先の夢宮との電話から俺は、どこでクリパを回りたいか考え明日にでも決めるという形で話し合いを終え正門に急いだ。着いた時にはまだ夢宮の姿はなく、とりあえず電話で言われたとおり待つことにした。というよりは、昨日の考え事のせいで携帯の充電を忘れており電源が落ちていて待つしか出来なかった。
「……遅いな……」
既に、空はだいぶ暗くなってきた。校舎を見ると既に今日の準備を終えたのか明かりが見える教室のほうが少ない。俺達のクラスはちょっと前まで明るかったが既に明かりはなく全員帰ったのだろう。そんなこと考えていたら
「何してんの?」
声をかけられた。振り返るとそこには意外なものを見る目で立っている北上がいた。
「人待ちだよ」
素っ気なく返すと、北上は目を細め
「へぇ……話し合いを適当に終わらせて他を優先するんだ……」
「あ、いや……」
どうやら今日中に決めなかったことにご不満のようだ。
「えと、明日中……昼休みが終わるまでには決めるからさ!」
「当たり前よ! まったく1年の頃から変わんないわね……」
ため息をつき北上が言う。仕方ないといった雰囲気で続ける。
「ホントにお願いね? 昼休みまでに出なかったらあんたの意向抜きで勝手に組むからね?」
「分かった。ちゃんとするよ」
「返事だけはいいのよね……それじゃ、私帰るね」
「おう、気をつけて帰れよ?」
「あんたこそ風邪とか引かないでよ?」
そう言って、北上は歩いて行く。風邪など引いたら大変だろう。体がキツイのもそうだが勝手にシフトを組まれたものなら休みなど無いような形で組まれる気がする。
「でも、確かに寒いんだよな……」
吐く息は白に染まる。先程よりもだいぶ暗さは深くなっている。しかも防寒着であるコートは夢宮に渡しているのだ。
「本校に見に行くか?」
そう考えもしたが、何年かも知らないわけだし各学年しらみつぶしに回ったものなら生徒会に不審人物として捕まるだろう。ブラックリスト入りしているという事実があるのだから。
そんなことを考えながら待っていたら
「しょうやくーん」
待ち人が来た。今朝貸したコートを着て元気そうに走ってこちらに向かってくる。そして俺の前に来て
「ごめんね? すごく待ったでしょ?」
「まぁけっこう待ったけど……」
「クラスの方で色々あって遅くなりそうでね? 連絡しようしたんだけど繋がらないし……急いできたんだけどこんな時間になって……」
「それは俺の携帯の充電が切れてたからだよ」
俺は動かない携帯を見せる。それを見た夢宮は大きく息を吐き
「……良かったー。翔也君が倒れてたらどうしようとか思ったんだよ」
「さすがにここでぶっ倒れたりしないと思うが……」
「寒いんだから分かんないでしょ? ほら、早く行こう?」
そう言って俺の先を歩き出す夢宮。確かに高坂先輩ですら風邪らしいという話だからそうかもしれない。
「そうだな」
「ほら、早く早く」
そんな考えてる俺をよそに夢宮は楽しそうに歩いていた。俺は駆け足で夢宮の横に並んだ。
「そういえば、愛梨のクラスって何するんだ? さっき色々あったとか言ってたが……」
帰り道の途中、クリパが近いこともあり自然とクリパの話になった。
「私のクラス? 言ってなかったけ?」
「うん。まったく」
「私のクラスは喫茶店だよ。特別な何かがあるって訳でもないけど」
「へぇ……何が問題になったんだ?」
「うーんとね、最初は普通のウェイトレスの衣装でって話になったんだけど途中で男子がもっと過激なミニスカートのメイドさんがいいって……それで女子と口論になって……」
それは、男子が言い分が危険だろう。前の卒パで過激すぎてえらい目にあった奴らが居るっていうのに
「ん? その口論って愛梨が男子としたのか?」
「違うよ。私は衣装作ってただけだから」
「……ん?」
何だろう。今の話に妙な違和感がある。少し考えて違和感に気付いた。
「なぁ愛梨」
「んー?」
「愛梨は口論の中衣装を作ってたんだよな?」
「そうだよー」
「何を作ってたんだ?」
そう決まってないのに衣装を作っているという所だ。何故決まってないのに作れたのか未来でも見えていたのだろうか?
「ウェイトレスのほうだよ。それでね? それを男子が見たら、やっぱりウェイトレスが良いって言って口論も終わったんだよ?」
思い出しているのか、夢宮はクスクスと笑っている。男子の心変わりも凄いがそれって実質夢宮が口論を終わらせたも同義だろう。
「愛梨って凄いな……」
「うーん? どういうこと?」
よく分かってないのか夢宮は首を傾げる。まぁ、自覚が無いからこそ出来たのだろうが。
「そんな方法でクラスの口論を止めたことだよ?」
「そうなの? わたしそんなこと考えて無かったよ? 欲しかっただけだもん」
「……ん? どういうことだ?」
「えっとね、今回作った衣装は作った人が持って帰って良いって話になってね? 衣装の絵を見たときに欲しいなーって思って……だから作っただけだよ?」
「…………」
少し、見直して後悔した。結局自分の欲求に素直に従っただけでそれが結果として口論を終わらせたということだ。
「衣装見てみる?」
「いや、いいよ」
「むー……」
見せたそうに衣装を出そうとする夢宮を止める。夢宮は不服そうに俺をみるがやがてニヤニヤとしだし
「そっかー。衣装だけじゃ物足りないよねー。人が着ないと翔也君には意味無いもんねー」
そんなことを言う。確かにそれは大事だ。
「そんな翔也君に良いお話です。私、これ着るよ?」
「……は?」
「だから、私もこれ着て接客するの。まあ担当の人がいない間だけの代わりだけど。私のウェイトレス姿が見れるんだよー?」
「…………」
それは予想外だった。そうか夢宮がウェイトレスを……俺は過去に義之から借りた漫画に出てきたウェイトレスが頭をよぎった。
「なあ、愛梨」
「ん? なにー?」
「こけたりするなよ?」
そう確か、漫画の中では飲み物が乗ったトレイを運んでるときにこけて大惨事になったのだ。それを聞いた夢宮は心から呆れたような目で俺を見て
「そんなことないよ」
そう返してきた。それなら良いのだが
「ちなみにいつにするんだ?」
「うーんとね24日の昼過ぎから1時間ぐらいだよ? 代わりだからね」
「24日ね……分かった行くよ」
「うん。待ってるね」
そんな話をしているうちに桜公園に着いていた。待つ時間に比べたらあっという間だ。それにしても防寒着を着てないとはいえ今日は随分と冷える。手足がだいぶ冷えている。
「今日はここまででいいよ」
夢宮が言う。俺としては枯れない桜の所まで行きたいが我侭を言うわけにもいかない。
「そうか……」
「ちなみに、翔也君は何するの?」
「俺か? 俺達のクラスは焼きそば屋だよ」
「翔也君が作るの?」
夢宮は目を輝かせる。
「ああ、作るよ。俺だけじゃないけど」
「そっかー、何時くらいに作るの?」
「まだ、時間は決まってないけど……23日にしないとな。24日は愛梨を見に行かないと行けないし」
「じゃあ、開会式が終わった後とかなら準備から見れるからそのくらいがいいなー」
名案といった感じで夢宮が言う。一番最初は、鉄板のセット等の準備から他の班と一緒に行うから不人気なのだ。無論俺も避けたい。
「最初はなー……」
「良いでしょ? 一番最初に食べたいんだもん」
まるで子供の様に言う夢宮。こうなったらうんと言うまで言われるだろう。
「分かった分かった」
「……なんか適当だね?」
「そんなことないぞ?」
「じゃあ、指きりしよ?」
夢宮は小指を出して言ってきた指きりなんていつ以来だろう。本当に子供のような行動をする人だ。
「分かった……」
そう返し夢宮の小指に自分の小指を重ね組む。そして指切りをした。終わった後夢宮が俺の顔を覗き込んできた。
「…………」
「どうした?」
「うーん……」
夢宮に聞くも答えず俺の顔を見続ける。するといきなり俺の手を両手で握ってきた。
「……愛梨?」
「翔也君、体調悪い? 手が凄い熱いけど……」
「……え?」
「ちょっと、ごめんね?」
そう言って、夢宮は片手を離し俺の額に手を当ててきた。やがて頷き
「やっぱり熱いよ? 風邪?」
「いや大丈夫だよ……」
そんな自覚は無かった。手足は冷えてるがそれは時間がいつもより遅いからだろう。
「ホントに大丈夫?」
「大丈夫だよ。しっかり食べてれば風邪なんか引かないよ」
「…………」
心配そうな目で俺を見てくる夢宮。だがやがて諦めたのか納得したのか
「分かった。じゃあ……また明日学校でね?」
そう言った。俺は大きく頷いた。それを見てやっと笑顔になり
「またね? 翔也君」
手を振って帰っていった。一人になって俺は
「風邪……か……」
そう呟いていた。そう言われるとそうなんだと体が思ったのか確かにいつもより寒く感じるし頭痛は無いが体はいつもより少し重い。
「馬鹿は風邪を引かないって……やっぱり自覚できてないって意味なんじゃないかな……」
そんな愚痴を言いながら俺は帰路に着いた。家に着いたときには少し頭痛も出てきた。
「ただいまー……」
いつもより重く感じる居間の戸を開けるとそこには音姫さんのマッサージをしている義之の姿があった。
「…………すまん、邪魔したな……」
「いや、待て翔也。これは――」
「分かってる、分かってるから。今日はもう寝るから。ごゆっくり」
そう言って俺は戸を閉じた。そのまま台所に行き、棚から風邪薬を取り出す。本来なら食後が望ましいが
「ちょっとまずいな……」
夕食はシチューだろう。だけど食べる気がしなかった。自分の先の発言に背く事になるが
「早く寝るか……」
そう決めて薬を飲んだ後、部屋に戻り着替えて布団に入った。風呂には誰かが入っていたので入りたかったが体が重いので明日の朝にまわす事にした。
「…………」
布団の中で今日と明日のことを考える。明日は、北上に言われたクラスの調理班のシフト決めをしないといけないし最初にするなら何がいるかの確認もしないといけない。そして何より、別れる前の心配そうな夢宮の表情が浮かぶ。
「……絶対行かないとな……」
そう呟き俺は目を閉じた。薬が効いてるのか眠気はだいぶ早く来た。