レト達を乗せたカレイジャスはルーレを後にし、ノルティア街道の外れでアンゼリカの協力者である領邦軍の兵士と合流。 機甲兵も用意しているようで、これに乗って黒竜関を攻めいるようだった。
「——よし、有志の皆も準備は出来ているみたいだ。 早速行ってくるよ」
「先輩、どうかお気をつけて」
「アンちゃん……絶対に無理しちゃ駄目だよ?」
トワ達が心配の声をかけるが、アンゼリカはいつものように拳を合わせる。
「ああ、心配しないでくれ。 例えしくじって地獄に落ちても、這い上がって来るつもりさ。 トワや皇女殿下達、可憐な少女の持つ桃源郷がここにある限りはね」
「ふふ、アンゼリカさんったらお兄様みたいなことを仰って」
「ふぅ、あんまりアルフィンを先輩の道楽に巻き込まないでくださいね」
「道楽とは失敬な。 これは私の生きるための本能さ」
「余計にタチが悪いわ!」
シスターの格好から元の姿に戻るとすぐにいつもの調子に戻ったアンゼリカ。 緊張はしてないようである意味安心する。
「……ん?」
と、その時……後方、ルーレ方面から何かが接近してくる音が聞こえてきた。
「何だろう……?」
「この風は……機甲兵だ」
「なんだって!」
「どうやらルーレに残っていた領邦軍の増援みたいですね」
「……僕が出るよ。 リィンはここに残って不測の事態に備えて」
「……分かった。 くれぐれも気をつけてくれ」
テスタ=ロッサに乗り込み、カレイジャスを飛び降りる。 地上に降り立ったレトは街道方面を向き、振り返らずアンゼリカに声をかける。
『水を差される前に僕が押さえます。 アンゼリカ先輩は後ろを気にしないでください』
『了解した。 感謝するよ、レト君』
アンゼリカは兵を率いて黒竜関へ、その後をカレイジャスが追っていく。 後に残されたレトはテスタ=ロッサを駆り、ノルティア街道に向かって歩いて行く。 するとすぐに2機の機甲兵と鉢合わせする。
『なっ……!』
『あれは……報告にあった緋の騎士人形!』
『——ここは通行止めだよ』
槍を地に突き立て、仁王立ちするテスタ=ロッサを前に機甲兵が現れる。 その姿に彼らは尻込みし、視線を落とし足元に引かれていた線を見つける。
『こ、この線は何だ……?』
『踏み越えない事を、おすすめするよ』
その言葉に、彼らにはニヤリと笑っているように見えた。 さらにテスタ=ロッサ……延いてはレトからの殺気が肌で感じ取れる。
レトがやるべき事は時間稼ぎ、彼らを倒す事ではない。 しばらく睨み合いが続いたが……
『……う、うああああっ!!』
『ば……!』
緊迫した空気に耐えきれず、一機のドラッケンがブレードを振りかざして突撃してきた。 それに対してレトは……槍を前に添えるだけ。
『……フッ!』
添えた槍の高さはドラッケンの頭と同じ高さ、その状態で身構え、ドラッケンが向かってくれば……自分から槍に飛び込む形となり、ドラッケンの頭は飛んだ。
『くっ……突撃!!』
『おおおおっ!!』
これを皮切りに残りの機甲兵が攻撃を仕掛けてきた。 それに続いて飛行船も上空からの狙撃を狙ってくる。 レトは槍を回し始め、防御の構えを取ろうとすると……
「——エリアルバースト……!」
『おっ!?』
『撃て!!』
突然、強風がテスタ=ロッサを包み込み、身体が軽くなった。 その急な変化に驚きながらも、飛行船と機甲兵の銃から放たれた銃弾を弾いて防御する。
防御をしながら背後を見ると……そこにはフィーとマキアス、そしてラウラがいた。
「助太刀する!」
「先輩達は黒竜関に到着した。 僕達はここを凌ぐぞ!」
『それは有難いけど……いきなり援護するのはやめてよ』
「ちょっとしたお茶目」
全然詫びる気はないフィーだが、援護は素直に有難い。 テスタ=ロッサは一歩前に踏み出し……一気に加速、機甲兵の正面を取ると槍を薙ぎ払い一掃する。
「ジオクエイク!」
『そこ!』
機甲兵の体勢崩した所で地面を破裂するように爆発。 装甲を潰し完全に動きを停止させた。
『くっ……て、撤退! 撤退する!』
『逃がさないよ……!』
全滅を逃れようとして飛び去ろうとする飛行船、それを見据えながら異空間から弓を取り出して左手で持ち、落ちていた機甲兵のブレードを蹴り上げてつがえ……
『——そこ!』
矢を射るようにブレードを射る。 放たれたブレードは高速で飛行船に迫り……導力エンジンの片側を貫いた。 すると飛行船は黒煙を上げながら墜落、近くの水場に落ちた。
『まだやる?』
残りに槍を突きつけると、彼らは後退りをする。 しばらくそのまま睨み合っていた、その時……
ドオオオオオン……!!
『っ!?』
「な、なんだぁ!?」
突然、後方……黒竜関方面から大きな爆発音と衝撃が響いてきた。
『爆発!?』
「この方角は……!」
「まさか!」
兵達もこの事態に戸惑い呆然としている。 レトは彼らを無視し、何が起きたか確認するため黒竜関に向かった。 するとそこは……
『これは……!』
黒竜関の前にある橋、その真ん中に爆発したと思われる機械の破片が散らばり、その辺りに炎が立ち上っていた。
その前にはリィンが乗るヴァリマールが呆然と立ち尽くしており、レトは急いで駆け寄る。
『リィン、何があったの!』
『………ッ………』
『え……』
近寄った時に気付く。 リィンに渡していた緋い太刀……それが半ば折れていた。 かなりの激戦だったと伺える。
『済まない……太刀が折られてしまった』
『……そう……いくらゼムリアで作られていたとしても、素人が作ったものだからね。 リィンが気にする事じゃないよ』
『………………』
ここで何があったかは定かではないが……こうして黒竜関での親子喧嘩は収まり、それに乗じてログナー家の“貴族連合からの離脱”と“内戦の不干渉”をアルフィンの前で誓った。 願い出た訳では無いが、ログナー候のせめてものけじめのようだ。
◆ ◆ ◆
12月22日——
「フン……まあまあだな」
ルーレにあるルーレ工科大学。 その中の1番大きな研究室にレト、白衣とモノクロを付けた常時不機嫌そうな顔をしている老人がいた。
「グルル……」
「良かった良かった」
レトはメンテナンスのため、ウルグラをシュミットに見てもらっていた。 それと同時に蓄積された戦闘データも取っているようで、顔には出てないがそれなりに満足しているようだ。
「しかし、貴様のような破天荒が《緋の騎神》を操っていたとはな。 《灰の騎神》同様、世も末だ」
「あ、あはは……あ、そうだ。 博士はこの石に見覚えはありますか?」
ふと思い出し、レトが取り出したのは白い鉱石……以前、レグナートからもらった物である。
「ふむ……」
鉱石を見たシュミットは珍しく考えにふけている。
「今の段階では確実なことは言えんが……どうやら《ゼムリアストーン》であるのは間違いないようだ」
「ゼムリアストーン……それってテスタ=ロッサの装甲や武器に使われているのと同じですね」
「この特殊な煌めきはゼムリアストーンの特徴だ。 だが白色に発行している個体とは珍しい。 貸せ」
その遠慮ない一言だが、レトは苦笑しながら素直に鉱石を渡す。 シュミットは側にあった計測器らしき装置に鉱石を置き調べ始める。
数分ほど待ち……シュミットは側に寄っていた装置から身を離した。
「どうやらゼムリアストーンの亜種のようだな。 硬度は通常のゼムリアストーンより遥かに高い……いくつか試したい事も思い浮かんだ、貴様がよければ私自ら武器を造ってやろう」
「そうですねぇ……ゼムリアストーンの加工法はラッセル博士が確立したやり方ですよね?」
「フン……あやつの名が出るのは癪だが、まあそうだと言っておこう」
シュミットは腕を組み、少し顔を歪ませながらそういう。
「あはは……まあ、とにかく、今後も激しい戦いが予想されますし、白ゼムリア鉱で造る武器の精製……お願いします」
「よかろう。 何を造ってほしい?」
「んー……剣は問題ないから、槍か銃剣になるかな。 …………よし、槍でお願いします」
「フン、では早速作業に取り掛かるとしよう」
言うが早いか、シュミットは白ゼムリア鉱とモデルとなるレトの和槍をかっさらうかのように手に取り、すぐに武器の作成に取り掛かった。
待つ事数分……驚く間も無くシュミットが完成した槍を持って戻ってきた。
手渡された槍は全体的に白く、特に刃がある穂は鏡のような刀身をしている。 レトは槍を見入るように見回した後、手の中で回した。
「……うん、しっくり来ます。 鍛治師でもないのにこんな武器を造るなんて凄いですね」
「フン……忌々しいがラッセルの研究成果の下地があったからこそだ」
本心でそう思いながら本当に忌々しいそうな顔をしてソッポを向くシュミット。 これ以上何を言っても怒らせそうなので、レトはウルグラを連れてコソコソと研究室を後にした。
その後、ウルグラを消してルーレの街に出た。 レトとラウラは旅の途中で行きと帰り、2度ルーレを訪れた事があったが、じっくりと見て回る機会は無かったので実質初めてなのかもしれない。
「へぇ、さすがルーレ。 街のそこら中に導力機があるや」
ツァイスみたいだ、と思いながら下層にある導力機専門店に向かうと……そこにはラウラがいた。 そこで物珍しそうに見回っている。
ハッキリと言ってしまえばレグラムは田舎、ここまで多くの導力機に囲まれる事などなかった、興味があるのだろう。
「ラウラ」
「む……用事はもう済んだのか?」
「うん、それで街を見回っていたところ」
せっかくなので、2人は店内を見て回る事にした。 どれも利便性が高く欲しいとは思っているが……ラウラはミラを見て尻込み、それを何度も繰り返している。 それに加え……
「お、おお……?」
「ちょ、ラウ——ぶはっ!」
導力食器洗い機のスイッチを適当に押し、水を溢れ出させたり。
「これは……」
「無闇に押さない……って、うわぁ!」
導力パソコンをいじり、繋がっていた導力プリンターから大量の紙を印刷したり。
「レトー! これは何なのだー?」
「うーるーさーーーいっ!!!」
導力マイクを持ちながら質問された声が大音量で放たれたりした。
ラウラが問題を起こすその度に、次第に怒りの形相になっていく店員に平謝りを繰り返していた。
「ラーウーラー?」
「な、何だ……?」
流石に騒ぎを起こし過ぎたため店を出て、少し離れた場所でレトはラウラを叱っていた。
「何度も言っているよね。 触っちゃダメだって?」
「わ、分かっている……! しかし、そこにボタンがあるとつい……」
「はあ……分かっていたけど、ラウラの機械オンチは筋金入りだね」
「つ、使い方教えてもらえれば問題はない!」
使い方が分からなければ、まず最初に触らないで欲しい……とレトは言いたかったが、もう何度も言っている事なので溜息しか出なかった。
「全く……本当に機械に関しては点でダメだね」
「わ、私が武骨であるのも自覚している……やっと今になって父上が私に聖アストライア女学院を勧めたのも納得している……って、何を言わせるんだ!」
「ラウラが勝手に言ったんでしょう。 まあでも、変わってないようで逆に安心したよ」
勝手に墓穴を掘るラウラを他所に、ふとレトは窓から外を見た。
「変わりたくなくても、変わらなきゃいけない時は幾らでもあるから……いつまでも自分であり続けるのは大変だからね」
「……変わらないのはそなたもだ。 いつまで経っても好きな事には真っ直ぐに……眩しいくらいだ」
「そ、そうかな……?」
「うん、そうだ」
上層に向かい、RF社前のベンチに座る。 と、ふとレトは思い出した……また、あのラウラ達と会った事を。 この事実をラウラに伝えるべきか。
「………………」
「レト? 私の顔に何か付いているのか?」
再び巡ってきた機会。 だがまた話すべきか躊躇するレト……
「ラウラ、聞いて欲しい事があるんだ」
「う、うん……」
「実は……」
それでも意を決し、いつになく真剣な表情をするレトに怯むラウラ。
「——レミスルト様」
「え……」
その時……別の場所から、レトの本名が呼ばれた。 しかも聞き覚えのある声で。
「なっ……!」
目の前にいたのは……長い青髪をポニーテールにした黄色い瞳をしている少女……
「初めまして、イチ姉さん。 私はラウラ……ラウラ・S・アルゼイドといいます」
「……私……だと……」
「くっ……!」
別人のように、女性らしく礼をするラウラ……本人はまるで鏡を見ているのかと錯覚してしまうほど驚愕していた。 レトはそんな彼女を庇うように前に立つ。
「まさか白昼堂々と現れるとは思っても見なかったけど……なんて呼べばいいのかな?」
「私達姉妹は全てラウラ……元となったヴィクター卿には既に1人の女児がいるため、繰り上がって2番目から。 私は7番目のラウラです。 姉妹の間では番号と名前で呼び……私の事はナナラウラとでもお呼びください」
「他はニラウラからハチラウラと……ややこしいね」
「レ、レト……か、彼女達は一体……」
動揺を隠しきれず、ラウラはレトの袖をギュッと握りしめる。
「それで、何の用?」
「ええ、少々貴方の耳にいれておきたい事が……」
「やっほ〜、ナナちゃ〜ん、見つけた〜?」
また同じ声……しかし、かなり軽快でかん伸びした声が聞こえてくる。
「ふ、増えた……」
「サン姉さん……」
「ンクッ、ンクッ……プハァーー! 酒って美味しいねぇ!」
「しかも酔いどれ……」
酒瓶をラッパ飲みして酔っているラウラ……絶対に未成年に加え、ある人物をどうしても連想してしまうラウラだ。 2人と違い、赤い目の色をしている。
「貴女は“工房”で残りと待っているよう言っておいたはずですが?」
「ああ、めんどいから末っ子ちゃんに任せてきた」
「……全く、なんで自我を持った瞬間こう……本当に同じ遺伝子で生まれたのか疑問に思えてきます」
「いいじゃな〜い、これもドクターが言っていた個体差ってやつよ。 ナナちゃんに剣の才能が無いのと同じ」
「っ!!」
悪気があった訳ではなさそうだが、その言葉にナナラウラは眉をひそめる。
「君達は姉妹喧嘩を見せに来たの?」
「そんなわけありません」
咳払いをして話を戻し、ナナラウラはポケットから一般的な導力通信機を取り出すと、レトに手渡した。
「近々、この実験は最終段階を迎えます。 その総仕上げに貴方をお呼びしたいと教授、及び工房の長から。 それは招待状です」
「……素直に行くと思っているの?」
「ええ……答えに応じなければ、私達は破棄されます」
「なっ……!?」
自分が殺されるとシレッと答えるが、彼女の表情に変化はない。 それはサンラウラも同じ……とは思えなかった。
「っ……君達はそれでいいのか!」
「人としての生を持って生まれた訳でもありません。
「卑怯な……!」
いくら人の手で生まれようと、敵であろうと殺される所を見過ごす事は出来ない……レトはそこを付け込まれた事に苛立ちを覚える。
導力通信機を強く握りしめるレトを見た後、ナナラウラはサンラウラの首根っこを掴んで背を向ける。
「実験の開始日は追ってご連絡します。 それでは……」
「じゃあね〜、イチ姉さ〜ん」
顔を真っ赤にし、手を振るサンラウラを連れて去って行く。 後に残されたレトとラウラ……レトは振り返ると、そこには呆然としているラウラがいた。
レトは今まで彼女達について知っている情報を伝えた。 聞く耳を持っていたかどうかは分からないが、それでも話し続けた。
「……………………」
話終わり、それから数十分、ベンチに座りながら俯き続けるラウラ……すると、突然立ち上がり、フラフラな足取りで歩き始める。
「ラウラ……!」
「1人に……1人にしてくれないか」
「こ、これはラウラのせいじゃないよ! 遺伝子を奪ってとか言ってたけど……ヴィクターさんだって、私生活で抜けて行く髪や切った爪とか一々気にするわけじゃない。 盗られる機会はいくらでもある、だから……!」
「分かってる……これは、父上のせいではない。 それでも……少し、考えさせてくれ……」
「あ……」
振り返らず、一目散に走っていくラウラ。 その背を追いかける事が出来ず、伸ばした手が空を切る。
「ラウラ……」
決して2人の仲が悪くなるような事件ではないが、それでも間が開いてしまった感覚をレトは感じてしまった。