英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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大変長らくお待たせしました!!

現実で忙しかったこともありますが、監獄都市で冒険したり、寒冷地帯で狩に生きたり、ガラル地方で冒険したり、FGOやったり……言い訳になりませんね。 ごめんなさい。

本当はオリキャラぶっ込んだせいでどう収拾付けようかずっと悩んでいまして、それと再開するきっかけがあるのですが……


第I章
99話 2度目の学院生活


4月15日——

 

第II分校の入学式から早2週間……通常の学院よりハードなカリキュラムを駆け足で行われ、指導する教師、教わる生徒もとても忙しい学院生活が行われていた。

 

「よっと」

 

その教員、生徒が寝食をする学生寮……朝食を済ませて身支度を整えた人から次々と寮から出て通学していく中、ソフィーがリュックを背負って少し遅れて部屋を出ていた。

 

「ルキア、遅れてごめん」

 

「もう遅いよ、ソフィーちゃん。 みんなもう学院に行っちゃっているよ?」

 

「ごめんごめん。 荷物をまとめるのに手間取っちゃって」

 

多少慌てながらも身支度を整え、2人は自室を出て階下に降りるとクルト、ユウナ、アルティナが軽く談笑している姿があった。

 

「皆、おっハロー」

 

「おはようございます」

 

「おはよう、ソフィー、ルキア」

 

「おはようございます」

 

「……あ。 仲直り出来たみたいだね」

 

ソフィーはクルトとユウナの距離感を何となく感じ取り、そう指摘すると2人は照れ臭そうに目を背ける。

 

「う、うん……」

 

「良かったですー。 お2人をどう仲直りしようかとしていたのですが……ユウナちゃんとクルト君、あからさまに顔を背けていたから」

 

「……少しクラスの空気を悪くしていた事は謝ろう」

 

やはり自覚はあったのか、クルトはバツが悪そうに頭をかく。 と、そこでもう1人のVII組メンバーがいない事に気づく。

 

「そういえばシンラはどうしたんだ?」

 

「ああ、それなら——」

 

「ふぁ……」

 

その時、食堂の扉が開き、中から焼きたてのトーストを食べながら寝そうな顔をしたシンラが出てきた。

 

「よお、おっはよー(サクサク)」

 

「シンラ君、行儀が悪いですよ」

 

「まだ食べていたのですか?」

 

「育ち盛りなもんでね」

 

そう言いながら一気にトーストを平らげるシンラ。

 

「ヘイスはどうしたんだ?」

 

「あの子は部屋で寝てるよ。 本当は連れて行きたいんだけど、ミハイル教官が煩いから……」

 

「まあ、当然よね……」

 

何はともあれ、せっかく《VII組》は全員が揃ったので、ユウナたちは一緒に通学することになった。

 

「ふぅ、でもリーヴスって雰囲気もあって良い街よね〜。 のんびりとしながらセンスのいい店も多そうだし」

 

「ああ……田舎過ぎず、都会過ぎない街というか。 帝都からそう遠くないから程よい距離感なのかもしれない」

 

通学しながら町並みを見回し、

 

「そうか? アンカーヴィルと似たようなもんだろ」

 

「そりゃシンラはそうでしょうね」

 

「以前は、とある貴族の領地だったそうですね。 その貴族が手放した後、別荘地が造成されたものの、諸般の事情で頓挫——その跡地が、第II分校に利用されたとか」

 

淡々と、あまり知られない情報を口にするアルティナ。

 

「さ、さすが詳しいわね」

 

「なるほど、それで都合よくあの規模の分校が造れたのか……」

 

「先に下地が出来ていたから、再利用したんですね」

 

「……ああ、そういえば前に師匠から聞いたことがあったな。 とある貴族が詐欺にあって領地(ここ)を手放すことになって、んでその貴族はリベールまで逃げて盗賊やっていたとか」

 

「ええっ!?」

 

「な、何それ……!?」

 

さらなる情報にユウナはもちろん、ルキアも驚愕しながら軽く後ずさる。

 

「それにしても、帝国の士官学校がこんなにハードとは思わなかったわ。 訓練や実習は仕方ないけど、数学とか物理とか歴史とか芸術の授業まで……」

 

「範囲とかレベルも普通の高等学校よりかなり進んでいるよねー……」

 

VII組の中で勉強がそれほど出来ないユウナとソフィーは大きく溜息をつく。

 

「文武両道は帝国の伝統だからね。 ……特にトールズは大帝ゆかりの伝統的な名門だ。 たとえ分校であってもその精神は変わらないんだろう」

 

「むしろ今年からは本校の方が大きく変わっているようですが」

 

「分校は(ふるい)にかけられて落とされた捨て石(私たち)で、残された玉石たちの本校ですか……」

 

「それは……」

 

入学式で分校長に言われた捨て石という言葉……それが身に染みて聞こえてくる。

 

「? よく分からないけど、気合いを入れるしかないわね。 他のクラスに後れを取られないよう、あたしたちも頑張りましょう!」

 

「……まあ、やるからにはね」

 

「気合いでどうこうなる部分が少ないけどな」

 

「そこは指摘しなくていいよね?」

 

「まあそう言っても、授業の大半がVIII組かIX組との合同ですけど」

 

「うちのクラスはたった6人……他と比べると多いのか少ないのか微妙な人数だからな」

 

「別々なのはHRくらいですね」

 

「うーん、そうなのよね。 人数を考えると当然だろうけど、それじゃあVII組って——」

 

何のためにあるのか、そう疑問に思いながらそろそろ正門に差し掛かろうとすると、

 

「ハッ——選抜エリートが仲良く登校かよ」

 

正門の横、待ち構えていたように金茶髪の男子が両手をポケットにいれ、門に寄り掛かっていた。

 

「あなたは——」

 

「えっと、確かVIII組・戦術科の……」

 

「アッシュ・カーバイド、だったな」

 

「……おはよう。 僕たちに何か要件かな?」

 

「クク……いや、別に? ただ、噂の英雄のクラスってのはどんなモンなのか興味があってなァ。 VII組・特務科——さぞ充実した毎日なんじゃねえか?」

 

「………………」

 

そんなはず無いと、アッシュ自身分かっているはずだが。 アッシュはまるで煽るように彼らを挑発する口調で話しかける。

 

「悪いが、入ったばかりで毎日大変なのはそちらと同じさ」

 

「そうね、()()()()()のクラスだからって、今の所カリキュラムは同じなんだし」

 

「えっと……あたしたちは放課後に別の指導を受けているんだけど……」

 

「そこは例外でいいんだろう。 形式的には部活なんだからな」

 

「フン、だったらどうして、わざわざ別に少人数のクラスなんぞ作ったんだ? 他と違ってあの“オレンジ”が副担任についてやがる。 明らかに歳のおかしいガキもいるし、毛並みの良すぎるお坊っちゃんもいる。 曰く付きの場所から来たジャジャ馬の留学生に、色々と難癖付けて共和国から来たデケェ釜かき混ぜている怪しげな魔女もどきや、無駄飯喰らいのカンフー野郎もいるしなァ。 ついでに存在感が薄そうな女子。 おっと悪い……ジャジャ馬は留学生じゃなかったな」

 

煽るようにアッシュはVII組メンバーの事を指しながら軽く悪口を言ってくる。

 

「……っ……」

 

「無用な挑発はやめて欲しいんだが」

 

「言いたいことがあるならいつでも鍛錬場で付き合うぞ……?」

 

「……私、そんなに特徴ないのかなぁ……」

 

「うわぁ!? ルキアが地味に大ダメージ!?」

 

落ち込んで項垂れるルキア。 そんな彼女をユウナたちは何とかフォローしようとする。

 

「クク、綺麗に2つに分かれているようで面白いクラスだ。 だが俺が用があるのは——」

 

「うふふ、仲がよろしいですね❤︎」

 

そこへ、アッシュの言葉を塞ぐようにタイミングよく微笑みとともに割って入ってきたのは、同じ分校の制服を着たミント髪の女子だった。

 

「あ……」

 

「たしかIX組・主計科の」

 

「ミュゼ・イーグレットちゃん、だったよね?」

 

(タイミングを見計っていたのか?)

 

「……ふん?」

 

一気に注目を集める中、ミント髪の女子はどこ吹く風のように視線を受け流しながらスカートの両裾を摘んで軽く持ち上げ、右脚を軽く引きながら貴族令嬢のようにお辞儀をする。

 

「ふふ、おはようございます。 気持ちのいい朝ですね。 ですが、のんびりしていると予鈴が鳴ってしまいますよ?」

 

「確かに……」

 

「……そっちはまだ絡んで来るつもり?」

 

警戒気味に視線を向けると、アッシュは白けた風に鼻を鳴らしながら寄りかかっていた門から姿勢を戻す。

 

「クク……別に絡んじゃいねぇって。 そんじゃあな。 2限と4限で会おうぜ」

 

「じゃあな」と手をヒラヒラさせながらアッシュは分校に向かって行った。

 

「ふふ、ごきげんよう。 1限、3限、4限でよろしくお願いします」

 

アッシュの言い方を真似たようで、そう告げるとミュゼも分校に向かって行った。 ミュゼが離れた頃、ユウナは盛大に溜息をつく。

 

「はぁ……何なのよ、あの金髪男は! いかにも不良って感じだし、あんなのが士官候補生なわけ!?」

 

「……ユウナ、それ思いっきりブーメラン」

 

「露骨に僕たち《VII組》に含みがありそうだったが……」

 

「どちらかと言えば《VII組》というよりも……」

 

「——あっ!!」

 

その時、リーヴス方面からキィーンと甲高い音と少女の声が届いてきた。 振り返ると、そこには分校の制服の上に上着を着ている金髪の少女……ティータ・ラッセルが息を荒げながら走って来ていた。

 

ただし、その足元には靴底にローラーがついたブーツを履いており。 加えて、その後ろには工具箱を咥えている機械仕掛けの銀獅子もいた。

 

「ハアハア……お、おはようございます!」

 

「お、おはよう、ティータ。 ええっと……それって……」

 

「あ、はい。 これは小型導力エンジン付きのローラーブーツです。 整備された道限定ですが、結構移動に便利ですよ」

 

「いや、あたしが聞いているのはそんなんじゃなくて……」

 

クルッとローラーを利用して1回転するティータ。 しかしユウナは手を横に振りながらその隣にいる銀獅子にそーっと、驚愕の視線を向ける。

 

「グルルル……」

 

「——十三工房製、獅子型人形兵器の最終モデル“ライアットセイバー”。 その改修発展型の“ライアットセイバー・セカンド”……固有名詞は《ウルグラ》ですね。 さすがレト教官のご友人。 常識を外れです」

 

「それ、アルティナに言われたくないと思うよ」

 

「ソフィーさんにも言われたくありません」

 

戻ってこないブーメランの応酬がアルティナとソフィー間で行われる。 と、そこで分校の予鈴が鳴ってしまう。

 

「って、ヤバ……!」

 

「急がないとHRに遅れそうです」

 

「ああ、行こう……!」

 

このままでは遅刻してしまう。 ユウナたちは駆け出し、急いで正面の坂を登り分校へと向かう。

 

——スイーーっと

 

——ちょ!? やっぱりそれズルい!!

 

——は、はや〜い……

 

——言いから走れ!

 

——クラウソラス

 

——君はせめて自分の足で走ってくれ!

 

徐々に遠くなっていく話し声。 それを一部始終を陰から傍観していたレト、リィン、トワは彼らの背を見ながら嘆息する。

 

「ふぅ……ようやく2週間ですか」

 

「もう、という気もするけどね」

 

この期間がリィンには長く、レトには短く感じられた。 気の持ち用の問題だが、なんとか教官職を務めてられていることに安堵する。

 

「ふふっ、どのクラスの子も頑張って付いてきてくれてるね。 トールズ本校以上のスパルタだから大変だと思うけど」

 

「ええ……加えて本校には無かった“教練”や“カリキュラム”もある。 第II分校——政府側の狙いが少しずつ見えてきましたよ」

 

「…………………」

 

この第II分校は本校からあぶれた生徒を受け入れるための学院では無い……政府側から提出された生徒に受けさせるカリキュラムを見てそう思わざる得ない。

 

「うん……でも、この分校の意義はそれだけじゃないと思うんだ」

 

「トールズの伝統を受け継いだ“あの日”もあるからね。 それだけは安心したよ」

 

「そうだな。 “部活”の件も含めて放課後のHRで伝えよう」

 

「うん。 よろしくね!」

 

自分たちが受け継いだトールズの意志を生徒にも伝えて行こう。 それだけは、決して譲れないレトたちの思いだった。

 

「それじゃあ、リィン教官、レト教官、今日も頑張っていきましょう!」

 

「ええ——トワ教官も!」

 

「了解しましたー!」

 

帝国の思惑はどうであれ、今日も生徒たちを教え導くべく。 レトたちも遅れながらも第II分校に向かうのだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

放課後——

 

今日も普段通りに他と比べれば難易度の第II分校のカリキュラムを終え、生徒たちは寮に戻らず分校内で各々の部活動を開始していた。

 

ちなみに部活動はほぼ強制されており、部活動に入らなかった場合は強制的に生徒会を作らされてそこに入れられることになっていた。

 

加えて、生徒会は“分校のより良い学生生活のための活動”……などではなく“学院長を奉仕する活動”のため、生徒たちはどんな部活であれ設立しようと少しだけ必死になっている。とはいえ、必死になっているのは現在も決まっていない生徒のみ。2名以上の部員と活動内容さえ決まれば申請はすんなりと通ってしまうため、早速部活動を始めている生徒は気楽なものだった。

 

顧問は教官の人数より部活動の数の方が多いため、教官陣は複数の部活動の顧問を兼任していた。もっとも、少し活動の様子を見る程度で活動自体に口出しはせず、生徒のみで活動している。 言い換えれば放任主義である。

 

そんな中……レト、シンラたち3人は菜園の崖の上、小さな滝の側にある2つの煙突が立つ木造の小屋の中にいた。 この小屋はレトが私金で作ったアトリエで《創作部》の部室である。 ここは3人のために作られたと言っても過言ではない。

 

菜園の近くの山から流れる小川。 それに加え2アージュほどの段差により出来る滝に、アトリエは隣接していた。

 

出入り口のある中央の共通スペースのフロアを中心に、その周りに扉のない吹き抜けの部屋が3つある。 その内の3つがソフィーたち部員の作業スペースであり。 ソフィーが錬金術、シンラが鍛治、ルキアが機織を行なっている。

 

「ん〜……これとこれ、あとこれも入れて……」

 

「クゥン……」

 

「ふぅ……まずまず、か」

 

「あ……もう絹が。 今度家から送ってもらわないと」

 

部活動設立から2週間……元々やっていた手につく職だった事もあり3人は迷う事なく自分の作業を行なっていた。ソフィーは手当たり次第素材を錬金釜に入れその光景を心配そうにヘイスが見つめ、シンラはクルトが使う短剣の研ぎ具合を確認し、ルキアは残りの絹糸が少ない事に気が付き作業の手を止めていた。

 

はっきり言えば、やっている事はバラバラな上に個人が勝手に活動しているだけ。 分校として、部活動としてはあまり成立しているとは言い難いかもしれない。 そして、レトはというと、

 

「……………………」

 

HRと軽い職員会議を終えてからこのアトリエに向かい、導力ノートパソコンと向かい合って資料の作成を行っていた。主に担当している科目のプリントの作成と、分校の運営についての資料を作成していた。

 

ちなみに、この創作部には他にもティータが料理部と兼任して所属している。 だが今このアトリエに彼女が作業を行えるためのスペースはないため、現在進行形で増築中である。

 

「みんな、少し休憩を入れよう」

 

「分かりました」

 

「オイっす」

 

「はーい」

 

中央のスペースは円形のテーブルが置かれており、3人が手を止め席に座る中でレトは茶と菓子を出した。

 

「3人とも近状報告を」

 

「はい。 シュミット博士に依頼されていた鉄鋼石“0.5トリム”の精錬が明日には終わりそうです」

 

「やれやれ。 0.5トリムとは言え2人でやる量じゃねえよ。 あのマッド爺ィめ……」

 

「ご苦労様です。 私の方は絹のロール10、綿のロール10を織り終わりました。 ただ、絹のストックが残り少なくて……」

 

「分かった。 パルムに絹糸の受注をお願いする。 それと学院からの追加の依頼だ。 保健室で使う亜麻(リネン)製のシーツを50程作って欲しいそうだ」

 

「ご、50……」

 

このように、この創作部は依頼された品を作る下請のような活動を行っていた。

 

近状報告を一通り聴き終えたレトは、ソフィーの工房に近寄り置いてあったソフィーが作った鉄鋼石の塊を人撫でする。

 

「……うん。 ちゃんと鍛錬は積んでいたようだね」

 

「えへへ。 より良い物を作るのが錬金術師ですから」

 

「ワン!」

 

指導から離れた半年の間の成果を見てレトは笑みを浮かべ。 ソフィーは照れくそうにヘイスを抱き上げ頭を撫でる。

 

「うん。 問題はなさそうだね。 あー。 後コレを渡しておくよ」

 

そう言いレトは3つの紺色の学生手帳を取り出し、ソフィーたちに渡した。

 

「これは……」

 

「少し遅れたけど、VII組の学生手帳がようやく出来上がってね」

 

「ありがとうございます」

 

手渡され、3人は学生手帳を受け取った。

 

「確かに渡したね——それじゃあ、僕はシュミット博士に呼ばれているからこれで。 無理せず自分のペース。 量より品質優先で」

 

「はーい」

 

報告を終え、レトは席を立つとアトリエを後にした。

 

師が去るのを見届け、3人は小休止を終えて再び作業に入ろうとする。 と、

 

「さてと……早く終わらせましょう」

 

「あ、ちょっと待って! コレ食べ終わってない……(モグモグ)」

 

「……ん? なんか焦げ臭くないか?」

 

異臭を感じ辺りを見回すと……ソフィーの錬金釜から煙が燻っていた。

 

「「「あ」」」

 

——ドオオオオンッッッ!!!

 

次の瞬間、アトリエの煙突や窓から勢いよく爆風と煙が吹き出した。

 

「……やれやれ。 褒めたと思ったらこれだ」

 

レトは煙立ち昇るアトリエを後にし、多少の用事のため途中で教員室を経由してから騎神と機甲兵が保管されている格納庫に向かった。

 

ここは研究棟とも併設されており、教練に使われる機甲兵数機と、《ヴァリマール》と《テスタ=ロッサ》が格納されている。

 

格納庫に入るとまず目に入ったのは、リベールから持ち込んだ複数のパーツを組み立てているティータの姿だった。

 

「ティータ」

 

「あ! レトさ——はわわっ……!」

 

ティータは工具箱と幾つかの図面を運んでおり、レトの呼びかけに気付き振り返ると……足元を滑らせ転倒し、工具箱の中身をぶちまけてしまった。

 

「あ、あいたた……はあ、やっちゃったぁ……」

 

「そそっかしいのは相変わらずだね」

 

尻餅をつくティータに苦笑いしながらを手を貸し、手早く床に散らばった物を集めまとめた。

 

「ありがとうございます、レトさん!」

 

「忙しいのは分かるけど、もう少し落ち着いた方が……って、リベールでも同じこと言ってたっけ?」

 

「あううっ……」

 

成長している所は確かにあるが、変わらない点もありレトは少し笑みを浮かべる。

 

「整備の方は順調かい?」

 

「えへへ。 まだ始まったばかりですけど、順調に進んでいます! 《機甲兵》はオーバルギアとは設計思想が全く違って勉強になります!」

 

嬉しそうに、興奮したようにティータは満面の笑みで語る。 赤いパーツの数々に目を向ける。

 

「オーバルギアか……影の国で話には聞いていたけど、確かパテル=マテルに対抗できるコンセプトで設計されているんだったよね?」

 

「はい! まだそこまでは行っていませんが、それでもかなりの性能に仕上げます!」

 

(影の国では再現体だったとはいえオーバルギア(コレ)って、偽物とはいえ単機で《剣聖》と《剣帝》と対抗できるスペックだからなぁ……)

 

昔、まさしく夢のような世界で実体を持つ幻として出現したオーバルギアは、同じような原理で現れた最強とも言える武人2名と正面からぶつかり合える性能を発揮している。

 

祖父は微マッド、母はバーサーカー、父はブレーキ役かと思いきや素で強く、その娘はコレである。 ……ラッセル家とだけは本気で敵対しないようにしないと、とレトは心に誓う。

 

「ただギアの姿勢制御のためのOSがまだ未完成で……」

 

「なるほど……それで僕に話が回って来たと」

 

一応、レトは導力ネットに関しては高い知識を持っている。 シュミット博士でも余裕で出来そうだが“貴様(レト)が出来るのならやっておけ”と言った感じだろう。

 

「引き受けるけど……部活の方は大丈夫なのか? 確か料理部とも兼任しているそうだし、別に創作部(ウチ)に入らなくても……」

 

「そ、創作部に入りたかったのは本心ですよ! ただまだ導力ネットワークについての理解がまだ追いついていなくて……」

 

「気にしなくていいよ。 こんな大きなプロジェクトは1人でやるべきじゃない。 仲間たちと協力した方が完成も早く、事故や見落としも少なくなる。 1人で背負い込むよりはいいでしょう?」

 

「……! はい!」

 

教官としてアドバイスをし、ティータは元気よく頷いた。 と、そこへシュミット博士が2人の元に歩いてきた。

 

「貴様か……」

 

「どうも、博士」

 

相変わらずの不機嫌そうな顔をするシュミット博士に対し、レトは軽そうな挨拶をする。 博士はジロリとティータに目をやる。

 

「図面と工具を持ってくるだけで何をモタモタしている、全く」

 

「あう、すみませんっ」

 

「フン。 また貴様の所の小娘がやらかしたようだな」

 

「ええ、まあ。 まだまだ半人前で困りものです」

 

ちなみに、今回のような失敗による爆発はこの2週間の間に3度起きており……問題児を集めた第II分校の中でも特に問題児扱いされているVII組は事あるごとにミハイル教官からお叱りを受けていた。

 

「そういえばシュミット博士ってラッセル博士とは兄弟弟子だったんですよね?」

 

「……腐れ縁だがな」

 

方向性は違えど、人に大きな迷惑をかける点は全く同じ2人である。 そうなるとC・エプスタインのもう1人の弟子である共和国にいるであろうL・ハミルトン博士も……

 

(……1人だけでもパンク寸前だよ……)

 

そう思うと正直、あまり関わりたくないと思ってしまうレトであった。

 

と言っても、ハミルトン博士の発明である飛行船や導力戦車と戦っていることもあり……結局の所、ハミルトン博士が間接的としてもレトに迷惑をかけていることは確実だった。

 




再び筆を取った理由はもちろん——(はじまり)の軌跡の発売決定!!

今から待ち遠しいです!

……発売までには閃IIIくらいは終わらせないとね(泣)。

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