TASは異世界に行くそうです。   作:西国 龍

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具象化しりとり

 理不尽と暴力の塊。

 それが第一印象であった。

 

 彼女の挙動で、世界を構成する一要素が破壊されていくような錯覚。

 幻想的な、美しい天使の羽は、人類に対して、圧倒的な力の差を見せつけているように思える。

 いや、事実として、彼女と人類の間には、埋まることのない絶対的な壁が存在していた。魔法が使えず、鋭い爪も牙もなく、すべてを引き裂く膂力もない人類には到底超えようのない壁。

 

 彼女の視線が、幼女と交わる。さすがの幼女も背筋が凍る感覚を覚えた。いくら、彼女に自分を殺すことができないと理解していても、生命体として存在している以上、格上に対する本能的な恐怖を感じる。

 横で「きゅー」と変な声を上げて倒れるステフと違い、幼女が意識を保てているのは――たとえ殺生が禁じられていなかったとしても、逃げることならば可能であるという幼女のTASの力があったからに他ならない。

 

「エクスキューズ? そこなパーソン方、ミーのライブラリーにワット御用で?」

 

 

 

 すべてを台無しにする天翼種(フリューゲル)の発言に、

 

「メッセージはでないはずだよ」

 

 幼女はふざけてみることにした。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 

 

「というわけでステフさん。図書館行きましょう?」

「へ? きゅ、急にどうしたんですの?」

「いえ、とりあえず、東部連合ってところと国家ゲームしたいんですけれど、フラグ回収ができていないようなので、エルキア国立大図書館に行かなければならないのです」

「……ちょっとまってくれません? 国家ゲーム? 正気ですの?」

 

 いつも叫んでいるステフが叫ばずに冷静に訪ねてきたということは――それだけ動揺しているのだろう。

 

「とにかく、天翼種(フリューゲル)? っていうのがいるみたいですね。いやー、これはすごいです。なんかもう、これゲームに出てきたらキレるぐらいの理不尽って感じですね。まあ、たとえ殴り合いでも、『負け』はしませんけど」

 

 当たり判定をずらしながら、逃げに徹すれば、負けることはない――はずだ。実際幼女は負けないと言いはしたが、本当にやればどうなるのか、まったくわからなかった。

 TASの力をしても、どうにもならない気がするほどの絶対的な力。それを有している天翼種(フリューゲル)という種族を、理不尽と言わずして何というべきか。

 

「え? えっと、今のいい方でしたら、まるで天翼種(フリューゲル)とゲームするみたいな……」

「さー、ドニを出していきましょー!」

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「して、人類種(イマニティ)のニュークイーン様が、私にいったい何の御用で?」

 

 口調を普通に戻してもらった幼女は、なるべく天翼種(フリューゲル)の少女――ジブリールの発言が短くなるように調整しながら、出された紅茶を一口飲んで不敵に笑って見せた。

 

「ジブリールさんの全てを要求します。こちらはこの紙に書かれている文字を教わる権利を賭けます」

 

 幼女は、ジブリールさんほど言語を知っていれば、無意味な記号の羅列か否かくらいはわかりますよね。

 と続けて、ジブリールに紙を渡す。

 

「な、ななな、これは……! 私の知らない――」

「で、ノってくれますか? ああ、私が要求するのは変更しません。絶対に。『ジブリールさんの全て』だけです」

「しかし……この文字は?」

「ああ、私の世界の文字です。異世界人があり得ない? 私、この肉体だと異世界人じゃないのでおかしくありませんよ?」

 

 ジブリールの発言を先読みして答えた幼女に、ジブリールはわずかに目を細めた。人の心を読むなど、人類種(イマニティ)の成しえる芸当ではない。明らかに幼女に警戒心を向けるジブリールに、しかし幼女はご満悦であった。

 

 

 ここまではうまくいった。

 本来の展開であると、ジブリールとゲームをする前に長い会話が展開されることがわかっていた。しかし、こちらの賭けるものを比較的大したものではない、言語を(といっても、ほとんど人類語と文字以外等しい日本語だが)一種類教えるのみ。紙に書かれた言語一つだけなら、たとえ人造のものであったとして、一興としてジブリールが勝負に乗るはず。賭けの内容の文字もジブリール本人に確認させることでほぼほぼスキップ。

 ジブリールが賭けを上乗せしてくる展開を防ぎ、同じ要求を強調して二度言うことで、変える意思がないことを見せつけた。

 

 そして、ジブリールと会った時から、必死になって幼女が『私の世界』つまり、異世界出身であることを匂わせる言葉を言った次のジブリールの発言を探り、まるで心を読めるように装うことに成功。

 これでジブリールに警戒心を抱かせて、ゲームが冗長になることを避けるのが幼女の狙い。

 

 そう、今回はスピードランをするつもりであった。

 

 

 読心魔法でも使われてしまってはもはや意味がないが、この程度の警戒ならば、まだそれを使うに足りない。ジブリールは強者らしく驕りに驕って慢心王だ。

 

「良いでしょう。興が乗りました。矮小な人類種(イマニティ)が、異世界人であると居のならば、その知識をもって証明してみなさい――!」

 

 

 こうして、ゲームが始まる。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ジブリール、というより天翼種(フリューゲル)の行うゲームは具象化しりとりが主らしい。

 

「では、先手ということで、最速死亡TAS的な感じで――『純粋水爆』」

 

 先手を譲られた幼女は、手始めに自爆をするのがお約束として、『純粋水爆』を言った。もちろん、あくまで『最速死亡TAS』()な感じであって、死ぬ気も、最速である気もない。

 まだ始まったばかりではあるが、ゲームの解析はかなり進んでいる。このゲームは片方だけが知っている知識の具象化も可能。ゲームプレイヤーに直接干渉することは不可能。ジブリールを殺すことは――可能。

 

「『久遠第四加護(クー・リ・アンセ)ッ!』」

 

 未知に対する敬意と好奇心。そういったもので幼女を守ろうとする(ステフも参加している)ジブリールだったが、次のわずかな一瞬の幼女の挙動には度肝を抜かされる。

 

 久遠第四加護から出たり、入ったりを一瞬の間に繰り返していたのだ。

 

「一体どうなっておられるのですか? まさか久遠第四加護をあそこまで簡単に――いえ、通り抜けただけ? 破壊するより高度なことを――」

 徐々に警戒心を上げているジブリールだが、幼女は笑みを絶やすことがない。

 

「せ、せせせ、『セコイア』」

「……『あざらし』」

「し      しいし、『シイラ』」

「『ランプ』」

 

 そこで、ジブリールが『ランプ』と言った理由、それはジブリール本人にすらわかるわけがない。いや、理由などない。そう答えるように、幼女が露骨に調整したまで。

 

「……最初の具象化でかなり期待したのですが、まさかあれで打ち止めではありませんよね? もっとも、あなた個人にも興味がありますが」

「そうですね、では、とびっきりの知識をお披露目しましょう――『プランク温度』」

 

 このゲームでは、例えば『クーロン力』のような人類が定めた見えないものでも具象化の対象である。故に、今この瞬間に、宇宙のどこにもない、『ビッグバンから、時間の最小単位後の温度』も具象化可能である。

 

 

 あとは当たり判定をずらしてしまえば、ジブリールよりほんの一瞬長く生存することも可能。

 

 

 最速とはいい難いが、ジブリールに思考する瞬間すら与えずに、宇宙創成の熱がすべてを焦がしつくした。




かなり速足で終わらせてしまった。

 とりあえず、この小説をきっちり終わらせたいのですが、いまだ原作でやっていない展開をやらなきゃ完璧にきっちり終わらせられないので、『俺たちの戦いはこれからだ』エンドが確定しております。
 予定としては、アニメと同じところまで進めるつもりです。おおよそ10話で終わると思われます。
 
 具象化しりとりはみんな大好きな回でしょうし、もっと面白くしたかったのですが、空白以上の何かで終わらせるとなると、ビッグバン(の時の温度)食らわせるのが一番かなーと。
 予定では、二話ぐらい続けて、一話目は自爆並みの攻撃を具象化したのちに、異空間に逃げた幼女。しかし、『逃がしませんよ~♪』とジブリールが異空間こじ開けるシーンで終わる。という予定でしたが、まあ、なんでこうなった?

 ちなみに、『プランク温度』が具象化できるかは独自解釈です。クーロン力消せたし、まあできるでしょうと。故に、タグに独自解釈つけておきます。

 こうこうこういう理由でできないと思うよ、という指摘をいただいたとしても、その場合は独自解釈を独自設定に変えてごり押します。

 これ以上の展開を作れない無力で無能な作者ですみません。


 今回の話の解説的な(言い訳的な)ものとしてはジブリールの口調が少し変なのは、天翼種としての勘が、幼女を警戒させているから。
 幼女の『肉体的には異世界人じゃない』というのは、神というバグの塊みたいな存在が近くにいたので、ディスボードの世界に自分の情報を書き込めたという設定です。さすがの幼女も、特殊な条件がなければ世界に情報を書き足すなんてできませんから。たぶん。
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