TASは異世界に行くそうです。 作:西国 龍
空間が歪んで、けたたましい音が鳴り響いた。天を支えているかの如き摩天楼。そのガラスが砕け、高速で何かが横切ったことに気が付いた。
また、何かがはじける音とともに、ガラスが破壊され、何かが高速で横切る。そればかりに目が言っていたいづなだが、いのの忠告で、跳弾がこちらに向かっていることにようやく気付いた。ぎりぎり回避可能のそれを避けた時、目の前にゲーム相手の幼女が立っていた。
無駄だと分かっていながらもいづなは幼女に向けて発砲する。
幼女は、にっこりとほほ笑んだまま、壁の中へと消えていった。これで不正をしていないというのだから驚きだ。外部で確認しているいのも、これが不正ではなくバグ技――一応は誰にも可能の戦術であることはわかっている。そう、あくまで一応はだ。バグ技を実践で利用するなど正気の沙汰ではない。万が一失敗したら、大きなスキが生まれることは必至。
そもそも、この幼女は今日初めてこのゲームをしているはずにもかかわらず――なぜバグ技なんてものが使える。
そんないのの動揺を読んだかのように、幼女は嘲笑を交えて言う。
「こんなチート使う前提のゲーム、バグだらけに決まってんでしょう? どうです? 自分たちが必勝するために仕掛けたシステムが、必ず負けるゲームに変わってしまった感覚は?」
幼女がチートを使っている可能性はない。
地下を泳ぎ、壁を滑り上がり、空中を歩き、変な奇声とともに高速移動する幼女が、悪魔にしか見えなかった。
先ほどまで、最警戒対象であったジブリールはのんびり自らの主を応援している。
「すまない……いづな……」
このゲームで勝つことがまず不可能なことはいのも理解した。そしてこの敗北は
幼女が、エルキア王城を賭けて東部連合に要求してきた内容は、『私が勝利した場合、今後私と
敗北した場合は記憶を消すことを条件に、
このゲームで負けると、いづなは国家を滅ぼす原因を作った大罪人になりかねない。あの幼女にとって、このゲームは、理想的なゲームなのだろう。
せめて、自分が泥をかぶる方法はないかと模索し続けるいのであったが。
そこでいづなの様子がおかしいことに気が付いた。おかしいといっても、原因はわかっている。血壊だ。
物理現象すら超える血壊なら、まだ可能性も――。
空中に飛び上がり、さらにもう一度空中で跳躍したいづな。そのままちょうど壁を滑っていた幼女に銃口を向けて、引き金を引く。幼女は、『ヤヤヤヤヤヤッ!!』と意味不明なことを言い続けて、なぜか動かない。やったか? と、いづなもいのも期待するが。
「ヤッフーーーーーーーーー!!!」
バアアアンッと、またも爆発音が響いて、幼女の姿が掻き消えた。それどころか、いづなの撃った弾がどこか遠くへ弾き飛ばされていた。いったいどうなっている。このゲームでは物理学上あり得ることしかありえない。魔法を使わずに、弾に触れずに、弾を弾き飛ばすことが、原理上可能とでもいうのか。
背筋が凍るいの。わからないことだらけであった。そもそも、あの爆発音はいったいなんだ。
いのがわからないのも当然、ディスボードの世界で、幼女の出したこの音を聞いたことのある存在は、数えるほどしかいないだろう。音の壁を越えた時の音なんて。
絶望するいのに対し、幼女は生涯一番と言える興奮と熱狂を味わっていた。現実でTASの力を使えようとも、肉体は人間のもの。万が一音速など出そうものならば、全身がはじけ飛ぶ。
性能を控えて高い身体能力を出そうとも、翌日の筋肉痛で地獄を見る。
「たのしいですね! いづなさあん!!」
気づいたら背後に幼女。
すぐに弾を撃ったとして、その瞬間には幼女の姿はない。高速で移動したのか、壁をすり抜けてどこかへ行ったのか、はたまた地面に潜ったのか、それすらわからない。
物理限界を超えたいづなに対し、幼女は物理限界をすり抜けている。
「……楽しい、です!!」
いづなは、その場から高速で距離をとりながら、ボムを投げた。すぐに爆発すると、いづなはその煙に紛れる様に、先ほどまでいた場所に戻った。
そして、真上に向けて我武者羅に撃つ。これは賭けだ。
ボムを投げて、どこかへ行ったと思ったが、いづなの存在がない。ならば、煙にまぎれたと考えるはずだ。そして、煙の中にいると分かると、狭い範囲にしかいないならばと、決めにかかる可能性は十分ある。その場合、最も効率的に煙の中を攻撃する方法は、上から撃つことだろう。
いづなは、攻撃される前に、攻撃してくる方向を撃てば当たる可能性は十分だ。
「悪くない策です」
背後から聞こえてきた幼女の声にいづなは振り向く。煙で視界が悪いが、それでもなおしっかりと見えるほど近くに幼女が立っていた。それだけではなく、いづなの眉間に銃口を向けて。
大急ぎで首をひねって銃口から避けたいづな。その刹那銃弾が放たれる。いや、これはいづなが避けるのを待っていたのだろう。
いづなも幼女に銃口を向けるが、撃たない。これ以上の無駄遣いはできない。撃っても避けられる。だったら、銃口を向けて牽制をするしかないのだ。
「本当に悪くない策でしたが、残念でしたね。この作戦は『煙の中が見えない相手』前提です。煙の中だろうが、私にはわかりますよ?」
「負けるわけには……いかねぇです!」
そう叫ぶも、もはやいづなにも勝ち目がないことはわかっている。このまま趣味の悪い幼女に遊ばれて、嬲り殺しにあうことも。
「そんな目をしなくても……いろいろゲームの仕様を確かめる時間稼ぎをしてただけで遊んでたわけでも意地悪してたわけでも――まあ、ちょっとはありますが。私だって楽しかったですし」
「大丈夫です。私は別に東部連合を滅ぼすつもりはありませんよ。それやったらおうち帰れなくなりますし」
まあ、詳しくはあとで。
そう幼女が言ったと思うと、幼女の姿が掻き消え、気づくといづなは背後から撃ち抜かれていた。
☆ ☆ ☆
サイッコウに楽しかった。これほどまでに楽しいと思ったことは初めてだ。たとえ現実で力が使えようとも、やはり制限は厳しい。それに引き換え、チートやツールアシストを使う前提で造られたあのゲームでは、いつも以上に力が使えた。
私は、いづなのしっぽをモフモフしながら今後のことを考える。
今はいづなと二人きりでお話ししたいということで、いのたちには退席してもらっているが、おそらくもうすぐ東部連合の方から仕掛けてくる。
私が要求した『今後東部連合とのゲームでは――』というものだと、私から仕掛けた場合ではなく、東部連合とのゲームとしか設定していないため、向こうから仕掛けられても、TVゲームに固定される。
今度は、もっとあからさまなチートを使ってくるかもしれないが。
「原理上勝てないゲームならば、暴露すれば勝ちですし」
そもそも、高々チート程度で、人間とTASのいいとこどりの私が敗れるはずもない。
まあ、私がいづなとのゲームで使ったバグ技の数々も、限りなくアウトに近いだろうが、原理上勝てはした。私に弾を当てればそれで勝ちだ。当てられるならば。
「そろそろですかね」
すでに、いづなにはゲームを仕掛けた意図を説明している。先ほどの勝ち方をすれば、東部連合の巫女が出っ張ってくることは想像がつく。そこで勝って、今後私が仕掛けられた時に東部連合のゲームを借りる権利を要求する。そうすれば、私は楽しくゲームができ、負けることもありえなくなる。
東部連合とエルキアの、共栄圏といったところだろうか。こちらはこちらで、ゲームを使わせてもらう代償として使えない資源の提供。東部連合は、混乱が起きない程度の技術提供をしてくれると嬉しいが。
「さて、東部連合を下したら――神様への挑戦権の一つを手にしたら、きっともっと正確な勝ち筋が見えそうですね」
神様を下して、元の世界に帰る。けれど、最近はそれも寂しいと思い始めている。ジブリールにからかわれているステフさんを見るのは楽しいし、自分自身ステフさんをからかうのが楽しいと思っている。それに、これまで面倒見てもらって、帰れるようになってはいさようならというのも、薄情というか、礼儀がない。
それに、今は一種族の王だ。
「神様への要求は決まりましたね」
唯一神の座なんて、わざわざゲームで要求する価値もない。世界の往復の権利――というか手伝いを要求しよう。
最終目標を決めた直後、部屋に何者かが入って来た。
金色の美しいキツネさん。
纏う覇気は、まさに王。
敵意に満ちた目を私に向けてくるキツネさんに、けれど私はそっと笑い返す。
「さあ、ゲームを始めましょう」
匿名設定で投稿している小説は結構あるのですが、エタっちゃう癖があって、何気にこれが完結できた初めての作品です。
かなりはしょったり、無理やり完結させた、という点もあるのですが、これを機に、ほかの小説もしっかり完結できたならなと思っています。
一応最終回なので、お礼等。
推敲もなし、プロットは書く前に数分で脳内で、というかなり適当に書いたおかげで評価はまあまあといった感じですが、それでも多くの感想が嬉しかったです(最近のは返信できてませんが読んでます、時間が空いたら返信させていただきます、感想ありがとうございました)。お気に入りも、かなり多く、楽しみにしてくださってる方がいるというのは、作品作りに大きな励みになりました。
後半は、完結させるために、どうにか書いたといった感じのせいもあって、我ながらどうかと思う個所は多いのですが、それでも書いていて楽しかったです。
書いていて楽しいというのは、一番大事なことだと思いますので。
最初は一話で終わらせる予定でしたが、なぜか続いて、そのあとも続いちゃいました。この小説でしっかりと最初から設定されている部分は、幼女がなぜTASの力を使えるのかというところなのですが、少しだけ重いので割愛してます。もしまた続きを書いたとしても、この設定は明かされることがないでしょう。なんで使えるかは読者それぞれで決めてみてもいいかもしれません。
幼女の冒険はまだこれからです。
皆さんが忘れたころに、エピローグだったり、ひょっとしたら続きを書くこともあるかもですが、可能性は低めです。せっかく完結させちゃったので。
思い付きの小説を、ここまで読んでくださった皆さんに感謝とお礼を。
こういった、完結のあいさつを書いたのも初めてなので、もっと書きたかったりしますが。そのうち匿名設定を外すことがあれば、僕のほかの作品も読んでくださると幸いですし、同じ名前でノゲノラ小説を書くこともあるかもです。そちらも読んでくだされば感激です。
本当にありがとうございました。