英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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85話 前夜

夜——

 

ひと段落したところでリィン達はレトとエマを問い詰めた。 理由は当然勝手に出て行った経緯について……だが2人はその理由を黙秘したためややこしくなったが、ラウラとなぜかトマス教官がフォローしてくれたためことなきを得た。

 

「ふーー……」

 

占領という束縛から解放されたトリスタはほぼお祭り騒ぎ、大人も子ども喜び合った。

 

その喜びと笑い声の喧騒から少し離れた西トリスタ街道の入り口、そこにレトとテスタ=ロッサ、ヴァリマールが共にいた。 レトはテスタ=ロッサの足に寄りかかり、先程売っていたリンゴのジュースを飲んでいた。

 

「やっとここまで来たような、まだまだ遠いような……そんな感じだねぇ」

 

ここからでも帝都ヘイムダル、バルフレイム宮の一部が目視できる。

 

明日は皇族の救出に向かうため、トールズ一同はカレル離宮に向かうことになっている。 つまり、実の所レトの住んでいた家に帰ると同時に家族を救出しに行く訳である。

 

「物騒な帰宅になりそうだね」

 

「ナァー」

 

レトの言葉にルーシェは同意するように鳴く。 そこへ、町からリィンが歩いてきた。

 

「ここにいたのか、レト」

 

「やあ、リィン」

 

「ナァオン」

 

「この様子だと無用かもしれないが……ありがとう、守りをかって出てくれて」

 

『フフ、ソナタラノ影響ヲ多少ナリトモ受ケタラシイ。 皆デ取リ戻シタ大切ナ場所……セメテ今宵ハ感慨ニ浸ルトヨカロウ』

 

『我もそのついでだ。 気にするでない』

 

「はは、ありがとう。 しかし……最初に比べるとスムーズに話せるようになっているよな。 まあ、テスタ=ロッサよりは拙いけど」

 

「出来事を記憶する部分が回復しているんだと思う。 旧校舎の地下で眠りにつく前だし……何か思い出した?」

 

『ウム。 私ガ眠リニツイタノハ250年ト128日前——以前ノ起動者ハ、どらいけるす・あるのーるトイウ』

 

その名に、レトとリィンの2人はある人物を思い出す。

 

「ドライケルス・ライゼ・アルノール……《獅子心皇帝》……エレボニア帝国中興の祖。 精霊窟で幻影(ビジョン)を見てもしかしてとは思ったけど……」

 

「え!? 見たの! 父上の姿を見た事があるの!?」

 

「あ、ああ……精霊窟で度々……」

 

「ああーもう、そんな事ならついて行けばよかった……」

 

「ナァー」

 

今更ながらにレトはリィンについて行かなかった事に後悔する。

 

「…………ん? 父、上? もしかしてレト……お前の父親って……」

 

「あれ? 言ってなかったっけ? 僕の両親は《獅子心皇帝》と《槍の聖女》って」

 

「聞いてないぞ……」

 

肝心なところをいつも言い忘れレト。 何度も体験してきたが今回ばかりは驚いてしまった。

 

『“場ノ記憶”ト共鳴シタノダロウ。 カツテどらいけるすモソナタト同ジク精霊窟ヲ訪レタ』

 

「そこでゼムリア鉱石を手に入れて武器を作った……リィンも父上と同じ軌跡を辿ってわけだね」

 

『我も同様に記憶素子の損傷が激しく、記憶の断片しかないが、我も当時は敵として彼らと相対していた』

 

獅子戦役当時、テスタ=ロッサは偽皇オルトロスによって目覚めさせられ、ヴァリマールに乗るドライケルスと《槍の聖女》と戦った。

 

「そうだったのか。 さすがに伝説の皇帝と同じ立場なのは面映ゆいけど……」

 

「どんな人だったの、父上は?」

 

『フム、豪放磊落ニシテト泰然自若イウベキカ——茫洋トシナガラモ大胆不敵、自由キママデ傍若無人……ドコマデモ懐ノ深イ男デアッタ。 時ニ子供ノヨウナ目ヲシテイタガナ』

 

「それは……まさしくレトの父親だな」

 

「それどういう意味?」

 

リィンの言い分にレトはジト目で睨みつける。

 

『フフ、ソナタトモ昔ニ一度合間見エタ事ガアル。 ソノ時ハホンノ小サナ赤子ダッタガ』

 

「え……」

 

『戦ガ収束シタ直後、どらいけるすハソナタヲ魔女ノ元ニ連レテ行ッタ。 恐ラクソノ時ニコノ時代ニ飛バサレタノデアロウ』

 

「そこはルーシェが連れて来てくれたとは知っているけど……そうだったんだ、昔にヴァリマールと……」

 

当時は赤ん坊だったために記憶にはないが、レトは長い月日を経て再開できた事を嬉しく思った。

 

「レトはその、どう思っているんだ? 両親の事を……」

 

「……毎日のように父さんと母さんと触れ合う機会はそうそう無かったけど……ひと度会う時、とても良くしてくれた。 兄さんも、アルフィンも、セドリックも……2人とも僕の本当の両親について知りながらも受け入れてくれた。 まあ、周りはそうじゃなかったけど。 身元不明な子どもを皇族の側に置けないとかで邪険にされていたよ」

 

「そうか……実害が無かった俺は、恵まれていたのかもしれないな。 シュバルツァー家も、ユミルの皆もとても良くしてくれた」

 

「そう……僕はこの人生の半分を明日向かうカレル離宮で過ごしてきた。 道案内は任せておいて、秘密の抜道だって知っているんだから」

 

「ああ、明日はよろしく頼む」

 

と、そこでレトは顔を真上に上げ。 テスタ=ロッサを見つめてから、ゆっくりとリィンの目を見つめた。

 

「……リィン。 いつか必ず……僕達は騎神と別れることになる」

 

「レト……?」

 

「恐らく明日、世界は分岐点を迎える。 その佳境の先に……何があるのかは分からないけど、彼らと別れる事は間違いないと思う」

 

「それは……」

 

「彼らは、いつまでも僕達に寄り添える存在じゃない。 覚悟だけ、しておいて」

 

「……ああ、分かった」

 

レトは寄りかかっていた身を起こし、身を返してテスタ=ロッサと向かい合った。

 

「でもそれまでは……せいぜい付き合ってもらうよ」

 

『フフ、よかろう。 偽りではなく、真実の皇帝の生き様……しかと見定めるとしよう』

 

 

◆ ◆ ◆

 

リィンはもうしばらくヴァリマールと話しているといい、レトは西トリスタ街道から町に戻った後士官学院に向かい、学生会館2階にある写真部に向かった。

 

部室には誰もいなかった。 フィデリオは分からないが、レックスはこの気の緩んだ隙に女子を撮りに行っているのだろう。

 

「さてと……」

 

レトは自分が今まで撮って来た写真が貼られている壁に向かう。 写真は魔獣か風景画が多いが……レト達VII組メンバーの写真も疎らにあった。

 

「また、こんな日々が続けるようになるのかな……?」

 

「ナァオン」

 

「——兄様(あにさま)?」

 

と、突然そこへアルフィンが写真部に入ってきた。

 

「アルフィン、どうかしたのかい?」

 

「いえ、兄様がここに入っていくのが見えたので。 ここが兄様が所属している部活なのですか?」

 

「あー、うん。 趣味そのままだけどね」

 

アルフィンはレトの隣まで来て、壁に貼られたら写真を覗き込む。

 

「まあ……フフ、相変わらず魔獣ばかりお撮りになられているようですが、VII組の皆様、とても良い顔をしておられます」

 

「そうだね。 僕もそう思うよ」

 

レトはアルフィンの頭を投を優しく撫でる。 するとアルフィンは悲しそうな、しかし気丈に振る舞いながらレトに向き直った。

 

「兄様。 必ず、必ず明日は元気なままの姿で……お父様とお母様、そしてセドリックと一緒にお帰りになられてください」

 

「……うん……明日、必ず僕達の弟と両親を取り戻してみせる。 必ず」

 

「……はい」

 

「それで、ひとつ頼みがあるんだ」

 

「兄様……?」

 

いつになく真剣な表情をするレトを見て、アルフィンも緊張して息を飲む。

 

「僕は、家族を……アルフィン達を迎えてやれないかもしれない。 そうならないように努力はするけど……もしも、僕がいなかったら、代わりにアルフィンが——元気な笑顔で、兄さん達を迎えて」

 

「あ……兄様ーッ!」

 

感極まったのかアルフィンは涙を浮かべながら駆け出し、両手を広げてレトに飛びかかる。 そんなアルフィンをレトは手を差し出し、人差し指を丸めて親指で抑え……

 

ビシッ!

 

「あうっ!?」

 

デコピンした。 アルフィンはそのまま尻餅をついて倒れる。

 

「な、なんてことするんですか!」

 

「アルフィンは元気で、眩しいよ。 そういうアルフィンのままでいてね」

 

文句を言いながら突っかかってくるアルフィンの頭を片手で抑えながら、聞こえないようにレト呟いた。

 

それからプンプンと怒るアルフィンを連れて学院を見て回りながら顔見せをし……次にギムナジウムに向かった。

 

「兄様」

 

「……? アルフィン?」

 

ギムナジウムに入ろううとすると、アルフィンが入り口前で足を止めていた。

 

「わたくしはここでお待ちしいています。 少し歩き疲れてしまって、夜風に当たってもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、そうか。 結構歩いたしね。 分かった、中庭のベンチで休んでいて。 後で迎えに行くから」

 

「はい。 兄様、()()()()()()()()()()

 

「??」

 

何のことやら分からないままギムナジウムに入るレト。

 

「あれ、いないなぁ?」

 

ある人物を探してプールを訪れたが、そこには誰もいなかった。 次は練武場を探しに行ってみると……

 

「いた、ラウラ」

 

「……む、レトか」

 

「やっぱりここにいたんだ」

 

「うん。 ここギムナジウムには色々と思い入れがあるからな。 水泳部てま活動したプールはもちろん、この練武場も懐かしい限りだ」

 

「授業でも使っていたし、時々ラウラと剣の稽古をしていたしね」

 

「ふふ、そのうち改めて、レトとも立ち会ってみたいものだ。 まだまだそなたの本気の剣を受け止める事は出来ぬが……心地よく斬り結ぶことはできそうだ」

 

「ラウラならすぐに追いつくさ。 それまで、僕自身の……《剣帝》レミスルトとしての剣を見つけてみせる」

 

左手を握って意気込むレト。 しばらくしてラウラは少し考え込んだ後、口を開く。

 

「レト、折り入って頼みがあるのだが」

 

「頼み……? 何かな?」

 

「あとで第三学生寮に行こうと思っていたところでな。 その、よかったらだが……レトも一緒にどうだ?」

 

「そういえばまだ自室を確認してなかったっけ……分かった、いいよ」

 

「そ、そうかっ」

 

レトが頷いたのを見ると、ラウラはホッとしたように、しかし嬉しそうな顔を見せる。

 

「あー、でも少し待って。 外でアルフィンを待たせているんだ。 一度カレイジャスに送り届けないと」

 

「分かった。 時間を置いて、寮で待ち合わせよう。 殿下にもよろしく伝えて置いてくれ」

 

「了解。 また後でね」

 

後で待ち合わせる約束を交わし、2人は別れる。 ギムナジウムを出ると中庭のベンチに座っていたアルフィンがレトに気付き、小走りで近寄って来た。

 

「ラウラさんはなんと?」

 

「どうしてラウラと会っていたのを知っているのはさておき……よろしくだって。 さ、カレイジャスまで送るよ」

 

「はい。 よろしくお願いします(とても気になりますけど……兄を送るのも妹の務め。 頑張ってください、兄様)」

 

何やら含みのある視線を向けられていたが、とにかくレトはアルフィンを送り届け、カレイジャスに戻って行った。

 

その後はトリスタを見回りつつ、入学からVII組が暮らしていた第三学生寮に足を向けた。

 

「あれ、リィンにアリサ」

 

「レ、レト!?」

 

「ど、どうしてここに……?」

 

寮に入ると、ちょうどリィンとアリサが出て行くところに出くわした。 何故か2人の顔は赤くなっていたが……

 

「寮の自室を確認しにね。 それよりどうしたの? 2人とも、顔真っ赤だけど?」

 

「す、少し寮の中を歩き回ったせいで火照ったのよ」

 

「い、色々と確認したかったからな」

 

「ふーん?」

 

何故居づらそうで、2人は逃げるように去って行った。 レトは「ま、いっか」と頭の隅に放り、第三学生寮に入った。

 

寮内は変わっているところは無く。 逆に2ヶ月間放置されているにも関わらず綺麗だった。 どうやら定期的に掃除の手が入っているようだ。

 

「レト——もう来ていたのか」

 

しばらく1階を眺めていると、ラウラが寮に入って来た。

 

「待たせてしまったか?」

 

「丁度今来たところ。 そっちの用事は済んだの?」

 

「うん、顔見せも一通りな。 ……それにしても……」

 

ラウラは寮内を見回す。 何も変わってない事に安心し、少しだけ感動する。

 

「ようやく……帰ってこれたのだな。 我らVII組が寝食を共にした、この懐かしい場所に」

 

「うん……とりあえず、自分達の部屋を見て回ろうか」

 

「うん、行くとしよう」

 

「……クァー……」

 

ルーシェがソファーに寝そべり寝始める中……2人は早速、同じ階にあるレトの部屋に向かう。 そこは……相変わらずの惨状だった。 書類や写真が床を埋め尽くし、本の山があちらこちらに出来ている。

 

呆れるラウラとあははと苦笑いするレト。 とりあえず本を棚に戻し、紙類ら大雑把に纏めた。 それからラウラの部屋に向かい、一通り回り終えると三階の踊り場で足を止めた。

 

「この内戦が終わったら……また、元の学院生活に戻れるのかな?」

 

「……分からぬ。 でも、必ず乗り越えられると信じている。 皆と一緒に」

 

「フフ、そうだね。 VII組なら——僕とラウラの剣ならね」

 

心意気を新たに感じ、明日の決戦に備える。 と、そこで唐突に、ラウラはレトの正面に立った。

 

「——レト、そなたに聞きたい。そなたは—— “剣の道”が好きか?」

 

レトはその質問に覚えがあった。

 

「ケルディックでのリィンに送った質問だね。 でも、どうして?」

 

「なに、対して意味はない。 ただ——この先の戦いで何かが変わってしまう前に。 言葉にして……聞きたいだけなのだ」

 

「そう……」

 

少しだけ考え込み……思い浮かんだ言葉を口にする。

 

「剣の道……その道筋に《剣帝》の剣が入っていいのかは僕には分からない。 でも、この手で振るう剣が道となるなら……僕の誇りが剣となって前に進む。 義務かもしれない、好きなのかもしれない。 でも……それがレミスルトだから。 って、答えになってないねこれ」

 

「ふふ、そなたらしい答えだ。 そなた自身が剣となり道となる、始めて会ったあの時から何も変わってない……私も同じだ。 あの時から、志は何一つ変わっていない。 己の誇りの全てを預け、ただひたすらに高みを目指して打ち込めるもの。 それが、私にとって最も大切な“剣”の在り方だ」

 

自分も質問の答えを回答し……少し照れ臭そうな顔をして頰を赤らめる。

 

「だが——ここに来て、困ったことになってしまった」

 

「困ったこと……?」

 

「皆と学院生活を過ごし、この内戦で共に戦う中で……“最も大切なもの”が、もう一つできてしまったのだ」

 

「それって……」

 

もしかして、と続けようとした時……

 

「レト……そなたと初めて会った日の出来事……覚えているか?」

 

「……うん、もちろん」

 

レトは当時の事を思い出しながら、ゆっくりと語り出した。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

約3年前——

 

「ゼェ、ゼェ……」

 

今日も晴れやかな晴天……とはいかず、レグラムの地域特有の薄霧が出ている頃。 アグリア旧道から1人と1匹がエベル湖の対岸に出てきた。

 

「やっ、やっと見えてきたぁ〜……」

 

少し服装が薄汚れ、少し顔がやつれており、対岸にあるレグラムを大きく一安心する。

 

「たっく……《影の国》の後にこの仕打ちはいかがなものだよ……」

 

「ナァ……」

 

リベールから帰国後、パルムからレグラムに向かった少年……レトは途中、数日前にとある事件に巻き込まれたが無事に帰還。

 

だがその時の疲労を蓄積したままの旅だったのでかなり疲労困憊の様子だった。 疲れた体を引きずって定期船に乗ってエベル湖を横断、レグラムの街に到着した。

 

「ふぃー、ここが湖畔の町、レグラムかぁ」

 

「——ナァ」

 

その呟きに返答するように、レトが肩に担いでいたリュックからルーシェが顔を出しながら鳴く。

 

ルーシェはリュックから飛び出ると器用に腕を伝って頭まで登り、器用に乗っかった。

 

「さて……レグラム周辺の調査の許可をもらいに行こうか」

 

「ナァオン」

 

波止場から歩いて階段を登り、丘の上に建てられている邸宅に足を向ける。 途中、変な女子3人組に絡まれたが……言っている事は意味不明だったため無視した。

 

「たのもー」

 

「ナオーン」

 

1人と1匹がアルゼイド邸の扉を叩く。 するとすぐに扉が開き、執事服を着た老人が出てきた。

 

「おや、あなた様は……」

 

「お久しぶりです、クラウスさん。 ヴィクターさんはいらっしゃいますか?」

 

「それならば危ないところでしたな。 ちょうど今、お出かけになるところでしたので」

 

「あー兄さんのアルセイユ号での帰国かー。 それは危なかった危なかった」

 

執事……クラウスはレトを邸宅に招き入れ、この邸宅の家主の元へ案内する。

 

「お館様、レミスルト様がお見えになりました」

 

『そうか……入るがいい』

 

「失礼いたします」

 

「失礼します」

 

椅子に中年の男性……ヴィクター・S・アルゼイドが座っていた。 ヴィクターは書類を書く手を止め席を立ち、レトの前まで歩く。

 

「久しいな、レミスルトよ」

 

「3年前の軍事指導以来でしょうか。 息災で何よりです」

 

2人は握手をして挨拶し、ヴィクターは一言二言クラウスになにかを伝えると、ペコリと礼をいた後クラウスは部屋から出て行った。

 

「聞けばオリヴァルト皇子同様、先のリベールでの事件の最中にいたそうだな。 一癖も二癖の波乱ある旅行のようだったが……実りのある旅行になったようだな」

 

「……はい。 色んな意味で未熟だという事を思い知らされました。 そしてまだ己が何者かも見出せず、迷いの渦の中にいます」

 

「フフ、迷ようがいい、若人よ。 迷い続け、歩き続けた先に必ずそれと見合うだけの答えが見つかろう」

 

年長者からの言葉をもらい、素直に受け止めるレト。 そして、ヴィクターは席に戻ると話を切り出した。

 

「して私に……いやこのレグラムに何用で参ったのだ? アルセイユに同乗しなかった理由は察するが、帰国後真っ直ぐにこの地を訪れた?」

 

「……ええ、もちろん。 単刀直入に言います……エベル湖の調査の許可、そしてローエングリン城への入城許可をいただけませんか?」

 

「ふむ……理由を聞こう」

 

レトは腰に懸架していた古文書を開きヴィクターに見せた。

 

「250年前……獅子戦役終戦直後、ドライケルスと協力していた良き魔女が帝国各地に合計4つの神殿を作りました。 そのうちの1つがここ……エベル湖の湖底にあります」

 

「ほう……」

 

「しかし、全ての神殿は巧妙に仕組み(ギミック)によって隠されており、探し出すのは容易ではありません。 その仕組みを解き明かす手掛かりがこの古文書に載っており……どうしてもローエングリン城に向かわなければいけないのです」

 

説明を終え、ヴィクターは「なるほど」と呟いて顎に手を置き考え込む。

 

「……よかろう。 エベル湖の調査及び、ローエングリン城の入城を許可しよう」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ただし……」

 

喜びも束の間、条件が付け加えられる。 レトは嬉しさのあまりそこまで重荷に思っていなかった。

 

「目付役として我が娘を同行させる事が条件だ」

 

「え゛」

 

『お館様。 ラウラお嬢様をお連れしました』

 

「入るがよい」

 

『失礼します』

 

入ってきたのはヴィクターと似た髪色の少女……クラウスが呼んで来た事から、事情を説明する前に呼ばせたようだが……

 

考え込むレトを少し不審に思いながら横を通り抜け、ヴィクターの前に立つ少女。

 

「父上、一体何用でしょうか?」

 

「そなたに1つ、頼みがあって呼んだ」

 

「頼み、ですか。 珍しいですね、父上が頼みを申し出てくるとは。 して、その内容は?」

 

「この者はレト・イルビス。 ローエングリン城を調査の申し出を受け、許可した。 そなたにはその者の案内をお願いしたい」

 

「な!?」

 

(……ん?)

 

レトがやりたいのは神殿の探索でありローエングリン城の調査ではない。 もちろんローエングリン城にも興味は惹かれるが、今回の本命は神殿である。

 

意図的にその件について話さなかったことを不審に思うレト。 そんな事を他所に、少女は驚愕と怒りを露わにしてヴィクターに言いよる。

 

「父上! 父上が自ら認めたとはいえローエングリン城の入城を許可するなど……!」

 

「この者の身分は私が保証する。 人柄も知っている。 遺跡荒らしをする輩ではない」

 

「しかし……」

 

どうしても納得できない青髪の少女……ラウラ。 後ろで欠伸をしながら傍観していたレトだが、次の瞬間、ラウラが睨みつけられるように振り返った。

 

「そなた、名は!」

 

「え? レトだけど……」

 

「来い! 私自ら見極めてくれる!」

 

「えぇ〜、やだ〜、面倒くさ〜い」

 

一目でラウラの力量を測ったレトの優先順位手合わせよりも遺跡に優先され、煽るように断る。

 

これがレトとラウラとの最悪の初邂逅。 この後、レトはラウラを軽くあしらい……取り巻き女子3人に騒がれるのは目に見えていた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「それからラウラを片手間で倒して……半ば無理やりローエングリン城まで着いて来て、さらには湖底神殿にまで」

 

「そうだったな……私も当時は心身ともに未熟者だった」

 

「うん。 そして最後には、少しだけお互いを認め合った。 今思えば、あの時の口論が人生で1番だったと思う。 お互いがほとんど譲らないで……」

 

「お互いが嫌い合って、無駄な争いを生んで……本当に、あの時が初めてだった、個人に対して怒りを覚えたのは」

 

「今となってはいい思い出だけどね」

 

「うん……」

 

いろんな経緯や経験を経て、2人は互いを認め合い旅を乗り越えた。 それはとても得難い経験だった。

 

「あの時から、幼い頃より打ち込んできた剣に、それ以外の想いが込められるようになってしまった。 しかし今となってそれは、今まで以上に勇気と力を与えてくれている。 こんな気持ちは、旅先で多々あったが……ようやく自覚した」

 

ラウラはゆっくりと自分の胸に手を当て……

 

「……そなたの隣にいた時から」

 

「…………そう…………」

 

頰を赤らめて少し目を潤ませながら、精一杯の気持ちで伝え、レトは一言だけ呟く。

 

「レト——たぶん、私はそなたが“好き”なのだ。 友人として以上に……“想い人”として。 だから、その…………重ねてそなたに聞きたい。 私のことは“好き”か?」

 

いつもの凛とした表情ではなく、今まで一度も見たことがない女性らしい一生懸命な表情……そんな表情を見せられながらの質問にレトは少し照れ臭そうに頰をかいた。

 

「……ラウラとはそれなりに長い付き合いだし、相棒かパートナーだって思っている。 でもまさかラウラからそんな話を切り出すなんてね。 普通は男からだと思うけど」

 

「っ……す、すまぬ。 とうにも不慣れで……」

 

「ふふ、気にしてないよ。 さっき言った通りラウラとは背中を任せられるパートナーみたいなもの。 旅の中で何度も見せられたラウラの剣……最初はとても“稚拙で幼稚な剣”だと思ってた。 でも、僕の剣にはなかったものを持っていた。 何だと思う?」

 

「え? そ、それは……」

 

「剣にかける想いと、意志」

 

こんな状態ではまともに答えられる訳もなく、レトは少しからかいながら先に答える。

 

「前に間違えてお酒を飲んで呟いていたから忘れていると思うけど……「守るべき人が不安に駆られぬように、アルゼイドの剣士はどんな相手にも臆してはならない」って……自慢げに言ってたよ?」

 

「あ、あの時の事は忘れると言っただろう!」

 

「ふふ、いつも凛としても剣以外ではそうやってタジタジになって、時々ドジやって可愛い所を見せてくれる。 そんなラウラの綺麗な剣に次第に惹かれて……憧れていたんだ、ラウラ自身に。 そんなラウラと共に歩いていけるVII組が楽しくて……誇りなんだ」

 

「…………レト…………」

 

ラウラは固唾を飲んで自分が望む言葉を待つ。

 

「できればこれからも、ずっと一緒に剣の道を歩いて……いつか共に“高み”に辿り着けたらって。 いつの間にか、心からそう思っていた」

 

「…………あ…………〜〜〜っ〜〜〜……!」

 

一瞬、ラウラり惚けてしまったが……その後一気に顔を真っ赤にすると、レトに駆け寄ってそのまま寄り添うように抱きしめた。

 

「おっと……」

 

「想いが通じるというのがこんなに嬉しいなんて……は、恥ずかしくて顔から火が出そうだっ……!」

 

「ふふ、そうだね。 ラウラの前だから、かなり恥ずかしいよ」

 

笑いながら手をラウラの背中に回し、抱きしめ返す。

 

「帝国がどうなるのか……僕自身がどうなるのかは分からない。 それでも……必ず乗り越えて証明しよう。 僕達の“剣の道”は、まだ高みに行けるということを」

 

「うん、勿論だ……! そなたと私……VII組を守る双剣となって、往く道を切り開こう……!」

 

そして、しばらく間2人は見つめ合い……ハッとなると、一瞬で身を離し、照れ臭そうに笑い合った。

 

 

◆ ◆ ◆

 

「……ナァー」

 

「——覗き見とは趣味が悪いのぉ」

 

2人のやり取りを上の階から見下ろしていた猫の側に、長い金髪の幼女が歩いてくる。

 

「フン」

 

「相変わらずお主は本当に生意気じゃのー。 はぁ、レグナートに虚偽を言うように言ったが……失敗じゃったかもしれん」

 

幼女は溜息をつきながらやれやれと首を振り、猫の視線の先にいる男女にある人物と重ね合わせる。

 

「ドライケルス、リアンヌ……そなた達の意志はしかと受け継がれておるぞ」

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