枯れない桜 もう一つの物語   作:メレリア

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12月19日(夜) 後半

「ごちそうさまでした~」

「義之くん、おいしかったよ」

「……満足じゃ」

 

 その後、食事は終わり雪月花が帰るのを玄関先まで見送りに出る。

 

「おぉ、さむ」

「まぁ、冬だしな」

 

 辺りはすでに暗闇に落ち、冷たい空気がさらに冷え込んでいる。

 

「ずいぶん長居しちゃったね~」

 

 時刻は既に九時過ぎ、女の子だけで帰るのは危ないかもしれないが、この初音島は犯罪が極めて少ない平和な所だ。おそらく大丈夫だろう。

 

「じゃあ、気をつけて帰れよ」

 

 義之もそう考えたのか、送ろうとはしなかった。

 

「うん。それじゃあ、また明日」

「ばいば~い」

「またね」

 

 

 三人はそういい、それぞれの方向に帰っていった。

 

「さてと…洗い物してくるわ」

 

 そう言って義之は中に戻っていた。そこに残ったのは、俺と夢宮だけだった。

 

「そろそろ、私も帰ろうかな」

「そうか」

「む…………」

 

 返事に不満だったのか、俺の方を見ながら夢宮が言う。

 

「どうした?」

「送ろうとか考えないの? こんなに可憐な少女がひとりで帰るって言うのに」

 

 自分で言うあたりで、可憐ではないと思うが確かに雪月花の面々と違って夢宮はひとりで帰らせるのは危ないと感じる自分がいるのも事実だ。

 

「確かに、暗いしな。家は遠いのか?」

「あっち」

 

 そう言って夢宮は指をさす。その方向にはある物がある。

 

「枯れない桜か」

「うん。そこからは近くだから大丈夫」

「なら、枯れない桜まで送るよ」

「お願いね」

 

 そう言って、外に行こうとする夢宮を

 

「ちょっと待て」

 

 俺は呼び止める。

 

「どうしたの?」

「寒くないか?」

 

 夢宮の格好は、夜までいる予定ではなかったのか少し寒そうに見える。

 

「そんなこと――クシュッ」

 

 ないといおうとするのは夢宮自身のくしゃみでかき消された。

 

「やっぱりな、ちょっと家の中で待ってろ」

 

そう言って、俺は自分の部屋に急いで戻った。そして部屋のクローゼットを探す。

 

「あった……」

 

 見つけたのは、自分が前に来ていたコートだ。今防寒用で使っているのより暖かくはないがないよりましだ。そのコートと今のコートをもって下に降りる。

 

「ほら」

「これって……コート?」

 

 俺は、今のコートを夢宮に渡した。

 

「ないよりマシだろ? 俺のじゃダメか?」

「そんなことはないよ」

 

 笑いながら。夢宮はコートに袖をとおす。

 

「今度こそ、行こうか」

「分かった」

 

 俺達は、改めて外に出た。

 

「そういえば、何を話していたんだ?」

「なにが?」

 

 道の途中、俺は気になっていたことを聞いてみた。

 

「雪村にというか、女性陣に連れて行かれただろ? 質問攻めでもされたのか?」

「それはね……私が翔也君とどんな関係なのかってそれこそ彼女なのかって質問されただけだよ」

「あいつら……」

 

 面白半分でやってるんだろうなという感想しか浮かばない。

 

「それで? 愛莉はなんて答えたんだ?」

 

 夢宮の性格を考えると、普通に付き合ってるとかノリで言いそうな気がする。

 

「えっと、一応お互いを名前で呼ぶ仲ですって答えたよ? ダメかな?」

「間違ってはいないからな。大丈夫だろう」

 

 そう言うと、夢宮は安心したように

 

「良かった~。翔也君が怒ったらどうしようかと思ってたんだよ」

 

 と、言いながら近くに来て腕を絡めてきた。途端に腕の寒さが片方だけなくなる。

 

「お、おい愛莉」

「こうしてると、恋人同士に見えるのかな?」

 

 笑いながら言ってくる。そこには雪村や花咲のようなただ悪戯というだけには見えない。

 

「たぶん、見えるんだろうな」

「うん、うん♪ あったか~い」

 

 さらに引っ付いてくる夢宮。そこで彼女は言った。

 

「これで、あの時の事を許してあげる」

「あのこと?」

「夕食の時に、私の胸覗いたでしょ?」

「……」

 

 気付いてないかと思っていたが、あれは演技だったようだ。

 

「……悪い」

「普通の女の子だったら、許されるわけないよ」

 

 呆れるように言って、夢宮は続ける。

 

「でも、私は心が広いから許してあげるよ」

「……ありがとう」

 

 色々と突っ込みたいところはあるが、ここは抑えておく。

 

「そうだ! ねぇ、ちょっとあそこに座らない?」

「あそこ?」

 

 既に、場所は桜公園になっており枯れない桜はもうすぐの所だ。

 

「質問したいことがあるんでしょ? 私に」

「それは、そうだが家は大丈夫なのか?」

 

 そう聞くと夢宮は

 

「問題ないよ。ほら座ろう座ろう」

 

 そういい、俺の背中を押してくる。下手すると転びそうだ。

 

「分かった、分かったから押さないでくれ」

「私の都合ばっかり気にしないでいいよ。たまには翔也君もわがまま言ったっていいんだよ?」

 

 俺の背中から正面にまわって夢宮は言う。口調は笑っていたが、そういう瞳は真剣だった。

 

「うん」

「はい、座ろう座ろう」

 

 こうして、俺と夢宮は公園のベンチに腰掛けた。

 

「あのさ」

 

 ベンチに座ったまま夢宮が口を開く。

 

「翔也君ってさ、彼女とかいるの?」

 

 いきなり凄い質問をしてきた。こんな質問が来るとは思っていなかった。

 

「いないけど? それがどうかしたの?」

「いや、別に大したことじゃ無いから」

 

 ふと、質問を考えていた俺にこの時ひとつの質問が浮かんだ。

 

「じゃあ、愛莉は彼氏とかいるの?」

「ふぇ!?」

 

 その質問に、顔を真っ赤にして首を左右に振る。

 

「わ、私は彼氏とかいないよ!」

「そうか」

「うん。この話題はお終いお終い!」

 

 やや、強引に話を打ち切る。追求はしたい気持ちが生まれるがしたら怒り出すだろう。

 

「じゃあ、ここからはまじめな話だ」

「うん」

「まずは、魔法使いって何なんだ?」

「それは、まだ説明してなかったね」

 

 夢宮は立ち上がり、俺を正面に立つ。

 

「私は確かに魔法使いだけど、使える魔法はふたつだけ」

「ふたつ?」

「ひとつは、心を読む魔法。もうひとつは、記憶を変える魔法」

「…………」

 

 あまりにも突発過ぎて声が出なかった。

 

「それは、人の考えが読めるってことか?」

「うん。でも信じて? 私は無差別にどちらの魔法も使ってない。それと記憶の魔法を使ったのは一回だけ……」

「なんで使ったんだ?」

 

 夢宮は俺に背を向けて言う。

 

「ひとりの女の子の記憶を変えた……じゃないと、いつか悩みすぎて誰にも言えなくて苦しんでしまうから…」

 

 重々しく夢宮は言う。それは、自分がしたことの重みとそれに対する後悔で潰されかけているように見える。

 

「それが、必要だったんだな…」

 

 背を向けたまま無言で夢宮は頷く。こういう状況で嘘が言えるほど夢宮は強くないと今までの短い付き合いではあるがそう思う。いや、思いたい。

 

「なら、俺は何も言わない。心を読む魔法を無差別に使っていないのも信じる」

「……本当に?」

 

 怯える様に振り返り夢宮は俺を見る。

 

「ここで、嘘はつかないよ。記憶を変えたのは罪かもしれない。でもその時はそれが必要な事だって愛梨は思ったんだろ?」

「……」

 

 夢宮は、小さく頷く。俺は立ち上がり夢宮の頭に手を置いた。

 

「頑張ったな。誰にも言えなかったんだろうけど抱え込みすぎるのは良くないぞ」

 

 そう言いながら、頭を撫でた。夢宮は俺の胸元に飛び込む形で顔を埋め

 

「…………」

 

 ただ、静かに涙を流していた。

 

「落ち着いたか?」

「……うん」

 

 人前で泣くのが恥ずかしかったのか、夢宮は顔全体が少し赤かった。

 

「翔也君の前だと、何か安心して泣く事が出来たよ…」

「それは光栄だな」

「やっぱり、相性がいいんだよ」

 

 先程の泣き顔はどこにいったのか朗らかに笑って夢宮は言う。そこまではっきり言われるとこっちが照れる。

 

「そ、そういえばお前時間大丈夫なのか?」

 

 誤魔化すように俺は言う。

 

「む、それは私とは一緒に居たくないって事?」

 

 途端に、不機嫌そうな声で夢宮は返してきた。いきなり不機嫌になるとは思っていなかった俺は、慌てて

 

「いや、そうじゃないけど」

「あはは、わかってるよ。翔也君は心配してくれてるんだよね?」

 

 いたずらが上手くいった子供のように夢宮は言う。

 

「でも、さすがにそろそろ戻ろうかな。ありがとう翔也君。翔也君のおかげで楽しい一日になったよ」

「どういたしまして」

 

 夢宮は、少し枯れない桜のほうに歩いてこちらを向く。そして、笑顔で言った。

 

「翔也君」

「どうした」

「大好きだよ……」

「え?」

「それじゃあね~」

 

 そう言って、夢宮は走っていってしまった。残された俺は

 

「…………」

 

 何も出来ずに立ち尽くしていた。その後、しばらくして

 

「帰るか……」

 

 自宅への帰路についた。その後は、家について風呂に入りベットに入った。途中で義之達から質問を受けたがなんと答えたかは覚えていない。

 

「どっちなんだろうな……」

 

 俺の頭の中は、そのことでいっぱいだった。

 

「友人としてか、それとも……」

 

 考えれば考えるほど分からなくなる。夢宮の場合は特にそうだ。まぁ、今まで女子にそんなことを言われた事はあるが今回のは違う…

 

「やっぱり、本人に聞くのが手っ取り早いな」

 

 結論が出た俺は一旦そのことを考えるのをやめる。現実で今日はもう会えないなら、夢の中で会えばいい。

 

「おやすみなさい」

 

 誰もいない部屋で、俺はそう呟き眠りについた。

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