艦隊これくしょん ~暁海恋歌~   作:山吹 色

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プロローグ:新しい提督が鎮守府に着任しました!

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艦隊司令部 佐世保鎮守府 鹿屋基地 指揮官候補生

 

紫藤(しとう) 狐太郎(こたろう) 少佐殿

 

 

 

 

艦隊司令部 佐世保鎮守府 大本営

 

〇〇 〇〇元帥

 

 

 

《辞令》

 

 

 

〇〇年□□月△△日付けで佐世保鎮守府鹿屋基地に於いて〇〇〇〇元帥の指導の元、1年間に及ぶ指揮官実地訓練を修了し、雲雀野(ひばりの)鎮守府提督の任を命ずる。

 

今後の活躍を期待する。

 

 

 

以上

 

 

 

 

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「はぁ~~」

 

 

電車の心地よい揺れに揺られながら、俺は座席の背もたれに持たれかかかり、深いため息を吐きながら眺めていたその辞令書をくしゃくしゃに丸める。

車窓から見える景色は俺の吐いたため息を払拭してしまうような、波も穏やかで水平線までずっと続く青い海。

……まぁ、ボヤきたくもなる。

俺は陸軍に入隊したかったのだが、どういうわけか海軍兵学校へ入学させられ、卒業後、希望とはかけ離れた海軍に入隊。

一端の船乗りで一生を終わろうかと思ったのだが時代の流れはそうはいかなかった。

数年前、突如海の底から現れた深海棲艦。

現代兵器では歯が立たず、あれよあれよと人類は制海権を喪失。

そんな絶望の中、深海棲艦と互角以上に渡り合える軍船の魂を持つ少女『艦娘』が現れ、制海権を奪還すべく反攻作戦を開始。

世間では世界を変える為の一大決戦が行われているのだろうが、それが自分の人生にまで影響するなんて思ってもいなかった。

そのせいで憧れていた陸軍に入隊するのも諦め、仕方なく船乗りになるつもりだったはずなのだが。

気が付いたら望んでもいないのに指揮官候補生に指名され、鹿屋基地で1年間の実地訓練を経て新しく出来た鎮守府の指揮官『提督』になるためのエリート街道をまっしぐらである。

辞めたければ辞めれば良いのだろうが、ここまで来た以上、後戻りは出来ないし、何より途中で投げ出す事が嫌だ。

……ホント、どこで間違ったのだろうか?

実際、俺は指揮官には向いていないと自分でも思う。

別に頭が良いわけでもないし、とりわけ目立った特技もない。

体格も普通っちゃ普通だし、誰から尊敬されるわけでも無く、どこをとっても平々凡々な男だ。

両親もいなければ兄弟もなし、物心ついた時から既に施設にいた。

死別した、なんて戦争みたいなこの状況なら何にもおかしくはない。

だから両親の顔も知らないし、名前も知らない。

今さら知る気も無いし、知ったところで俺は何も変わらない。

この紫藤狐太郎という名前も、施設にいた頃に院長先生が付けてくれた名前だ。

一応、高校を卒業して施設を出、お国のためにこの命を貼りますかと陸軍に入隊希望する。

寮とかもあるらしいし、給料もいいって聞いたしな。

それなら何とか一人で暮らして行けるだろうと考えたわけだ。

……あ。

一つだけ、俺は一般人とはかけ離れた特殊能力みたいなものがある。

それの発動する条件は非常に特殊なので発動する事は滅多にない。

というか発動しないようにずっとひた隠しにして生きて来た。

その能力のせいで何度、心が砕け散るような辱めを受けてきたか。

思い出すだけで死にたくなる。

陸軍に入隊するという事も、その能力を発動させないために選んだ理由の一つであるのだが、鹿屋基地でその狙いは儚く散ってしまった。

もう自分が望まなければ、会うことも話すことも一生ないと思っていた。

しかし、望んでいなくともそれは向こうからやってきた。

艦娘というのは読んで字のごとく、俺と歳が近いぐらいの、敬遠すべき『女の子』だったからだ。

なんでだよぉおおおちくしょぉぉおおっ!?

そう心の中で叫びたい。

誤解を招く前にあらかじめ言っておくが、俺は断じてホモではない。

……女の子が、苦手なだけだ。

それもよりによって女の子が、大勢集まる場所に行けというのは死刑宣告よりもつらいものがある。

というかいっそのこと一思いに殺ってくれ。

 

 

「はぁ……気が重いったらありゃしないよ」

 

 

大きくため息を吐きながら頭を抱える俺。

そんなことはお構い無しに、電車は心地よく揺れ続ける。

時間と言うものは刻一刻と過ぎ去るもので、1時間の電車の旅は終わる。

飛行機を2つ乗り換え、電車に乗ってそこから鎮守府に一番近い最寄り駅で降り、バスに乗り換えて目的地へ向かう。

鹿屋基地を出て約半日の旅はもう終わりを迎える。

長かったようで短いものだな。

駅前で乗ったバスはアーケード街を抜け、見えた河川に沿って河口へ向かって進んでいく。

車窓から中洲に大きなタマネギ状の建物が見え、しばらく進むと河川を股にかけ、天に弧を描いて聳え立つ大きな橋が見えた。

地元ではその建物と橋は有名らしい。

突き当りまで進むとバスは右に曲がり、大きな一般道に出た後、しばらく道なりに進むと小さなプレハブの待機所がある停留所が見えた。

見た目から察するに、あのプレハブの待機所はどうやら最近出来たもののようだ。

遠くから見ても分かるくらい、ペンキの色がハッキリしている。

 

 

『雲雀野鎮守府前』

 

 

運転席の左上にある電光掲示板に、デジタル文字でそう表示される。

俺は近くにあった降車ボタンを押し、停留所に停まるのを待って荷物を持ちながら席を立つ。

運転席で運賃を払い、バスから降車すると背後でゆっくりとドアが閉まり、エンジン音を響かせながらバスは走り去っていく。

海風から香る磯の匂いにちょっとした懐かしさを感じながら、スマホで現在位置を調べながら鎮守府の入り口であるゲートに向かう。

鎮守府周辺は防風林と高いコンクリートの壁で囲われていて中は見えない。

左側には河川があり、水平線に続く長い防波堤とテトラポットが見える。

バス停留所から道なりに進んでいくと、重厚な扉の前に出る。

その扉の脇に小さな窓と扉があり、中を覗くと警備員が顔を覗かせた。

 

「あんちゃん。雲雀野鎮守府になんか用かい?」

「はい。本日付で雲雀野鎮守府に着任しました。紫藤狐太郎少佐です」

「着任……あぁ!提督さんだっちゃ。あらー思ったより随分若いこと。全然わかんねがった。今ドア開けっから。さ、はいらい」

「失礼します」

「中さ連れていきたいげっと、こっから離れられねぇんだ。わりぃけどこの先は自力で行ってけらい」

 

顔を覗かせた初老の警備員に、自分の身分証明書を見せると手元の資料と照らし合わせ、思い出したようにドアを開けてくれる。

仕事が忙しいのか、鎮守府の中を案内出来ないらしく、どうやらここからは俺1人で行ってくれと言う事らしい。

初めて来るから迷うかもしれないけど、邪魔をしちゃ悪いのでそそくさとその場から立ち去る。

鎮守府の中に続く扉を開けると、複数の建物が建ち並び、間には運搬車両用の道路があった。

それはまるで巨大な工場を思わせるようだった。

運搬車両用の道路のずっと先には港が見える。

ゆっくりと周りを見渡すと建物の側面には『第1工廠』や『備蓄倉庫』などわかりやすく書いてある。

ここはどうやら工廠・倉庫区画らしい。

そうなると司令部があるのは別の場所か。

闇雲に歩き回るのも効率が悪いので、まず運搬車両用道路に沿って恐る恐る一歩を踏み出す。

自分の指揮する場所なのにコソコソしてる俺を見つけたら、誰だって不審者って思うだろうな。

……あれ?

そもそも俺はなんでこんなことしてるんだ?

まぁいい。

こうなったら見つからずに司令部に行こう。

気合いを入れて荷物を担ぎ、すたこらと司令部を捜しながら動き回る。

しかし、必死に探せど司令部なる建物はどこにも見当たらない。

やはりここを出た場所にあるのだろうか。

考えながら歩いていたので建物の角をこちらに曲がって来る人影に気付かず、俺は出会い頭に正面衝突して押し倒してしまう。

 

「うぉお!?」

「きゃっ!!」

 

 

耳に入って来たのは女の子の声だった。

そう気付くのも遅れ、俺は彼女に馬乗りになるような態勢で倒れた。

急な出来事だったので咄嗟に手を着いたのだが、その瞬間、なにやらフニフニした水鞠のような非常に柔らかい感触がする。

……ま、まさかこれはっ!?

しまった!!

これは俺にとっての……鬼門っ。

 

 

「ちょ、アンタ!どこ触ってんのよ!」

「ん?」

「ん?じゃないの!問答無用でぶちのめすわよ!」

「あ、そう。(ちっ……思ったよりちっぱいだったな)」

「な、何よその態度!頭に来るわね!謝罪の一言も無いわけ?このセクハラ!変態!」

 

俺に押し倒されながらもぎゃーぎゃーわめきたてる彼女。

腰まである艶やかな亜麻色の髪。

キリッとした凛々しい顔立ちに、すこし釣り上がる切れ長の目尻。

透き通るような赤い瞳に、可愛らしいセーラーワンピースを来ている。

ワンピースのから伸びる細い足には紺色のスパッツを履いている。

このままのしかかったままでいてもいいのだが、セクハラで通報され、憲兵さんを呼ばれちゃ話にならない。

赴任初日にセクハラなんて笑われもんだぜ。

 

 

「……で、だ。」

「な、何よ?今さら謝るってわけ?冗談じゃないわよ!」

「いいから聞け。これは不意の事故だ。よってお互いに罪は無い。今さらながら俺が謝罪した所でお前は赦してくれるわけないだろ?」

「も、もちろんよ!アンタがした事は紛れもないセクハラ!そう簡単に赦すはずがないわ!」

「だろうな。はぁー、たかだか胸の一つや二つ、揉んだところで減るもんじゃねぇのによ。いちいちうるせぇな。女ってのは。まぁ、そうなればやることは一つ」

 

ゆっくりと彼女から退き、ため息混じりに膝についたゴミを払いながら立ち上がる俺。

そしてぶつかった拍子に落とした荷物を蹴って道路の路肩に避ける。

まぁ、一応、大事なものが入ってるからな。

二次災害で木っ端微塵にされちゃシャレになんないし。

状況が読めないのか、彼女は胸を隠しながら困惑した表情を浮かべながらフラフラ立ち上がる。

 

「ど、どうするつもり?」

「あん?どうするもこうするも決まってんだろ」

「?」

「1発殴らせてやる。自分がスッキリするぐらいの本気でな。それで今回の件は不問だ。簡単だろ?」

「……艦娘をあまり馬鹿にしないでよ?あたし達が本気で一般人を殴ったらアンタ、怪我じゃすまないわ。下手すれば死ぬわよ」

 

それを聞いて切れ長の目を更に釣り上げてそういう彼女。

……なるほど、艦娘ね。

聞いた話だが彼女達は艤装を装備する上で、どれも常人を超えた力を持つって聞いたことがある。

おもしれぇ。

それを聞いた俺は表情一つ変えずに、懐からタバコケースを出し、1本取り出すと何食わぬ顔で口に加え、ポケットから出したライターで火をつける。

 

「そうかい。なら61cm三連装魚雷やら12.7cm連装砲でも使うか?一般人相手によ?」

「なっ!?」

「……脅し文句ならいくらでも聞くぜ。やるのか?やらないのか?」

「くっ……バカにして!頭に来たわ!お望みどおり木っ端微塵にしてあげる!あの世で後悔しなさい!」

「そう来なくっちゃ」

 

俺は不敵な笑みを浮かべる。

普段の俺はこんな事は絶対に思い付かない。

こんな破天荒な事をするのは……オレしかいない。

煽りに煽られて怒り心頭の彼女は深海棲艦と戦う時に使う武装──艤装を顕現させる。

左手には槍のような武器を、右手には12.7cm連装砲を握り、両太ももには61cm三連装魚雷の発射管を合わせて二門装備している。

背部にはブリッジを模した武装が取り付けられ、頭にはうさみみのような機械が装着される。

彼女は怒りに身を任せ、連装砲の砲口をこちらへ向けるが、オレは微動だにせずただタバコを呑気に吸っているだけだ。

それを見て火に油を注いだのか、彼女は何のためらいもなく、連装砲の引き金を引いた。

轟音が響き渡り、硝煙の中、砲口から弾が飛び出す。

この距離なら例え外れたとしても、爆発の爆風で吹き飛ばされるのがオチ。

しかし、弾が飛び出すその瞬間。

既にオレが見ている世界は全てが『遅く』見えていた。

吸っていたタバコを上へ投げ捨て弾道を読み切り、背を低くしながら弾スレスレの所をくぐり抜け、一気に彼女へと間合いを詰める。

素早く懐のホルダーから愛銃『ベレッタM8000』を右手で抜き、左手で彼女の胸ぐらを掴むと一気に押し倒す。

 

「きゃあっ!?」

 

いきなり押し倒され、眼前に拳銃の銃口を向けられて面食らう彼女。

オレが避けた弾は道路に着弾すると勢い良くペンキをぶちまける。

込められていたのはペイント弾。

分かってはいたけど本気で撃つとはな。

何が起こったのか、分からないよという表情を浮かべながら彼女は惚けていた。

 

「これでおあいこだな」

「へ?」

「俺はお前に対するセクハラ。お前は軍規のところで言う上官強襲罪か、はたまた俺が一般人だったら軍法会議に掛けられて解体処分ものだぜ。まぁ、どちらにせよ罪を認めないならお互いに不問ってことにしようぜ」

「……え!?それってどういうこと?」

「さぁな。それは自分で考えな。んじゃ『執務室』で待ってるぜ」

 

にひひと意地悪な笑いを浮かべて、路肩に避けた荷物を担ぐと立ち去る俺。

それを聞いてしばらく考え、あることに気づいて焦り始める彼女。

これが俺と彼女の最初の出会いであり、ここから雲雀野鎮守府の全ての物語が始まっていく。

最後に俺の特殊な能力──簡単に例えるならそれは異性に性的な興奮を覚えるとスーパーマンになる、という事だ。

詳しくいうといろいろと長くなってしまうので今回は省略しよう。

そう言って離れたものの、大事なことをすっかり忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

……………司令部ってどこだぁ?

 

 

 

 

 

 

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