12月24日——
昨夜、帰還しようとカレイジャスを呼ぼうとしたところ……国境付近なため強力な警備が敷かれていたため呼ぶことは出来ず、レグラムも丁度領邦軍が停留していたため……苦肉の策としてテスタ=ロッサによる精霊の道を開き、ケルディックを訪れて一夜を過ごした。
「ふわぁ……疲れたー」
風見亭を出て陽の光を浴びながら身体を伸ばすレト。 そこへユーシスも出てきた。
「揺られないで寝るのも久しぶりな気もするな」
「カレイジャスに乗って早1週間……そう思えても不思議じゃなさそうだね」
今はそんなにいないが……学院生の中で乗艦当初、船に酔っていた学院生は何人かいた。 カレイジャスから降りられる機会は少なくため、かなり苦しかっただろう。
そんな他愛のない会話をしながら2人は大市に到着した。
「ケルディックの大市……もう始まっているのか」
「これでも遅い方だよ。 やっぱり内戦の影響は少なくないって事だね。 それにしても、自分の家の領内なのに知らないんだね?」
「……アルバレア家に迎え入れられてから、お前と似たようなものだったからな」
「へぇ、まあ僕は隙を見れば何度も抜け出していたけどね」
「………………」
ユーシスはレトと似た境遇だと思っていたが、性格や気持ちが変わればこうも違うのかと思ってしまう。
と、そこへミリアムとラウラもやってきた。
「おーい、ユーシスー! レトー!」
「そなた達、もう起きていたのか」
「なんだか目が覚めちゃってね」
言葉を切り、空を見上げるレト。
「……虫の知らせみたいな……昨日から胸騒ぎがしているんだ。 ユミルじゃなくてケルディックに精霊の道を開いたのもそのため」
「……レトが言うのならあながち外れてはいないだろうな」
「そうなの?」
「旅の時、そんな事を言う度にトラブルに出くわしたのでな」
そのトラブルがとんでもないものだったのか、少し身震いを起こすラウラ。
「あはは…………あれ?」
今度はミリアムが不思議そうな顔をし、東の方角をジッと見つめ出した。
「ミリアム?」
「どうかしたのか?」
「……東の街道から何か近付いて来ている」
「! まさか……!」
次の瞬間……
ドオオオオオン!!
突然、大市の中心にある棟が爆発、倒壊した。 それを皮切りに町全体から次々と爆発が起こって行く。
「こ、これは……!?」
「導力戦車の砲撃……一体どこから!」
その疑問に対する答えは……東の街道から武装している兵士と猟兵、そして導力戦車と機甲兵が現れる事で証明される。
「奴らは……!」
「あれはノルドでも現れた北の猟兵だよ!」
「それに加えクロイツェン州領邦軍……何故自分達の領土を焼き討ちを……!」
「詮索は後! 住民の避難を最優先、皆は西の街道まで誘導して!」
「そなたはどうするのだ?」
「僕は彼らを抑える……!」
レトは怒りの目で敵を見据え……背後の空間が歪み、テスタ=ロッサが転移してきた。 現れるや否や乗り込み、槍を抜く。
『これでも……僕は怒っているんだよ!』
槍を低めに薙いで足払いをかけ、転倒させる事で後続の進軍を食い止める。 しかし……
「きゃあああ!!」
「い、家が……!」
『っ……やめろ!!』
機甲兵と導力戦車に対処できても、動き回る猟兵までは手が回らず……次々とケルディックの町に火が投げられていく。
奴らの狙いが焼き討ちであり、市民に手をかけないのがせめてもの救いだが……
『早く逃げて!』
「は、はい……!」
「恩に着る!」
市民の安全を優先し、瓦礫で塞がれた道をテスタ=ロッサで開き市民を逃していく。 それでも、敵の破壊活動の方が早かった。 そして……
「あ、あなたぁーー!!」
「も、元締め……」
『あ……!』
恐れていた自体が起ってしまった。 焼け落ちた瓦礫に押し潰されていた。 その前には元締めがかばったと思われる男性と、悲痛な叫びを上げる元締め婦人……改めて町を見回すと被害はもっとある。
『オ、オットー……元締め……』
VII組最初の特別実習でとてもお世話になり、聞くところによればこの内戦の中でもリィン達に良くしてくれたオットー元締め……その元締めが力無く瓦礫の下で倒れる姿を見たレト。
『っ……うああああああっ!!!』
頭の中の何かが切れ……叫びとも取れる雄叫びを上げ、槍を力強くで薙ぎ払い機甲兵や導力戦車ごと軍全体を押し返した。
『な……!』
「こいつ……!」
「……撤退!」
突然の強烈な反撃に軍が驚く中、猟兵は潔く撤退を始めた。 その撤退を軍の司令が諌めようとすると……
「——伝令! 双龍橋方面から第四機甲師団が進軍してきました!」
「っ……そうか。 総員撤退! バリアハート方面まで後退する!」
北の猟兵が撤退した理由が分かると、領邦軍司令も即座に撤退を始めた。
『待て!!』
「レト!」
撤退を始めた軍を、ラウラ達の静止も聞かずにレトは追いかける。 追撃をかけるも、冷静に欠く今のレト攻撃は大振りで、危なげながらも避けられてしまう。 そして双龍橋、バリアハート、ケルディックを繋ぐ三叉路に差し掛かった時……
「——貴様らぁ!! 何をしているのか分かっているのかぁ!!」
「っ……もう来たか!」
豪胆な怒号が届いてきた。 双龍橋からやってきたのはクレイグ中将率いる第四機甲師団と鉄道憲兵隊。 この自体を聞きつけたようだ。
『はあああああ!!』
『ぐあっ!!』
「うわああっ!」
テスタ=ロッサのようやく攻撃が当たり……機甲兵だろうと、導力戦車であろと、歩兵であろうとレトは容赦なく潰していく。 怒りのあまり、いつ無差別に攻撃してもおかしくはなかった。
『………………』
「ヒ、ヒイィ!」
「く、来るなぁ!」
兵士を見下ろす目は何も感じず、無言で穂を下に向けながら槍を振り上げ……
『っ!』
『これは中々強烈ね……!』
振り下ろされた槍は横から割って入ったシュピーゲルが止めた。 その時の声で操縦者が判明する。
『スカーレット……!!』
『正直、全然気が乗らないんだけど……仕方ないと思って納得して……』
『あああああっ!!』
『ちょっ……!』
この感情をぶつけられるなら誰でも良かったのかもしれない……レトはシュピーゲルを睨みつけ、体当りをぶつける。
『ぐっ……!』
『ここから……出て行けぇーー!!』
テスタ=ロッサの背のブースターが火を噴き、シュピーゲルを盾にするように突進。 後退する軍をバリアハートの押し飛ばす。
『こんなの……こんなの……! 人の死に方なんかじゃない!!』
『っ……』
八つ当たりかもしれない。 だがそれに対してスカーレットは何も反論は出来ない。 押し出され色んな物とぶつかりながらも足を上げ、テスタ=ロッサに蹴りを入れる。 それにより離れる事が出来た。
だが、その時……操縦席に座るレトの前に、黄金の魔剣、ケルンバイターが出現。 力が溢れ出し、それに呼応してテスタ=ロッサからも霊力が放出され……
『おお……オオオオッーー!!』
『——オオオオオオッ!!!』
次の瞬間、雄叫びを上げながらテスタ=ロッサは紅蓮の焔を纏い、背中から半透明なクリアレッドの翼……蝶の翅とも見て取れる翼が陽炎のように出現する。
「う、うわあああ!!」
「撤退! 撤退ーー!!」
『っ……奴らの尻拭いなんて真っ平御免だけど。 やるしかないわね……!』
シュピーゲルがブレードを構える。 その時、テスタ=ロッサの背後からヴァリマール……リィンが現れた。 ヴァリマールはテスタ=ロッサの背後を取り、抑えつけるように羽交い締めにした。
『こ、これは……レト!!』
『くっ……第2形態一歩手前って所ね。 《紅蓮の魔王》としての力と魔剣の《外の理》の力……陰と陽の力が彼らの中で互いを打ち消し合い、混ざり合っているわ! このままだと彼も騎神も持たないわよ!』
『くっ……やめるんだ、レト!!』
『アアアアアア!!』
「レト……!」
ラウラ達や残りのVII組メンバーも追いつき、ヴァリマールに抑えられているテスタ=ロッサの姿に驚きを隠せない。
『落ち着け! 落ち着くんだ!!』
『コロス! 塵芥モ残サナイ! 燃ヤシテヤル!』
「レトー!!」
「やめるんだ、レト!!」
『ッ……』
この隙にスカーレットは戦線を離脱、領邦軍が防衛線をしいた。そして、レトに向けてラウラ達も呼びかけようとするが、聞く耳を持たなかった。
「セリーヌ!」
『——エマ! あの子のバレッタには霊力を抑える術式が組み込まれているわ! それを呼び起こしなさい!』
「え!? セリーヌ、あなたどうしてそんな……」
問い詰めようとするが……そんな場合ではないと首を横に振るう。
「……分かった。 やってみる!」
杖を構え、目を閉じて集中しながら自分の周囲に魔法陣を展開する。 準備が整い魔術が起動し、ヴァリマールが羽交い締めにしているテスタ=ロッサの頭上に魔法陣が出現、光が降り注ぐ。 その光が操縦席に届き、髪留めのバレッタに反応、レトを優しい光が包み込んでいく。
『ウウッ……ウアアア!!』
「レトーー!」
「自分を取り戻せ、レト!!」
『ウウ…………ゥ……』
その呼び掛けに答えたのか……次第に力が抑え込まれ、レトの意識は落とされた。 それによりケルンバイターの力は収まり、操縦席に落ち消え。 テスタ=ロッサからも紅蓮の焔は消え、両膝から崩れ落ち停止した。
「レト!」
『緋ノ起動者ノ
『よし、とにかくカレイジャスに連れて行こう』
防衛線をしく領邦軍が攻めずに警戒して銃口を向ける中、ヴァリマールがテスタ=ロッサに肩を貸して担ぎ、第四機甲師団と共にこの場を後にした。
◆ ◆ ◆
「それで、レトの様子は?」
「前のあんたと同じ、
「そうか……大事ないのならばよかった」
カレイジャスに運び込まれたレトとテスタ=ロッサ。 リィン達はケルディックの被害を見に行っていた。
テスタ=ロッサは格納庫、そしてレトは医務室へ。 ベットで寝かされているレトの側には、レトを診ているエマとセリーヌ、そしてラウラがいた。
エマは杖をレトの頭上に掲げ、そこから霊力を注いでいる。
「それにしても、どうしてあんな事に……」
「騎神は起動者の想い……想念に反応するわ。 この子の怒りの想念がテスタ=ロッサの中に残っていた《紅蓮の魔王》としての力の一片を呼び覚まし、それに魔剣の力も加わってあんな事になったんだと思うわ」
「ふぅ……でも、まさかケルディックが焼き討ちに合うなんて。 レトさんが怒るのも無理ないと思います」
杖を引き、その場にいたレトの心境を述べるエマ。 同意見のラウラもそれに頷く。
「焼き討ちなど、貴族として有るまじき行為……断じて許す訳にはいかない」
「ええ、レトさんが怒るのも無理なかったのかもしれません。 レトさんは人一倍、誰かが傷付くのを嫌いますから」
「妙にそういう所はリィンと被るわね」
ラウラは側に寄り、静かに眠るレトの髪を手で優しく髪をとかす。
「明日はアルバレア公の愚行を諌めるため、オーロックス砦に攻め入る。 それまでに目が覚めればいいのだが……むしろ、それが過ぎてから起きてもらいたいものだな」
「ふふ、そうですね。 治療の手を止めるつもりはありませんが、そう願いたいです」
分かる人は分かる。 それはレトの台詞じゃない、リィンの中の人の台詞だと。