英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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94話 白き幻影

旧校舎に起きた異変を確かめるために夢幻回路を攻略を開始し、4つの回廊を仲間とともに抜け……終点らしき門がある階層に到着した。 その門の中は白い光が渦巻いており、明らかに異質な雰囲気を感じる。

 

「………………」

 

「こ、ここって……」

 

「暗闇すら呑み込むような、混沌……」

 

「白き、闇……」

 

「膨大で……それでいて虚ろな霊圧を感じます」

 

「多分ここが……“回廊”の終点だろう。 今回の異常事態の原因……この先に進めば判る筈だ」

 

「恐らくは。 簡単には行かなそうだけどね」

 

この現象の原因はこの先にある……この先に進むために入り口で待機している他のメンバーも呼び。 “白い闇”が広がる門を潜り抜けた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

扉を通り、白い闇から抜け出すと……そこは荒廃した砂漠のような戦場だった。 扉の前に舞台のような台座があり、その周りを無数の剣がまるで墓標のように突き立つ、空虚な砂漠が広がっていた。

 

そして、レトたちVII組は台座の方に見覚えがあった。

 

「こ、ここは……」

 

「見覚えがあるっていうか……」

 

「私たちが戦った、《煌魔城》の最上層……?」

 

「《緋の玉座》——いえ」

 

「色々混じっている……そんな感じがするわね」

 

「まるで、灰色の世界に緋い染みが入ってしまったような……」

 

『——至ったか』

 

この空間に目を奪われていると、脳に直接響くような重鈍な声が聞こえてきた。 すると、台座の上にある空間が光り出し……そこから巨大な人形の影が現れた。

 

「これは……」

 

「白き“影”……」

 

「なんか騎神っぽい……?」

 

「残滓……いや虚像だね」

 

「——アンタは何者だ!? 全てが終わったこの状況で何をしようとしている!?」

 

知性があり言葉も通じるようなので、リィンが代表して白い影に質問をする。

 

『我は“影”——《巨いなる一》の写し絵にして“裏の試し”を司る存在(もの)

 

「“裏の試し”だと……」

 

「それじゃ、前にボクたちが戦った黒い影の……?」

 

『かの《ロア=エレボニウス》は起動者候補への正当な“試し”——我は封じられ、本来ならば顕れるはずの無かった“裏の試し”——』

 

すると、白き影が消え、台座に白い波紋が広がる。 そこから白い翼のようなものが出現し……

 

『《ロア=ルシフェリア》なり』

 

名乗りと共にその巨大な白き影が現れた。 その姿に人は感動を覚え、畏敬すら覚える。

 

「その“裏の試し”とやらがどうして現れたの!?」

 

「あからさまに《VII組》を導こうとするやり方……」

 

「それでいて、わたくし達を排除するわけでもない……」

 

「何か事情があるんですね?」

 

『然り——』

 

サラたちの質問に、ロア=ルシフェリアは肯定するようにゆっくりと頷く。

 

『全ては《緋》——《煌魔城》の暴走が原因だ』

 

白き影は自身が現れてしまったのは先の事件の影響と言い、少なからず関係のあるレトは申し訳ない顔をする。

 

『紅き霊脈の余波はこの地までも及んでいた。 その結果、終わったはずの“試し”に異常を発生させ——本来顕れるはずのなかった“我”が表に出たというわけだ。 その意味では、何も得ることも叶わぬ“虚ろなる試し”でしかない』

 

「“虚ろなる試し”……」

 

「言い得て妙ね……」

 

「なるほど。 コインの裏表のようなものだね。 表の試しだけではシステムとして成立しない……裏が必ずしも必要で、あの事件の影響でコインが弾かれて裏が出てしまった、というか訳か……」

 

レトたちはしばしの間考え込む。 これはただの偶然で、事件性もない……これなら放置しても問題はないが……

 

「——状況は分かった。 だとしても俺たちは……俺たち《VII組》は、ここでアンタを倒さなくちゃならない」

 

全員の同じ答えを代表するようにリィンがそう言い、太刀を抜き放つ。 それに続き次々と全員が得物を抜き……

 

「得るものが無くても構わない。 俺たち《VII組》の最後を締めくくらせてもらうために——」

 

太刀の剣先をロア=ルシフェリアに向きつける。

 

「アンタという試練を、全身全霊で乗り越えてみせる!」

 

『意気や良し』

 

戦う意志を見せた彼らを見て、ロア=ルシフェリアは身構える。

 

『それではこれより“裏の試し”を開始する。 人の子よ——見事打ち克ってみせるがいい』

 

『おおっ!!』

 

——グオオオオォォッ!!

 

咆哮とともにレトたちはロア=ルシフェリアを倒すために、前衛は走り出し、後衛はその場で遠距離の武器を構えたりアーツの駆動を開始する。

 

臆せず挑みかかるレトたちを一瞥し、ロア=ルシフェリアは半身を捻って右腕を振り上げる。

 

ゲド・ゾーマ——鋭い爪を立て、前方を薙ぎ払う。

 

兄様(あにさま)!」

 

「はっ!」

 

レトが槍を防御に構え受け止めようとしたと同時に、アルフィンがクレストをレトに付与させ。 振り下ろされた爪を受け止めた。

 

間髪入れずサラ教官が駆け出し、誰よりも早く先陣を切った。

 

「さあて、開幕の一発、張り切って行きますか——はあああっ!!

 

「サラ教官!?」

 

飛ばすようにサラ教官はその身に紫電を纏い、一瞬でロア=ルシフェリアの前に移動する。

 

「はっ! せい! はあああっ!!」

 

斬りつけ、拳銃で乱射してから一度距離を置き……

 

「——ノーザンイクシード!!」

 

駆け出し、通り抜き側に紫電を纏う剣で一閃した。 すると蓄積された紫電が溢れ出し、巨大な雷撃が迸った。

 

「ふう……さぁて、まだまだ行けるわよ!」

 

「こりゃ負けてられないな。 俺もいっちょやるか!」

 

同業者に負けじと、トヴァルはアークスを取り出すと、無詠唱で無数の風の球体を展開した。 トヴァルは両手を動かして風を起こしながら球体を操り、球体を1つにすると飛び上がる。

 

「こいつは効くぜ——リベリオンストーム!」

 

球体の上に出ると両手を合わせて振り下ろし、ロア=ルシフェリアにぶつけると巨大な竜巻を巻き起こした。

 

「なんて荒々しい風なんだ!」

 

「これが遊撃士の実力か」

 

A級遊撃士の実力を改めて確認し、強力な戦技を2度も受け、怯んだ隙に懐に入る。

 

「はっ!」

 

「それー!」

 

「やあっ!」

 

リィン、ミリアム、アンゼリカが攻撃し……

 

「スワローテイル——はあっ!」

 

「強襲します——モーダルミラージュ!」

 

エリゼとクレアの戦技が追撃をしかける。

 

そして、後ろにいたエリオットたちの駆動が完了した。

 

「アースランス!」

 

「クリスタルフラッド!」

 

「ヴォルカレイン!」

 

「ジャッチメントボルト!」

 

マキアス、エリオット、エマ、トワによる地水火風のアーツが放たれる。

 

ヴァッシュ・オル・ゴーン——しかし、ロア=ルシフェリアは口から白い影を吐き出し。 アーツによる攻撃を消滅させた。

 

「っ……」

 

「おっと……」

 

さらに白い影は前にいたリィンたちを襲い、距離が離れたのを確認したロア=ルシフェリアは力を溜め出す。

 

「させるか!」

 

「待て! 間に合わな——」

 

リィンは防ごうし、ガイウスが止めようとするが、その前にロア=ルシフェリアはゆっくりと、両手を合わせた。

 

メギド・オーマ——合わせ両手をゆっくりと開き、その間から白と黒の影を拡散、リィンたちを吹き飛ばした。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ……すまない」

 

回復魔法で傷を治す中、ロア=ルシフェリアはその巨大を揺らしながら縦横無尽にレトたちに襲いかかる。 相手が流れに乗り、状況的にこちらが不利になっている。

 

「……仕方ない、流れを変えるしかあるまい」

 

するとユーシスが前に進み、指を口にあてがう。

 

「来い、シュトラール!」

 

——ヒヒィーーン!!

 

指笛を吹くと……白い門からユーシスの愛馬のシュトラールが飛び出してきた。

 

「どっから出てきた!?」

 

レトの突っ込みも流してユーシスは走るシュトラールに飛び乗り、そのまま最高速でロア=ルシフェリアに突っ込んでいく。

 

「止めだ——アスティオンナイツ!」

 

馬による疾駆と剣による一閃により、ロア=ルシフェリアの足元に黄金の十字が走り、焔のように十字の柱が立ち上った。

 

「フン、そのまま果てるがいい」

 

背後でシュトラールに乗りながら剣を振り払い、最後にユーシスはそんな台詞を吐く。

 

しかし、ユーシスの戦技を喰らったのにも関わらず、ロア=ルシフェリアはまだ余裕だった。 すると、膨大な霊圧がロア=ルシフェリアから放たれてくる。

 

「こ、これって……」

 

「なんて威圧感……!」

 

「やばいのが来るぞ!」

 

全員が距離を取り、ロア=ルシフェリアの攻撃に備える中……アルフィンが一歩前に踏み出し杖を掲げる。

 

「万物の根源たる七曜を司るエイドスよ……その妙なる輝きをもって、大いなる加護を与えたまえ」

 

聖句を唱えるごとにアルノールの血による魔力が溢れ出し、杖を掲げて一人一人に陣を展開し、それが合わさり大きな魔法陣となる。

 

「——セイクリッドサークル!」

 

聖なる光が降り注ぎ、それが障壁となって彼らを守る盾となる。 しかし、この戦技の効果は自身には及ばない……これだけではアルフィンだけが無防備になってしまう。

 

「アルフィン!」

 

「皇女殿下!」

 

「月の光よ——クレセントシェル!」

 

「やらせはしない——プラチナムシールド!」

 

レトとラウラがアルフィンの前に武器を盾にして構えながら立ち、エマとユーシスの戦技によって防御を固める。

 

そして、霊力が解放され……ロア=ルシフェリアは目の前に白き影を集わせ、次に頭上に黒き影を集め出した。

 

アインズ・リーグ・ヴェーダ——掲げた黒き影を落とし、白き影にぶつけた。 交わることのない2つの影が融合し……混沌が尋常ではない衝撃となって全員に襲い掛かる。

 

「やってくれたね……! このままじゃやられないね!」

 

「アンゼリカ!」

 

「ありがとう!」

 

飛び出そうとするアンゼリカにミリアムが呼びかけ、アガートラムが右腕を振りかぶる。アンゼリカはウィンクすると跳躍しアガートラムの右腕に乗り……空高く打ち上げられた。

 

「お返しだよ——ドラグナーハザード!!」

 

重力に引かれながら蹴りを繰り出し、一頭の龍となってロア=ルシフェリアの顔面に強烈な蹴りを入れた。

 

「トワさん、ご協力を!」

 

「もちろんです!」

 

戦術リンクを繋げて、示し合わせずに2人は銃を構える。

 

「四属性、上位三属性をセット。 オーバルドライバー、ロード完了!」

 

「目標を制圧します。 ミラーデバイス、セットオン」

 

トワは魔導銃に七耀のエネルギーを充填し、四属性の陣を展開。 クレアは導力を反射するミラーデバイスを複数、ロア=ルシフェリアの周囲に展開する。

 

「レインボー——ショット!!」

 

「オーバルレーザー、照射!」

 

2人同時にトリガーを引いた。 トワの銃から放たれた4つの弾丸は1つに融合して飛来し、クレアの銃から放たれた1発のレーザーは周囲に展開されたデバイスにより反射、それが連続して行われるロア=ルシフェリアの周囲を何度も飛び交い……それにより陣が形成される。

 

そして、2人の戦技が合わさり、巨大な爆発が巻き起こった。

 

「エッヘン! どんなもんだい!」

 

「ミッションコンプリート。 ふふっ、お見事です」

 

ドヤ顔で胸を張るトワに、クレアは髪をかきあげながら微笑まそう笑う。

 

だが、衝撃を腕を振るって払いのけ、ロア=ルシフェリアは健在。 咆哮を上げると、周囲の影が集まりだし、数体のセイクリッドオーダーを生み出した。 白き影で構成された、丸い体と腕しかない、緋い一つ目が特徴的な魔物だ。

 

「これは……!」

 

「囲まれた!」

 

セイクリッドオーダーの群れは一斉に後方に向けて視線を向け……その赤い目から光線を一斉に掃射してきた。

 

「クレセントミラー!」

 

それをレトの十八番であるノーモーション、無駆動で発動させたクレセントミラーで防ぎ、弾き返す。 その光線の弾幕の中で、高速で移動する影が駆け出し光線をかいくぐりながらフィーが双銃剣を構える。

 

「これで決める——アクセル……!」

 

掲げた手を振り下ろして飛び出す体勢を取ると……フィーの姿が横にブレ、フィーが6人に増え、ロア=ルシフェリアの周囲を取り囲み、あらゆる方向から接近して攻撃と離脱を繰り返す。

 

「シャドウ——ブリゲイド!」

 

最後に6人全員一斉に襲いかかり、ロア=ルシフェリアとセイクリッドオーダーを巻き込んで飽和攻撃を繰り出した。

 

「こうして……!」

 

影蕾——銃剣より撃たれた銃弾がロア=ルシフェリアの白き影に着弾し、一瞬だけその動きを縛りつける。

 

「リィン!」

 

「こおおぉ——神気合一ッ!!」

 

リィンは己の中に渦巻く“鬼の力”を解放し、黒眼黒髪が灼眼銀髪に変化するのに加え、大幅に身体能力を高めていく。

 

「兄様!」

 

「ああ!」

 

『オーバーライズ!!』

 

そしてシュバルツァー兄妹のアークスが赤く輝き出し、一瞬で傷が癒え気力が回復した。 その間に、エマは魔導杖に込めた魔力を解放する。

 

「天道を司りし、大いなる星々よ! その神秘なる輝きを以って我が声に応えよ!」

 

魔導杖の宝玉に自身の魔力を乗せ真上に天高く放ち、虚ろな空に六芒星と十二星座を模した魔法陣が展開される。

 

すると、六芒星の中心が歪み……中に宇宙が現れた。

 

「——ゾディアックレイン!」

 

次の瞬間、無数の球体が落下し、ロア=ルシフェリアに降り注ぎ、セイクリッドオーダーは一掃される。 その最中、エリゼは爆発の合間を潜り抜けて距離を詰める。

 

「兄様の道を作るため……参ります、どうかお覚悟を」

 

レイピアを構え、未熟ながらも迷いのない踏み込みで斬り込んで行く。

 

「はあああ——秘剣・鳳仙花!!」

 

バレエのように回転しながら剣筋に力を溜め回転斬り、解放された剣気が渦となって斬り払った。

 

「兄様!」

 

「無明を切り裂く閃火の一刀——はあああっ!!」

 

裂帛の気合いと同時に太刀を振り下ろし、その刀身に焔を纏わせる。

 

「はっ! せい! たあ! おおおおっ……!!」

 

一気に距離を詰め、縦横無尽に太刀を振るい……その太刀筋が赤い軌跡となって宙に残り、背を向けたリィンはゆっくりと太刀を納刀し……

 

「終ノ太刀——暁!!」

 

鍔が鳴り、それが引金となって残っていた斬撃が拡散するように爆発した。

 

この怒涛の攻撃にさすかのロア=ルシフェリアはよろめき……さらに霊力を上げていく。

 

ダール・ゼ・エーヴ——右手を足元に向け、地面に白い影を打ち込み、全方向に衝撃を放った。

 

「くっ……!」

 

「うわぁ!!」

 

レトやフィーと行った身軽な者はギリギリの所で回避したが、あまり身軽でない者は衝撃を喰らってしまう。

 

しかし、ラウラの避けた先に……ロア=ルシフェリアが身構えていた。

 

「しまっ——」

 

「ラウラ!」

 

アーク・ゾック・オンケイム——待ち構えていたロア=ルシフェリアの胸に白き闇が渦巻き……ラウラが吸い込まれる瞬間、レトが彼女を押し出し、身代わりとなってロア=ルシフェリアの中に取り込まれてしまった。

 

「レト!!」

 

「は、早く助け出さないと……!」

 

「いや、アイツの事だ。 すぐに——」

 

すぐにでも救出しようとする前に……ロア=ルシフェリアの腹を裂くように黄金の剣が突き出してきた。

 

黄金の剣は上に上がり胸まで切り開くと、中からげんなりとした顔のレトが出てきた。

 

「なーんでいつもこんな役回りなのかなぁ……?」

 

「ラウラを庇ったからじゃない?」

 

「そういう運命とか?」

 

「……納得がいかない……」

 

愚痴りながらもロア=ルシフェリアの中から脱出し、着地したレトの前にシャロンが現れる。

 

「レト様。 ご一緒に、お願い致します」

 

「はい、やり返します!」

 

優雅にお辞儀をしながらのシャロンのお誘いにレトは乗り、2人は一気に駆け出す。

 

「死線の由来、とくとご覧あれ」

 

「剣帝の片翼、受けてみよ!」

 

シャロンはロア=ルシフェリアに何度も切り掛かりながらその後に鋼糸を張り巡らせ、レトは“分け身”で7人にまで増えると一斉に斬りかかる。

 

『——秘技!』

 

シャロンは鋼糸を握ったまま手を掲げ、レトたちは張り巡らせた鋼糸をくぐりながら接近し……

 

「死縛葬送! / 洸凰剣!!」

 

掲げた手を鳴らし、鋼糸が弾けると同時に7人のレトたちが高速の一太刀をロア=ルシフェリアに叩き込んだ。

 

咆哮と同時にロア=ルシフェリアに緋い霊圧が纏われる。 灰色の虚像に、緋い残滓……恐らくは、先に言っていたエンドオブヴァーミリオンの影響だろう。

 

「行こう、ガーちゃん!」

 

「え……」

 

「ちょっと、ミリアム!?」

 

すると止める間もなくアガートラムに乗ったミリアムは空高く、遥か天まで登り詰める。

 

「トランスフォーム!」

 

そして、ミリアムの指示でアガートラムが輝き出し……ミリアムが騎乗可能な巨大な大砲が現れた。

 

「ちょっと変形もう一回やって!?」

 

「あはは、質量とか色々無視してるね……」

 

「狙いを定めて——ギャラクシィカノン、発射ーー!!」

 

地上に向けられた砲門から、極大の光線が発射され、ロア=ルシフェリア

 

「ヴィクトリー!」

 

「殺す気か馬鹿者!」

 

だが、余波はかなりのもので、防御の戦技やアーツなどを張っていなかったら味方まで被害にあっていた事だろう。

 

「まだ倒れないのか!?」

 

「くっ、飛ばし過ぎて、もう力が……」

 

大技やS戦技など最初から飛ばして戦い続けていたため、疲労はすぐに蓄積されてしまう。

 

「皆さん、立ち上がって下さい!」

 

アルフィンがアーツの駆動を開始した。 しかし、アルフィンが発動させようとしているのは普通の魔法ではない。

 

「——三位一体の(しろ)、司るは龍は……龍は……」

 

「殿下?」

 

呪文を唱え始めるが、途中でどもってしまっているアルフィンに何かあったのかと思うと……

 

「…………以下省略! ロストアーツ発動!」

 

「ええっ!?」

 

ただ単に呪文だ思いつかなかっただけのようで、アルフィンはほぼやけっぱちになりながら片手を天に掲げ、ロストアーツを発動した。

 

テンペストロア——地脈から現れた三頭の龍による生命の息吹がレトたちに活力を与える。

 

「これなら……!」

 

——紅鬼炎斬

 

「決めるぞ!」

 

——蒼焔ノ太刀

 

レトの剣に紅き炎が、リィンの太刀に蒼き炎が纏われる。

 

「はああああっ!! / おおおおおっ!!」

 

裂帛の気合いと共に2人の剣が、2色の軌跡が交差するように炸裂。 ロア=ルシフェリアの胴体が斜め十字に斬り裂かれ、徐々に青白い光が溢れ出し……断末魔のような咆哮を上げ、消滅した。

 

そして、爆散するようにその白い残滓がまるで花びらのようにこの空間に降り注ぐ。 激戦の後だが、その美しい光景に目を奪われる。 よく見ると周囲に刺さっていた剣も無くなっていた。

 

「………………」

 

「は、はは……」

 

「……ふふっ……」

 

「……やったね」

 

全員の勝利に、VII組の面々は自然の笑みがこぼれる。

 

「ああ……“我ら”の勝利だ」

 

「虚ろな世界に色が咲く……綺麗な世界だね」

 

「これで……終わりか」

 

「……はい。 少なくともこの地では……」

 

「忘れられない……一刻となったな……」

 

「うん……本当に……」

 

「あー……楽しかったぁ!」

 

強敵で、倒せたことに喜びが胸の中にじんわりと広がって行くが……終わってみれば達成感と共に寂しさを覚えてしまう。

 

「あれ……なんでボク……」

 

その時、満足気に笑顔を見せていたミリアムが、目尻に本人が意図せずに涙が出てくる。

 

「……ミリアム……」

 

「お前……」

 

「涙を……」

 

「あはは、やだな……ボク、オジサンに言われて潜り込んだだけなのに……なんでこんな……」

 

以前、ミリアムは涙を流せない、流したことがないと言っていた。 そんなミリアムが無意識に流した涙……アリサはミリアムに歩み寄り、後ろから優しく抱きしめる。

 

「いいの……いいのよ」

 

「……そなたも我らの仲間だ」

 

「哀しい時は……泣いていいんだと思います」

 

「そだね……わたしたちも」

 

「うううっ……あああっ……! わあああああんっ……!」

 

「……ううっ……」

 

「…………っ…………」

 

「……グス………」

 

「……っく……ああ…………」

 

溢れ出る涙は止められず、声を上げて泣き出すミリアム。 それにつられて、女性陣は次々と涙を浮かべ、静かに嗚咽する声が漏れ出す。

 

「き、君たち……いい加減にしたまえ……」

 

「うううっ……僕たちだって……」

 

男性陣は表立って泣く事に躊躇はあるが、それでも涙は止められず。 だが、だからこそ涙を流せないよう耐える。

 

「フン……最後にこんな……」

 

「だが……我慢は無用だろう……」

 

「…………そう……だな……」

 

「……………………」

 

色々な出来事や、別れ……様々な事が重なりながらも気丈に振る舞い続けてきたレトたち。 そしてその溜め込んでいたものを吐き出すように、この時だけは……

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

3月25日——

 

士官学院・最終日……ライノの花が完全に咲き誇り、風に花びらが舞い散る中……トリスタ駅の前で私服に荷物を持ったレトたち《VII組》……いや、サラ教官とシャロンを含めた第3学生寮の12人と2匹を制服姿のリィンが見送っていた。

 

「——それじゃあ、お別れだな」

 

「リィン、元気でね」

 

「手紙……書きますね」

 

「ああ、みんなも元気で。 どうせまた……すぐに会えそうな気もするしな」

 

「ふふっ……そうね」

 

「帝国は広いとはいえ、我らにとって然程ではなかろう」

 

「どんなに離れていても僕らは繋がっていて、その気になればいつでも会いに行けるからね」

 

「うんうん、ボクなんかガーちゃんでひとっ飛びだし」

 

「あくまで一時の別れ……そう信じている」

 

「今はそれぞれ、為すべきことを果たすのみだ」

 

「ん、それが済んだら……」

 

「ああ——お互いに頑張ろう」

 

サラたちには分からないが、レトたちにだけ交わされた約束を果たすため……リィンより一足早くレトたちはトールズを卒業する。

 

「うんうん。 ライノの花もいい感じで咲いてくれたし」

 

「門出の季節、ですわね」

 

「ま、この風景はちょっと名残惜しいかな?」

 

サラ教官やシャロンたちも彼らの門出を祝ってくれる。 そして、示し合わせていたかのようにレトたちは頷き……一斉にサラ教官の方を向いた。

 

「え、え、何?」

 

「——サラ教官」

 

「この一年間……」

 

『どうもお世話になりました!』

 

「…………ぁ…………」

 

レトたちはこの一年間、彼らをを指導してくれたサラ教官に感謝し……お礼を言った。

 

「我らがこうして、新たな門出を迎えられたのも教官のおかげです」

 

「無茶苦茶な指導だったが……まあ、色々とためになった」

 

「サラ教官がいてくれたから、僕たちはここまで来られたんです」

 

「ふふっ、最後にみんなで一言お礼を言おうと思って」

 

「こうして……不意打ちさせてもらいました」

 

「また機会があれば、よろしく指導をお願いする」

 

「アンタたち……」

 

サラ教官は少し呆けた後、目元を潤わせ……口元を手で押さえて泣き出してしまった。

 

「グス……もう、冗談じゃないわよ……最後までカッコよく……素敵なお姉さんで……決めようと思ったのに……」

 

「サラ、ムシが良すぎ」

 

「ドッキリ大成功だね」

 

「ちょ、ちょっとやりすぎたかも……」

 

「……エマ君、さすがにあざと過ぎたんじゃないか?」

 

「そ、そうみたいですね……クラス委員長として最後に何か提案できればと思ったんですけど……」

 

「って……アンタたちの発案かい……!?」

 

涙をぬぐい、サラ教官は怒りを露わにすると同時に驚愕した。

 

「やれやれで」

 

「フフ……いいオチが付いたね」

 

少し離れた場所でセリーヌとシャロンが微笑ましそうに彼らを見つめる。 そして、レトたちはリィンに別れを告げてトリスタ駅に入って行き、ほとんのがヘイムダル行きの列車に乗る中、レト、ラウラ、ユーシスは反対側の列車に、今度はトリスタ別れを告げ……列車乗り東に向けて走り出した。

 

この列車は大陸横断鉄道。 レグラムき向かうラウラはクロイツェン本線に乗り換えるため、1度ケルディックで降りなければならない。 ここで2人は別れる……

 

「じゃあね、ラウラ、ユーシス」

 

ラウラとユーシスがケルディックのホームに降り、レトは列車の出入り口の前で2人を見送る。

 

「気をつけるがいい。 帝国の駒にならなくなったとはいえ、今度は共和国の駒にならないようにな」

 

「あはは。 肝に命じて置くよ。 ……ラウラも、元気でね」

 

「………………」

 

ユーシスはいつも通り皮肉気味に言うが、その裏返しな心配しているとレトは知っており。ラウラは顔をうつむかせたまま無言を貫き……しばらく間を置いてから顔を上げた。

 

「……レト……そなたの心配は恐らく無用だろう。 だが——」

 

決心して二の句を言う前に、レトはラウラの頬に手を伸ばし、顔を近づけてその額に軽く唇をつけた。

 

「な……!? な、な、な、なっ!?」

 

突然のことにラウラは言葉を失い、物凄い速度で後退りし、頰はおろか耳まで真っ赤にして狼狽している。

 

「やれやれ……お熱いことで」

 

「《剣士の誓い》だよ。 必ず無事に帰ってくる、僅かでも希望の光を見つけ出してね」

 

「わ、私が言いたいのはそういう——」

 

ラウラが言葉を紡ぐ前に、2人の間にドアが挟み込み……ゆっくり列車は走り出した。 いつの間にか発車定刻になっており、ラウラは列車を追いかけるように走りながら叫んでいるが、レトはあえてその叫びを聞かず……列車はラウラを置いてケルディック駅を出て行った。

 

出発してから、レトは列車後部にある貨物室に向かい……そこで膝を立てて鎮座していた緋い騎士人形……テスタ=ロッサを見上げる。

 

「さて、後が怖いけど——行こう。 世界を終わらせないためにも」

 

「ナァー!」

 

『よかろう』

 

道は別れてしまったが、またすぐに繋がる時は来る。 この世界の運命を左右ような出来事が起こる……その時こそ、仲間たちと乗り越えるために、レトは自分の道をただひたすらに歩き続ける。

 

「さあて、お宝探しの始まりだ!」

 

「ナァーーー!!(特別意訳:違うだろ!)」

 




閃3に当たってレトを第II分校に入れるのは、皆さん予想通りかもしれない。

しかし問題が……組み分け、どうしようかなぁ?

レトはどうするべき?

  • VII組の副教官
  • 分校の組を増やしてX組の教官
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