英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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69話 カルバード共和国

現在、レトはカプア特急便の飛行艇《山猫I号》に乗り、レミフィリアを経由して共和国へ侵入し、そこから東方へ向かっていた。

 

ユミルを飛び立って半日……レミフィリアの領内を通って夜空の下、山猫号は飛んでいた。

 

「ふう……」

 

三日月が空に浮かぶ中、レトは小型の飛行艇の外で夜風に当たっていた。

 

「テスタ=ロッサ。 気分はどう?」

 

『問題ナイ』

 

山猫号の甲板から身を乗り出して船底を覗き込み、レトはワイヤーでぶら下がって船底に捕まるテスタ=ロッサに声をかける。

 

「皆、どうしているかなぁ……」

 

「——レトー! そろそろ共和国に入るよー!」

 

「分かりましたー!」

 

VII組のメンバーと士官学院の皆を心配している中、ジョゼットの言葉でレトは下を見下ろす。 丁度セントアークの上空を飛行しているようで、雲の切れ目から時折、街が見えてくる。

 

「あれがアルタイル市……もうカルバード共和国に……」

 

一言で言えば帝国人であるレト、共和国は敵国であるが……それだけで偏見を持つわけでもなく。 内心、未知の地に足を踏み入れる事にワクワクしていた。

 

「けど……最初は腹ごしらえかな?」

 

前を向き、山猫号はアルタイル市から離れた場所ある街道、さらにそこから逸れた広場に着陸した。

 

「さて、かなり遅くなっちまったが今日はここまでだ。 本当はクロスベル辺りに止まるはずだったんだけどな……」

 

「仕方ありませんよ。 神機の存在がありますし、ここまで来れただけ有り難いです」

 

「そうかい。 とにかく今日はここで野営だな。 ジョゼット、ちょっくらアルタイルに行って食料なんかの買い出しに行ってくれねぇか」

 

「今から!? それはいいけど、ドルン兄達は?」

 

「俺達は明日に備えて山猫号の点検、整備だ。 明日はカルバードの首都にも接近するし、その先は俺達にとって未知の土地だからな。 用心に越したことはない」

 

そこでレトが手を上げ、買い出しに行くと宣言した。

 

「それなら僕が行きますよ」

 

「え、いいのかい?」

 

「僕の無茶に付き合ってもらっているんですし、これくらいはさせてください。 それに夜の街道は慣れてますし、時間はかからないと思います」

 

「そういう事ならよろしく頼むよ」

 

ミラをもらい、ルーシェを連れてレトは夜の街道を走りだし。

 

数分でアルタイル市に到着し、すぐに買出しを行った。 食料は基本何でもいいが日持ちしやすい物、そして山猫号のための整備パーツを複数購入した。

 

「えっと…………うん、これで全部だね」

 

買うものが書かれたメモを確認しながら歩いていると、ふといい匂いが漂ってきた。 辺りを見回すと、屋台で焼き栗が売っていたので……

 

「ふおー! 焼き栗おいしー!」

 

「ナァ〜♪」

 

匂いにつられてついつい買い食いし、レトは自分とルーシェの口に焼き栗をポイポイと放り込んでいく。

 

「………………」

 

クロスベル独立とそれによる両国の在クロスベル資産が凍結……帝国の内戦のきっかけとなった出来事だが、共和国は経済の大混乱が発生。 それに乗じて全土の規模で暴動が起きる騒擾事態が起こっている。

 

そのため今持っている食べた物の値段は上がっている上、セピスの欠片の換金量も減っていた。

 

(帝国は帝国で大変だけど、共和国も大変なんだね)

 

「ナァ〜(ぱくっ)」

 

この国の事態は帝国とも無関係ではない。 早く所用を終わらせ、帝国に戻らないといけない。

 

レトは最後の焼き栗をルーシェの口に放り込み、荷物を持って山猫号のある街道へと走り出した。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

翌朝——

 

アルタイル近郊を出発したレト達を乗せた山猫号はカルバード南部、ラングポートに向かって飛翔し、共和国軍の飛行師団の警備網を潜り抜け……昼過ぎにようやくラングポートに到着した。

 

レトはこっそりと侵入し、国の情勢や錬金術師について調べ……郊外に不思議な薬剤師がいると言う情報を掴んだ。

 

「へぇ、ここが東方人街かぁ」

 

「噂に聞いていたが……」

 

ジョゼット達が街並みに驚く中、レト達は大通りを堂々と歩く。

 

街には共和国軍が警備をしてなく、すんなりと入れた。 恐らく国が混乱しているためだろうが、ここは国の情勢とは離れているらしい。 かなりのんびりとした雰囲気がある。

 

東方人街は背の低い木造建築が密集する街のようで。 街にある店や屋台の名前はリィンの部屋に飾ってあった掛け軸と同じ雰囲気の文字で書かれており、レトは内心ワクワクしていたが気持ちを切り替え、ジョゼット達と別れて薬剤師ついての情報をそれとなく集めた。

 

「ふぅ……見つからないなぁ。 でも、諦める訳にはいかない」

 

「ナァ……」

 

例え見つかったとしても、本当に錬金術師がいる保証もない上、いたとしてもテスタ=ロッサの武器を錬成できる腕前を持っている人物ががいるかどうか……しかし、それでもレトは行くしかなかった。

 

内戦を終わらせるため、VII組の皆で乗り越えるため、そして……

 

(身の証を立てるために……)

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

錬金術師に関する情報を集め、街を散策していたレトは……

 

「うーん! 美味い!!」

 

「ハグハグ」

 

ルーシェと共に美味しそうにイールの蒲焼きを口にしていた。 どうやら匂いにつられたらしい。 情報集めをそっちのけで食べ物にありつく。

 

「やっぱり帝国料理よりこっちの方が好きだね! しかも雑魚扱いのイールがこんなに美味しくなるなんて」

 

「昔はヌルヌルで硬くて骨ばっかりであまり食べられていなかったんですが、数年前に調理法が確立されて、一気に人気が出たんですよ」

 

東方では人気らしいイール。 それで作ったイール丼、レトは無心で頬張った。

 

「モグモグ……あ、聞いていいですか? この街に薬剤師がいると聞いたんですが……どこにいるのかご存知ですか?」

 

「薬剤師? もしかしてソフィーちゃんの事かしら?」

 

恐らくその人がレトが探している人物……らしいが、噂話から得た情報なので本当に薬剤師だったらどうしようとも思った。

 

「はい、その人に用があって。 どこに行けば会えるんですか?」

 

「ソフィーちゃんは街外れにある丘の上の家で薬屋を開いているのよ。 そこに行けば会えると思うわ」

 

「丘の上……ありがとうございます」

 

「ケプ……」

 

代金のミラを置き、お礼を言いルーシェを抱えながら店を出た。

 

道行く人から丘への道を聞き、街からかなり離れ場所にある丘に到着した。 その丘の上には東方人街とは別系統の木造の建築の家が建っていた。

 

東方人街の家が“和”とするなら目の前の家は“洋”だ。 かなり浮いている。

 

「ここかあ……」

 

「ナァー」

 

家の前まで歩いて家を見回す。 帝国の一般な一軒家と比べると特に変わった所はないが、家中から独特な匂いが漂ってくる。 薬の匂いなのだろうが、科学的な薬品というより自然の匂いがしてくる。

 

「ごめんくださーい。 どなたかいらっしゃいますかー?」

 

「あ!? は、はーい!」

 

ノックすると少女の慌てた声が聞こえ……扉が開くと裾と袖の大きな紺色のコートを着た、紅のような色をした艶のある赤目赤髪のショートカットの少女が慌てて出てきた。

 

「《アトリエ・リーニエ》にようこそ! 何かご用ですか?」

 

「えっと、君がここの店主なの?」

 

「はい、3年前に死んでしまったお婆ちゃんから継いで、今は私が」

 

「そう……どうやら当たりのようだね。 君、錬金術師だね」

 

「!?」

 

彼女に質問しながら家の中を見回し、本が床に積み上げられていたりかなり散らかっているが部屋の隅に錬金釜を見つけた事で確信を持ち質問すると……ソフィーはビクッと身体を震わせ、ダラダラと汗をかき、目がそっぽを向いた。

 

「い、いいい一体なんの事でしょう?」

 

「動揺し過ぎ」

 

今まで隠し通せたのが不思議だが、恐らく聞かれた事が無かったのだろう。 驚き警戒する彼女を落ち着かせるため、レトは単刀直入に要件を言った。

 

「僕がここに来た目的は錬金術を使ってある依頼を頼みたいからなんだ。 話だけでも聞いてはくれないかな?」

 

「……えっと、話だけなら……」

 

そうと決まり、レトはソフィーを連れて家の裏手に出た。 街から反対側、レトは家の陰に……テスタ=ロッサを転移で呼んだ。 ソフィーは大層驚いたが、レトはそんな事御構い無しに説明した。 一通りの説明を言うと……

 

「と、言うわけで……君に武器の再錬成をお願いしたいんだ」

 

「——む、むむむ無理です!!」

 

ブンブンと残像が見えるほど速度で首を横に振るソフィー。 騎神が突然現れた事もそうだが、レトの依頼内容もそれに勝る驚くものだったようだ。

 

「私……こんなに大きな、しかもゼムリアの武器を再錬成するなんて出来ませんよ。 それこそ、おばあちゃんみたいな錬金術師でもない限り」

 

「やっぱり難しいかぁ……君以外の錬金術師はいないの?」

 

彼女が無理でと他の錬金術師なら。 そう聞くと、ソフィーはふるふると俯きながら首を横に振った。

 

「年々、錬金術師の家系から素質ある者が減ってきている傾向があり、衰退の一途をたどっているんです。 もっと東に行けばいると思いますが、この地域には私の家しか錬金術師がいません。 そして《リーニエ》家は長年、優秀な錬金術師を輩出していましたが、私の代で……」

 

「そう……」

 

一族の衰退……錬金術はエマ達、魔女が使う魔術よりも才能が必要になる。 適性が厳しいのだろう、長い月日の間に減り続けてしまったのだろう。

 

「まあ、そもそも急にこんな話をされても混乱するだけだとは分かっていたし、可能性があるならって気持ちでこの地に来たけど……無理強いはできないし、諦めるよ」

 

「ご、ごめんなさい……私がもっと勉強して、一人前の錬金術師だったら……」

 

「気にしないで。 作り直さないならまた一から作ればいいだけだし」

 

急なお願いを謝罪しつつテスタ=ロッサをもう一度山猫号に転移させ、踵を返して去ろうとした時……

 

「…………! そ、その本は……!」

 

ソフィーはレトの腰に懸架していた本を発見し、目を見開いた。

 

「あ、ああ……これは星見の塔で見つけた錬金術に関する古文書だよ。 君達、錬金術師の技術の起源とも言えるかな。 色々試して見たけどかなり面白かったね」

 

「えっ!? レトさん、この本のレシピで錬金術をしたんですか!?」

 

「気まぐれでね。 家の関係で素質はあったみたいだったし、古文書が本物かどうか確認する程度だけど」

 

「そ、そんな簡単に……」

 

独学で錬金術を習得し、幼い頃から続けてきた自分より腕が上であるレトに少しばかり劣等感を覚えてしまうソフィー……しかし、ソフィーは深く考え込み、意を決して顔を上げレトの目を見た。

 

「あ、あの!」

 

「うん?」

 

「わ、私に……錬金術を教えてください!」

 

「え……」

 

今日はレトの方がお願いをしに来たはずなのだが、逆にソフィーからお願いをされて一瞬呆けてしまった。

 

「教えてって……僕は独学だし、教えられる事なんか何もないと思うけど」

 

「いいえ! その本を読み解いただけでもかなりすごい事ですし。 私も同じ知識を持っている人が近くにいればもっと錬金術が上手になれると思うんです!」

 

つまり師弟のように先生が生徒に教えるのではなく、同じ勉強をして互いに教え合おう……ソフィーはそう言っているようだ。

 

「でもこっちは武器の再錬成をしに来たのが目的だし、それが出来ないのならここに止まる理由もない。 僕が来た帝国は今内戦状態、ここに来たのだって対抗する力を手に入れるため。 例え武器が手に入らなくても、時間無駄に出来ない……すぐにでも戻らないと行けないんだ」

 

「うぐっ…………だ、だ、だったから! 私が成長した暁には、ゼムリアの武器の再錬成をします!」

 

ソフィーはなんとかレトを引き止めるため苦し紛れで叫んだ。

 

「そ、それに同い年みたいですし! 気が合いそうなんです!」

 

「…………ソフィー、今何歳?」

 

「え? 14ですけど」

 

「……僕は17だよ」

 

少し気を落としながら答えると、ソフィーはビックリしたように飛び上がった。

 

「ええぇ!? え、いや、その……ごめんなさい」

 

「いいよいいよ。 まあ、ともかく、僕がソフィーに錬金術を教え。 その報酬、結果としてテスタ=ロッサの武器を再錬成してもらう……でいいかな?」

 

「はい! よろしくお願いします、先生!」

 

「せ、先生かぁ……なんだか恥ずかいな」

 

「クァ〜……」

 

流されて引き受けてしまったが、お互いに利があるので納得はした。 レトはアークスでジョゼット達に事情を伝え、多少呆れられながらも後で山猫号をアトリエ付近に停泊させると伝えられた。

 

そして、レトは軽く錬金術を教えるための授業内容を考えた後、早速始めることにした。

 

「それじゃあ、先ずは簡単なアクセサリーを作ろう」

 

「…………え…………」

 

「そうだね……アロマポーチなら教えられるし、最初はそれを作ろう」

 

作るものを決めるとソフィーは呆けた顔をする。

 

「どうかしたの?」

 

「え、えーっとその……私、街の皆には薬剤師として通しているので、薬以外の調合をやった事ないんです」

 

「あーー」

 

言われて納得する。 錬金術師と隠すため、今までソフィーは薬剤師として街の人々から認知されてきた。 薬の作り方も独特、もし薬以外の物を作っていると知られるとマズイので今まで作ってこなかったのも納得できる。

 

「んー、だったらいつも通りに薬を作ってみてよ。 どこまでの腕前か確かめてみたいしね」

 

「はい!」

 

「クァ…………」

 

暇すぎるルーシェが欠伸をしてテーブルの上で眠ろうとする中、レトとソフィーによる錬金術が始まった。

 

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