英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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遅れて申し訳ありません。

色々と忙しくなってきた事に加えて、筆が乗らない日々が続いてしまいました……


84話 トリスタ奪還作戦

 

「うーん……これ間に合うかなぁ?」

 

「ナァー」

 

そう、1人ごちるレトはメルカバの甲板にいた。 下を覗き込むと、ちょうどガラ湖が見える。 現在の時刻は11時……作戦開始時間は正午、トリスタまで残り1時間……ギリギリと言った所だろう。

 

「それにしてもすごいなぁー、テスタ=ロッサの姿が全然見えない」

 

今はメルカバの機体上部は目で認識出来るが、下部は透明で地上から見上げても見える事はない。 それと同じく後ろに着いて飛行しているテスタ=ロッサ、見えないが飛行音がしているので実際にそこにいる事を改めて実感する。

 

「落ち着かないのか?」

 

そこへバルクホルンが甲板に出てきた。 問いかけにレトは静かに頷く。

 

「まあ、そうですね。 勝手に抜け出した事も悪いと思っていますし、ちゃんと皆でトリスタを取り戻したいです」

 

「その心意気、そなたの長所であり短所だ。 己が出来ない事を知りながら誰も頼ろうとはしない……」

 

「自覚はしています。 でも性分なもので」

 

極力控えようと努力しているが、直そうとまでは思っていないレトである。

 

「半刻程でトリスタ上空に到着する。 戦の準備を整えておく事だ」

 

「はい」

 

「ナー」

 

バルクホルンは船内に戻って行き、遅れてレトも船内に戻った。 武器の整備やアークスの調整も既に終わらせたため手持ち無沙汰になり……残りの時間は他のラウラ達を見て回る事にした。

 

ラウラ達は武器は没収されているが拘束、監禁されている訳では無く。 船内である程度自由にしている。

 

「あら?」

 

「やあ」

 

最初は青い眼のニラウラ。 1階のカウンター席に座っており、その隣には赤い眼のサンラウラ。 第一印象通り、酒を飲んでいた。

 

「こんな所にいていいのかしら?」

 

「準備はもう終わってね。 その様子だと遺恨を残していなそうで良かったよ」

 

あの戦いで恨みを持たれ険悪な雰囲気にならなかった事に安心しつつ、隣に座る。

 

「それで少し聞きたいんだけど、君達は今後どうするんだい?」

 

「今後?」

 

「ぷはぁー!」

 

その問いに、ニラウラではなくコップを下ろしたサンラウラが首をひねって考える。

 

「んー、そうねぇ……私はご当地、お酒巡りの旅でもしようかしらねぇ〜」

 

「……ああ、そういう事。 そうね……イチ姉さんでも奪ってしまいましょうか」

 

「へ?」

 

サンラウラとは違い全く思いがけないニラウラの答えに、レトは一瞬呆けてしまう。

 

「私、ああいう堅実な人を見ると……人柄、人間関係、地位。 その全てを壊して、その全てを奪いたいのよ」

 

「へ、へー……」

 

「まあ、そのうちにだけど」

 

それを聞いて少しは安心したが……やめる気は無いようで、今後かなり心配になって来る。

 

次にテーブル席に座っていた紫色の眼のヨンラウラと黄色い眼のナナラウラ、橙色の眼のハチラウラの元に向かった。

 

「や。 調子はどう?」

 

「あなたは……」

 

「……何しに来たの?」

 

どうやらヨンラウラはあまり歓迎してはいなそうだ。レトは彼女達の正面の席に座る。

 

「少しね。 アルテリア法国に連れて行かれるみたいだけど、その様子なら心配はなさそうだね」

 

「他人の心配をするよりご自分の心配をなさってはいかがです? この後すぐに大事な作戦があるのでは?」

 

そういうナナラウラは眼鏡をかけており、片手で縁をクイっと押し上げて位置を直す。

 

「君って目が悪かったの? とてもそうは見えなかったけど」

 

「私は少し乱視でしてね。 戦闘に支障はありませんが、戦闘時以外は眼鏡をかけています」

 

意外にも似合っており、冷静な性格もあって理知的な雰囲気を出している。

 

「今ラウラ達に聞いて回っているんだけど、君達は教会から解放された後、どうするつもりなんだい?」

 

「……さあ、私はそのうちに。 でも、私達姉妹は離れ離れにはなるでしょうね」

 

「………………」

 

寂しそうな顔をしながらそういうヨンラウラ。 と、そこで静かにしていたハチラウラが口を開く。

 

「私は当分、旅をしようと思っています。 ある程度気が済んだら、 遊撃士になろうと思っています」

 

「へぇ、遊撃士に……ナナラウラは?」

 

「私もヨン姉さんと同じです。 身の振り方はゆっくりと考えないといけませんし」

 

「なるほどね」

 

お礼を言いながら席を立ち、次は工房内にいた藍色の眼のゴラウラと緑色の眼のロクラウラがいた。

 

「あ、レトー!」

 

「あら」

 

工房に入ってきたレトに気付くと2人は機嫌が良くレトを呼ぶ。 他のラウラ達以上に遺恨は全くないようだ。

 

「どうしたの?」

 

「ラウラ達に挨拶回りね。 それで皆の今後について聞いていたんだ」

 

「ふーん?」

 

「2人は教会から解放された後、どうするつもり?」

 

「うーん……私は戦えるならなんでもいいからなー。 ハチラウラみたいに遊撃士になるのもいいけど縛られるのもどうかだしー。 うーん……」

 

「私も特に何も考えないわ。 風の気の向くまま、その時になったら考えるわ」

 

「姉妹なのにまとまりがないなー」

 

「ナァ」

 

ルーシェも呆れて溜息をつく。 レトは教会から出た後、世に出た後のラウラ達を考え……心の中で静かに溜息をついた。

 

◆ ◆ ◆

 

 

1時間後、トリスタ上空——

 

『——指定ポイントに到着しました』

 

メルカバはその場で停止。 レト達3人は甲板におり、真下に見えるトリスタの街と……トールズ士官学院を見下ろす。

 

「見えました!」

 

「カレイジャスもすでに到着して作戦を始めたようだな」

 

遥か遠くでも見える紅い船体。 レトは一瞥した後、軽く飛び手摺の上に立った。

 

「予定通りならリィンは東トリスタ街道から攻め、僕は西トリスタ街道に攻めることになっている。 僕はこのまま西トリスタ街道に降下する。 2人は転移で皆と合流して裏門をお願い」

 

「承知した!」

 

「どうかお気をつけて」

 

レトは一転してからゆっくりと後ろに倒れ……その身を空に投げ出した。 トリスタに向かって落下するレト。 それを追いかけ透明化を解いたテスタ=ロッサが急降下、レトが転移で搭乗すると姿勢を立たせて背中のブースターが噴射、西トリスタ街道に着陸した。

 

その間にメルカバはこの空域を離脱、アルテリアに向かって飛んで行った。 また彼女達に会える日を楽しみにしつつ、前を見る。

 

「なっ!?」

 

「あ、緋い騎神!」

 

「くっ、2機の騎神による左右からの同時攻撃か! だが、我らは決して屈しはしない!」

 

分かってはいたが、やはり引く気はないようだ。

 

『敵機を確認』

 

「ゴライアスとケストルの後継機ってところだね。 解放戦線と違って領邦軍に死ぬ覚悟なんてないと思うし……オーバーフローによる自爆はないだろう。 遠慮なく倒させてもらうよ!」

 

テスタ=ロッサは槍を抜き側に走り出し……

 

「——結べ、蜻蛉切!!」

 

一瞬で背後を取り、通り抜き側に2機の四肢を切りつけてショートさせ、動けなくした。 残存する機甲兵が無いことを確認し、レトはテスタ=ロッサから降りる。

 

「うーん……! いい調子だね。 絶好調」

 

「行かせるわけにはいかない!」

 

「はぁ」

 

まだ立ち塞がろうとする歩兵の領邦軍に溜息をつくと、銃剣を抜き側に射撃。 彼らの足元に銃弾が撃ち込まれる。

 

「…………?」

 

「どこを狙って——」

 

竦めた身を戻そうとすると……一歩も、石になったかのように身体が動かせ無かった。

 

「なっ!?」

 

「う、動けない!」

 

影蕾(かげつぼみ)……もう指一本も動かせないよ」

 

「レト!」

 

レト達はほぼ乗馬部しか使わない裏門前でアンゼリカ達と合流した。

 

「やあ、元気そうだね」

 

「1日2日合わなかっただけで体調は崩れませんよ」

 

「心配したよ。 いきなりいなくなるんだから」

 

「いつもの事ながら、勝手し過ぎではないか?」

 

「あはは、そうかも」

 

「この事については後ほど。 今は学院を取り戻すことが先決です」

 

「うん。 行くとしよう」

 

色々と聞きたいことはあるようだがそれは後回しにし、レト達はグラウンドに突入した。

 

「さて……潜入できたのはいいが……」

 

「そうすんなり行くわけもありませんか」

 

グラウンドの真ん中、そこに2年の貴族生徒がレト達の前に立ち塞がっていた。

 

貴族生徒の1年のフェリス、その兄であるヴィンセント・フロランドとそのメイドであるサリファ。 乗馬部の部長のランベルト。 2年生最強の剣士とも言われるフェンシング部のフリーデルの4人が。

 

「久しいな、アンゼリカ。 そして特化クラスVII組諸君」

 

「フハハ、よく来たな!」

 

「ロギンス君とアランくんはさすがにいないか。 まあ、それはお楽しみとした取っておくとして……」

 

残念そうな顔をして嘆息した次に、フリーデルはレトに視線を向ける。

 

「レト・イルビス。 内戦時に風の噂で聞いたけど、なんでも《剣帝》なんて二つ名で呼ばれているそうじゃない?」

 

「……ええ、まあ一応」

 

「ふふ、士官学院の入学以降、優秀な問題児として色々と聞いていたけど……いち剣士として、本気の手合わせをお願いして欲しいわ」

 

「仕方ありませんね……」

 

「やれやれ、どうやら一筋縄ではいかないようだね」

 

突き付けられたレイピアを一瞥しながら銃剣を抜く。 それに続き、他のメンバーも武器を構える。 すると……彼らは戦術リンクを起動した。

 

「戦術リンク……適性が低くても使用できるまでに至っていたか」

 

「だが、練度はこちらが上……負ける通りは何一つとしてない!」

 

「フハハ、来るがいい!」

 

「舞踏会の開幕だ。 存分に楽しもうではないか!」

 

「お供いたします」

 

ヴィンセントが先導し、サリファ達が戦術リンクによる無駄のない動きで接近して来る。 レト達に比べれば劣るが、よく統率が取れている。

 

「疾ッ!」

 

先手でレトが一瞬で飛び出し、ヴィンセントに向かって剣を振るう。 それを予期していたかのように、フリーデルが前に出て剣を受け止めた。

 

「流石ですね」

 

「それほどでも!」

 

レトとフリーデルが戦いを繰り広げられている間に……他の場所でも一対一、前哨戦である個人戦が繰り広げられていた。

 

「はっ!」

 

「ソウルブラー!」

 

サリファによって撃ち出された銃弾をエマがアーツで防ぎ。

 

「フハハ、いいぞユーシス君!」

 

「部長こそ、いい太刀筋です!」

 

同じ乗馬部とした剣を交わせるユーシスとランベルト。

 

「我がライバルのアンゼリカ。 また一段と腕を上げたな!」

 

「そっちこそ。 中々の功夫じゃないか」

 

お互いを賞賛し合い、得物を交わせる中……ラウラが側面から回り込もうとしていた。

 

「……序章はこれくらいでいいだろう。 サリファ!」

 

「はっ」

 

サリファの2丁拳銃から地と水の弾丸が放たれ、回り込もうとするラウラの足元に鋭い岩と氷が飛び出して来た。

 

「はあっ!!」

 

進行を止められた隙にランベルトが大きな声で気合いを入れ、筋力の底上げを行い。 回り込んできたラウラに大剣を振り下ろした。

 

「ぐっ!」

 

「受け止めるか。 だが力はこちらが上だ!」

 

「せいっ!」

 

押し込まれそうになった所をユーシスが剣を振って割って入り身を引かせ、さらにユーシスは畳み掛ける。

 

「させん!」

 

「くっ……」

 

接近して来たユーシスをヴィンセントが槍のリーチを生かし距離を取らせ、距離が離れるとサリファが銃弾を撃ち込んでくる。

 

「比翼・(つばくろ)!」

 

即座に銃剣を変形させて銃口を構え、撃ち込んできた銃弾を銃弾で撃ち返した。

 

「嘘でしょう!?」

 

「現実ですよっと!」

 

「エクスクレイドル!!」

 

驚愕するフリーデルを蹴り飛ばし、背後からエマによるアーツの援護が飛んでくる。 足元に輝く十字架が出現し……ヴィンセントが駆け出し、回避と突撃を同時に行った。

 

「はああああっ!」

 

「ふっ!!」

 

ヴィンセントの連続の突きを……寸分違わず、同じ速度と同じ箇所の突きをユーシスは繰り出す事で防いだ。

 

「ヴィンセント様!」

 

「ダメだ、サリファさん!」

 

「逃さぬ!」

 

洸閃牙——ラウラを中心に巨大な渦が巻き起こり、ヴィンセント達はラウラに向かって吸い寄せられる。

 

「くうっ!」

 

「なんて吸引力だ……!」

 

「だが、その戦技は知っている!」

 

フリーデルは吸い寄せられ事を逆に利用して反撃に転じる。

 

「レト!!」

 

「よっ……今です!」

 

「——アンゼリカ先輩!」

 

「ドラグナーハザード!!」

 

ラウラが合図を送ると……鉤爪ロープが飛来してラウラの胴体に巻き付き、勢いよく引き寄せられてその場から離脱。

 

そして、その場にはヴィンセント達がまとまっており、間髪入れずに頭上から龍のオーラを纏ったアンゼリカが急降下。 そのまま戦技が直撃し、4人は勢いよく吹き飛ばされた。

 

「くっ……」

 

「ま、まだだ……!」

 

「——そこまでです」

 

そこで、止めに入るように制止の声が聞こえてきた。 声のした方向を向くと、白衣を着た老婆とちょび髭の男性が階段を降りてきた。

 

「あ……」

 

「ベアトリクス先生に、ハインリッヒ教頭」

 

「久し振りだ、諸君」

 

「もしかして横から見ていたんですか?」

 

「ええ、互いが力を尽くしたとてもよい立ち合いでした」

 

両者を賞賛しながら拍手を送ると、正門方面に視線を向ける。

 

「どうやらあちらも終わったようですね」

 

ベアトリクス教官は踵を返して校舎に向かって歩いて行く。 ついて来いと言っているようだった。

 

彼女の後に続きレト達は正門前に向かうと……そこでリィン達とパトリック達がいた。 決着はついたようで、互いに和解しているようだった。

 

「そっちも終わったようだね」

 

「あ!」

 

「レト! 今までどこに行ってたんだ!」

 

「エマ……あなたまで勝手に行ってしまうなんて予想外だったわ」

 

「ごめんなさい、セリーヌ。 レトさんに頼まれてつい」

 

「フフ、何はともあれ、またVII組全員揃ったわね」

 

トールズ士官学院を出てから約2ヶ月……レト達、VII組はようやくここに戻って来れた。すれ違っていたが、手と手を取り合い、ようやくお互いを仲間として認め合い……トールズ士官学院の心は1つとなった。 たが、内戦はまだ終わってない。 気は抜けないとはいえ、今この時だけは喜び合ったのだった。

 

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