英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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78話 神隠し

 

12月23日——

 

「はあ……後どれくらいで着くのー?」

 

「後もう少しだ」

 

「それさっきも聞いた〜」

 

「全く、少しは静かにしろ」

 

「この調子なら正午には着くよ」

 

現在レト、ラウラ、ミリアム、ユーシスはアグリア旧道を西に進み、パルム方面に向かっていた。

 

何故パルムに向かっているのかと言うと……今朝、オリヴァルトからパルムで起きた事件を解決して欲しいとの要請があり、VII組メンバーは相談した結果、要請を受けるメンバーとヴァリマールの新たな太刀を作るためのゼムリアストーン収集するメンバーに分かれた。

 

リィンは当然ゼムリアストーン収集に当たるため、レトがパルム方面に向かう事になった。

 

「それにしてもパルムかぁ……リベールから行き来する時に寄っただけであんまり見て回らなかったな」

 

「僕も任務で寄ったくらいしかなかったよ。 なんだか楽しみだなー。 そーいえば、ユーシスは特別実習で来てたっけ?」

 

「ふぅ、遊びに行くわけではないんだ。 そもそも、どんな事件が起きたか分かっているのか?」

 

「うん。 昨日からパルムで行方不明者が続出しているらしい。 この原因を突き止め、行方不明者を救出せねばならないだろう」

 

「原因不明……人によるものか、それとも魔獣によるものか、それとも……」

 

「ま、まままさか……」

 

レトが途中で台詞を止めたが、どうやらミリアムは続きが読めたらしく、引け腰になりながら後退りする。

 

「考えても仕方ない。 早くパルムに行こう」

 

「ちょ、ちょっと僕、用事を思い出した……」

 

「行くぞ」

 

「や、やだやだ! 離してよー!」

 

「ええい、まだそうと決まったわけではない!」

 

駄々をこねるミリアムをユーシスは引っ張って行き、定刻通り正午に紡績町パルムに到着した。

 

「ここが紡績の町、パルムか」

 

「内戦が起きているとは思えないくらいのどかだねー」

 

「この地の貴族連合の主力はセントアークにあるし、正規軍はドレックノール要塞を陣取っている……防御も薄いしケルディックと同じで、ここに軍を置いておく理由がないからねぇ」

 

「だからこそ、我らは自由に歩き回れると言うわけだ」

 

「行くぞ、元締め宅はこっちだ」

 

ユーシスの道案内で、一同はパルムを依頼主であるパルムの元締めのもとに向かった。

 

「この方がパルムの元締め、以前にも世話になった」

 

「ガラードという。 どうかよろしく頼む」

 

この町をまとめている元締めは一連の事件について話してくれた。

 

「2日前から、特に夜の時間帯頃、パルムで住民の行方不明が相次いでいてな。 行方不明になった本人や周りにも消える原因も何もないから探しようがなく……困り果てていたんだ」

 

「なるほど……確かに不可解だ」

 

「となると、外的要因の可能性があるな」

 

「やっぱり魔獣か、もしくは幽……」

 

「絶対に魔獣だから!」

 

レトの言葉を消すようにミリアムは大声を上げ、その要因を排除した。

 

「コホン……何にせよ、この件は我らに任せてもらおう。 必ず行方不明者を見つけ出してみせる」

 

「よろしく頼む」

 

「任せるがいい」

 

「それじゃあ、早速手がかりを探そう」

 

レト達は行動を開始、町を周り情報を集めた。 話を聞くと、どうも失踪した者を目撃した人物はいなく、調査は難航を極めた。

 

最後に元締めから聞いた、この街で1番の織物職人の家……ウィアルト織物店を訪れた。 多色に汚れたエプロンをしている女性が出迎えてくれた。

 

「失礼する」

 

「あら、あなた達は……」

 

「自分達は元締めの依頼でこの町で起きている事件を調査しに来た者です。 なんでも旦那さんがその被害に遭われたと聞いて、事情聴取に」

 

「そうでしたか……初めまして、私はヘレナといいます」

 

目に見えて落ち込んだ顔をするも、女性……ヘレナは当時の状況を話してくれた。

 

「それでは、貴方が夫と最後に会ったのいつだろうか?」

 

「昨日の日暮れ頃です。 その時は流水で洗うために染め終わった織物を持って側の川に。 しかし、夜になっても戻ってこなくて……気になって探しに出てみるとそこには夫の姿はなく、染物だけが残っていました」

 

「そうですか……」

 

「うーん、聞いた感じ、何らかの関与があったとは言い切れないねー」

 

ただいなくなっただけでは事件に巻き込まれたか失踪、もしくは故意で姿を消したか……判断材料が多く結論に至れない。

 

「それでは我らはこれで」

 

「危険もないとは限らない、あまり家から出ない方がいいだろう」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

お礼を言い、家を後にしようとした時……

 

「……ん?」

 

「ラウラ?」

 

「この光沢、この手触り、これは……天川(あまのかわ)の衣か?」

 

「え……」

 

ふと足を止めたラウラ。 つられて見ると、ラウラが触っていたのは柱に下げられた一房の糸だった。

 

「本当だ。 これ天川の衣だ。 もしかしてここで織られたんですか?」

 

「ああ、もしかして、あの糸を持って来てくれたのはあなたですか? 余った糸でハンカチを作ったのですが、まだ余って残ってしまったものです」

 

女性は視線を横に向ける。 つられてその方向を見ると……家の隅の方に長い夜色の髪をした少女が、機織り機の前で織物を織っていた。 集中しているようで、こちらに振り返る気配はない。

 

シャッと杼で緯糸を通し、ガンッと筬を手前に引き通した緯糸を経糸にしっかり織り込ませ、ガコンと足踏みで綜絖の上下の糸を入れ替える、その一工程の音がせわしなく、淀みなく続いている。

 

「もしかして……この子が?」

 

「娘のルキアです。 以前帝都から届いた天川の衣を仕上げたのはこの子です。 ルキア!」

 

「ふぇっ!!」

 

母に声をかけられ少女……ルキアはビクリと身体を震わせ、溢れ落ちそうになった杼をしっかりも掴む。

 

「え、え、お客さん……!?」

 

「彼らはお父さんを探してくれている人達よ。 ミロス、挨拶を」

 

「は、はい。 ルキア・エルメス、です……」

 

半年前に巨大蜘蛛から採取した高級繊維、天川の衣……どうやらそれをドレスに仕立て、染めたのがルキアのようだが……かなりソワソワしている。

 

「へぇー、凄いねー!」

 

「なるほど……いい腕をしている」

 

「きょ、恐縮です……」

 

機織りにある作りかけの織物を見て、ラウラは少女を称賛する。

 

「どうして彼女にそんな大層なものを渡したんだ? あまり適任とは思えないが」

 

「親から見てもあの子の腕はかなりのものですが、見ての通り難儀な性格をしていて。 自身と度胸をつけさせようとして……以前よりは良くなった方なんです」

 

「へぇー」

 

おどおどして気弱な性格のようだが、確かに腕は確かのようだ。 となりに置かれ、織り終わった白地の織物は全て寸分違わぬ出来だった。

 

「今何してるの?」

 

「え、えっと……来年の“春の染上げ”のために使われる織物を作っています」

 

「春の染上げ?」

 

「毎年春の4月に行われる行事のことです。 染色職人達が染めた布の美しさを競い合うんです。 この子はその染物に行われ織物を作っているんです。 染めがメインですから布は基本全て同じ……根気のいる作業ですが、この子は苦もせずやってくれて助かっています」

 

「フン、そういえばそんなこともあったな」

 

ユーシスは腕を組み、ソッポを向く。 初めての特別実習、B班はこの地を訪れている。 当時はまだユーシスとマキアスの仲は険悪、どうやらその時の出来事を思い出しているようで、春の染上げに関係しているようだ。

 

「あ、あの! お父さんの事……どうかよろしくお願いします!」

 

「ルキア……」

 

「……うん。 承知した」

 

「必ず連れて来るからね」

 

「待っててねー!」

 

今度こそ、レト達はウィアルト織物店を後にした。 しかし、その後も引き続き手がかりを探し回ったが……

 

「とは言ったものの……」

 

「さして手がかりになるものは見つからないな」

 

「不審人物、魔獣の目撃もない。 打つ手なしだな」

 

「こうなると……張り込みしかないかな?」

 

人が行方不明になる時間帯は夜から。 人が消える原因となる現場に立ち会わせればいいという事だろう。

 

「そーだねー。 あんぱんと牛乳も必要だね」

 

「それは本当に必要なのか?」

 

「まあ食べ物云々はともかく、カレイジャスに連絡は入れておこう。 夜起き続ける事になるし、今は休んでおこう」

 

「うん。 そうだな」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

宿酒場で一休みして時間を潰し、日が暮れて夜になると街の見回りを開始した。 事件の影響か1人も出歩いてはおらず、家庭内の生活音がよく聞こえて来る。

 

「街の見回り……本来なら領邦軍か正規軍の兵がやるべきことを……」

 

「愚痴を言っても何も変わらないよ、ユーシス」

 

溜息をつくユーシスを励ましながら一行はパルムを歩き回り、時折住宅にお邪魔して異変がないか確認し回った。

 

「………今の所、何にもないね」

 

「……うぅ〜……」

 

「はぁ……無理にでも帰すべきだったか……」

 

深夜頃……いつもなら既に眠いと喚いてもおかしくないが、今はユーシスの背中にピタリと張り付くミリアム。 いつもなら夜の暗さなど怖くもないはずなのだが、今は辺りを見回す度にビクビクしている。

 

「………………」

 

「………………」

 

(何なんなのだ全く……)

 

(なんかギクシャクしてない、レトとラウラ)

 

今まで普通に会話はしてきているが、ユーシス達はそれにどことなく距離を感じていた。 実際、今2人が横に並んで歩く時の距離もいつもより離れている気がする。

 

その原因が何なのか分からないまま捜索は続く。

 

「……む……?」

 

と、その時、ラウラが何かを発見し目を細め、川の方面を睨みつける。 レトも気配を探り……顔をしかめる。

 

「あれは……」

 

「な、何々!? なんなのー?」

 

「……なにか、異質な気配を……そこ!」

 

即座に銃剣を手に取り、抜き撃ちで発砲する。 銃弾は川の水面に着弾すると……ゆっくりと、3つ白い人影が浮かび上がってきた。

 

「で、出たーー!!」

 

「魔獣……いや、魔物だね」

 

「ローエングリン城で出現した……ならば打ち倒すのみ!」

 

「急くな! あれには連れ去った者の元へ案内してもらう、痛め付ける程度にしておけ!」

 

「了解!」

 

「うぅ〜……ガ、ガーちゃん!」

 

一同が武器を抜く中、ミリアムは通常背後に控えさせるはずのアガートラムを、正面に壁のように置いた。

 

「おい、ミリアム……」

 

「だ、だって〜……」

 

「ユーシス、ミリアムのおも……サポートをお願い」

 

「おい、今お守りといいかけたか!?」

 

白い影……ミラージュバンシーはゆらゆらと左右に揺れながら近寄り、手をレト達に向かって伸ばしてきた。

 

次の瞬間……レト達は衝撃に見舞われる。

 

「うわわっ!!」

 

「くっ……」

 

「霊的な相反……喰らい過ぎると精神を揺らされて気絶するから注意して!」

 

「承知!」

 

敵の攻撃に注意しつつ接近し、ラウラは大剣、ミリアムはアガートラムの拳を振るう……が、そもそも実体があるかどうか不確かな存在、手応えが感じられなかった。

 

「ぜ、全然効いている気がしないよーー!」

 

「っ……やはり剣……物理攻撃は効き目が低いか!」

 

「ならば……魔法(アーツ)で攻撃するぞ!」

 

「なら時間を稼ぐよ! ラウラ、一緒に行っくよー!」

 

「分かった!」

 

近接戦闘がメインのラウラとミリアムが戦術リンクを組み、コンビネーションでミラージュバンシーの動きを抑え……

 

「エアリアル!」

 

「ゴールドスフィア!」

 

極力倒さぬように、範囲魔法で削るように魔法を繰り出す。 2つのアーツが3体のミラージュバンシーを襲い、霊体に近い身体を削り取って行く。

 

その隙にラウラとミリアムはアークスを駆動。 そして、4人は一瞬で戦術リンクを組み替え……

 

「レト、頼む!」

 

「了解、強化するよ!」

 

「——喰らえ!フロストエッジ!」

 

アーツを発動する瞬間、リンクによってレトがラウラのアーツを強化。 勢いが増した氷の刃達がミラージュバンシーを切り刻む。

 

「ユーシス! フォルテ、行くよー!」

 

「行くぞ……斬!!」

 

ルーンブレイド——刀身に導力を流し薙ぎ払う。 ミリアムの火のアーツ……フォルテにより威力も上がり、3体纏めて吹き飛ばした。

 

すると、ミラージュバンシーは目の前に手をかざし……閃光を眩ませた。

 

「なっ!?」

 

「目眩し!」

 

「うわわっ!」

 

「チィッ……!」

 

目を閉じ腕や手で目を覆い……再び夜の暗闇が視界に写り、すぐにミラージュバンシーの姿を探すと……その白い影は黒い夜空の中にはっきりと見つけた。 どうやら逃走したようだ。

 

「逃げた!」

 

「予定通りだね」

 

「あちらは……セントアーク方面だ、追いかけるぞ!」

 

作戦通り、行方不明になった人達の元に連れて行ってもらうため……レト達はミラージュバンシーを追いかけて街道に向かって走り出した。

 

「………………」

 

その走り去る後ろ姿を、家の陰で見ている者がいた。

 

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