TASは異世界に行くそうです。 作:西国 龍
クラミー・ツェルの王位選定戦勝利が決まる瞬間。異議を唱える声が響いた。
いったいどこからだ――?
周囲を見渡すも、異議を唱えた存在は見当たらない。と、そこでクラミ―は部屋にいる全員が扉の向こうを見ていることに気づく。
どうやら部屋の外から叫んだようだ。
(誰が来ようと――――――は?)
必勝を確信しているクラミーなのだが。絶句。なるほど、それは思考でも起きるらしい。
クラミ―が見たものは、扉をスライディングで開ける金髪幼女の姿であった。スライディングの勢いのまま部屋に入ってきて、失速すると同時に跳躍。床と水平になるように体を伸ばして二、三メートルほど飛ぶと、地面に着地と同時にスライディング。
「……………は?」
こんな動きを、
クラミーは、あっけにとられはしたが、すぐに冷静になる。ほかの種族の力を借りた、もしくは操られたのだろう。そうでなければ、人間にあのような動きができるはずがない。出来ていいはずがない。
幼女は、クラミ―の前まで先ほどの動きを繰り返してやってくると。
「ふー、間に合いました……異議ありです」
満面の笑みで言った。
☆
世界の壁を抜けて、異世界にやってきた幼女が最初にしたことは、当然情報収集だ。誰かに話しかけることによって、情報を得るためのフラグを取得。情報を得たことにした。
ついでにお金を困らない程度にいただいたが。
そのあと、お金をもらった意味がないことにも、無料で宿に泊まって飲食を済ませる。別に食い逃げをしたわけではない。幼女は善良な一般市民であるために、犯罪など犯すわけがないのだ。ただ、ちょっと店主がお金をもらったと勘違いした(させた)だけ。
パンをはむはむと食しながら、偶然見かけたポーカーの勝負の行方を見守るが。
「あー。これは……魔法って奴ですか……チートですね……」
TASはゲームにおいてほぼ無敵のような無双劇を繰り広げる事が出来るが、それでも上には上がある。すなわち、チート。
何度も言うようにTASは理屈上は人間にでも可能な動きをしているだけなのだ。
けれど、チートは理屈上不可能なことでも成し遂げられる。
ポ〇モンで、色違いを捕まえたいとしよう。TASは、乱数調整を行って、例えば最初の道でハトポッポのポケ〇ンの色違いを捕まえられる。
チートは、最初の草むらで伝説の〇ケモンの色違いを捕まえることだって可能なのだ。
「……まともにやったら勝てませんね……」
トランプの絵柄を突然変えるような奴にどうやって勝てばよいのだろうか。イカサマを使ったところで限度というものがあるであろうし。
「いや、まあ、理屈上トランプの絵柄は突然変わるものなんですけれどねー」
さすがにその乱数は遠い。一つの勝負でそう何度も使えはしない。
「なんか、あれと戦うことになりそうな気もしますしねー……対策を考えておきましょうか」
☆
「ぎょべるころすりれろもけきょかやーーーー!!」
夜のエルキア。美しい月が空に昇っている。この時間ならば静かなはずの街。そこに得体のしれない奇声が轟いた。
街人の一人がいったいなんだと文句を言おうとドアを開けて、奇声の主の少女――それを追いかける謎の存在が視界に入るがいなやドアを閉めた。今見たものは忘れて寝ようと。
「なんなんですのーーー!! 食べてもおいしくありませんわーー!!!」
「ちょっと、どうして逃げるんですか!? あなたとの親愛度を上げとくのが今後の攻略のためにも一番いいのですが!!」
「逃げるに決まっgりゃおれがおいrhg!!!!」
追いかけられる少女、ステファニー・ドーラ――通称ステフは、後ろを振り向いて文句を言おうとして、さらに叫び声をあげる。
ステフは現在得体のしれない化け物に追いかけられている。
突然身体を一切動かさずに滑るように目の前に現れたかと思うと、親愛度を上げさせろと言ってきた。
思わず後ずさると、体中の関節を全部無くしたようなあり得ない動きで接近してきて――今現在は、逆立ちした状態で空中に浮かんで追いかけてきている。腕が風になびかれるようにビロビロと伸びているという、絶対にありえないおまけ付きで。
一見金髪のかわいい女の子なのだが、あれは捕まったら喰われる感じだ。
「もー、出会いを果たした時点でもうフラグ建っているので親愛度勝手にあげれるんですよ? たまにはゲーマーとして普通にプレイしようとしているのですから!」
「訳が分かりませんわ!!!」
投げやりに言いながらも、それでもステフは夜のエルキアを駆け巡る。
後々修正したい箇所がいくつかも……
更新するにしても次回はまた相当先になりそうです。
余談。
Q なんでTASはステフすぐに捕まえられていないの?
A 休日だから。