英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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閃IVをプレイ途中でこの作品との矛盾点が多々発生してしまった……特に緋猫が。 先取りして色々とキャラや設定を突っ込むもんじゃないね。 (と言いつつ突っ込むのです)


第II章 I部
65話 ウルスラ病院


七耀暦1204年——

 

帝国で引き起こされた貴族派と革新派の対立の末に起きた必然ともいえる内戦……その裏では自身の尾を喰らう蛇が蠢く中。

 

この西ゼムリア大陸で最も歴史あるといえるこの国で、この現代で……歴史の再現ともいえる戦争が始まろうと……いえ、始まっていた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

11月24日——

 

「——ん……」

 

どこかの病室、何度も日を跨いだその日……“ピッピッピッ”と室内に電子音が響く中、ベットで横たわって眠っていた橙色の髪をした少年の重い瞼を開いた。

 

「……ここ、は……?」

 

青い瞳を何度も瞬きさせ室内を見渡し、自分の左腕に刺されている点滴の針を見てどこかの病院だと分かり息を吐いて脱力した。

 

「ふぅ……何とか落ち延びたか……」

 

橙色の髪の少年……レト・イルビスは賭け事に強いとはいえここまで命の危機に瀕したのは初めて……いや、少なからずあったが、とにかく切った札が弱かったにも限らず生き残れたのは幸いだった。

 

「——目が覚めたのね」

 

と、そこへふんわりとした雰囲気を感じさせるこちらもフワフワした長い栗色の髪のナースが病室に入ってきた。

 

「あの……ここは?」

 

「ここはウルスラ病院よ。 あなたは1ヶ月前に倒れていた所をティオちゃんが抱えてきたんだけど……覚えてない?」

 

「ウルスラ……っ! ここはクロスベル——ぐっ!」

 

「いきなり起き上がっちゃダメよ! 外傷が少なかったのが不思議だけど、重症には変わりなかったんだから」

 

ナースが慌てて身を起こそうとしたレトの肩を抑えて落ち着かせ、そのまま再びゆっくりとベットに横たえた。

 

「1ヶ月……」

 

「ええ、もう12月に差しかかろうとしているわ」

 

「……あの、ルーシェ……僕と一緒にいたはずの赤毛みたいな猫は?」

 

「それならティオちゃんと一緒にいるはずよ。 呼んでこようかしら?」

 

「はい、お願いします」

 

軽く診断をした後ナースは病室を後にし、一息ついて冷静になったレトはシミのない天井を呆然と見つめながら考える。

 

(……乱れた霊脈で精霊の道を開いたからこんな遠くまで……いや、元々どこに落ち延びるのか決めてなかったのが原因か……)

 

後先考えてなかったツケが回って来たようで笑うしかなかった。 それから数分後……病室の扉が開き先程のナースと少女が入ってきた。

 

「失礼しま——って、あ!」

 

「ナァー!」

 

「わぷっ! ル、ルーシェ……苦しい……」

 

目が覚めたレトを見るや否や赤に近い茶色い毛の猫……ルーシェがレトに向かって一直線に飛びかかり、レトの顔面に覆い被さった。

 

当然息苦しくなるが、すぐにルーシェが離れ解放された。 レトは身を起こすと、ベッド脇にはルーシェを抱える水色髪の少女がいた。

 

「ダメですよ。 あなたのご主人に迷惑をかけては、まだ目が覚めたばかりですから」

 

「ナァー」

 

「もしかして……君が僕をここに?」

 

少女は質問に肯定するように頷いた。

 

「ええ。 病院を出たすぐにある高台で倒れていたあなたを見つけまして」

 

「そうですか……助けていただきありがとうございます」

 

「いえ、気にしないで下さい。 それと敬語も不要です。 どうやらあなたの方が年上のようなので。 それよりも、私が聞きたいのは……あの緋い人型の兵器、あれは一体何なのですか?」

 

やはり……とレトは思った。 最後にレトが記憶している場面は緋い人形……テスタ=ロッサの前で力尽きた事。

 

そこから助けたとなれば当然、彼女は緋の騎神を目撃していることになる。

 

「まあ、深く聞くつもりはないのですが」

 

「え……」

 

「軽く調べましたがあれはオーバーテクノロジーで造られています。 恐らく七耀歴以前、暗黒時代の遺物……それなりの事情を察します」

 

詳細はともかくそこまで分かっているのなら説明の必要はないだろう。 と、そこで少女は思い出したかのようにハッとなりレトの方を向いた。

 

「そういえば自己紹介がまだでしたね。 私はティオ・プラトー。 あなたは?」

 

「僕はレト・イルビス。 よろしく頼むよ」

 

「ナァー」

 

自己紹介を終えると、それを見計らったかのようにルーシェがベットに飛び乗り、レトの足元で丸まり寝息をたて始めた。

 

「ルーシェはあなたの事を心配してました。 殆ど付きっきり……というか、あなたの側を離れたがりませんでした」

 

「そう……心配をかけちゃったね」

 

そこでレトは疑問に思った。 彼女は今まで眠っている状態でこの猫の名前をどうやって知ったのか……以前クロスベルに来たとはいえ彼女には会ってはいないのに。

 

「何でルーシェの名前を?」

 

「ティオちゃんはね、動物と会話が出来るのよ」

 

「会話ではなくあくまで感覚的なコミュニケーションですけどね。 それに会話する相手が賢いから会話が成立するだけです」

 

「心を通わせる……そんな感覚だね。 そういうのは僕もよくあるよ」

 

そう言われて納得する。 レトも何となくルーシェの言っている事が分かる時がある。 その原因はルーシェが聖獣である事も理由の一つでもあるが。

 

それからレトはティオからこの国、延いては諸国の知る限りの現状を教えてもらった。 このクロスベルはディータ・クロイスが“零の至宝”という両大国を寄せ付けない強大なの力を使いこの国を支配しているらしい。

 

そして共和国は恐慌状態、帝国は鉄血宰相が討たれのを引き金に内戦が勃発……あのトリスタ防衛戦を経たレトにとって予想通りの展開だった。

 

(……機甲兵が登場したという情報は来てないのか……)

 

そこまで考えた時、ふと目が隣のテーブルの上に自身の導力カメラに向けられた。 おもむろに手に取り操作し……本当にいつの間か撮っていた、灰の騎神と蒼の騎神が対面する場面を収めた一枚に目を落とした。

 

「………………」

 

「珍しいですね。 導力ネットワークと連動している導力カメラを持っているなんて。 しかし、これは……」

 

「見てみる?」

 

写真を興味深そうに覗き込むティオにカメラを差し出す。 少し躊躇したが、本人がいいと言っているので手に取り興味深そうに今まで撮って来た写真を見る。

 

「へぇ、学生だったんですね。 この人型も興味深いですが、他の写真も良く撮れてます」

 

「今までかなり撮ってきたからね。 アルバムを持っていればよかったけど……」

 

「ティオちゃん。 そろそろ」

 

「あ、はい。 それでは私はこれで。 早く元気になってくださいね」

 

導力カメラを返し、2人は病室を後にした。 残されたレトはカメラを置くとそのままベットに倒れ込んだ。

 

(今は心身ともに回復するのが優先。 とにかく早く帝国に帰らないと……)

 

ルーシェを手元に寄せ、暖かさを感じながら瞼を閉じ、レトは寝息をたて始めた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

11月30日——

 

レトは異常なまでの速さで回復しており、僅かほぼ1週間でほぼ完治していた。 食べては寝て、食べては寝てを繰り返し、時には魔法(アーツ)を使って回復に専念した。 今ではもう全快。 残りの日をリハビリに費やし、いつでも行動に移せる状態にあった。

 

「これは……」

 

昨日から歩く事が出来るようになったレトはティオを連れ、警備隊が見張っている中ウルスラ病院をこっそりと抜けた。

 

目的は少し進んだ先にある高台。 そこには……地に膝を立てて身をひそめる巨大な人型の石像が鎮座していた。

 

「大きさと色合いからとても目立つので地のアーツで石像に見立てました。 何度か警備隊に発見され「こんなのあったっけ?」と不思議に思われながらスルーされました」

 

神機(アイオーン)を見ているのに無視するなんてね……まあ、実際に動いて超常的な力を振るうのに対してこれは動かない石像、最初のインパクトの違いだろう」

 

そのおかげで報告されずに済んだのだから不幸中の幸いである。 ホッと一息つきながらレトはテスタ=ロッサの前まで歩くと……石像の目が光り出した。

 

『我ガ起動者(ライザー)。 無事デナニヨリ』

 

「それはお互いにね。 そっちも回復した? 外傷は少なかったとはいえかなり霊力(マナ)を使ったでしょう?」

 

『3日前ニ霊力ノ補給ハ完了シタ。 最適化モ済ミ、ヨリ効率的ナ運用ガ可能ニナッタ』

 

少し片言だが、十分に受け答えができる事にティオは驚きを覚える。

 

「言葉を話せるなんて……本当に私の知らない、理解できない技術で作られているんですね」

 

「ナァー」

 

『霊力ノ高イ娘。 我ノ身ヲ隠蔽、誠ニ感謝スル』

 

「気にしないでください。 警備隊に持っていかれるのもシャクでしたし、個人的なつまらない意趣返しだと思っていただければ」

 

「……ティオも、病院の人達のようにこのクロスベルの政策に反対?」

 

病院の人達も正門にいる警備隊を良く思っていない人が多く。 レトがその事を聞くと、ティオは少し顔をうつむかせながら頷いた。

 

「ええ……確かにクロスベルに両大国に対抗する術がありません。それだけを聞けば仕方ないのかもしれません。 しかし……その力に私達の身内が利用されているのは我慢なりません」

 

「そう……」

 

帝国に様々な思惑があれば、このクロスベルも同様な意見もある……結局、貴族や平民、国同士のしがらみなど違いは大きさや規模だけ中身は対して差がないのだろう。

 

「テスタ=ロッサ、僕達は近いうちに帝国に戻る。 いつでも出発出来るように準備を進めておいて」

 

『了解シタ』

 

準備を始めるためテスタ=ロッサは瞳の光りを落とした。 レト達はウルスラ病院に戻るため階段を降り、正門前まで来た。 しかし正門は警備隊がいるためそのまま通る訳にもいかない。

 

レトはルーシェを頭の上に乗せティオを抱えると跳躍、警備隊の装甲車両を踏み台にして病院の敷地内に入り。 さらに高い柵を飛び越えて病院関係者が寝泊まりする寮の屋上に降り立った。

 

「到着っと」

 

「……マフィアの放った魔獣が再度侵入出来ないように置いた柵を飛び越えますか普通」

 

何やらレトを人外を見るような目で見るティオ。 そんな目で見られているとはいざ知らず、レトは寮内に入り一階にある食堂まで降りた。

 

「あら2人とも、用事は終わったの?」

 

遅めの朝食を食べようと席を探していると、レトの担当をしている看護婦……セシルがテーブル席に座っていた。 どうやら彼女も遅めの朝食のようだ。

 

「はい。 ご心配をおかけしました」

 

「いいのよ、無事でいてくれれば。 あなた達もこれから朝ごはんでしょう? お姉さんが奢ってあげるから座って待っていて」

 

「いや、流石にそこまでお世話に……って、人の話を……」

 

遠慮して断る間も無くセシルは立ち上がりカウンターに向かって行った。 止めようとした手が空を切る中、ティオは諦めた顔をしながら席に着く。

 

「優しさに境界線がないのがセシルさんです。 ここはお言葉に甘えましょう」

 

「い、いいのかな……?」

 

「いいんですよ」

 

本当にいいのかなぁ、とレトは心の中で思いながら席に着いた。

 

数分してセシルが両手に同じメニューを乗せたトレーを持ちながら戻ってきた、どうやら定食のようだ。

 

「お待たせ。 日替わり定食だけど、嫌いなものはない?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「よかったぁ。 それとはい、ルーシェちゃんにはミルクよ」

 

「ナァ〜♪」

 

お礼を言いながらトレーを受け取る。 ルーシェは本当に嬉しいようで、後ろ足で立ち上がり喜びを身体で体現する。

 

それから3人と1匹は朝食を食べ終え、ルーシェはねてレト達は食後のコーヒーを飲んで一息ついていた。

 

「それで、実際のところどうなったんだろう。 この大陸の現状は?」

 

「そうですね……」

 

一息ついた所で3人はこの大陸の現状について話し合っていた。

 

「あの日からクロスベル独立国は超常的な力を背に独自の外交戦略を展開されました」

 

「この戦略は両大国に虐げられて来た小国や自治州には魅力的に映ってね……異論を唱えていたリベール、レミフェリア、アルテリア法国もこの流れには逆らえなかった」

 

「そしてエレボニア帝国は貴族派と革新派による大規模な内戦が勃発、カルバード共和国はこの事件を発端に経済恐慌が発生、反移住民主義のテロが激化を始めた……」

 

クロスベル独立を引き金に西ゼムリア大陸中が混乱、どこもかしこも大騒ぎである。

 

「現在、帝国はほぼ《貴族連合》が占領されています。 各地に配備された正規軍も一部を除いて悉く退けられたそうです」

 

「ってことは、とう……皇帝陛下、アルフィンやセドリックは……」

 

皇帝を父と呼ぼうとする前に慌てて訂正し、レトは少し気落ちする。 せめてもの救いは恐らくオリヴァルトはカレイジャスに乗っていて今も無事だと言うことだけ。

 

「どれも騒動を収めるには一筋縄ではいかないか……ここで手をこまねいても仕方ないし、今日中にでも帝国に——」

 

「ダメよ。 動けるようになったとはいえまだ本調子じゃないんでしょう? もう少しリハビリをしてからでも遅くはないわ」

 

「……もう十分リハビリ出来ていると思いますが……」

 

ティオはレトが柵を軽々と飛び越えたのを思い出しながらボソリと呟く。

 

「せめて服が届くまで待っていてね。 あの紅い制服はとても目立つから」

 

「……はい、分かりました」

 

優しく問いかけるセシル。 レトは納得出来ないも頷くのだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「やっ。 ほっ、はっ!」

 

夜……ウルスラ病院の屋上。 そこでレトは勘を取り戻す為に朝から槍を振るってリハビリをしていた。 その光景をティオとルーシェがベンチ座りながら見ていた。

 

「もう行ってしまうんですね」

 

「ふぅ……うん。 いつまでもお世話になる訳にもいかないし、帝国には僕の仲間もいる。 とにかく先ずはVII組全員が集まって、どうするか決めないと」

 

「そうですか……なんだか、私達に似てますね」

 

「特務支援課だっけ? おんなじだと思うよ、どっちも遊撃士みたいな事をしてるし」

 

動けない間暇だったので2人は今までの事を互いに話し合った。 そしたら以外にも複数の共通点があったりした。

 

「どうやって帝国に戻るつもりで? ガレリア要塞の風通しが良くなったからといって、テスタ=ロッサを連れて行くのは難しいですよ?」

 

「そうなんだよねー。 精霊の道を開いて行くのもアリだけど……運送で行くのもありかもね」

 

「……運送?」

 

「そうそう。 山猫の宅急便ってやつ」

 

何かを指しているような比喩を言うレト。 何のことか分からないティオは首をひねると……レトが肌寒さを感じて片手で身体を擦る。

 

「流石に寒くなってきたかな」

 

「夜は特に冷えますので、風邪をひかないでください。 答えは明日に持ち越して、私はもう寝ます」

 

「わかった。 おやすみ、ティオ」

 

「はい。 おやすみなさい、レトさん」

 

「ナァ」

 

ルーシェを軽く撫でた後立ち上がり、ティオは屋上を後にした。

 

レトは明日ここを発つ予定で、服も用意出来たようだった。

 

「さてと…….——ん?」

 

レトもこのままでは風邪をひいてしまうと思い槍をしまい、明日に備えて病院内に入ろうとした時……不意に人の気配を感じ取り振り返った。

 

そこには……白と青を基調とした、優雅ながら動きやすい旅装束を着たラウラがいた。

 

「! ラウラ、無事だったんだね!」

 

「………………」

 

「……ラウラ?」

 

「フーーーッ!」

 

久し振りに再開だと言うのにレトは反応がない、さらにルーシェが威嚇している事を怪訝に思いながら歩み寄よると……突然、大剣を抜き際に振り下ろして来た。 いきなりの事で驚愕したが、咄嗟にレトは後退して大剣を避ける。

 

「いきなり何——」

 

問いただそうとすると……背後から気配を感じ、振り返らずその場を飛び退くと、遅れて大剣が薙ぎ払われた。

 

(速すぎる……って)

 

背後に回り込んだ気配がなかった事を不思議に思いながら周囲を見渡すと……レトは目を疑った。

 

「ラ、ラウラが1人2人…………7人?」

 

最初に大剣を振り下ろした状態で固まっている1人、そして背後から襲って来た1人……さらに5人、いつの間か最初の1人の背後にいた。 全員が同じ格好、同じ顔をしたラウラが……ただ異なる点があるとすれば無表情な部分だけ。

 

「分け身じゃない……全員本物だ。 一体何が……」

 

「——驚いてくれたかい?」

 

彼女達の背後から現れたのは白衣とメガネをつけた猫背の男、まるで彼がこの状況をレトに見せたかったかのような口振りである。

 

そして、その声には聞き覚えがあった。

 

「……その声……使徒ですか」

 

「いかにも。 私はF・ノバルティス。 身食らう蛇の第六柱にして、《十三工房》を任されている。 フフ、皆からは“博士”とも言われている」

 

「あなたが……」

 

執行者の口々から度々耳にしている名前、名前から察するに技術系統で組織に貢献しているのだろう。

 

だが、次の瞬間レトはさらに驚きを露わにする……それは、彼の背後から《鋼の聖女》と《鉄機隊》の戦乙女3人が現れたからだ。

 

「母上……」

 

「…………………」

 

「性懲りもなくまた……!」

 

「いい加減諦めなさい。 喚いた所で事実は事実よ」

 

「それとも、マスターが虚言を言っているとでも思っているのか?」

 

「そ、そうとは言っていませんわ!」

 

未だに神速がレトの事を目の敵にしているが、それよりもレトはラウラ達について聞くことが今は重要だった。

 

「フフ、話には聞いていたが、君が聖女殿の息子か……実に興味深い」

 

「……そんな事より、彼女達は一体……僕の友人にソックリなんですけど?」

 

「彼女達は根源の……マリアベル嬢と協力して生み出した人造生命体《Aの血族(アルゼイド・ブロス)》……ご察しの通り、《光の剣匠》の遺伝子を元に作られている。 似ているのは当然だろう」

 

光の剣匠……アルゼイド卿の遺伝子から培養され生み出されたラウラ達……その事実にレト“キッ”と、鋭く怒りに満ちた目でアリアンロードを睨んだ。

 

「母上……! どうしてこのような命を弄ぶ所業を見過ごしたのですか!?」

 

「………………」

 

「母上!!」

 

返す言葉もない……沈黙がレトの質問に答えていた。 責め立てるも、その答えは母と戦乙女達も本意ではない事が伺える。

 

「なっ!?」

 

だが、それを聞く前に1人のラウラが走り出し大剣を突き出して来た。

 

「くっ!」

 

考え事の途中で不意を突かれ、即座に跳躍して回避する。

 

7人ともラウラと同じ大剣使い、レトは苦悶の表情を見せながら槍を抜き構える。

 

「先ずは戦闘力を計らせてもらおうか。 いくら《剣帝》とはいえ、甘く見ない方が身の為だよ」

 

「くっ……」

 

まるでテストと言わんばかりの態度にレトは苛立ちを覚えながらも槍を抜き、応戦する。

 

数は多いとはいえ、ラウラ達の剣にはどうにも感情……意志がない。 そんな剣に重みがある訳もなく、レトは冷静に対処していく。 その間にチラリと周囲を見渡すと、結界が張られていた。 通りで先程出て行った感覚が鋭いティオがここに来ない訳だ、どうやらこの空間は隔絶されたようだ。

 

「はあっ!」

 

「せいっ!」

 

振るわれている剣は間違いなくアルゼイド流。 しかしどうやら知識だけで身体がついて行ってないようで、7人とも太刀筋が定まってない。

 

「はあっ!」

 

レトは銃剣を抜くと同時に分け身を使い、7箇所で一対一を行った。 数の有利を覆され、次第にラウラ達は押され疲弊していく。

 

「……これが優秀な遺伝子から生まれた人造生命体の力? これじゃあ、あまりにも……」

 

「その通り。 彼女達は試作品だ。 次に検体を作る為の過程に過ぎない」

 

「このっ……外道が!」

 

「っ……」

 

「させませんわ」

 

本体のレトが相手をしているラウラを弾き飛ばし、ノバルティスに向かって刃を向けようとすると……鉄機隊の神速が道を塞いだ。 その背後には他の2人も控えている。

 

「あなた達も何をしているのか分かっているのか!」

 

「ええ、もちろん。 個人的はとても怒りを覚えますが……これも偉大なるマスターのため、私は意思を押し殺しますわ」

 

「分からず屋!」

 

怒りをぶつけるように銃剣をブーメランのように投擲。 《神速》のデュバリィは冷静に盾で防ぎ、上に銃剣は一瞬で距離を詰めたレトがキャッチしそのまま振り下ろす。

 

デュバリィはバックステップで避け頭上から振り下ろされた剣は屋上の床を鋭く斬り裂く。 そしてレトは距離を取ろうとするデュバリィに蹴りを入れて体勢を崩させ、剣技と蹴り技でデュバリィを押していく。

 

「っ! この戦い方……既に《剣帝》を超えたと言うんですの!?」

 

「超えてない。 今から超えさせてもらうだけ……貴方達を倒してね!」

 

「まぁ……」

 

「フッ、生意気な……だが悪くない」

 

「ふ、ふん! いかにあれから研鑽を積もうとも、結社最強とも謳われる我ら《鉄機隊》に単身で挑もうとは——身の程を知りなさい!」

 

「そんな事はどうでもいいので置いといて」

 

レトは両手を横に振り、彼女の前置きなどどうでもいいように放り投げる。

 

「なっ!?」

 

「一撃で決める!」

 

Aの血族の相手をしていた分け身を消すと同時に駆け出し、また新たな分け身を作り出して鉄機隊に迫る。

 

『これが僕の剣の道だ!』

 

アルゼイド卿は刹那の間にいくつもの型の剣を振るうに対し、レトが振るう型は1つだけ。 しかし、その人数は幾十……全力の一太刀を一点に重ねる、これがレトの……

 

『——秘技・洸凰剣!』

 

レトがすれ違い際に一太刀だけ振るう。 それが幾十と繰り返され……耐えきれなくなった鉄機隊は大きく吹き飛ばされ膝をつく。

 

「あ、ありえませんわ……こんな子ども相手に、しかも、アルゼイドの技で膝をつかされるなんて!」

 

「こうも容易く我らを退けるとは……どうやら甘く見過ぎていたようだな」

 

「若いって怖いわね。 いえ、どちらかといえばこれは思いの力……フフ、妬けちゃうわね」

 

何かを呟いた後、鉄騎隊が後退すると……今度はラウラ達が使徒へと続く道を塞ぐ。

 

「邪魔を……」

 

「するな!」

 

『朧月牙!』

 

立ち塞がるラウラ達を、分け身を使い一瞬で倍の人数に増えたレトが二振りで斬り払った。 倒れていくラウラ達……すると、いきなり次々と転移されていく。

 

最後の1人が消えたのを見送ったレトはノバルティスの方を向く。 その手には端末が握られており、彼の仕業だと分かった。

 

「ふむ……こんなものか。 初めてにしては上出来、良いデータが取れた」

 

「くっ……」

 

ただデータを取る為だけにこんなふざけた事を仕出かすノバルティスに怒りを覚えるレト。 だが怒りの形相で睨まれているノバルティスはそんな事は気にせず手元の端末を操作し転移を始めた。

 

「ご協力感謝するよ。 また会える日を楽しみにしている」

 

「待て!」

 

手を伸ばすもその前にノバルティスは消えて行った。 そして、それに続きアリアンロードの足元にも陣が展開し始めた。

 

「母上!」

 

「——レミィ。 願わくば……あなたが彼女達を……」

 

「!!」

 

その言葉を最後に、アリアンロードは戦乙女達と共に転移して行った。

 

「………………」

 

「ナァ……」

 

結界が消え再び夜の静寂に包まれる病院の屋上に残されたレト。 茫然と立ち尽くすレトにルーシェが歩み寄り心配そうな鳴き声を上げる。

 

そんなルーシェにレトは大丈夫と言いながら抱きかかえる。 そして顔を上げ、闇夜に浮かぶ三日月を見上げる。

 

「猶予はない……」

 

そう呟いた後、レトは駆け足で自分の病室に戻った。 入るや早速先の戦いでボロボロになった病人服を脱ぎ捨て、セシル達が用意してくれた服を手に取る。

 

白いシャツの上にフード付きの紺色のジャケットを羽織り、黒いズボンを履いて踝まである登山靴を履き立ち上がった。 腰のベルトに古文書を懸架し、ジャケットの内ポケットにアークスをしまう。

 

最後に背中まである橙色の髪を一纏めにし円状のバレッタで固定。 顔は割れているかもしれないが、これで目立つ事もないだろう。

 

「………………」

 

綺麗に畳まれたトールズ士官学院・VII組の象徴である紅い制服。 レトは寂しそうな目をしながら制服を見つめる。

 

(また、袖を通す時が必ず来る……)

 

そう信じて制服をこの病院に残す事を決意し、勝手に居なくなるからセシルやティオが心配するので書き置きを残した。

 

槍の入った袋を担ぎ病室、ウルスラ病院を後にした。

 

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