「アイタタ〜……な、何が起こったの……?」
いきなり落とし穴に落とされた4名、ソフィーは尻餅をつきながら痛む部位をさすっていた。
「……あれ? シンラは……?」
「……あー……いいか?」
「ほえ……?」
彼の声がソフィーの真下から聞こえてきた。 ソフィーは頭を下げて下を見ると……ソフィーはシンラの顔面に跨っていた。
「あ、シンラ」
「“あ、シンラ”じゃねーよ。 真っ暗で何も見えないが、俺はどこに顔を突っ込んでいるんだ?」
「ほっ……」
シンラが手を動かして顔に乗るソフィーを退かそうとしていると、3人に遅れて勢いよく滑り落ちていたレトは先が見えると軽く飛んで華麗に着地する。
「みんな、大丈……夫?」
3人の無事を確認しようとし……ソフィーとシンラの状況を見て言葉を詰まらせるレト。
「あ、あのレト教官……?」
「どうやらリィンとは別々の場所に落とされたみたいだね」
「み、見て見ぬ振りした……」
——パチーーン……
「ん?」
現実逃避をするようにソッポを向くと……どこからか、微かに張りのある乾いた音が響いてきた。
(……なんかデジャヴ……)
「先生?」
「何でもないよ」
レトは何でないと首を横に振る。 と、ようやく2人が立ち上がり、ソフィーはスカートを軽くて叩に少しだけ顔を朱に染める。
「シンラ、見た?」
「暗くて見えなかった」
「そ」
「……え、それでいいんですか!?」
意外にあっさりと終わり、話を改めてレトは辺りを見回す。 壁に沿うように台座が並んではいないが……まるで2年前、当時の旧VII組が落とされた状況と同じ感じの部屋のようだ。
「いきなり落とされてしまったけど、予定通り要塞の攻略に移る。 戦闘時のポジショニングの確認のため、3人の武装を見せて」
「えっと……本当にやるんですか?」
「ここに落ちてしまった以上、攻略する以外にここを出る手段はないでしょう」
チラリと、後ろを向いて見上げると……滑り落ちてきた落し穴が塞がっていた。
「安全に、かつ確実にここを出るためにも戦闘スタイルを知っておきたい。 特にルキアのをね」
「わ、分かりました」
「——なら、俺から」
シンラは腰に手を回し、同じ長さの2つ棒が鎖で繋がれた武器……ヌンチャクを軽く振り回しながら取り出し構えた。
「珍しい武器ですね」
「これはヌンチャク。 共和国で
シンラは感覚を確かめるように背に回したりしてヌンチャクを振り回す。
「なるほど。 また腕を上げたね」
「師匠が帝国に去ってからも一から基礎を鍛え、功夫を積んできましたから」
「それでソフィーちゃんのは……」
「ほい来た!」
待ってましたとばかりに、ソフィーはコート下から表紙に二又の槍のような模様が描かれた側が若葉色の表紙の、両手で抱えるほどの一冊の本を取り出した。
「あたしはこの書物が武器なんだ。 いわゆる
「物質化?」
「簡単に言えば物理攻撃と魔法攻撃……1度の攻撃で両方の効果を発揮出来るってこと」
「
「そして! あたしの助手たるヘイス! この子も参加するよ」
「ワン!」
パパーン、と両手をヘイスに差し出すソフィー。 それに応えてヘイスは一鳴きする。
「本当に大丈夫なの?」
「先生のルーシェに出来て、ヘイスに出来ない道理はありません! 別に最初からヘイスに“たいあたり”や“かみつく”や“ひっかく”なんて事はさせません。 あくまでサポート的なものです」
「あ、“なきごえ”や“ほえる”はするかも」と付け加えるが、レトとシンラの興味はすでにルキアに向けられていた。
「な、なるほど……それでは、次は私ですね」
心配ながらも話は進み、次にルキアが左手で大きめな帯を抜き取り。 その中から少し大きめなナイフを3本、右手の指の間に持った。
「帯……?」
「いや、中に無数のナイフが入れられている」
「投擲用のナイフです。 基本は接近して切って刺したり、状況に寄っては投擲をします。 けど、あまり人に見せられるような腕前じゃないんです……」
「謙遜することはない。 今思い出したけど、暗闇の中で動き回る的を正確に当てるのは至難の業……自信を持って」
「は、はい……」
レトに励まされ、ルキアはナイフを上に投げ、落ちてきたナイフを流れるように帯の中に納める。
(確かに。 謙遜する割には淀みない体捌きだな)
「うわぁー、凄いナイフ捌き! 他に何隠し持ってるの?」
「別に隠し持ってません!」
「ははっ——最後は僕だね」
3人の武装を確認し、最後にレトが腰から自身の得物である身の丈を超える槍……和槍を抜き構えた。
「槍……あれ、でもあの時は剣を……」
「レト先生は槍、銃、剣などなど、色んな武器を使い分ける事が出来るんだぁ」
「加えてブーメランやら鉤爪ロープやら、色んな道具も持っている。 器用貧乏でないのが羨ましい限りだ」
「何でもそつなく使いこなすからねぇ」
「ルキアはもちろん、ソフィーとシンラも閉鎖空間内で初めての集団戦闘。 今日は槍だけを使って行こうと思う」
後は軽くポジションを決めたりし、戦術を一通りまとめ……レトたちは要塞内に入るため、入り口の前に立つ。
「——これは“実力テスト”。 そこまで複雑化されてはいないと思うけど、油断せずに後に続いてね」
「はーい!」
「了解」
「が、頑張ります……!」
「それでは早速、攻略を開始します。 ちなみにこちらからの応答は“イエス・サー”ではなく“ニャン・ニャー”と言うこと!」
「はい! …………え?」
「「ニャン・ニャー!」」
ニャンで気を付け、ニャーで敬礼をするソフィーとシンラ。 そして先に歩いて行くレト、後に続くソフィーとシンラにルキアはコソッと話しかける。
「えっと……以前からこういう事を?」
「ううん、今日初めて聞いた」
「まあ悪ふざけかジョークの類だな」
「皆さんノリいいですね!」
緊張をほぐすような冗談はさておき、レトたち一行は扉をくぐり要塞内に入り、早速一角の鼠型魔獣……シャイリーンが要塞内を徘徊しているのを発見した。
「ほ、本当に魔獣がいます……」
「でも小さいな」
「わぁ、綺麗な魔獣! あの角、錬金術に使えるかも! 生け捕りにしましょう!」
「それは後でね」
興奮して先走ろうとするソフィーの首根っこを掴んで後ろに放り投げる。
「先ずはお互いの武器の間合いと感覚をつかむため1人1体、各個撃破する」
この和みすぎた空気に緊張感を出すために、レトは漏れ出るように少しだけ殺気を放ち、ピリッとした緊張が3人に走る。
そして4人はそれぞれの武器を取り出し、シャイリーンの群れを前にする。
「よっ」
軽く一呼吸でシャイリーンとの間合いを詰め、頭上に掲げた振り下ろした槍の穂と棒を繋げるけら首がシャイリーンの脳天に振り下ろされた。
手を抜いているとはいえ虚をついた一撃、シャイリーンは一撃で消滅し。 残りがレトたちを発見すると同時にレトは即座に後退する。
「はっ!!」
入れ替わるようにシンラが飛び出し、身体の捻りを加えたヌンチャクの打撃でシャイリーンを壁に埋め込むような勢いで吹き飛ばした。
「とりゃっ!」
その隣にいたシャイリーンが、ソフィーが掛け声とともに虚空に創り出した青い刃によって切り裂かれる。
「えいっ!」
最後にルキアが右手の間に挟みこんでいた3本のナイフを助走を付けて投擲し、後方にいたシャイリーンを射抜き……レトたちの最初の戦闘を終えた。
「うん、中々いいね」
戦闘結果を見て、レトは満足する。
「シンラとソフィーは合わせられて当然だけど、ルキアもよく合わせてくれたね。 銃のような手元から離れる武器は同士討ちが多いけど……あの正確さや迷いの無い動きは流石だよ」
「い、一応……皆さんに当ててしまはないか、かなり緊張していました……」
そう言いながらも魔獣消滅により落ちたナイフをを手際よく回収している。
「しっかし
「そこの所も、ミハイル少佐とかが事前に調べられて組まれたんだと思う」
それ以外の理由も予想されるが、それは今はいいだろ。
「もう少し魔獣との戦闘を繰り返してお互いの戦いを把握していく。 歩くことを止めず、常に考えて行動するように」
「はい!」
「「ニャン・ニャー!」」
「それまだ生きてたの!?」
レトたちのノリについてこれないルキアは戦闘よりも疲弊を感じてしまう。
しばらく色も景色変わらない閉鎖空間を進み、度々出会う魔獣と戦いながら連携の精度を徐々に向上させて行く。
「——あ。 液状タイプの魔獣ですね。 ああいうタイプは物理に強く、魔法に弱いはずです」
「ならここは、錬金術師のあたしの出番。 ちゃっちゃと終わらせちゃうよー!」
我先にとソフィーが前に出る。 右手にアークスII、左手に魔導書を構えるとアーツの駆動に入る。 しかし、駆動時に足元に出現する青い陣が通常よりも一回り以上大きかった。
「アークスと魔導書……
「お」
「え……!?」
驚きの声が届くと同時に駆動が完了し、魔法を放つ。
「アイヴィネイル! ブルーアセンション!」
すると魔獣の足元から刺々しい茨が伸び、頭上から巨大な水球が同時に襲いかかり……あっという間に倒してしまった。
「へへーん! こんなもんだねー」
「凄い……2つの魔法を同時に使うなんて」
「錬金術師として当然だよ」
「よく言うぜ。 この前まで上手くいかないってベソかいてたくせに」
「あー! それ言わない約束ー!」
鼻を高くして調子が乗っているソフィーにシンラはにべもなくそう言い、ソフィーはポカポカとシンラを小突き出す。
「でもどうして今回はそんなアッサリ出来たんだ?」
「うーん、このアークスIIのおかげかも。 前の戦術オーブメントより繋がりが強いからかな? 特に2つの魔法が干渉せずに駆動する事が出来たよ」
「な、なんだかよくわかりませんけど……凄そうです」
ソフィーはもちろん、その後もシンラ、ルキアも続いて実力を発揮して魔獣を退け。 レトも3人をフォローしながら彼らを率いる。
「……手強そうなのがいるね」
「突破口は見え見えだが、一苦労しそうだな」
順調に進んでいると……目の前にレトたちの倍の高さがある触手があるナメクジのような魔獣……オルゲンギガントと、オルゲンギガントより小さいジューシーオルゲンの群れと遭遇した。
「ふむ……《戦術リンク》を試すのにちょうど良さそうだね」
魔獣を横目に見ながらレトはアークスIIを取り出し、戦術リンクについてを口にする。
「《戦術リンク》……レト先生から話には聞いていたけど」
「話に聞いてもよく分からなかったな」
「戦術リンクは感覚的なものだからね。 説明するより、自分の自身で体験してもらった方が早い。 早速セッティングを行おう」
事前の準備で4人はリンクを繋げ、早速戦術リンクの効力を試すため魔獣と交戦に入り……今までより早く、戦闘を終えた。
「ふぅ……初めてにしては上出来かな」
「これが《戦術リンク》……」
「まるでみんなと“繋がった”ような……」
「不思議な感覚でした。 でも、手応えはかなりあったと思います」
「今後、実戦では《戦術リンク》がとても重要になってくる。 なるべく早い段階で慣れれば、淀みなく連携が取れるようになる。 今の3人にはまだキツイかもしれないけど、戦術リンクを駆使すれば勝てない相手じゃない。 最後まで油断せず、迅速に対応するんだ」
先程の戦闘で付いた埃を払いながら、レトは槍を肩に担いで先の通路の方を向く。
「さてと……この調子で行けばリィンたちより早く終点に着くかもね」
「競争しているわけじゃないけど……遅れるのはやだなぁ」
「あのジジイに“この程度か”とか言われるのは腹立つしな」
「ま、そう言う事。 やっ! と」
シンラたちが先に進もうとした時……レトが振り返り側に彼らに向かって槍で突きを放った。 突然の出来事に3人は反応出来ず……槍は3人の横を抜け背後にいた、倒したはずの魔獣の額に突き刺さった。
それにより魔獣は完全に倒れ、消滅した。
「!? まだ息が……!」
「でも、生きていたならどうして戦闘が終わった後も動かないで……」
「恐らく、アレだろう」
シンラが指差す先に、地面に軽く穴が開いているような場所があった。
「銃弾痕?」
「さっきまであのデカブツの影があった位置だ。 “
「そんな事を……戦いながら一瞬で……」
「ただの保険だよ」
「というか、槍しか使わないんじゃ?」
「保険です」
『——皆さん、足が止まっていますが、どうかしましたか?』
と、そこで頭上からオペレーターの少女の心配そうな声が降ってきた。
「何でもないよ、ティータ。 すぐに再開する」
『了解しました! もう1組ももうすぐ終点に到着します。 レトさん達も引き続き気をつけて進んで下さい!』
心配そうな声から元気になった少女……ティータは激励を送ると通信を終了した。
「知り合いなんですか? あの金髪の子と?」
「リベールで知り合ってね。 それ以来の縁で、会うのはかれこれ3年ぶりくらいかなぁ」
「3年前のリベール、って……もしかして……」
再び攻略を再開。 同じ事を繰り返しながらしばらくして……
「うわーん! ごめんなさーーい!!」
ベソかいて泣きながらソフィーが謝っていた。 その手には袋が握られており、その中には……大量のイガグリがあった。
「痛って! このイガグリが良過ぎじゃねえか?」
「いや、イガグリは生きていない……と思うよ? 多分……」
レトたちは散らばってしまったイガグリを慎重に集める。
「ソフィーちゃん。 何でこんなにいっぱいイガグリを持ち歩いていたの?」
「出発前に作ってたのを持って来ていただけなんだけど……袋の紐を結ぶのを忘れてたよ……」
「クゥン……」
ヘイスも責任を感じているようにしおらしくなっている。 そんなこんなで時間がかかりながらも、ようやく全てのイガグリを集め終える。
「ふぅ、これで全部だね」
「すみませんでした……」
思っていた以上に時間を取られてしまい、急いで進もうとした、その時……不意にレトとソフィー、ヘイスが通路の先から何かの力を感じ取った。
「今のは……?」
「この感じ……」
「グルルル……」
「……? どうかしましたか?」
「……妙な氣を感じるな……」
何か異変を感じ、レトたちは遅れを取り戻すように先を急ぐ。 すると終点と思われる開けた空間に出ると……そこには両腕が異様に大きい魔導ゴーレム……魔煌兵《ダイアウルフ》が先に到着していたリィンたちと交戦していた。
「な、何あれ!?」
「巨大な人形!?」
「よっ」
シンラたちがダイアウルフに驚く中、レトはダイアウルフの胸部に槍を投擲し、注意をこちらに向ける。
「やっほーリィン、どうやら無事みたいだね」
「レト!」
苦戦して消耗はしているが、リィンたち4人とも大事には至っていないようだ。
「
「それは後でお願いします……」
「そもそも残るのか? あれ」
「レト! ブレイブオーダーを使うんだ!」
ソフィーの興奮の仕様をスルーしながら、レトはリィンに言われて今思い出したかのようにアークスIIを取り出す。
「ブレイブオーダー? ああ、そう言えばそんな事言ってたっけ……」
オーダーを起動させようと操作すると……レトを含めたシンラ、ソフィー、ルキアの4人が淡く青い光に包まれる。
「これは……」
「さっきと同じ光……」
「オーダー……アストラルソウル!!」
レトはふと、脳裏に浮かぶだ単語をアークスIIを構えながら叫ぶと……翠色の光がシンラたちを癒すように身体にまとわりつく。
「おおっ!?」
「何か……キタァーー!!」
「力が湧き上がってくる……!」
レトのブレイブオーダーの効果からか、シンラたちの気力が一気に高まっていく。
「敵の動きを止める。 その隙に畳み掛けるんだ!」
「「「はいっ!!」」」
3人に指示を出しながらレトは槍を投擲する構えを取り、ダイアウルフ……ではなくその足元にある影に向かって投擲する。
「影蕾——狂蘭」
影突き刺さった槍。 するとダイアウルフ自身の影から黒い槍……無数の影の槍が飛び出し、ダイアウルフの四肢を貫き動きを封じた。
「
全身の捻りとヌンチャクの回転によって放たれた衝撃は、腕を交差して防ぐもダイアウルフの両腕を砕き、地面を引きずりながら大きく後退させる。
「フォースブリッツ——えいっ!」
ひとりでに魔導書のページが開き、開かれたページに模写されていた魔法陣がソフィーの目の前に展開。 収束して黄緑色の光弾となり、腕を振るって光弾を弾き飛ばす。
「リ・ロンド!!」
ルキアは両手の指の間に挟んだ6本のナイフで何度も切り掛かり、身体中に無数の切傷をつける。
「えいっ、やあっ!」
「はあっ!!」
「やあっ」
さらに隙を見て少しだけ動けるようになった3人が攻撃を繰り出し……
「緋空斬——!!」
最後にリィンが抜刀による燃える斬撃を飛ばし、ダイアウルフを斬り裂く。 だが……ダイアウルフはなおも立ち上がり、レトたちを攻撃しようとする。
「ッ、まだ動けるのか……!」
「いい加減に——」
「あ!? ちょっ、それ!!」
シンラはソフィーから何かが入った袋を奪い取る。 ソフィーは取り返そうとするも、その前にシンラはその袋をダイアウルフに向かって振りかぶり……
「しろっ!!」
「あたしのイガグリーー!!」
全力で投げる。 袋から大量のイガグリが散乱し、ダイアウルフに降り注ぐ。 ソフィーのイガグリは通常より遥かに硬く、重い鉄球のようで……ダイアウルフの身体に無数の傷をつける。
そして、レトはダイアウルフの真下に潜り込み、落ちてきたイガグリの中の一つに向かって大きく槍を振りかぶり……
「イガノック!!」
豪快に振り抜いた槍の穂でイガグリを全力で打ち上げ、高速の硬いイガグリがダイアウルフの顔面に直撃。 一瞬だけ足が浮き、ダイアウルフは背から倒れ……そのまま消滅していった。
「はあはあ……た、倒せた……」
「……っ…………はあはあ…………」
「……体力低下。 小休止します」
「あ……大丈夫? 今回復するね」
ソフィーがアークスIIから送られる回復魔法の術を魔導書を経由して増幅、この場にいる全員の体力と怪我を回復させた。
「あ……」
「疲れが……」
「外傷、及び疲労度の回復を確認。 かなり高度な回復魔法ですね」
「ふぅ、全力を尽くすって結構疲れるんだな」
「……………………」
初の強敵との後にへたれ込み、ソフィーの回復を受ける彼らにリィンは視線を向ける。
『お、お疲れ様でした! テストは全て終了です!』
と、そこでテストの終了が告げられた。 ようやく終わったとレトたちは軽く一息つく。
『——博士、いくらなんでも無茶苦茶ですよ〜!』
『フン、想定よりも早いか。 次は難度を上げるとして……』
『あううっ……聞いてくださいよ〜っ!?』
通信の先では恐らく、シュミット博士が管制室から早々と出て行くのを少女が止めようとしているようだ。
「……滅茶苦茶すぎだろう」
「次って、また同じことをやらせようってわけ……?」
「可能性は高そうですね」
「やったー! 素材取り放題〜♪」
「気にするところそこかよ」
「あ、あははー……」
「——いずれにせよ、“実力テスト”は終了だ」
「……ぁ…………」
何はともあれと、リィンは座り込むピンク髪の女子に手を貸して立ち上がらせる。 残りの2人も自力で立ち上がる。
「……すみません」
「3人とも、よく頑張った。 レトたちもありがとう。 しかし、もっと早く来ても良かったんじゃないか?」
「あ、あはは……ちょっとトラブっちゃってね。 でもまあ、アークスIIの機能も問題なく使えたし……結果オーライだよ。 それよりも……リィン、締めとして、VII組の担任としてのお言葉を頂けますか?」
「まったく……」
調子のいいやつだと思いながらも、リィンは再び口を開く。
「《VII組・特務科》——人数の少なさといい、今回のテストといい、不審に思うのも当然かもしれない。 士官学院を卒業したばかりでロクに概要を知らない俺たちが共感を務めるのも不安だろう。 先ほど言ったように、希望があれば他のクラスへの転科を掛け合うことも約束する」
「……え、聞いてないんだけど……」
「ああ、すまない。 要塞を攻略する最中に言っていたから、知らなくて当然か。 だが、そちらの3人にも今決めてもらいたい——VII組に参加するか、君たち自身で決めて欲しい。 自分の考え、やりたい事、なりたい将来、今考えられる限りの“自分自身”の全てと向き合った上で」
(最後は自分で、か……そこまで沿うんだね。 けど、それが《VII組》に所属するための大事なことだからね)
すると、少し沈黙の後に先にユウナ・クロフォードと、クルト・ヴァンダールが大胆にも生意気な事を言いながらも、《VII組・特務科》の参加を表明し。 アルティナ・オライオンも時間をかけて考えながらも、リィンの納得する理由で参加を表明した。
「これで3人か……こっちからもそろそろ参加を決めて欲しいかもね?」
「なら、お言葉に甘えて——シンラ・ウォン。 《VII組》に参加します。 共和国人である俺がここにいるのは本来、異常なのかもしれない。 祖国への裏切りと取れるかもしれないし、共和国軍と対立する可能性も大いにある」
しかし、シンラは「だが」と続ける。
「そんなの、俺には関係ない」
「え……」
「は?」
思いがけない答えに、ルキアとユウナは呆気にとられる。
「俺は師匠から武を教わり、
「む……」
「高みを目指す——それだけだ。 理由としては不服だろうか?」
「……いや、充分だ。 だがこれだけは質問させてくれ。 もし、同じ共和国人と戦うことになったとしたら——君はどうする?」
「戦う」
リィンに質問に、シンラは迷うことなく即答する。
「抵抗があると言われたら否定はできない。 だが戦いに、戦争に善悪なんてありはしない。 俺は俺の信じる道を進む。 他人の価値観、論理観に惑わされるほど俺は弱くはない」
「なるほど……よく分かった。 《VII組》へようこそ、シンラ」
「——ルキア・エルメス。 参加します」
引き続いては、ルキアが名乗りをあげる。
「理由は、ただ漠然としたものです。 私はただの機織りです。 けど、移ろい行く時代と世界に、私と言うちっぽけな機織りがこのままのうのうと織物を織り続けられるのか……私は見てみたいんです、世界の行く末を。 その上で、私は織ります——私が最後まで見てきた日々を織り続けます」
このままでいいのか……そんな疑問に対する答えは他にもありそうだが、彼女はその答えを探しにこの学院を……延いてはこのVII組に答えを見つけられる何かがあると、そう思っていた。
「そうか……この学院に入学して、君が望む結果を目にするという保証はない。 だが理由としてはそれでも構わない。 ようこそ——ルキア・エルメス」
「はい!」
リィンからの歓迎を受け、ルキアは元気よく返事をする。 そんな彼女をレトはニヤついた顔で見ていた。
「へー、そんな事考えていたんだ」
「えっと……変、ですか?」
「うん、変」
「酷い!?」
軽く変人扱いされルキアはガーンとした顔になり、地に肘をつけて四つん這いになって項垂れる。
「次はあたし! ソフィー・リーニエ、《VII組》に参加してあげます!」
「なぜに上から目線?」
「理由……いえ、夢のため。 あたしは将来“最高の錬金術師”になります!」
元気よく夢を語るが、この場にある殆どの者はソフィーの言う錬金術師という単語に首を傾げる。
「たくさん困っている人を錬金術で助けてあげる……それが目下の目標です。 そして、最終的な夢は——
「アルス……マグナ?」
「いったい、何を言って……」
「——ワンワン!」
目標、夢の大きさは漠然として分かるが、それ以外は何も分からないでいると、ソフィーの後ろからヘイスが出てきた。
「っと、そうだった。 この子はあたしの助手のヘイス! ヘイス共々、よろしくお願いします!」
「って、なんで犬を連れ歩いてあるのよ!?」
「……どこから出てきたのでしょうか?」
ひょっこり出てきたヘイスに戸惑いつつも、触りたい衝動にかられるユウナとアルティナだった。
「あ。 ちなみに帝国人とか共和国人とかそういうのには興味ないです。 あたしはほぼ共和国人だけど、祖先はクロスベルから移り住んだと言われてますし」
「え? そうなの?」
「そうなの! だから仲良くしてね、ユウナ!」
「よくは分からないが、その熱意と強い意志はハッキリと感じられる。 ただ、レトもそうだが、後で詳しく説明してもらえると助かる」
「了解ー。 この際だから全員に説明はしておくよ」
「先にここを出たらだけど」とレトは最後に言葉を付け加える。
これで6人……この場いる新入生全員が《VII組・特務科》の参加をこの場で表明した。
「——それでは、この場をもって《VII組・特務科》の発足を宣言する。 お互い“新米”同士、教官と生徒というだけでなく——“仲間”として共に汗をかき、切磋琢磨していこう!」
「ま、気楽にいこうよ」
こうして、違う形になったとはいえ再びVII組は始動した。