ユミルより北方、アイゼンガルド連邦——
「ハアハア。 後ちょっと……!!」
いくつも連なる山々があるそこでレトは……
「おおおーー! お宝ーーー!!」
宝探しをしに崖を登っていた。 そもそも何故こうなったかは1時間前に遡る。
◆ ◆ ◆
12月4日——
昨日ユミルにたどり着いたレト達は以前この地を訪れた時に宿泊した鳳翼館で一泊した後、次に備えるため今日一日は休みを取っていた。
各々がユミルを楽しむ中、レトはルーシェとマキアスと共に宿酒場《木霊亭》でコーヒーを飲んでいた。
「ナァー」
「ふいー、一息つけたー」
「やはり寒い日には特にコーヒーが美味く感じるな」
彼らはそれぞれミルク、カフェオレ、コーヒーと温かいも比率の違う飲み物をそれぞれが飲んでリラックスしていた。
「しかし……今後を考えればこのひと時も束の間の休息なのだろうな……」
「束の間だろうが刹那だろうが今を楽しむ、それが大事だよ」
そう言いながらテーブルに置かれたクッキーを手に取って口の中に放り込んだ。 それを見たマキアスは怪訝そうに眉を細める。
「紅茶ならともかくコーヒーに合うのか?」
「結構合うものだよ。 レミフェリアで良くやっていて、『フィーカ』って言われているね。 帝国じゃ変わった風習だと思うけどね」
「確かにそうだな。 よし、なら僕も」
マキアスは菓子を口にした後、コーヒーを飲む。
「これは……確かに美味いな」
「でしょ?」
その後、2人は食後にチェスを始めた。 上級者のマキアスにも引けを取らないレト。 その時ふとマキアスは駒を動かしながら口を開いた。
「そういえば、レトは好きな事はあるのか?」
「いきなりどうしたの? 何かの作戦?」
「いや、単純に気になっただけさ。 いつもなら考古学や錬金術や写真撮り、遺跡や宝が好きなのは知っているが……趣味とかないのかなと」
少し考えながら手を出し、マキアスの駒を取りながら答えた。
「趣味かぁ。 考古学も錬金術もお宝探しも遺跡の調査も写真も好きな事だからやっているだけだし……そう言われてみれば無いかもね。 けど、ある意味今言った全てが趣味とも言えるのかもしれないね」
「そうだな。 写真や錬金術あたりがまさしくそうなのかもしれないな」
「——へえ、お前さんお宝が好きなのか?」
と、2人の会話に聞き耳を立てていたこの宿酒場の店主が唐突に声をかけてきた。 その質問に、レトは両拳を握りしめて元気よく答えた。
「はい、大好きです!」
「そうか。 ならあの話も気にいるかもな」
「あの話?」
「ああ、なんでもアイゼンガルド連邦の頂上に宝があるそうだなんだ」
「宝!?」
たった1つの単語。 それだけなのにレトは異常な反応を示して詰め寄った。
「その話、本当ですか!?」
「あ、ああ……数十年前、俺の親父から聞いた話なんだが、ある日突然旅人がこの地を訪れて山の奥に向かったそうだ。 帰ってきたその人に何をしに山に行ったのか聞いてみたところ……“自分では扱いに困るので宝石を双子の山に置いてきた”なんて言ってたんだ」
「……それ、宝じゃないですよね?」
「あはは、そうだな。 だが金目のものには違いない」
店主は大きな声で笑う。 と、そこである異変に気付いた。 マキアスと対面して一局打っていたあの橙色の髪をした少年が忽然と姿を消していた。
「って、あれ? あの子は?」
「あ」
「クァ〜……」
◆ ◆ ◆
「えっと〜……あそこかな?」
崖を登り切り、目の前にそびえる山を見上げるレト。 すると腰から下げていたカンテラを取り出し目の前に掲げた。
「うー……寒」
何も考えずに飛び出したため大した対策も準備もしておらず、カンテラの火で暖を取りながら山道を登って行く。
しばらく強風に煽られながら進んで行き、アイゼンガルド連邦の中で一番高い山の山頂に到着した。
「さて、と」
店主が言うには宝物は山に置いてきたと言ったが、ここには山など幾らでもあり、どの山かは分からなかった。
レトは頂上から辺りの山々を見下ろす。 手掛かりである双子の山がないか当てずっぽに探していると……
「——あ!」
意外にも早く、1セルジュ程離れた場所にある高さが同じ2つの山が見つかった。 さらにその両方を観察し、西側の山の頂上に宝箱を発見した。
「よっと!」
すると助走をつけてから山頂から飛び降り、風を切りながら落下し、途中で鉤爪ロープを崖に向かって投げ、振り子のように揺れて飛び上がり……その山に飛び移った。
「あったあった」
レトは嬉しそうに駆け寄り、宝箱を開けた。 中には……翠色の宝石が輝く指輪があった。
「この指輪は……」
レトは見覚えがあり腰の古文書を取り出してページをめくり、すぐにその指輪と同じ絵が描かれているページを見つけ出した。
「——奇跡の指輪か」
古文書に記載されている内容を読むと……どうやら持ち主の望むものを何でも1つだけ叶える事ができる力を持っているようだった。
何でもという漠然とした話にレトは首を傾げるも指輪をしまい。 目的は達成されこの場を去ろうとした、次の瞬間……
グオオオオ!!
「おう!?」
突如として獣の咆哮が鳴り響き、目の前で空間が渦巻き始め……1体の2対4翼を有する鳥型の魔獣、幻獣フェニキアが姿を現した。
「指輪に反応して顕れたみたいだね。 まあ、この程度なら僕1人でも行けそうだねっと」
指輪をしまいながら虚空に左手をかざし……黄金の魔剣ケルンバイターを別の空間から引き抜いた。
「一狩りやらせてもらうよ!」
嬉々として、獲物に狙いをつけた肉食獣のような目をして地を蹴り、剣を振り下ろした。
◆ ◆ ◆
「たーだいま〜……」
山に入り3時間後……日も暮れ始めた頃にボロボロになったレトが鳳翼館に帰ってきた。 館内に入り食堂に入ると……そこにはエリオット達がおり、夕食を食べていた。
「おかえり」
「遅かったね」
「いきなり消えるからもしやとは思ったが……まさか本当に宝探しに山に向かうなんてな」
「あはは。 居ても立っても居られなかったから」
愛想笑いをしながら頭をかき、戦利品である指輪をテーブルの上に置いた。
「これが宿酒場の店主が言っていた?」
「うん。 奇跡の指輪って言ってね。 何でも望むものを1つ叶える力があるみたいって言われているね」
「え、それって
「そうかもね。 だから前の持ち主は山に捨てたのかもしれないけど……なんで七燿教会に預けなかったのかなあー」
指輪をくすねようとするフィーを止めるエリオットを見ながらレトはそう考える。
「それでレトは、その指輪で何をするの?」
「んー、望むものだからねえ……欲しいものがあるわけでもないし、保留かな」
「なら私が貰っておくね」
「ダメだって」
フィーはゆっくりと指輪に手を伸ばし、盗られる前にレトが素早く取った。
そうこうしているうちにこの館のシェフが夕食を作ってくれ、レト達は束の間の休息を過ごした。