12月21日——
前日にルーレ市へ侵入する経路をアリサの叔父であるグエン・ラインフォルトのアドバイスでユミル山麓方面からルーレ西側のスピナ間道に流れる小川からボートで降り、ルーレに侵入する流れもなった。
ボートという事なので人数を絞る事になり、メンバーから外れたレトはリィン達の出発を見送った後、山麓付近に着陸しているカレイジャスの外にいた。
「よし、ここでいいかな」
「何をするつもりなのですか、兄様?」
何をしようか不思議に思うアルフィン。 その視線が見守る中、レトは懐から四葉を模した
銀耀石を放り投げ、銃剣を撃ち砕くと……空中に四葉を模した陣が展開、その中から銀色の獅子、ウルグラが現れた。
「グルル……」
「久しぶり、ウルグラ。 心配をかけたね」
テスタ=ロッサを呼ぶためにバルフレイム宮地下に向かわせ、その後なんの音沙汰もなかった事をレトは謝った。
そんな中、アルフィンは機械の獅子に寄り添うのを兄の姿を恐る恐ると歩み寄る。
「あ、兄様……この機械の獅子は一体……」
「あー、そうだね……リベールで手に入れたお土産かな?」
レトは多少詳細をぼかしながら、アルフィンにウルグラについてと手に入れるに至った大まかな説明をした。
「そうだったのですか……本当に、危険はないのですのね?」
「大丈夫だよ。 ほら、撫でてみなよ」
「そ、それでは……」
襲いかかる事は無いが、それでもゆっくりと手を伸ばし……冷たい鉄を撫でるように触る。
「グルルル……」
「本当に大人しいですね。 しかし、あまり動物と触れ合っている気にはなりませんね」
「あはは、そうだね。 それならルーシェの方が触り心地はいいよ」
「ナァー」
レトは抱えていたルーシェをアルフィンに手渡し、アルフィンは嬉しそうな顔をしてルーシェをモフモフした。
「あー、癒されますわぁ……」
「ナァ〜♪」
「グル……」
「仕方ないよ、ウルグラ」
幸せそうに抱かれるルーシェを見てウルグラは情けない鳴き声を出し、目に見えて落ち込んでいた。
と、そこへレト以外のVII組待機組がやってきた。
「あら、皆さんも外の空気を吸いに?」
「ええまあ。 あまり艦内にこもっても息がつまるので」
「そ、その獅子は確か……」
「あー、そういえばあの時はうやむやになってたし、当時のA班の皆には紹介してなかったね」
紹介して行くにつれ、他のトールズの学生が集まって軽い騒ぎになったりもしたが……アルフィンの一声ですぐに解散となった。
その後、レトはリィン達の状況を確認するため、ブリッジに向かった。
「あ、レト君」
「何かリィン達から連絡がありましたか?」
「ついさっきね。 無事にアンと合流して、今はザクセン鉄鉱山に向かっている」
「ザクセン鉄鉱山に?」
「ああ。 今、鉄鉱山には《アイゼングラーフ号》が停まっていて、そこにイリーナ会長が軟禁させられているようなんだ」
「アンちゃんは今、ルーレの事態を何とかしようとして黒竜関を攻略しようとしている……イリーナ会長を解放して、RF本社を奪還できれば背後の心配をせずに挑むことができる」
「なるほど…………ザクセン鉄鉱山ですか……」
レトは顎に手を当てて考え込み……しばらくして顔を上げると踵を返した。
「レト君?」
「一体どこに?」
「ちょうど足が確保出来たので、ザクセン鉄鉱山に行こうと思います。 今から行けばリィン達と合流出来ると思いますし」
いきなりの事にトワとジョルジュは驚く。
「まさか、騎神で行く気なの!?」
「違いますよ。 ま、安心してください」
ヒラヒラと手を振りながらブリッジを後にし、まだ外にいたアルフィン達の元に向かった。
「ナァー」
「あら、兄様? どこかお出かけに?」
「うん。 少しリィン達の応援にね」
レトはウルグラに飛び乗るように跨り、立ち上がると四肢を踏みしめて力を溜め……
「ウルグラ……行くよ!」
「グルオオオッ!!」
飛び出すようにウルグラは走り出し、岩山を飛び越えたザクセン鉄鉱山に向かって南下を始めた。 障害物を超えて真っ直ぐに進んでいるためそこまで時間はかからず、1時間程で到着した。
「見えた……あれがザクセン鉄鉱山か」
エレボニアの経済を支える屋台骨。 リベールにある、七耀石を採掘するマルガ鉱山とは違い鉄鉱石を採掘を主にしている鉱山……その大きさに驚きつつ、ウルグラによってステルスになり、線路上に飛び降り貨物列車が停められている貨物ホームに入り込んだ。
すると直ぐ目に留まったのは……真紅に彩られた列車アイゼングラーフ号。 とても目立つ色をしているのでホームの暗がりの中でも見つけやすかった。
「アイゼングラーフ号、見るのは久しぶりだね」
「グルル……」
「うわっと……ウルグラ?」
唐突に、ウルグラがレトの背を頭で擦り付けてきた。 いきなりなんだと思うと、ウルグラはある方向を見た。 その方向に視線を向けると……リィン達がシスターの格好をしているアンゼリカと共に貨物ホームに入って来ていた。 合流しようと歩き始めた時……リィン達の前に猟兵が現れ、交戦を始めてしまった。
(……しょうがない)
加勢せず、リィン達を囮にするようにレトは隠れながらアイゼングラーフ号に近寄る。 乗り込む際にウルグラを消し、第2車両の天井に飛び乗る。
引き続きステルス状態で先頭車両の制御車に向かうと……甲高い音と共に、アイゼングラーフ号が発進し出した。
「うわっと! 走り出しちゃったか……急がないと!」
速度が上がる前に車内には入ろうとすると……車内から剣を咥えている豹型の軍用魔獣、ブレードクーガーが出てきた。
「おっと……! さすが猟兵、手早い」
ブレードクーガーの群れはレトを視界に捉えると唸り出し、飛びかかってきた。
レトは真後ろに飛び爪とブレードを避ける。 しかし、走行中の列車の上で飛んでしまったため思った以上に下がってしまい、4両目まで後退してしまった。
「っとと……」
着地と同時に槍を抜き振り回してバランスを取る。 その間にブレードクーガーは距離を詰める。 二度目の攻撃、槍を回転させて正確にブレードだけを狙って受け流していく。
足場が悪いため移動は控え、受け流し列車からブレードクーガーを落として数を減らしていく。 と、その時、車両の間から猟兵が上がって来て……機銃からの攻撃が襲いかかってきた。
「のわっ!」
それにより列車からズリ落ちそうになったが……冷静に鉤爪ロープを投げ、天井に引っ掛け何とか転落を免れた。 しかし、そこにはまだブレードクーガーが残っており、レトを落とそうと命綱でたる鉤爪を睨みつけている。
「くっ……」
足をかける場所もなく、ガラスは強化性で直ぐには壊せない……まさに絶体絶命。 苦し紛れのように銃を撃ち鉤爪に近寄らせないようにするも、強風に揺られる中で片手での射撃……密に撃ってしまうと鉤爪に当たってしまう可能性があり疎らに撃つしかなかった。
そして、一瞬の隙間を狙われ……ブレードが鉤爪を切り飛ばした。
「っ……!!」
再び襲う浮遊感。 急いでもう一度鉤爪ロープを振るおうとした時……レトの身体に鉄の糸が絡みついた。
「これは……!」
驚く間も無く引き上げられ、屋根に飛び乗った。 鉄の糸……鋼糸が解け、目の前にメイド服を着た女性……シャロンが悠然とした風に立っていた。
「シャロンさん!」
「お久しぶりでございます、レト様。 しかし再開を喜ぶ暇はございません……まだ行けますね?」
「もちろん!」
シャロンはブレードクーガーの方を向きながら短剣を握り、空いた手は何かを掴むように構え……空いた方の手を振るうと、ブレードクーガーの胴体に切り傷が走った。
続いて片足に鋼糸を絡めて体勢を崩し、ブレードクーガー同士を引っ張り合って1箇所に纏める。
「レト様!」
「一式・
入れ替わるようにレトが突撃、突進するように肩でタックルしブレードクーガーをまとめて押し出し……
「二式・
そのまま槍を短く構えて爪を振るうように回転、前進しブレードクーガーをまとめて一掃した。
「っと……三までは必要なかったかな」
レトは続けて技を繰り出そうとすると、残りがいない事に気付き、振り上げてようとしていた足を下ろした。
「シャロンさん、助けて頂きありがとうございます」
「礼には及びませんわ。 それに、レオンハルト様には借りがありまして、それをほんの少しお返ししただけにすぎません」
いつものように微笑むシャロン。 次の瞬間、内戦が始まって以来時折見せる真剣な表情になり、列車の進む先を見据える。
「それよりも先ずはこの場を制圧しましょう。 間も無くこの列車はルーレに到着いたします、レト様は制御車を抑えて下さい。 わたくしはイリーナ会長をお助けに参ります」
「分かりました」
強風が吹く中でもシャロンは可憐にお辞儀をし、音もなく車内に消えていった。
続いてレトも急いで制御車にたどり着くと銃剣を抜き、一瞬で剣を4回振るい……正方形に天井を切り取り車内に突入する。
車内には傭兵がおり、レトが突然侵入してきた事に驚いていた。
「なっ!?」
「列車を止めさせてもらうよ」
問答は無用。 車内にいた3人の傭兵を見据えながら身体を揺らし……次の瞬間、彼らの背後に回り剣を振り抜いた状態で止まっていた。
レトは姿勢を正して立つと、傭兵達は全員力なく倒れ伏した。 気絶した事を確認する事なく、レトは操縦席に近づく。
「えっと……進路をRF社の地下に変更っと」
コンソールを操作して目的地を変更……数分後、列車はRF社の地下ホームに到着し、リィン達と合流したレトは貨物ホームに降りた。
「ここがRF社の貨物ホーム……」
「ええ、ルーレ市の基部である鉄道路線と直結しているわ。 普段は製錬された鉄鋼なんかの運搬に使われているけど……」
その時、エリオットは何かを感じ取り、耳をすませる。
「エリオット?」
「どうかしたの?」
「……この音……ガレリア要塞で出てきた機械と同じだ」
「それって……!」
「結社の人形兵器か……どうやらそれなりの数を買っているようですね」
「叔父上め……面倒なものを」
「……どうやら私がいない間に好き勝手やっているようね。 あなた達はこのままエレベーターで上に行きなさい」
「恐らく、会長室にハイデル取締役がいらっしゃると思われます」
それだけを言うと、イリーナは背を向けて歩き始める。
「イリーナ会長、一体どこへ……?」
「放たれた人形の他に、セキュリティの邪魔もあるわ。 まずはそのセキュリティを解除して、警備を無効化するわ。 シャロン、それとあなたにも護衛をお願いするわね」
振り返り側に指差したのはレト。 レトは左右を確認した後、自身を指していると確認する。
「え、僕ですか? まあ、密閉空間でこれ以上人数が増えても意味はないですし……」
「かしこまりました」
「母様、シャロン……気をつけてね。 話したい事は山程あるんだから」
「ふふ……せいぜい力を尽くしなさい」
「それでは、皆様。 またすぐにお会いしましょう」
「レトも気をつけろよ」
「うん、また後でね」
アリサは家族を心配しながらも、己が成すべきことを成すため見送り。 先に行ってしまったイリーナの後に続いて行った。