TASは異世界に行くそうです。 作:西国 龍
「正直この国滅んだ方がいい気がしてきました」
「奇遇ですわね。私もそう思っていたところでしたわ」
幼女――現エルキア国王の衝撃的な発言にしかし、そばにいたステフは同意を示した。それもこれも、二人の目の前に山のようにあるファンレターが原因である。
一通一通、はっきり言って気持ち悪いほどの愛のこもった熱烈なファンレター。
「自分で言うのは何ですけれど、この国の連中みんなロリコンなんです?」
「一部の人間だけですわ……」
そのファンレターは純粋なものから、完全にアウトな内容のものまでさまざまだが、幼女はあきれ果てた様子でため息をついて。
「まあ、それ以前に、あんな勝ち方をした私をあっけなく国王として受け入れているあたり心配ですけれど――って、あ、そうか……」
「? どうしたんですの?」
「いえ、あんな普通の人からしたら明らかに不正を使ったような勝ち方しておいて、私が国王になったことを誰も文句言わないからおかしいなーって思ってたんですけれど、戴冠式でやっちゃったんでした。うっかり忘れちゃってました」
あんな勝ち方というのは、クラミー戦でのこと。
幼女はあの時、クラミーの口から、『王としての資質』によって駒の動きが変わるという発言をうまく引き出してから、駒を使って一瞬でクラミーのキングを屠った。
あとは、魔法を検知できない
不正ではなく、理論上可能なのだから、当たり前のことなのだが。
当然クラミーは不正を疑ってかかってきたが、幼女は。
「いやー、私の『王としての資質』が高すぎただけですって。あれ? クラミーさん? ポーンが一つしか動いてないんですね? しかも さ ん マ ス だけって、いやー危なかったですー! こんな『王としての資質』がかけらもないような方がエルキアの王になってたら大変でしたよねぇ?
そもそもー、なんで
そんな人の発言、誰が信じるんですかぁ?」
と煽りに煽って、クラミーを大号泣させて完全勝利を成し遂げていた。
さらに、この話を意図的に噂として流して、クラミーが幼女に負けて大号泣して逃げたということは、今ではエルキア国民全員の知ることであった。
(もっとあることないこと言いふらしておけばよかったですかね?)
そこそこ黒いことを考えている幼女に対して、ステフは、
「けれど、みんなあなたを国王として受け入れてますわよ?」
「あ、ええ。それがおかしいなー本当に間抜け種族だなーって思ってたんですけどね」
「……言いますわね……」
「で、すっかり忘れて――意識の外にあったんですけれど、昨日戴冠式をしたじゃないですか?」
「ええ、間違いなくエルキアの歴史に残る偉大な戴冠式でしたわ!」
「で、内容は? 私、戴冠式でなんて言いました?」
「え、それはもちろん――――――ヘ?」
「いやー、『最高の戴冠式をやった』と日記に書いたんで、そうなってるだけです。おかげで私は今頃エルキアの希望でしょう。あとはこれまた勝手に私がとてもいいことを言ったといって、勝手に内容まで作られて後世まで残るんでしょうね」
「…………む、無茶苦茶ですわ!!!???!?!」
こうして、幼女は名実ともにエルキアの国王となった。
☆ ☆ ☆
「やあ、こんばんは」
「ん、そろそろ来る頃だとは思っていましたが、まさか私の背後をとるとは、流石は神様です」
深夜、トイレに起きた幼女が王城を歩いていると、背後に何者かの気配が現れると同時に声をかけられる。それに、軽く返し、振り返ると、案の定――。
「そういえば何気に初対面ですね」
幼女が言うと、幼女とそう変わらない年頃に見える神様――テトは苦笑いして、
「君が突然世界の壁を突き破ってきたからね。僕としては大歓迎だけど、あんな来られ方するから驚いちゃったよ」
「人類の可能性は無限大なんですよ? 私なんて言う存在が生まれるくらいなんですから」
「君が言うと説得力があるね。人類の可能性をすべて実現できる君の言葉は。
でも、それはとっくの昔に知っているよ?」
少し含みを持った言い方に、幼女は首をかしげるも、その気になればいつでもわかることだ。
「さて、もう私はチェスを覚えました。高々唯一神ごときがTASさんに勝てるとお思いです?」
「ふふ、どうかな? この世界のゲームは普通じゃ――あー、君には関係なさそうだね」
「というか、そろそろ私帰りたいんですけれど。神様くらい変に周囲に影響与える力を持った存在が世界と世界の間にいない限り、流石に世界間の壁抜けは厳しいのですけど」
少しだけ困った顔で言う幼女に、テトは意外そうな顔を一瞬浮かべるも、すぐに不敵な笑みを浮かべ。
「じゃあ、また近いうちに、今度はチェス盤で、僕に勝利してみなよ!!」
「ふむ」
最初からいなかったかのように消えてしまったテト。先ほどまでテトのいた場所を眺めていた幼女だが、おもむろに手を伸ばし、空間に波紋を浮かべると、その中に突っ込んだ。
だが、何かに触れる直前に、普通とは少し違う感覚とともに幼女の手は空を切った。あとは、何もつかんでいない幼女の手と、何の変哲もない王城の廊下が広がるだけ。
「なるほど、『原理上不可能』。さすがは神様ですね」
幼女は窓の向こうを見る。
少し前までいた自分の世界とは、まったく違うファンタジーの世界。そして、幼女はうれしそうに笑った。
ゲームだけでなく、現実世界でもTASの力を使える幼女にとって、クリアできないゲームなどほぼない。敗北も同じくあり得ない――はずだった。
しかし、テトとの最初のゲームのチェスは、TASの力をより大きな何かで干渉不能にさせられ、真っ向からのチェスで敗北。
大広間のクラミーには、『理屈上勝利不可能』という、ある種の敗北を味わった。
「思ったよりは、楽しめそうですね――王様になったのは、ちょっとした暇つぶしのつもりでしたが、唯一神を倒さない限り帰れないというのならば、もう少しだけ本気でのんびりと世界の攻略をしてみましょうか。
お次は、エルキアの中にいるよくわからない死亡フラグの集合体みたいな存在に喧嘩でも売ってみましょうかね」
スピードランでは味気ない。
「私の戦いは、これからです!!」
なんて言ってみてから、幼女は自分の部屋に戻っていった。
あることをすっかり忘れていた幼女は、その日下着を一つ失った。
一応この作品の幼女はTASの力が使えるただの幼女だと思ってください。たまにうっかりミスをします。
もっとも、我々にそれが、抜けているだけなのか、はたまた人間アピールなのかはわかりかねますが。
たぶん続きます。
あと、クラミー戦で使われた駒が意志を持ったチェス。作中で幼女が言っていたこと作者の疑問でもあるんですけれど、人類種が、あんなものを使うことって不思議じゃないんですかね? もちろん、私が見落としていて説明されている可能性もありますが(その場合は修正しますので教えていただけると幸いです)。