艦隊これくしょん ~暁海恋歌~   作:山吹 色

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Quest 1. 艦娘「建造」艦隊強化せよ!

 

 

「……そういう事もあったわね」

 

誰もいない執務室。

どこかの大きな鎮守府とは違い、我が雲雀野鎮守府の執務室はこじんまりとしている。

壁一面に並べられた本棚にはさまざまな資料が保管され、机の前にある洋風はテーブルの上にはステンドグラスを思わせる綺麗な一輪挿しの花瓶が置かれている。

そのテーブルを挟むように革製のソファーが置かれ、応接間のような雰囲気を醸し出す。

窓にかかるレースのカーテンが、そよぐ海風にハタハタと幻想的に揺らめく。

喧騒な外とは違い、執務室の中は俺と彼女の声しか聞こえない。

そんな中、俺は彼女と初めて出会った時の事を思い出し、書類整理をしながらペンを片手になんとなく語らっていた。

隣でそれを聞いていた彼女は、不機嫌そうに言う。

 

「まさかあんな喧嘩っ早いチンピラみたいなのが、その日着任したばかりの提督だって知らなかったのよ。仕方ないでしょ」

「分かってるって。それはお互い様だろう。秘書艦殿」

「はぁーあ。その呼び方、やめて貰えるかしら。出来れば名前で呼んで」

「分かったよ叢雲」

「分かればいいの。それよりびっくりしたわ。あんな至近距離からの砲撃を軽く躱すなんて。あたしが下手だったのかも知れないけどアンタどんな身体能力してんのよ。深海棲艦よりもずっと怖いわ」

 

ジト目で俺を見ながら言う彼女に、そこを突かれるとドキッとしてしまう俺。

反射神経……いや、不可抗力とは言え、あんな破天荒なことをするなんて自分でもビックリしている。

それを誤魔化そうと俺は急に話題を変える。

 

「俺も雲雀野鎮守府に赴任して一ヶ月かぁ」

「そうね。思ってみれば一ヶ月も前の事なんだわね」

「あぁ」

「それより手が止まってるわよ。仕事しなさい」

「へいへい」

「……はいは一回でいいの」

 

彼女に窘められて俺は書く手が止まっていた書類を再び書き始める。

その後、俺は彼女と別れてからさんざん迷いに迷った挙句、痺れを切らして探しに来ていた任務娘の大淀さんに見つかり、この司令部へと連行された。

そして秘書艦である叢雲とこの執務室で再会するわけである。

顔を合わせた時の第一声が『あの怪物だ!』と言われたのは今でも印象深い。

ちなみに秘書艦の候補は彼女の他にも4人ほどいたのだが、その中でなぜ彼女を選んだかというと。

実は赴任する数日前、会議室に呼ばれ、秘書艦の説明など全く耳に入っていなかった俺は、転がしたえんぴつが止まった人を秘書艦に選んだのだ。

周りの人は俺の行為に唖然としていたが、誰が俺の秘書艦になろうが興味がなかったのである。

それが偶然にも彼女だったわけで、他意は全くない。

無論、その事はまだ彼女には言っていない。

もしも口を滑って余計なことを言ったら最後、今度こそ実弾で木っ端微塵にされると本能で悟った。

知らぬは仏というが、まさにその通りだと俺は思う。

 

「はい次、先月の資材在庫管理表と今月の資材搬入予定表よ。鎮守府を運営する上で非常に大事だからちゃんと目を通しておきなさい」

「はいはい」

「もしも不備や不足があったりしたら、あたし達の入渠や補給、新しい艦娘の建造、新装備の開発が出来なくなるわ。つまりどういう事か分かるわよね?」

「……こりゃー責任重大だ」

「分かればいいのよ」

 

棒読みで答える俺を尻目に、呆れたようにため息を吐きながらそう言って机の上に座り、足を組む彼女。

スパッツに隠れたスラリと伸びる脚がその幼い体型に反し、どこか艶めかしさを覚える。

ぶっ……意識しちゃダメだ。

冷静を保て俺。

タダでさえ女の子に対して免疫が無いし、俺の特殊能力のスイッチがONになってしまう。

俺の能力はどうやら異性と意識さえしなければ発動しないらしい。

発動したらしたで俺的にはメリット山盛りなのだが、反動が身の毛も弥立つほどやばい。

一ヶ月前のようにやさぐれヤンキーになってしまう上、何がなんでも目の前にいる異性をものにしたくなる独占欲の強いドS野郎になってしまう。

それで何人の女の子を泣かせ、狂わせ、誑かしてきたか。

そう考えると俺ってなんて罪深き男なのだろうと後悔の念に駆られてしまう。

一種のトラウマだな、こればかりは。

そんな心配を他所に彼女は、時折、脚を組み替えながら呑気に鼻歌を歌い、机の上にある積み上がった資料を手に取って読んでいる。

わざとではないのは分かっているが、気になって気になって仕方ない。

当の本人も無意識にやっている行為なので、ものすごく腹立たしいしもどかしい。

 

「司令官。艦隊司令部から伝達よ。日課任務で『艦娘「建造」艦隊強化せよ!』だそうよ」

「どれどれ……工廠にて建造を3回行い、艦隊を強化せよ、か。はぁー……」

「なにため息吐いてるの。戦力強化は我が鎮守府の急務よ。あんたがずっと渋ってるせいで、一ヶ月経ってもこの鎮守府にはあたししか居ないんだから!おかげさまで1-1から全然進んでないのよ!」

「……………」

「もう!焦れったいわね!早く工廠に行くわよ!ほら、立って!」

 

そう言って彼女は強引に俺の手を引き、無理やり立たせて外にある工廠まで引きずっていく。

日課任務(デイリークエスト)

艦隊司令部より各鎮守府へ通達される、当日中に行う提督の仕事の一つである。

工廠にて開発資材と燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイトを投入し、各々レシピを回して新しい艦娘を建造するという任務だ。

駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦、戦艦……各レシピによって様々な艦娘が建造され、何が出来上がるか分からないので提督達の楽しみの一つと言っても過言ではない。

ある程度、投入する資材の量を調整することで出来上がる艦娘を絞ることが出来るが、ほぼ提督の持つ運だとも言われている。

中には膨大な量の資材を投入して限定的な艦娘を狙う『大型建造』というものが存在するが、その艦娘を狙うあまり資材を溶かし、破産寸前になる鎮守府もあとを絶たないとか。

艦隊司令部もそうならないように、各鎮守府に警告文を出している。

ご利用は計画的に。

……で、だ。

本題に戻ろうか。

何故、俺が艦娘の建造を渋っているのか、という問題についてだが理由は明確だ。

資材については問題はなく、新しい艦娘を建造して艦隊も強化するべきだとは思っている。

一緒に戦う仲間が増えることは鎮守府にとっても、艦娘にとっても非常に心強いのは分かっている。

……しかし、だ。

 

 

これ以上、俺の貞操が危うくなるのはどうしても避けたいのだ!

 

 

艦娘の彼女達には分からないかもしれないが、これ以上艦娘、女の子が増えてしまったらこの能力が発動しっぱなしになってしまう!

 

 

これでは身が持たない、というか、トラウマを増やしたくないんだ!

 

 

頼むから俺の心の傷を深く抉らないでくれぇぇぇぇ!

 

 

彼女にズルズルと引きずられながら、工廠へ向かう道中、心の中で全力で叫ぶ。

その危機感と恐怖心からか、俺はずっと艦娘建造が億劫で億劫で仕方なく、敬遠しがちだったのだ。

なんやかんや気が付けば一ヶ月が経ってしまった。

任務娘の大淀さんには奇異の眼差しで見られ、秘書艦の彼女は待望の仲間を切実に乞う始末。

普段はものを強請るような性格の彼女ではないのだが、もう限界だったらしく毎日のように泣きつかれた。

もしも俺が何の変哲もない健全な男子なら、毎日が楽しみで仕方ないだろう。

未知の艦娘達に会えると思ったら、心が弾むのは当然至極。

普通であることがどれだけ幸せなのか、考えたらキリが無い。

この能力が無ければと思えば思うほど、憎たらしくて憎たらしくて仕方がない。

そして本日、記念すべき一回目の建造である。

 

気が付けばもう工廠の前に運ばれて来ていた。

 

「明石さーん!提督連れてきたわよ!」

「おー!待ってたよ!ようやく来たね提督!」

「ひ、久しぶりだな、明石」

「久しぶりも何も挨拶したきり一ヶ月ぶりだよ!ど、どうしたんだい?顔色が悪いけど」

「だ、大丈夫だ。これにはいろいろと事情が……」

「いいよいいよ、気にしてないから!ところで今日は建造かな?」

 

気にしてないんかい。

そんな俺の心のツッコミを他所にスパナを片手に現れた、つなぎ姿で油まみれの少女。

知っている人もいるだろうが、彼女は工作艦『明石』だ。

我が鎮守府の工廠を任せている、プロフェッショナル(自称)である。

気さくな雰囲気なので女の子が苦手な俺でも話しやすいのが、正直言って助かっている。

 

「資材の在庫も全く使ってないからたんまりあるし、初めての建造で空母とか戦艦を狙えると思うよ?どうする提督?」

「それは……君達に任せるよ」

「そう。叢雲ちゃんは?」

「うーん、最低レシピで回してもいいんじゃない?資材は多く残しておいた方が何かあった時に困らないし」

「い、意外と堅実なのね……」

 

あははと苦笑いを浮かべる明石。

それにつられて苦笑いする俺だが、相変わらず顔色は最悪だ。

 

「そうと決まれば善は急げよ!早速始めるわね!妖精ちゃん!」

 

明石が号令をかけると工廠の奥からトコトコとつなぎ姿の小人が現れ、ビシッと敬礼するとそそくさと戻っていく。

妖精さん。

何かと多く艦娘に関わるこの小人なのだが、詳しいことは全く分からない。

すると工廠の奥にある大きな扉が締まり、天井から大きなタイマーが降りてきて、建造にかかる所要時間が掲示される。

中では何やら機械が動いている音がするのだが、気にしないで置いた方がいいのかもしれない。

あぁ、何故だか分からないが胃がキリキリする。

 

「……22分か」

「駆逐艦級ね!楽しみだわ!」

「まぁ、はじめてにしては上出来ね。終わるまでここで待ってる?」

「いや、俺は仕事がっ!?」

「ちょっとアンタ!仕事は二の次よ!この鎮守府で初めて艦娘が建造される瞬間に立ち会うの!」

「そう言えば提督が日課任務でコツコツ貯めた高速建造材があるわ。これを使えば……」

 

一目散に退散しようとする俺の腕をがっしりと掴み、執務室へ帰らせないようにする叢雲。

明石が妖精さんに指示を出すと、何やらゴォゴォという音と共にタイマーの数字がみるみると減っていく。

そしてあっという間に所要時間が終わる。

そもそも艦娘とはどういう風に建造されるのだろうか?

なんて考えたところで答えが出る訳でもない。

そんなことにツッコんでいたらキリが無いのは百も承知だが、考え無ければ俺の身体(特に胃)が持ちそうに無い。

そうこうしているうちに重く閉ざされた扉が音を立てて開く。

 

 

「僕は白露型駆逐艦『時雨』。これからよろしくね」

 

 

扉の中から出てきた三つ編みの少女。

まるで蒼海のように澄み切った青い瞳に色白で綺麗に整った顔。

黒の下地に白に赤のラインが入った襟のセーラー服を着、真っ赤なタイを占め、同色のプリーツスカートを履いている。

背部には2本の砲塔を背負い、プリーツスカートから伸びる美脚の両太ももには魚雷発射管を装備している。

彼女は白露型駆逐艦の『時雨』と名乗った。

時雨……聞いたことがある。

呉の雪風、佐世保の時雨。

そこまでは詳しくないが、第二次世界大戦において東西の『幸運艦』として有名な駆逐艦だ。

提督達の間では幸運というステータスが高いと有名。

戦闘においてクリティカル率が高く、彼女は非常に重宝するという。

鹿屋基地に訓練で滞在した際、彼女の演習する姿を見たことがあったが、とても可憐で強かった印象が残っている。

同系列の艦娘の登場に、感極まったのか隣に立つ叢雲にはうっすらと涙が浮かんでいる。

ようやくと言った表情だ。

辺りをキョロキョロ見回して俺を見つけると、真っ先に近付いてくる時雨。

 

「……キミが提督かい?」

「あぁ」

「そっか。これからよろしくね」

「……あ、あたしは叢雲。秘書艦よ。ま、よろしくおねがいするわ。分からない事があれば何でもあたしに聞いてちょうだい」

「分かったよ。それよりどうして泣いているんだい?僕に会えたのがそんなに嬉しかったの?」

 

不思議そうに見詰める時雨に、顔を両手で覆って恥ずかしそうにブンブンと首を横に振る叢雲。

嬉し泣きしてんだろうがよ、ツンデレめ。

可愛げのない奴かと思ったら、意外と可愛らしい所あるじゃんかよ。

 

「なぁ時雨?この子は初めて自分以外の艦娘に出会って嬉しいんだとっ!?」

「!?」

 

何も喋れないでいる叢雲の気持ちを俺が代弁しようとした瞬間、彼女の踵が俺の足の甲に勢い良くめり込む。

いや、突き刺さると言う表現の方がぴったりだな。

それと同時に何かが砕け散る音が鳴ったような気がする。

気のせいだと思いたいが。

あまりの激痛に声にもならない悲鳴をあげ、その場にうずくまり、のたうち回る俺。

その決定的瞬間を目の当たりにした時雨は心底びっくりしたのか、そのまま硬直している。

恥ずかしさの頂点に達した叢雲はその場から全速力で逃走した。

 

「はっ!?今、僕は見てはいけないものを見たような……」

「き、気のせいだっ」

「提督っ!?大丈夫かいっ!」

「す、すまない……時雨。肩を貸してくれ……」

「分かった。せぇのっ」

 

時雨に支えられ、呼吸を整えながらゆっくりと立ち上がる俺。

……マジで死ぬかと思った。

一ヶ月前、叢雲本人が言っていたように艦娘は一般人とは桁違いな力を持つようだ。

まさかこんなタイミングでなおかつ身を持って体感してしまったぜ。

それを遠巻きに見ていた明石は俺に同情の眼差しを向けている。

同情するなら最初から代わってくれと心の中でつぶやくが、その言葉は自分の口からは出てこなかった。

 

「さてさて。任務達成まであと2回建造しなくちゃいけないね?どうする提督?」

「……戦艦レシピで回してくれ。我が艦隊は練度が低いから少しでも火力のある艦娘が欲しい」

「あいよ。燃料400弾薬130鋼材600ボーキ30ね」

「頼んだ。あと空いてる工廠で空母も。早いうちに揃えておくと楽になる」

「了解。えーと、第2工廠に空母レシピっと。妖精ちゃん、頼んだよ!」

 

明石は出てきた妖精さんに指示書を渡すと、トコトコと隣の工廠に向かって走っていく。

……とりあえず任務達成だ。

もう俺の貞操だのなんだのはこの際、諦める事にした。

背は腹に変えれん。

え?そう言えば任務娘の大淀さんはどこだって?

彼女はちょっと他の鎮守府へ俺の代わりに挨拶回りへ行ってもらったよ。

これから演習とかでお世話になるかもしれないし。

本来なら俺が行くべきなのだがこの有様だし、他人に見せられるものじゃないからね。

さて、それで所要時間は?

 

「4時間……?」

「おー。大当たりじゃない?提督?」

「つまりそれは僕が思うに戦艦ってことかな?明石さん?」

「まぁ、ビギナーズラックってやつか……」

「妖精さんからの報告。第2工廠の所要時間は4時間20分だって」

 

いや、ま、まさかね。

戦艦や空母が立て続けに当たるなんてそんなバナナ。

……ゴホンゴホン。

さてこの時、俺は1番重要な事に気がついていなかった。

それは建造の所要時間は、出来上がる艦娘が何なのかを知る目安であることを。

とりあえず工廠はいっぱいだし、高速建造材もなくなったので、とりあえず終わるまで待つこととして一旦、新しく着任した時雨を連れて執務室へ戻る事にした。

 

 

はぁ、この先いったいどうなる事やら……

 

 

 

P.S.実は後になって知ったのだが、本日明朝、密かに叢雲が一回目の建造を済ませていたと明石から聞いた。

しかし、俺にバレるのが怖く(という言い訳をしたくなく)て高速建造材を使った後、すぐに解体してしまったという。

いったい何が出来たのか?

明石に聞いてみたのだが、どんな艦娘が出来たのか知らないらしい。

解体された今になっては知るよしもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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