枯れない桜 もう一つの物語   作:メレリア

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12月21日(夜) 前半

 午後の授業も終わり放課後も少し経った頃、俺は明後日に控えているクリパの準備を進めていた。もちろんクラスの出し物をだ。とは言っても俺達のクラスは焼きそば屋というごく普通の物なので準備のほとんどは当日になる。

 

「だから作業しない人が出るのも仕方ない……か」

「なーに、バカな事言ってんのよ?」

 

 そう言われ俺の後頭部にコンと衝撃が来る。振り向くと呆れたような目をしたクラス委員の北上美香だ。分校の1年から同じクラという妙な縁だ。しかも周りをよく見ており気配り上手だからか1年の担任からクラス委員を勧められて以来ずっとクラス委員をしている。

 

「そう言っても仕方ないだろ? 暇になるのは?」

「そりゃ、あんたは当日担当だからね? 一応、調理班のリーダーなんだからしっかりしてよね?」

 

 俺の役割は当日実際に焼きそばを作る事だ。他の手伝いをしても良いのだが、現時点ではどこも手伝いを要する状況じゃない。そういうと北上は分かっていたかのようにプリントを俺につきつけ言う。

 

「だったら、仕事あげるわよ。これを生徒会室に持って行って」

「これは?」

「生徒会への提出書類よ? 春野にも火気申請書を書いといてってお願いしたわよね?」

「あれ? それって明日までで良かったんじゃなかったっけ?」

「そうだけど早いほうが色々と楽なの。それに遅いとあんたも問題児扱いされるわよ? いや、もうされてるわね」

 

 いまさらといった風に北上は言う。ここ最近は色々あって出来なかったから明日にでも出す予定だったのだが

 

「しかし、俺はまだ大丈夫だと思うぞ? 例のクラスになってないところからすれば……」

「そうね。沢井さんには同情するわ……」

「じゃあ、今から書いて出してくるよ」

 

 ここで言う例のクラスとは無論義之たちのクラスだ。北上も苦笑いを浮かべる。話を区切りがつき、とりあえず申請書を書く旨を北上告げ筆記用具を取りに行こうとする俺の肩を北上が掴み引き止める。

 

「話を聞いてなかったの? これを持って行けばいいのよ? 既に必要事項は書いてるから」

 

 渡されたプリントは丁寧な字で記入されている物だった。俺が遅いのを見越して書いててくれたのだろうか?

 

「本当だ……ありがとな」

「まったく。じゃあ私他の班も見ないといけないから提出よろしくね?」

「了解」

 

 笑顔で北上は別の班に向かっていった。この書類も面倒であっただろうに嫌味の一つもなくさらっとやってのける。その上見返りも要求しない。周りから信頼を得るのも分かるというものだ。プリントを受け取り俺は生徒会室に向かった。

 

 

「失礼します」

「……はい」

 

 そこにいたのは、音姫さんでも高坂先輩でもなく、長い金髪の女子だった。書類整理している感じだ。制服から見るに付属の1年生だろう。

 

「あの……私の顔に何か?」

 

 ぼーっと見てたからか、不思議そうに女子が言う。いきなり見られていい気はしないだろう。

 

「あ、すみません。朝倉生徒会長は今どこに? 高坂副生徒会長でもいいんですが」

「朝倉先輩は今現場の見回りに出ていて、高坂先輩は今日は風邪っぽいとの事で既に帰っています」

「そうですか……」

 

 音姫さんは仕方ないとして、あの高坂先輩が風邪とは珍しい。何かの前触れだろうか。

 

「あの、何の用件だったんですか?」

「いやちょっとクリパでの書類を出しに来たのだけど……」

「それなら、私が預かりましょうか? 後で朝倉先輩に渡しますので」

 

 そういって彼女は席を立ちこちらに来る。

 

「じゃあ、お願いして良いかなえっと……」

「……?」

 

 名前が分からないからなんて言えば良いのか悩む。彼女はそれを分からないのさっきと同じく不思議そうに俺を見る。

 

「えっとごめんね? 名前は何ていうのかな? 1年生はあんまり分からなくて」

「あ、すみません自己紹介してないですね。私はエリカ・ムラサキと申します」

 

 そう言って少し頭を下げる。どこか気品を感じる挨拶だ。

 

「つい最近こちらに来ましたので、ご存知でないのも仕方ないかと……」

「つい最近? あ、あの義之たちが見に行った転校生って君の事か」

 

 俺が先日の事を思い出し言う。するとエリカさんは途端に不機嫌そうに

 

「あなた? あの野蛮人の知り合いなのですか?」

 

 訝しげな視線とともに言う。義之か渉の奴が何かしたのだろうか。経験から予想すれば多分義之だろう。

 

「いや、知り合いっって言えば知り合いだけどそいつらに何かされたのか?」

「部外者には関係ないです。あんな変態……」

 

 ホント何をやったんだろう。初対面の人をここまで不機嫌にさせるとは

 

「何かあったか分からないけど、とりあえず申し訳ない」

 

 俺は頭を下げる。あの時俺も行くか止めていればこうはならなかっただろうから。エリカさんは面食らったのか

 

「え?」

 

 そう言ってきょとんとしていた。やがて慌てて

 

「あの、あなたは関係ないんですから頭を上げてください」

 

 こう言ってきた。これで少しは義之への認識を改めてくれればいいな。そんなことを思いながら俺は顔を上げ

 

「そっか。ありがとう、じゃあこれお願いねエリカさん」

 

 北上から渡された書類を渡す。エリカさんはそれを受け取って

 

「わ……分かりました。えっと……」

 

 少しおろおろするエリカさんを見て俺は気付いた。名前も言ってなかったことに

 

「俺も自己紹介も自己紹介してなかったね。名前は春野翔也。付属の三年生だよ」

「春野翔也先輩ですね。私のことは呼び捨てで構いません」

「でも、いきなり呼び捨てって失礼じゃないか?」

 

 エリカさんは、表情を和らげ言う。

 

「そんなの関係ないです。私が年下なのは事実ですから」

「……そっかじゃあそうさせてもらうよ」

「はい。それにしても先輩があの春野先輩だなんて……」

 

 信じられないといった表情で俺を見るエリカ。何かしただろうか?

 

「どういう意味?」

「いえ、生徒会のブラックリストにある人でしたから。どんな人かと思っておりましたので」

「そうなの?」

 

 エリカは頷く。さっきの北上の推測は当たっていたということか。

 

「でも、あの男はいるのはともかく先輩が載ってるのは意外です」」

「……その資料ちょっと見せてくれないかな?」

 

 エリカは少し考え問題ないと判断したか、その資料を見せてくれた。そこには杉並等を筆頭に義之や渉、雪月花の面々。それに加えて他のクラスにもちらほら名前がありそこに俺の名前もあった。俺は過去に少しあったが、月島は完全な被害者だろう。

 

「ふーん……ありがとう」

「いえ」

 

 資料をエリカに返す。その受け取り方一つをとっても優雅だ。どこかのお嬢様といった所だろうか。

 

「それじゃ俺は戻るから。書類よろしくね?」

「分かりました」

「それと、余計な気遣いかも1年生だしあんまり無理しないようにね?」

「……はい」

「それじゃまた何かあったらよろしく」

 

 そう言って俺はクラスに戻った。生徒会室を出るときにみたエリカの笑顔は可愛いというよりは気品を感じる美しさが強く綺麗だった。

 

 

「遅い! どこでサボってたの!?」

 

 教室戻ってきたと同時に北上が言いながら詰め寄ってくる。少々お怒りのようだ。

 

「サボってたわけじゃないんだが……」

「じゃあ、なんで書類出すだけでこんな時間かかるの?」

「生徒会長はいなかったし副生徒会長も風邪で居なかったんだよ。それで他の生徒会の人に頼んだら遅くなった」

 

 正直に理由を言うと北上は

 

「ふーん……なら仕方ないわね。それが本当ならだけど……」

 

 訝しげにそういった。一応認めてくれたようだ。

 

 

「なら、さっさと調理班の予定組んで?」

「はいはい」

 

 北上に急かされ俺は調理班のメンバーを集めシフトを話し合った。期間は二日どちらを担当するかどの時間が良いか等だ。その話し合いの中でさっきの北上との話を聞いていたのか女子から

 

「ねえ春野君。まゆき先輩風邪なの?」

「ん? そうだよ。既に帰ったらしい」

「大丈夫かな……」

 

 まるで好きな人を心配しているような顔をする女子数人。まゆき先輩は女子に人気があるということを改めて思い知った。そんな中、俺の携帯が震えた。どうやら着信のようだ。

 

「ちょっとごめん」

 

 そういって教室から出て階段を上がる。屋上への扉前で着信に出る。見つかったら注意を受けるからだ。

 

「もしもし?」

「でるのが遅いよー? 翔也君」

 

 番号に見覚えはあったが声で確信した。

 

「愛梨か。いや見つからない場所に移動してたからな」

「あ、分校はそうだったけ? 本校はけっこう緩い方だから……ごめんね?」

「いや別に良い。それで用件は何だ? クラスの奴を待たせてるんだ」

「あーそうだね。もうちょっと話したいけど私も似たような状況だし仕方ないか……」

 

 電話口から残念そうな夢宮の声が聞こえる。

 

「えっとね、今日一緒に帰ろう? 正門前に集合して」

「分かった、正門前だな。なるべく早く来るようにする」

「うん。先に着いてもちゃんと待っててね?」

「分かった、ちゃんと待つよ」

「それじゃ、また後でねー」

 

 そう言って電話は切れた。夢宮の性格だ。待たせたら色々言われそうだ。

 

「先に待てるように急ぐか……」

 

 そのためには話し合いを終わらせる必要がある。そう思った俺は携帯をポケットにしまい教室に急いで戻った。

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