12月23日(朝)
「……いい天気だな……」
窓から入る朝日で目が覚める。どことなく気分も軽く明るくなる。少し体を動かしてみる。昨日まであった疲労感などはなくむしろ軽いくらいだ。
「天気も体も絶好のクリパ日和だな」
時間を確認してみる。いつもより少し早めにアラームをセットしていたがそれよりも早く起きていた。我ながら単純だ。
「まずは、復帰がてら朝食でも作るか……」
そう思い一階に降りると義之の姿があり俺のほうを見て
「おはようさん」
「おはよう」
「調子は良さそうだな。夢宮さんの看病が効いたか?」
「そうかもしれないな」
軽く笑って返す。既に朝食は義之が作っているようで、手持ち無沙汰になった俺は洗面台に顔を洗いに行った。冷たい水でさっぱりと目を覚ましてまた義之のところに戻る
「なあ、義之。手伝うことあるか?」
「いや……特に無いけどな……」
手を動かしながら、義之は思い出したように
「なら、夢宮さんを起こしてきたらどうだ? さくらさんの時みたいに」
「ああ、それもそうだな……」
寝起きはいいほうなのだろうか? さくらさんのようなら今のうちに起こさないと大変だろう。女性は身支度に時間がかかるとさくらさんに言われた事もあるし。
「じゃ、俺ちょっと起こしてくるわ」
「りょーかい。なら三人分出すぞ? そのほうが一気に洗い物済ませられるし……」
「わかった」
そう行って俺は2階のさくらさんの部屋に向かった。
「愛梨? 起きてるかー?」
ノックしながら言う。返事は返ってこない。まだ寝てるのだろうか。
「開けるぞー? いいかー?」
再度言うも返事は無い。俺は出来るだけ静かに戸をあけた。
「…………」
そこには、すやすやと眠っている愛梨の姿があった。近づいてみるがおきる気配はまったく無い。
「愛梨。朝だぞ」
布団の外に見える肩を軽くたたいて呼びかけるが
「…………」
起きる気配はまったく無い。今度は頬を指でつついてみる。愛梨の肌は柔らかく何だか癖になる触り心地だ。
「って……何やってんだ俺は……」
ふと我に返り恥ずかしくなる。頬が緩んでいたかもしれない・他の人に見られたらからかわれるいい材料だ。
「愛梨、起きろー」
真面目に体を揺らしながら呼びかける事数秒後
「……んん……」
少し反応があり愛梨の目がわずかに開く。
「……しょう……やくん」
「おはよう」
「…………」
挨拶するも反応が無い愛梨はじっと俺の顔を見て寝ぼけているのか突然
「えへへー」
と言いにっこりと笑う、幸せそうな顔だ。
「おはよー翔也君」
「うん、おはよう」
改めて、挨拶をした後
「翔也君ってこんな時間に起きるんだー……早起きだねー」
「今日はたまたまだよ」
「ふーん……あっ、今日が楽しみで仕方ないんだー。夢でも言ってたもんね」
どうやら、夢のこともちゃんと覚えているようだ。
「確かに楽しみだよ」
「そっか……じゃあ早く行こうか。えっとシャワー借りて良い?」
「良いと思うぞ、空いてるだろうし」
「じゃあ、シャワー浴びてくるねー」
バックから着替えをささっと抱えて愛梨は部屋を出て行った。
「布団は使いっぱなしか……」
意外だと思いつつも俺は布団をたたんで。一階に戻った。
「ご馳走様でしたー」
「ご馳走さん」
「ご馳走様」
その後、シャワーを浴び制服に着替えて愛梨を含む俺たち三人は朝食にした。1日ぶりとは言えやっぱり普通の朝食は美味しい。
「んじゃ、翔也洗い物任すわ」
身支度は終わってるのか義之が言う。
「随分早いな……」
「まあ、劇の練習も今日が最後だからな……」
「そっか、頑張れよ。主役さん」
「頑張ってね。桜内君」
「おう!」
俺達の応援にガッツポーズで答えて義之は出て行った。
「人形劇かー」
「見たいか?」
愛梨は大きく頷き表情をうっとりさせる。
「だって凄く良い話だったもん。そうだ、翔也君。一緒に見に行こうよ」
名案といったばかりに愛梨は言う。断らないと信じて疑わない目で言われ俺は
「分かった。でも今日じゃないからな……」
「そうだった……でも今日は今日で楽しもうね」
「うん」
「じゃあ、私も先に行くね。焼きそば楽しみにしてるから」
「え? なら俺も行くよ」
「ダーメまだ時間はあるんだし。洗い物任されたでしょ? ちゃんとしてから来てね」
愛梨はそう言って先に家を出て行った。残された俺は言われてように洗い物を片付け早めの時間だが学校に向かった。
学校への桜並木に入った所で少し先にある人物に会った。
「よっ北上」
「えっ……」
先を歩いていたのは北上だった。振り返ってる間に横に並ぶ。
「何だ春野か……脅かさないでよ」
「悪い悪い。昨日は悪かった、いきなりシフト決めとか頼んで……」
「別に良いわよ……ちょうど良かった。はい」
そう言って北上は俺に一枚のプリントを渡してきた表が書いてあり上には俺の名前や一部クラスメイトの名前がある。
「何だこれ?」
「シフト表よ? あんたの要望どおり今日の最初に入れてるから」
「シフト表……」
言われて見れば書いてある名前は調理班の人間だ。俺の割り当ては昨日の要望どおり今日の最初だった。気になったのは時間だった。
「俺だけ時間長くないか?」
「昨日居なかったんだから仕方ないでしょ? 諦めて? 他にも最初が良いって人も居たんだから。それを諦めて貰う代わりに春野に長く入ってもらうことにしたの」
「そっか……」
わざわざそこまでして通してくれるとは思わなかった。これは多少の時間延長は大目に見よう。
「分かった、頑張るよ」
「そうね、わざわざ最初に入りたいなんて言うからには今日は多少きつくても働いてもらうからね?」
意地悪な笑みを浮かべて北上がこちらを見る。俺は首をすくめながら答えた。
「はいはい……委員長の仰せのままに……」
「…………」
「ん? どうした?」
「春野……なんか楽しそうね……」
「いつも楽しみだよ? クリパとか卒パとか……」
「あ、違う違うそうじゃなくて」
慌てたように北上が手を振る。どういうことだろうか
「なんていうか、これから楽しそうだなって感じじゃなくて……これから楽しいのが分かってるて言うのかな……なんかそんな風に見えてから」
「ああ……」
おそらく昨日の夢のせいだろう。あんなことが起こるのだろうという気持ちが出てたのかもしれない。
「まあ、楽しいだろうな……なんだかんだでこれが付属最後のクリパでもあるんだし……」
「そうね……最後だからってクラスのほうをサボる理由にはならないからね……」
北上が俺を睨む。
「そんなことしないから」
「そう言って去年、杉並たちに協力させられていたのは誰?」
「……すみません」
「まったく、ほらさっさと行くわよ? 最初の人の段取りとか叩き込んであげるから」
「りょーかい!」
もうすぐ、校門前の所で北上が歩くペースを速める。俺は頷き同じように歩く。楽しいことが起こるだろう。というより起こるのは夢で見た。ならそれを全力で楽しむためにもまずやるべき事をやろう。
そんな決意をしながら俺は校門を通った。