枯れない桜 もう一つの物語   作:メレリア

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12月22日(夜) 前半

「たいぶ良くなった……かな」

 

 時刻は既に夕方を過ぎ窓の外は暗くなっていた。起きてみての体の調子はだいぶ良くなっていた。だいたいの熱を計るべく自分の額を触ろうとタオルに手をかける。

 

「まだ……冷たい?」

 

 タオルは使い始めたばかりのようにひんやりとしていた。体を起こして見て理由が分かった。机の所で突っ伏している愛梨の姿があった。おそらく俺が寝た後ずっと近くで看てくれていたのだろう。

 

「…………」

 

 ベッドから出てタオルを洗面器に戻す。その音に気付いたのか

 

「……あれ? しょうや……くん」

「おはようさん」

 

 寝ぼけ眼で俺を見る愛梨。だがすぐに

 

「ダメだよー? ちゃんと寝てないと」

 

 ベッドに戻るように促す。

 

「だいぶ良くなったから」

「本当にー?」

「本当だよ。寝る前より凄くいいよ」

「ちょっと待ってね……」

 

 そう言って、愛梨は俺の額に手を触れてきた。そのままお互いに動かず時計の時を刻む音が少しだけ響いた。

 

「…………うん。本当みたいだね」

 

 納得したのか頷いて手を離す。その顔は嬉しさに満ちているようだった。

 

「あの、ありがとうな……」

「え? 何が?」

「いや、タオル……取り替えたりしててくれたんだろ?」

「ううん。大したことないよ」

「そんなこと――」

「それより、体調いいならご飯にしよ?」

 

 俺の言い分を遮るように愛梨は言い俺の手を引っ張る。

 

「分かった。分かったから引っ張るなって」

「いいからいいから」

 

 そのまま引っ張られ俺達は一階に降りていった。気のせいか愛梨の手を握る力が少し強く感じた。

 

 

 

 愛梨に連れられ一階の居間に入った俺が見たのは

 

「うー」

 

 恨めしそうに時計を手に持っている音姫さんと、それに困っているような義之と由夢だった。

 

「あれ? 翔也さん。大丈夫なんですか?」

 

 こちらに最初に気付いたのは由夢だった意外そうな目でこちらを見る。由夢の発言で後の2人も気付いたのか。

 

「大丈夫なの? 翔也君」

「もういいのか?」

 

 三人揃って心配してくる。嬉しいが少し小恥ずかしい。

 

「大丈夫だよ。元々ただの風邪なんだからさ……」

「ダメだよー? 風邪だってこじらせたら大変なんだから。ちゃんと治さないと」

 

 俺の返事に対して音姫さんがぴしりといった感じで言う。これに愛梨は大きく頷き

 

「うんうん。そうだよー翔也君? 治る直前が一番気が緩んでぶり返しやすいんから」

 

 ここぞと言わんばかりに言う。この2人こんなに仲良かっただろうか。

 

「や、ならまずは中に入れて閉めませんか? 廊下は翔さんも寒いでしょうし」

「そうだな、ここでぶり返したら世話ないし」

 

 助け舟は他の2人が出してくれた。その言葉を聞いて二人は

 

「そっか……それもそうだね」

「そうだね。入ろう? 翔也君」

 

 納得してくれた。そして中に入りコタツに入る。程よい暖かさで心地よい。

 

「翔也。食欲あるか?」

「……そうだな、普段どおりとほぼ変わらないと思う……」

「よし。じゃあ俺雑炊温めてくるわ。音姉、練習はその後でね」

 

 俺の回答を義之はまるで待ってましたと言わんばかりに台所に向かう。

 

「うー」

 

 一方、音姫さんがまるでお預けを食らった子犬のように見ている。

 

「そんなになるなんて……お姉ちゃん、本当に好きだねー?」

 

 由夢が感心したように言う。先程まで義之が座っていたところには人形劇の台本がある。おそらく人形劇のことだろう。音姫さんは笑顔を浮かべ

 

「うん。だってすごく面白いんだもん。ここの最後のシーンなんて――」

「あれ? 台本完成したんだ?」

「うん。私、もう何回も読み直しちゃったよ」

「そんなに凄い話なの?」

 

 音姫さんの反応に気になったのか愛梨がおずおずと尋ねる。

 

「愛梨ちゃんも読んでみる?」

「うん、読んでみる」

 

 互いに頷きあい2人は仲良く台本を見だした。ここまで意気投合していると少し怖くなる。

 

「なぁ由夢。あの2人最初からあんな仲良かったか?」

「いや、私も良く分からないんです……最初は普通だったんですけど私が一旦家に戻ってまた来たら今みたいになってて……」

 

 どこか接点というか共感するところでもあったのだろうか。昔からの親友のように仲良く台本を見ている姿は微笑ましかった。

 

「というか、台本って完成してなかったんだな……」

 

 雪村が作ったのなら最初に渡された時点で既に完成品かと思っていた。

 

「ああ、昨日ようやく完成したんだよ……」

 

 そう言いながら義之が戻ってきた。手には小さい土鍋を抱えている。

 

「ほい。特製鮭雑炊」

「ありがとな。義之」

「いや、これを作ったのは夢宮さんだから」

 

 そうなんだ。昼と言い夜と言い感謝しないとな。

 

「それじゃ、いただきます」

 

 ゆっくりと雑炊を食べる。味付けは昼のお粥と同じで少し薄かったが今はこのくらいがちょうど良い。食べている最中にふと思い出した。

 

「義之たちはもう食べたのか? そういえばさくらさんが鍋にするとか言ってたけど……さくらさんはいないし……」

「あー……あれな……」

 

 聞いちゃいけなかったのか、義之はばつの悪い笑みを浮かべる。由夢の方を見ると視線を少しそらした。

 

「あれな。夜じゃなくて昼だったんだよ。夜はもう作って食べた」

「昼? 食べにでも行ったのか?」

「いや、学園長室で……」

 

 義之たちの話からすれば、学園長室で鍋をしたとの事でそこで色々あったようだ。

 

「なんていうか、さくらさんも凄いな……」

「ああ……確かに学校で鍋をするとは思わなかったよ……」

「そうだね」

 

 そんな話をしながら食べていたらいつの間にか食べ終わった。食べ終わった食器は自分で台所に持って行った。洗うのは義之が後でするらしくお願いした。

 

「……いい話だねー」

「でしょ?」

 

 台所から戻ると音姫さんと愛梨がまた頷きあっていた。どうやら台本を読み終わったようだ。音姫さんが義之が戻ってきているのを見て

 

「弟くん? お稽古しよう?」

「えーっと……翔也達もいるし……」

「遠慮しないでいいぞ? 確か他の人が見てる中での練習も効果があるって誰かが言ってた気がするし」

「お姉ちゃんのシャルル上手なんだから兄さんも釣り合う位に上手くならないと……」

「お前ら……」

 

 義之が落ち込んでいるように見える。フォローの仕方を間違えただろうか? 音姫さんは待ちきれないのか台本を義之に押し付け始める。

 

「ほーら、早くしようよー弟くん」

「……はいはい……」

 

 どうやら観念したようだ。公開は明後日だろうからかなりの急ピッチなんだろう主役は大変なようだ。

 

「じゃあ、私はあっちに戻ろうかな」

 

 それと同時に由夢はそういい立ち上がる。音姫さんが意外と言った感じで

 

「え? どうして?」

「や、そ、その……見たいテレビがあるから。たまには一人で見てみようかな……って、あははは」

 

 ひょっとすると由夢は先の展開を知りたくないんじゃないだろうか。そんなことを考えていると

 

「なぁ、由夢。この話の最後なんだけど――」

「わー! わー!」

 

 義之が水を得た魚のように目を輝かせてネタバレしようとする。由夢は両耳を塞いで声を出す。どうやらあたりのようだ。

 

「最後のネタなんだけど――」

 

 ネタバレを続けようとする義之だがそれは

 

「ていっ!」

「こらっ!」

 

 愛梨と由夢のダブルキックにより阻止された。うまい具合に両足の脛を捕らえていた。

 

「あだっ!」

「兄さん、性格悪い」

「もぅ。そういう意地悪ばかりしたらダメだよ?」

「そんなんじゃ女の子に嫌われるよ?」

 

 両足をやられ三人に説教されている光景。人によってはご褒美らしいがちょっと可哀そうだった。

 

「ただいまー」

 

 そんなとき、玄関から声がした。他は取り込んでるため俺は玄関に向かった。そこにいたのはさくらさんだった。

 

「んにゃ!? 翔也君?」

「おかえりなさい、さくらさん。遅かったですね」

「体は大丈夫? 痛いところとかない?」

 

 俺が出迎えたことに驚いてるのか靴を脱ぎ捨てあがって来る。

 

「はい、だいぶ熱も下がりました」

「どれどれ……」

 

 さくらさんは俺の額に手を当てる。少し背伸びをしているようだ。愛梨にもされたので大丈夫だろう。

 

「うん。これなら大丈夫だね」

 

 さくらさんも納得してくれたようで手を離し笑顔で言う。

 

「良かったよー。風邪が酷くなってなくて……」

「そうですね」

 

 さくらさんを連れて、居間に入る。

 

「あ、さくらさん」

「ただいまー。義之君。音姫ちゃん、由夢ちゃん。それと……」

「えっと、夢宮愛梨です」

 

 会うのは初めてなのか愛梨が頭を下げ挨拶する。さくらさんは

 

「愛梨ちゃんだね。確か本校生だよね?」

「はい。そうです」

「音姫ちゃんに用事?」

「い、いえ……」

 

 愛梨は、首を横に振り俺のほうを見る。それに気付いたさくらさんはニヤニヤしだし

 

「そっかー。翔也君の恋人かー」

「いや、違いますよ」

「そ、そうですよ!」

 

 俺達は、つい否定してしまった。好きだけど彼女ではないのは事実なのだが……

 

「にゃはは、そっかーでも愛梨ちゃん。こんな時間だけど大丈夫?」

「え?」

 

 さくらさんの一言で全員時計を見る。時刻は夜もだいぶ経っていた。それを見た愛梨ははっとしたように

 

「えっと、今から帰ります」

 

 そう言い出した。こんな時間に一人で帰るのはさすがに危険だ。

 

「じゃあ、送るよ」

「何言ってんの? 翔也君は風邪なんだからダメに決まってるでしょ?」

「なら、俺が送りましょうか?」

 

 義之が名乗りを上げた。だが

 

「兄さんがですか?」

「弟くんが?」

 

 その後ろで朝倉姉妹がぽかんとしていた。

 

「なんだよ……」

「や、兄さんが送るのは危険なんじゃないかと……」

「弟くんがねー……」

 

 遠慮がちに言う2人。確か生徒会のエリカにも野蛮人とか言われてたな。いったい何をしているんだろうか。2人の言い分を聞いた愛梨は

 

「えと……1人で大丈夫ですよ」

「だけど……」

 

 何かあったら風邪どころじゃない。そう考えていたらさくらさんが名案を思いついたのか

 

「うん。ならこうしよう」

 

 そう言った。なにを思いついたのかは分からないが今はそれにすがるしかない。

 

「ねぇ、愛梨ちゃん」

「はい。何ですか?」

「今日、家に泊まっちゃいなよ」

 

 さくらさんの一言に俺達は

 

「…………」

 

 

 一時言葉を失い、やがて

 

「えーー!」

 

 揃って驚きの叫びが出た。 

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