12月27日——
バリアハートの一件、そして突如としてクロスベルの地に出現した《碧の大樹》の一件から数日が経ち。 リィン達一向はルーレでの戦闘で折れたヴァリマールの太刀を急遽造り出すために精霊窟を回り、ゼムリアストーンの結晶を集めていた。
そして昨日、試練を乗り越えて必要量のゼムリアストーンを集める事に成功し……シュミット博士をカレイジャスに招き入れ太刀の作製に当たっていた。
「ふぅ……これなら今月中には形になりそうだな」
「この程度の設備ではそれが妥当だろう。 全く、もう少しマシな設備を用意すればいいものを」
「はいはい、分かりました」
シュミット博士の憎まれ口をジョルジュは慣れたように風吹くように流す。
「相変わらずだね……」
「でも、これならなんとか……」
「——あ、皆!」
と、そこでトワが歩いて来た。 何でもある人物から連絡が届いて来たようで、一同はブリッジに向かった。
「クレア大尉——その話は本当ですか?」
『ええ、間違いありません』
通信を入れて来たのは鉄道憲兵隊のクレア大尉。 彼女から送られた情報に耳を疑い、リィンが確認を取るとクレア大尉は頷いて肯定する。
『貴族連合による帝都の防衛戦は先日、西側に後退しました。 その意味で、帝都の東側——トリスタ周辺の守備はかなり薄くなっている状況です』
「そ、そうなんだ……!」
「……朗報だね」
レト達、VII組……延いてはトールズ学生の目標は士官学院の奪還。 それが可能になると聞き、自然と笑みが浮かぶ。
トリスタ解放は鉄道憲兵隊の主導の下、行われようとしていたが……リィンの説得により、3日の猶予を設けることが出来た。
通信が終わり、それぞれがブリッジを後にする中……ブリッジを出た先でレトとエマがその場に立ち止まっていた。
「レトさん、どうするんですか? 正直、どちらも無視は出来ません……」
「分かってる。 でも、1日の猶予がある……間に合わなかったとしても、リィン達ならやってくれるよ」
振り返り、レトは扉の先にあるブリッジを見つめる。
「僕達は僕達にしか出来ない事をしよう。 これはただの自己満足かもしれないけど、それでも諦めきれないから」
「……はい」
◆ ◆ ◆
12月29日——
トリスタ解放の決行は明日に控える中……ヴァリマールの太刀の作製は急ピッチで進められていた。
作製にリィン達VII組も協力する中……その場に、レトとエマの姿は無かった。
「あれ……そういえばレトは?」
「そういえば今日は見てないな?」
「皇女殿下の元にいるのではないのか?」
「いや、ここに来るまでに現状報告としてお会いしたが……奴の姿はなかった」
リィン達が不審に思い始める中……貨物室にセリーヌが歩いて来た。
「ねぇ、アンタ達、エマを見なかったかしら?」
「セリーヌ?」
「……見てないよ」
「どうしたのかしら……決行は明日なのに」
レトに引き続きエマの姿が見えない事に、少しずつ嫌な予感が増していく。
その時……リィン達の背後にいたテスタ=ロッサの姿が歪み、転移してその場から消えてしまった。
「なっ……!」
「テスタ=ロッサが!?」
「なんでいきなり……」
「ふん? まあいい」
テスタ=ロッサが消えたことにシュミット博士が少し考え込むように眉をひそめ……すぐに興味を無くし視線を元に戻した。
「ど、どうしてテスタ=ロッサが……」
「どうやらこの艦にいないようだな。 恐らく、エマも一緒に」
「明日は私達にとって大切な日なのに……何考えているのかしら」
「ホント、どーしたんだろーねー?」
「…………っ!」
「ラウラ!?」
レトの行動に頭を悩ませる中……ラウラが走り出し、その場を飛び出して行った。
◆ ◆ ◆
「今頃、皆驚いているだろうなぁ」
レトは操縦席に座りながらポツリと呟いく。 現在、レトとエマはテスタ=ロッサに乗り、帝国を西側に向かって飛んでいた。
レトとエマは朝早く、エマの転移術によって地上に降り。 魔女にしか使えない道を使い、薄暗い森を経由してミルサンテにほど近い、エイボン丘陵に出て。 そこでテスタ=ロッサを呼び出した。
目的は結社に属する組織が行う実験に参加するため……周りの目に映らぬよう、エマの魔術で姿を隠しながらブリオニア島に向かっている。
「それにしても、意外に乗れるもんだね」
「ええ、出来なかったら今頃強風に煽られていました」
準起動者なら起動者と同乗する形で騎神に乗れると、この前リィンから聞いたのだが……当時試練を共にしたラウラならまだしも、エマが乗れたのは不思議だった。
「詳しいことは分かりませんが、サラ教官も準起動者みたいなので……起動者の認証があれば問題ないのだと思います」
「なるほど……一応、誰でも乗せることは出来るんだね」
「ナァー」
エマはいつもルーシィが座る場所に腰掛け、ルーシィはレトの膝の上に座りながら流れて行く雲を見つめる。
「しかし、明日の作戦に間に合うでしょうか?」
「実験の流れ次第だね。 何の実験かによるけど……恐らく戦闘になると思う。 ラウラ達は全部で7人いる……今日中に終わらせればギリギリ間に合うと思う」
「ナァ」
まさかトリスタ解放決行日が明日に控えているとは思ってもいなく。 2人はどちらも重要なのでどちらも疎かにする事は出来なかった……とにかく今は目の前こ事だけを考え、正午になる頃にはブリオニア島に到着した。
テスタ=ロッサを島の浜辺に下ろし、降りるて辺りを見回していると……
『——ようこそ、お二人方』
「っ……」
「あ、あれは……」
2人の前に黒い目玉のような球体が出現した。 恐らくレトをこの実験の参加を強制させた本人だろう。 しかも別の場所で高みの見物を決め込んでいるようだ。
『しかし、まさか魔女の末裔も一緒来るとは……これも、ある意味縁があるのかしれない。 より一層、良いデータが期待できそうだ』
「なにを……」
球体の言っている事が理解できないエマ。 その時、2人に影がさした。 見上げるとそこは崖の上、そこには……
「やっと戦える……待ち遠しいかったわ」
大剣を担ぎ好戦的な青い眼をした2番目のラウラ。
「あれぇ? お酒は〜?」
酒がなくとも酔っている赤い眼をした3番目のラウラ。
「……ああ……イチ姉さんが来てない……一度会ってみたかったのに」
大剣を愛おしそうに抱えている紫色の眼をした4番目のラウラ。
「ふふっ……殺し甲斐がありそう」
まとわりつくような視線を向ける藍色の眼をした5番目のラウラ。
「きゃはははは! 楽しくなりそう!!」
何が面白いのか、楽しそうに笑い続ける緑色の眼をした6番目のラウラ。
「ふぅ……頭が痛くなります……」
この中で唯一、大剣ではなく普通の大きさの剣を持つ、この前会った黄色い眼の7番目のラウラ。
「……………………」
そして、静かに黙祷し続けるオレンジ色の眼をした8番目のラウラ。
7人一同、レトとエマの前にその姿を現した。
『来て早々、早速だが君達には私達の実験に協力してもらう。 報酬としては、彼女達の身の安全と、身柄をお譲りしよう。 ああ、今回の実験が終われば処分する予定だ。 気負いなく貰ってくれて構わない』
「!! 彼女達の命を何だと……!!」
『消耗品さ、ただの。 原価に置き換えれば5万ミラ程度の出費、何の痛手も無く、有意義なデータが収集できる……これ程コストパフォーマンスが高い実験道具はそうないだろ』
「…………御託はいい。 早く始めよう」
黙って聞いていたレトが前に出ながら左手を開き……別空間からケルンバイターを出現させて柄を握りしめた。 最初から本気のようだ。
『話が早くて助かる。 では始めるとしよう……実験の内容は戦闘テスト。 思う存分戦い抜きたまえ』
「——きゃはは!!」
開始と同時にいち早く、ロクラウラが飛び出し、大剣を全力で振り下ろして来た。 2人はバックステップで避け、大剣は浜辺の砂を大きく巻き上げながら叩きつけられる。
「避けないでよぉ!!」
「無茶言わないでください!」
「というか、性格違い過ぎ!」
十人十色とはよく言うが、この状況は一人七色……オリジナルを入れれば一人八色。 横薙ぎに振られた大剣を受け止めながらそう叫ぶ。
「そぉれ!!」
「っ……!」
「レトさん!」
「こっちよ……」
その中にさらにニラウラが加わり、援護に向かおうとしたエマの背後に……ゴラウラが回り込んでいた。
「っ!」
「おっと」
エマは咄嗟に、振り返り側に杖を振るい光弾を飛ばす。 ゴラウラは慌てる事なく大きくバク転しながら避け……エマの視線が上を向いた隙に下から潜り込むようにナナラウラが剣を切りかかる。
「くっ……」
「はあっ!!」
他のラウラ達と違いナナラウラは片手剣。 素早く剣を振るいエマを壁際まで追い込んでいく。
「エマ! ——比翼・燕!!」
「おおっ!?」
「チッ……!」
銃剣を抜き側に連射。 襲ってくるロクラウラと二ラウラの大剣の側面に何発も銃弾を撃ち込み横に反らせ。 さらにレトの元に向かうラウラと、エマの元に向かうラウラの足元に銃弾を撃ち込み防御と牽制を同時に行った。
それにより動きは一瞬止まり、その隙を抜って駆け出し、エマに振り返る剣を払い抱きかかえ……背を向けて走り出した。
「あ、待てーー!!」
「逃げたのか?」
「仕切り直されたわね……残念」
逃げるレトをラウラ達が追いかける。 途中、解放されたエマは走りながら疑問を投げかける。
「レトさん? どうして……」
「人数は当然だけど、地の利が悪い。 頭上は取られているに加えて足場は砂場……一旦、仕切り直した方がいいだろうね」
「な、なるほど」
走りながら逃げる理由に加え、レトはこの後の作戦をエマに伝え……集落跡地の近くにある広場で足を止めると、すぐにラウラ達が追いついてきた。
「もう、鬼ごっこはお終い……?」
「えー、つまんなーい」
「うっぷ……吐きそう……」
「全く……この人は」
5人のラウラが得物を突き付ける中、その背後ではサンラウラが顔を真っ青にして四つん這いになっていた。 その背を末っ子ラウラが呆れながらさする。
……時折、呻き声と共にキラキラしたものが見える。 海面から反射する日の光と思いたい。
「貴方達は……こんな事をされて何とも思っていないのですか!?」
「えーー? 私は戦えるならそれでいーしー!」
「……生きる意味なんて、よく分からない」
「あたしはお酒が飲めればそれでー」
「……人から生まれた落ちようと、木から生まれ落ちようと……私達には生きるすべ、生き方なんてありません。 だから、今は剣を握るしかない」
「そんな……」
「ふぅ……すぐに終わらせよう。 同じ顔の形でいろんな表情を見るのは疲れるし」
「………………」
それ以上は聞きたくない風にレトは嘆息し、するとレトの姿がブレ……ラウラ達と同人数のレトが現れる。
『さあ——行くよ!』
「お?」
「わ、増えた!?」
「分け身か!」
分け身を使い、7対7となり交戦を再開する。 人数ではエマの分だけ有利で、レト達の背後でアーツによる援護を受けレト側が優勢になる。
『はああっ!!』
『でやああ!!』
同じ顔の男女7人が入れ混じりの乱戦となり……島は騒然となる。 途中、魔獣も乱入するも一刀で斬り伏せられ、島中を駆け巡り剣を交じ合わせる。
それにエマも必死について行こうとするが……そもそも混戦になった時点で本体が分からないので、攻撃による援護に専念する。
「ふうん……イチ姉さんとつるんでいるだけあって、中々やるわねぇ」
「あー。 やっと酔いが覚めたー」
「やっとですか……」
「レトさん……」
「ちょっと、決め手に欠けるかな」
『——そろそろいいだろう』
唐突に、何かの頃合いを見計らっていた球体がレト達の前に出てくる。
『諸君、次の段階に入りたまえ』
「……了解しました」
「やったー! やっと本気が出せるよ」
「……あの人なら保ってくれそうね」
「…………! 何か大きな力の流れが彼女達から感じられます。 気をつけてください!」
「まさか、ルーレで見せたあの青い光を……」
何か仕掛ける気だと2人は身構え警戒していた、次の瞬間……
「えっ!?」
「その銀の髪は……!」
突然7人全員、身体の全体が蒼く発光し出し……青い髪が銀髪に変色した。
「でやあああああっ!!」
「それっ!!」
ロクラウラとゴラウラが大振りに大剣を薙ぎ払う。 無造作に、全く届かぬ間合いで振られたが……強烈な衝撃波が起こり、レト達とエマは大きく弾き飛ばされ岩に衝突、そのまま地に倒れふす。
分け身は消え、1人になったレトとエマは大きなダメージを追い、直ぐには立ち上がれない。
「ううっ……」
「こ、この力は……まさか!」
『——その昔、帝国の伝承で《鋼の聖女》は別名“妖精の取り替え子”と言われていた。 しかし、事実はそうではなかった』
豹変した容姿と力に驚きを隠せない中……等々に球体が語り出した。
「え……」
「それは……一体どういう事ですか?」
『簡単だ。 アルゼイドこそ……妖精の取り替え子だったのだ』
『!?』
その言葉に2人は驚愕する。 だがもちろん鵜呑みにする訳にもいかない……
『アルゼイドこそが妖精の取り替え子。 大陸各地に存在する精霊信仰の真実の一旦にして、古の戦闘民族……それがヴァルキュリア人だ』
ラウラ達が攻撃する途中でも目玉は続けて語り……7人を相手にしながらもレトとエマはそれに耳を傾ける。
『特徴としては七耀の力を有している事、髪が銀髪である事、そして超常的な戦闘能力を持っている事だ。 どうやらアルゼイドの血筋は“水”の属性に当たるようだ』
「そこはどうでも、いいっ!!」
『フフ……ヴァルキュリア人は帝国に限らず、大陸各地にその存在が確認されている。 もっとも、長い年月を経てその血筋は薄れ……その存在は歴史の中に消えて行った。 例外としてアルゼイドのような家もあるが……時折、隔世遺伝で力に覚醒する例もある。 君も知っているだろう……《銀閃》を』
「…………!」
その異名を聞き、レトは一瞬身をすくませる。
「そもそもどうやって調べた! アルゼイドの人間がヴァルキュリア人の末裔だなんて聞いた事もない! 母上の事だ、意図的に記録しなかったはず!」
『その通り。 力の強大さというより存在そのものを危惧した《槍の聖女》はアルゼイドのヴァルキュリア人の功績を《鉄騎隊》全体の功績にし隠した。 ヴァルキュリア人はいわば空の女神の使徒……天使とも言うべき存在。 信仰が深い教徒からすれば崇める対処であり、毒だ』
「ど、毒……? どうして……」
「ヴァルキュリア人はいわば現人神……七耀教会にとってはその存在は劇薬に近いんだ。 《銀閃》……僕の知り合いにヴァルキュリア人がいるんだけど……その人物がヴァルキュリア人だと判明したら、その翌日に聖杯騎士団がやってきた。 目的はヴァルキュリア人としての力を無闇に使ったり公表しない事……ヴァルキュリア人の存在は教会を真っ二つに割りかねないんだ」
『その通り。 教会は今もなお血眼になって強いヴァルキュリア人の血を引く者の所在を探し回っている——お喋りが過ぎたか』
目玉は上昇して再び見下ろし、再開されようとする実験を見直す。
ゆっくりとラウラ達が歩み寄る中、レトとエマはよろけながらも立ち上がろうとする。 レトは左手に持つケルンバイターを握り直しながら強く握りしめ……力を解放し、髪色が金髪に変色する。
「まさかアルゼイドがヴァルキュリア人だったなんてね……でも、力が上がった程度でこの剣帝を倒せるとは思わないことだね!」
「レトさん……私も、魔女の末裔として、貴方に繋ぐ勝利の道を切り開いて見せます!」
「あははは!! 面白くなって来たねぇ!」
「ふふ……その心意気、へし折ってあげる」
「……行くぞ!」
再び剣を交じ合わせようとした、その時……
「——はあああっ!!」
裂帛の声が頭上から降り掛かり……両者の間に人影が落下、土煙が舞い上がる。
「うわぁ!?」
「何者!!」
土煙の中、人影がスクッと立ち上がる。 次第に煙が晴れ、そこにいたのは……
「ラ……」
「ラウラ!?」
対面する7人と同じ顔の青髪の少女……ラウラ・S・アルゼイドが立っていた。
「私、達か……こうして見ると、不思議なものだな」
「オリジナル……イチ姉さんか」
「へぇ、あれが」
「……あぁ、やっと来てくれた」
「い、いやそれより……」
「一体どこから……魔術が発動した気配も無かったのに……」
確かにラウラの登場には驚かされたが、それよりもどこから現れたのかに疑問を持つ。 空から降りて来たようだが、頭上には空しか見えない。
「それについては後にしてもらおう。 今は彼女達を制圧する!」
「りょ、了解!」
「彼女達は強敵です。 気をつけて下さい!」
3人は改めて戦乙女となったラウラ達と対面し、駆け出した。
今後、4日毎に投稿が難しくなってしまいました。
エタろうとは思っていません。