枯れない桜 もう一つの物語   作:メレリア

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12月20日
12月20日


「…………」

 

 目を覚ます。何も言わずに時計を見る…

 

「……6時17分」

 

 夜とは言えない時間だ。

 

「夢じゃないか……」

 

 がっくりと俺は肩を落とす。

 

「朝食の準備でもするか」

 

 のそのそと一階に降りていった。しかし、居間に行くと

 

「おっ、おはよう翔也」

 

 普段ならまだ寝ている筈の義之が居た。

 

「……夢か」

「なんでそうなる」

「だって……なぁ?」

 

 義之が朝早くに起きているのはここ三週間は見ていないし、いつも遅刻ぎりぎりに来るのが義之だからだ。

 

「なぁ? じゃねえよ」

 

 そういうと、義之は俺の頬を引っ張る。

 

「……痛い……痛いって!」

 

 最初のうちは良かったが夢ではなかったのかいきなり強い痛みが来た。

 

「夢じゃなかったな……」

「分かればよろしい。じゃあ、俺そろそろ出るから戸締りとかよろしくな」

 

 そう言って、義之は鞄を持つ。いつもより数段早い。

 

「学校でなにかあるのか?」

「あぁ、人形劇の朝練だとさ。それに、まゆき先輩から料理対決も挑まれたから」

「それは大変だな。でも、たまにはそんなこともいいんじゃないか?」

 

 俺は笑って言う。それを聞いた義之も

 

「それは、お前にも言えることだけどな」

 

 笑って返してきた。

 

「そんじゃ、行って来る」

「行ってらっしゃい」

 

 そう言って義之は家を出て行った。

 

「さて、朝食にするか……」

 

 台所に行き、食べ終わった食器の数を見るとさくらさんもすでに出ていることが分かった。

 

「ご馳走様でした」

 

 その後、義之が作ったであろう朝食を終えて学校へ行く支度を始めた。

 

「あいつ、学校行ってるのか?」

 

 そんなことを呟いていた。学校に通っているとは聞いてはいない。仮に居たとしても本校と付属の校舎だから会う事はほとんどないだろう。音姫さんのように生徒会長などしていれば見かけることはあるのだけどそんな話も聞いてない。ただ通ってるとすれば学校でも会うことができると考えに至った所で

 

「なにバカな事を考えてるんだ俺は」

 

 自分で自分を笑ってしまう。そんなことあったら一大事だ。それが学校中に知れわたり義之のように男子に追われるだろう。

 

「まぁ、とりあえず学校……行くか」

 

 俺は、戸締りをして、風見学園へと向かった。この時の俺が後におこる大騒動を予見していたとは今はまだ知ってすらいなかった。

 

 

 

 

 時刻は昼過ぎ。学校は今、昼休みの時間だ。そんな時に俺は、屋上に居た。いつもなら教室で昼食を食べている筈だ…

 

「何だが、大変なことになったね」

 

 その大変なことになった原因が笑いながら言う。そして俺は、何故こうなったかを振り返った…

 

 全ての発端は、学食に向かおうと廊下を出たときだった。

 

「翔也く~ん!」

 

 遠くから呼ぶ声が聞こえる。その声の方を向くと誰かがこっちに走ってくる。何かを抱えているようで少し足元が不安定だ。

 

「目の前でこけたりしないよな…」

 

 そんなことを思った途端

 

「わっ! ととと」

 

 後、数メートルといったところで危うくこけそうになる。俺は慌てて近寄り支える。

 

「大丈夫ですか?」

 

 そう声をかけると、相手はちょっと不満そうに返した。

 

「学校では敬語なんだね? 翔也君」

 

 そう言ったのは、本校の制服を着た夢宮だった。

 

「……愛莉?」

「正~解」

 

 一旦支えてる腕を放し向き直る。

 

「学校通っているのか?」

「そうだよって昨日言ったでしょ? どう私の制服姿?」

 

 そう言って夢宮はくるっと回転する。スカートの中が…見えるわけないか。

 

「似合ってるよ」

「ドライだな~。まぁそんなことより―――」

「おい、春野この人は誰だ?」

 

 声のほうを向くと、そこにはクラスの男子が居た。その後ろには本校生徒が来たのが珍しいのか多くの人が居た。困った事にみんなから嫉妬のようなものを凄く感じる。

 

「ただの友人だよ」

 

 そう言ったら、気のせいか少し空気が落ち着いた感じがした。このままなら何もないだろう。

 

「昨日の夜遅く一緒に帰っただけだよ」

 

 夢宮のこの一言がなければ……

 

 

「春野く~ん? ちょっとこっちにきてくれないかな~? 手荒な事はしないからさ~」

 

 男子の一人が目をギラギラさせて言う。これは行ったら確実に終わりだな。奥の方の男子も同じような感じだし

 

「愛莉、ごめん。少し走るぞ」

「え? う、うん」

 

 俺はすぐさま夢宮の手を握り駆け出す。いきなりだったので連中は唖然としていた。やがて

 

「は、春野を捕らえろ! 手段は問わない!」

「オー!」

 

 背後からこんな声が聞こえて来た。これは外にでるのは厳しいだろう。なら、ほとぼりが冷めるまでどこかに隠れるのがベストだろう…

 

 このような経緯で、今の状況に至る。

 

「……えへへ」

 

 夢宮は、俺を見て微笑みを浮かべている。

 

「まさか、こんなことになるとは思わなかったよー」

「冗談言うな。分かってて、わざとあんな風に言ったんだろう?」

 

 そういうと、夢宮はちょっぴり舌を出し

 

「やっぱり分かった?」

 

 笑って見せた。反省のそぶりは微塵もない。

 

「当たり前だ。それにしても腹減ったな……」

 

 昼ご飯を食べ損ねたのもあり、俺の胃袋は悲鳴をあげていた。

 

「あ、それなら」

 

 夢宮が思いついたように言うが、言った後に

 

「でも……今日はあんまり上手く出来てないし……」

 

 途中から声が小さくなり聞き取れなかったが、夢宮の視線はさっきから教室に来たときから持っている小さめの布袋に釘付けだった。

 

「弁当があるのか?」

「あることはあるんだけど……」

「毒が入ってるとか?」

「そんなことはないよー」

 

 むくれながら返す夢宮は少し恥ずかしそうに続けた。

 

「ただ……ちょっと失敗したから、味が心配で……」

「ちょっとの失敗ぐらい誰にでもあるって

「でも。しっかり作れたのを食べて欲しいし……」

「じゃあまた作ってくれ。このままだと空腹で倒れそうだ」

 

 それを聞いた夢宮は呆れたのかため息をつき

 

「倒れても知らないからね……」

 

 そう言って布袋の中から小さな箱を出した。走ってるときも布袋を大事に持っていたのはこれのためだろう。

 

「どれどれ~?」

 

 俺は蓋を開け中を拝見する。彩りは普通だが、目立ったミスは見つからないし一見すると良く出来ているお弁当だ。

 

「美味しそう……」

「そ、そうかな? はい。お箸」

「サンキュー」

 

 そういって、俺は弁当を食べ始めた。食べてみても何かあるわけでもなく普通に美味しかった。

 

「……」

「…………あ」

 

 その途中で不意に夢宮が声を出した。顔を赤くして何かを考えてるようだ。

 

「どうした」

「へ? あ、いや、なんでもない。ただ……」

「ただ?」

 

 俺の質問に夢宮は少し躊躇いがちに言った。

 

「そのお箸、朝味見するときに使ったから……」

「え?」

「これって、間接キスなのかな? って…」

「そ、それは……」

 

 そういうことになるのだろう。この箸は夢宮が使っていたことになりそれを俺が使ってるのだから

 

「じゃあ、次のおかずで終わりにするから」

 

 慌てて俺は言う。もう食べてしまったならせめて、蓋を開けた瞬間に目をつけたおかずだけは食べたい。俺は、それを箸で素早く口に放り込む。

 

「あ、それは!」

「ん? どうし――」

 

 た、まで言えなかった。俺の視界はどんどん暗くなりやがて閉じた。

 

「……ん」

 

 視界が開けてきた。

 

「あ、気がついた?」

 

 目の前には、夢宮の顔があった後頭部の柔らかい感触と顔の見え方からしておそらく、膝枕をされているのだろうか・

 

「俺は確か……」

 

 夢宮の弁当を食べていて、途中で体が痺れる様な感じがして…

 

「いきなり食べちゃうからびっくりしたよ。止めようとしたのに翔也君がいきなり食べるんだもん」

「どんな失敗をしたんだ?」

 

 夢宮の膝から体を起こしながら聞く。人が気絶するほどの失敗は今までの経験では、由夢ぐらいしか思い当たらない。

 

「言わない。もう失敗しないし笑われたくないもん」

 

 そっぽを向いて夢宮は答える。絶対に言わないという気持ちが伝わってきた。

 

「分かった。それよりひとつ確認したいんだが…」

「なに?」

「俺、どのくらい気絶してたんだ?」

 

 夢宮は少し考えてから、ゆっくりと答えた。

 

「3時間と…30分ぐらいかな?」

 

 昼休みの途中から3時間半って…

 

「学校、終わってる?」

「そうだね。もう帰ってる人達もけっこういるよー」

「学校の授業をここまで堂々とサボることなるなんてな」

 

 自虐気味に呟いたところで俺はあることに気付いた。

 

「起きるまでずっと、さっきの体勢でいたのか?」

「そうだよ」

 

 まるでそれが当たり前のように夢宮は言う。

 

「置いていけばよかったのに、愛莉までサボることはないだろ?」

「そんなことはないよ」

 

 何かを確信しているように夢宮は言う。

 

「私にとっては授業より翔也君の方が大事」

「だとしても……」

「じゃあ、もし私がここで気絶したら翔也君は私を置いて帰る?」

 

 そんなことがあったら、帰れるわけがない。そんな俺の回答を分かっているのか夢宮は続ける。

 

「そういうことだよ」

「……そういうことか」

 

 そこまで言われたら反論が出来ない。

 

「帰ろう。そろそろ寒くなるよ」

「そうだな……今日は鞄は置いていくか」

「じゃあ、はい!」

 

 そういって夢宮は俺にコートを渡す。先日俺が貸したコートだ。

 

「これ……」

「言うのが遅くなったけど今日はこれを返しに来たの」

「わざわざ? その為に教室まで?」

「そんなことより、早く行こう? 冬は冷えるのが早いんだから」

「……」

 

 俺は夢宮にコートを着せた。

 

「……え?」

 

 どういうことと言った感じで夢宮は俺を見て何かを言おうとするがそれをを遮るように俺は

 

「さっさと行くぞ……」

 

 そう言いちょっと強引に夢宮の手を握った。おそらく今俺の顔は赤いだろう。

 

「……フフッ、うん」

 

 夢宮が手を握り返す。その手は俺の手よりも少し暖かかった。

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