぞれのクラブに顔を出す事にし、レトは学生会館の写真部の部室で今まで撮ってきた写真を並べていた。
「もし戦争になったら……戦場カメラマンをやるしかない……!」
「そ、そんな危険な真似をさせるわけないだろう!」
写真を選別する中、レックスとフィデリオはいつもみたく言い争っていた。 その内容はいつもとは違うが……
(もしかしなくても
そこでふと手を止めた。 手に持ったのはこの前の学院祭で撮った集合写真……ついこの前なのに、どこか遠い日に感じてしまう。
(人数分に現像しておこう。 それと他の写真も……)
今まで学院で撮ってきた写真を整理し……そうこうしているとあっという間に正午を迎えてしまい、レトは慌ててVII組に向かった。
◆ ◆ ◆
『帝都市民、並びに帝国の全国民の皆さん——ご機嫌よう』
「すみません、遅れました」
レトが頭を下げながら教室の中に入ると、ちょうど声明が始まったようだ。
「遅いわよレト、何してたのよ?」
「少し写真の整理に手間取って……ちょうど始まったようですね?」
「ああ……」
「心して聞くとしよう」
導力ラジオから聞こえてくるのは、聞き覚えのある厳格で壮大、それでいて魅力と言う危険すぎる魔力の籠った声音だった。
『——諸君も、ここ数日の信じ難い凶報はご存知かと思う。 れっきとした帝国の属州であるクロスベルが、“独立”などという愚にも付かない宣言を行い……あろうことか帝国が預けていた資産を凍結したのである!』
最初に述べられたのはクロスベルの独立とIBCの凍結……クロスベルが向けた仕打ちを市民が理解させた。 オズボーン宰相は壇上に両手を置き、声明を続ける。
『当然——我々はそれを正すために行動した。 それは侵略ではない。 宗主国としての権利であり、義務ですらあるといえよう。——しかし“彼ら”は余りにも信じ難い暴挙に出た!』
そこでの彼らはどこを指しているのか、市民達は理解しているが……本当はどこを指しているのかは宰相のみ知っている。
『《ガレリア要塞》——帝国を守る鉄壁の守りを謎の大量破壊兵器をもって攻撃……これを消滅せしめたのである! 諸君——果たしてそのような悪意を許していいのか!? 偉大なる帝国の誇りと栄光を、傷つけさせたままでいいのか!? 否——断じて否! 鉄と血を贖ってでも、正義を執行されなくてはならない!』
導力ラジオの向こうで鉄血宰相が声を張り上げ、熱狂的な市民の歓声が響き渡る。 大衆を言葉巧みに誘導し、賛同を得ている。
「…………………」
「……これって……」
「大した演説ぶりだが……」
「フン……予想通りの方向に持っていくつもりのようだな」
「さて、何を言い出すのか……」
「ミリアム……? さっきから何をしてるの?」
宰相の演説に戦慄を覚える中、ミリアムは先程からアークスを耳に当て誰かと連絡を取ろうと試みていた。
「んー…………ダメだ。 やっぱり繋がんないや。 そりゃそうだよねー」
「どういう事だ……?」
「何を言っている……?」
レト達はミリアムが何を言っているのか分からず、ミリアムは気にせずアークスをしまった。
「んー、ボクが受けていた一番重要“だった”任務のお話。 もうちょっと早く気付けばな~。 でもまあ、クレアもレクターも、オジサンの読みすらも上回ってたし。 ——今回ばかりは
「はあっ……!?」
「ど、どうしてそこにクロウの名前が出てくるの!?」
ミリアムの言葉に、リィン達が言葉を失う。 特に、何を言っているのか分からない……そう思っている。 しかし、サラ教官は冷静に頷いて見せた。
「………………」
「…………! まさか……!」
「——なるほど、そう言う事か。 ミリアム、あんたの調査の一つは《C》調査だったのね?」
「なっ……」
「《帝国解放戦線》のリーダー…」
「死んだ男がいったい……」
ザクセン鉄鉱山で狙撃され、墜落し死亡したC……何故その名前が出るのか不明だったが、その答えをミリアムが出した。
「《C》の行動パターンから情報局がプロファイリングして導き出した“可能性”のうち……有力な可能性の一つが『トールズ士官学院の関係者』というものだったんだ。 でも《C》は鉄鉱山の事件でメンバー全員と爆死しちゃったしその線は消えたはずだったけど……でも甘かったみたいだねー。 ハァ、
「………まさか…………」
まさかとは思うが……先月、クロウと班を同じにしてリィン達A班がザクセン鉄鉱山での出来事や、先々月のガレリア要塞での出来事を振り返る。 あり得ない……そう思うが、推理を進めていくうちにクロウが、《C》である可能性の裏付けがついてしまった。
「クロウが……C……」
「そういう事だったんだ……」
「! だ、だったら……クロウは今、もしかして!?」
「ドライケルス広場に行ったということは……」
クロウがCであるのなら、ドライケルス広場にいる理由はただ一つ……『度し難き独裁者に鉄槌を下す』ため……
「……凄腕の狙撃手に隙を見せたら終わり。 もし、鉄鉱山で飛行艇を撃墜したのがクロウなら……」
「確かに——もう“間に合わない”わね」
「…………………」
『正規軍、領邦軍を問わず、帝国全ての“力”を結集し……クロスベルの“悪”を正し、東からの脅威に備えんことを——』
そして……一発の銃声が響いた。 歓声が上がっていた広場は一瞬で静寂に包まれ……
『クク……見事だ《C》……クロウ・アームブラスト……』
マイクでは拾えない位の声、しかしレトにはしっかりと聞こえ……重い物が落ちる音と共に市民達の悲鳴が上がった。
『な、何という事でしょう!たった今、オズボーン宰相が狙撃されました! そのまま運ばれていきますが……うーん、大丈夫なんでしょうか!?』
聞こえてくるミスティの声に、エマが蒼白な顔で立ちすくむ。 クロウの手により、鉄血宰相は地に伏せた……それだけがラジオ越しで理解させられる。
だがまだ騒めきは収まらない……今度は何か得体の知れない物を見たような声が聞こえてくる。 それをその場にいるミスティがレト達に伝える。
『おっと、何でしょうあれは!? 南の空に銀色の“影”が見えます!』
「……あ」
(魔力の気配……)
『……といっても音だけだとロクに分からないでしょうね。 なら——士官学院の皆さんには学院祭で愉しませてくれた“お礼”をしちゃおうかしら?』
「えっ……?」
ラジオ越しの音を振動させて出る声から次第に鮮明に聞こえ始め……恐らくミスティにより脳に直接語りかけるような声を届けられる。
『響け 響け とこしえに——夜のしじまを破り全てのものを 美しき世界へ——』
「あ——」
「て、帝都の広場……」
「フシャー!」
「《蒼の深淵》の秘術——『
「結社の第二使徒か!」
次の瞬間……レト達の目の前が光り出し、帝都の景色が映し出された。