枯れない桜 もう一つの物語   作:メレリア

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12月23日(昼) 後半

「春野君。そっち出来てる?」

 

 売り子のほうから声が聞こえてくる。俺は手を動かしながら答える。

 

「ちょっと待ってくれ……」

 

 クリパが始まってから30分くらい経過しただろうか。今の俺はひたすら焼きそばを焼いていた。予定よりもお客が多く休憩も取れない状況だ。

 

「しかし、なんでこんなに多いんだ? ただの焼きそば屋なのに」

「普通に美味しいからって事でしょ!?」

 

 俺の隣で北上が言う。本来調理班ではないのだが状況が状況なので急遽入ってもらっている。

 

「卒パの件があったの忘れてたわ……」

「あれ……そんなに影響あるのか?」

「この客足みればあるんでしょうよ!」

 

 お互いに手を動かしながら話す。焼き上がりを見てパックに詰め売り子の方に渡す。

 

「出来たからお願い」

「うん、分かった」

 

 渡し終えたらまた次の分を作る。さっきからこれの繰り返しだ。

 

「後どのくらいいるんだ?」

「時間的にまだまだでしょうね……」

 

 横目で見ると、結構な列が出来ている。

 

「意外に……女性が多いんだな……」

「それが、あんたのせいなんでしょうが」

 

 自分の分が焼き上がったのかパックに詰めながら北上は言う。

 

「とにかく! この行列が終わるまではあんたは変われないからね!」

「まじか!」

「驚くより手を動かす! この分だとあんたは入らないと回しきれないから我慢して!」

「……分かった!」

 

 自分のせいでこうなったと言うのなら仕方が無い。ここはこの列を回すまでは変われないだろう。俺は息を大きく吐く。だがふと思ってしまうことがある。

 

「……猫の手でも借りたいな……」

 

 鉄板の幅から言えば後1人くらいは作業できそうだ。そこに人が居ればもう少し回りも良いのだろうが。調理班はおそらく交代までは来ないだろう。売り子に作らせるわけにもいかない……

 

「どっかにいないかな……」

「困ってるねー。翔也君」

 

 不意に愛梨の声がした。声のする方を向くと店の前……カウンターに愛梨がのんびりと手を振っていた。どうやら列に並んでいたようで、売り子に断るような仕草をしてこちらに歩いてきた。

 

「愛梨……」

「はらほら、手を動かす」

「あ、ああ……」

 

 言われて手を動かす。それを愛梨は見ながら言う。

 

「手伝おうか?」

「何言ってるんだ?」

「さっき猫の手も欲しい……って翔也君言ってたよね」

「確かに言ったが……」

「ちょっと春野! ……どちら様?」

 

 手が遅くなったからか北上がこちらを見る。愛梨に気付いたのか尋ねてくる。

 

「えっと……」

「通りすがりのお手伝いさんって事で良いかな?」

 

 俺が言うのを遮り愛梨が言う。北上は目を見張り

 

「いやお手伝いって…それに本校生が手伝いなんて……」

「いいからいいから、ちょっとこのエプロン借りるねー」

 

 北上が遠慮しながら言うも、気にしてないかのように言う愛梨裏側に来て女子用のエプロンを着用する。

 

「私はしたいんだけど……ダメかな?」

「い……いえダメな訳じゃ……」

「なら良いよね?」

「分かりました……」

 

 真正面からじっと見つめられ、渋々北上が納得する。それを受け愛梨は

 

「焼きそば……だよね。よーし頑張ろう!」

 

 そう言って作り始めた。北上はこちらを見て言う。

 

「あの人……春野の知り合い?」

「そうだな……うん」

「名前は?」

「夢宮愛梨」

「あんたはホント……何をすればこうなるのかしら。ここに本校生がいるなんて……」」

 

 北上はため息をつく。もしこの場じゃなければ頭を抱えながら言ったであろう。

 

「だけど、手伝ってくれるなら助かるわ……早く終わらせるわよ!」

「はいはい」

「えっと……夢宮先輩もよろしくお願いします!」

「はーい!」

 

 そこから、俺・愛梨・北上の三人体制で列が終わるまで作り続けた。列が終わりを迎えたのはそれから予定より30分程後だった。

 

「疲れた……」

「私もちょっと疲れたなー」

「お疲れ様、2人とも……」

 

 交代し後ろの机で休憩している愛梨と北上に買ってきたお茶を渡す。

 

「ありがと」

「ありがとー」

 

 俺も自分の分を空け飲む。長時間の調理は結構汗をかくものだ……そんなことを考えていたら北上が愛梨に向かって頭を下げた。

 

「あの、夢宮先輩ありがとうございました」

「いいよいいよ、私が好きでやったんだし……」

「でも……」

「気にしないで。楽しかったから……ね?」

 

 腑に落ちないような表情を浮かべる北上に愛梨が笑いかける。その笑顔には少しの迷惑も感じてない……むしろ楽しかったというのが見て取れるくらいに明るい眩しさを放っているように見えた。それを見た北上は

 

「……はい!」

 

 屈託の無い笑みを浮かべた。この2人相性良いんじゃないだろうか。

 

「あ、春野。お疲れ様今日はあんたのシフトもうないから。お疲れ様」

「大丈夫か? 何かあったときに居たほうが……」

「大丈夫よ。それに夢宮先輩はあんたに用があるんでしょうが……」

 

 呆れたような目で俺を見る北上。そりゃあんな風に振舞えばそうなるか。

 

「そっか……分かった。何かあったら連絡くれ。すぐ戻るから」

「何も起こらないから安心して」

 

 北上は愛梨のほうを向く。

 

「夢宮先輩、春野空きましたんでどうぞ」

「ありがとう。それじゃ行こう、翔也君」

「ああ。じゃあ北上、後頼むな」

「ええ、残りをしっかり楽しみなさい」

 

 北上はそう言って、売り子のほうに向かっていった。働き者な事だ。

 

「翔也くーん、遅いよー」

 

 いつの間にか先に行っていたのか愛梨が大きく手招きしながら言う。俺は小走りで向かった。校舎内に入り歩いてると愛梨が口を開く。

 

「しっかりした女の子だったねあの子」

「北上のことか?」

「北上って言うんだー、もうちょっと話したかったなー」

「そうなんだ……」

「うん……ああ!」

 

 頷きかけた所で何かを思い出したように愛梨が叫ぶ。そして表情は先程の明るさはどこへ行ったか落ち込んだ表情に変わった。

 

「どうした?」

「……焼きそば……」

「へ?」

「焼きそば……買ってなかった……」

「ああ……」

 

 おそらく手伝う前のカウンターで断った時にあそこで買ったと勘違いしたのだろう。

 

「……残念だなー」

「そんなにか?」

「うん。だって翔也君が作ったんだもん」

「…………」

 

 また表情の変わる愛梨。こうストレートに言われるとさすがに照れる。

 

「そんなになら今度作るよ」

「ほんと!? わーい」

 

 両手を上に上げ喜ぶ愛梨。こう見ると本当に子供のようだ。

 

 

「あの……私、ケガ人がいるって聞いたからきたんですけど……」

 

 階段の踊り場の近くを通ってる時、困っているような声が聞こえた。俺はその声に聞き覚えがあった。

 

「由夢?」

「どうしたの?」

 

 声のするほうを見ると

 

「ちょ、ちょっと……やめてください!」

「そんなこと言わないでさぁー」

 

 そこには、少し…結構頭の悪そうな他校生徒に絡まれている由夢がいた。状況からして、ケガの振りでもして近づこうとしたんだろう。周囲を見るとほとんどの人が迷惑そうにしていた。

 

「……はぁ」

「ああいう人……居るんだね……」

「そうだな……仕方ない……愛梨ちょっと待っててくれ」

「なんとなくそういうと思ったよ。こっちで待ってるね」

 

 さすがの愛梨も呆れているようだ。しかし風貌は不良っぽいので誰もいえないのだろう。ここは自分が行くしかないだろう。もしくは義之がいれば違ったかもしれないが……俺は、待っとく旨を愛梨に伝え由夢の方に向かった。

 

「朝倉さーん? どうしたんですか?」

「へ?」

 

 俺は、他人を装い他校生徒と由夢の間に入った。その時他校生徒を引き剥がす。いきなりで不意をつけたからかあっさりと引き剥がせた。そのまま他校生徒と由夢の間に立つ。

 

「翔さん……」

「なんだぁ? てめぇ?」

 

 由夢は驚き、男はイラついたように睨んでくる。

 

「すみません。俺は保健委員の春野と言います。ケガ人はあなたですね?見たところ大きなケガはなさそうですが」

 

 保健委員というのはうそだがこの方が円滑に進むと思ったので言わせて貰った。男はイラつきながら

 

「けがしてんだよ! 分かるだろうが!」

 

 そう返してくる。そこで俺は

 

「なるほど……頭が少し悪いんですよね。分かりました」

「……は?」

 

 周囲に聞こえるように大きな声で言った。周囲は意味が分かったのかクスクスと笑いが聞こえてくる。男は最初きょとんとしたが遅れて意味が分かったのか

 

「てめぇ……」

 

 ぷるぷると震えながら怒っている。ちょっと面白い。

 

「なぁ、春野よ。楽しいことしてるな。俺に教えてくれんとはつれないなぁ」

 

 後ろからの声に振り向くと杉並が居た。ホントに神出鬼没だなこいつは。よく見ると周囲はさっきより人が増えていた。見世物じゃないというのに男はばつが悪くなったのか

 

 

「くそっ! 覚えてろよ!」

 

 そんな台詞を吐き逃げていった。それと同時に

 

「うちの生徒と他校生徒が争ってるのってここ?」

「まったく、ホントこの学校は問題ばっかり!」

 

 高坂先輩とエリカの声が聞こえてきた。どうやらこちらに向かっているようだ。

 

「どうしようか翔也君」

 

 愛梨はいつの間にか横に来ていた。今ならまだ逃げられるだろう。それに杉並は既に居なくなっていた。

 

「そうだな……逃げても良いけど別に悪いことしてないしな……由夢。大丈夫か?」

「は、はい。大丈夫です……」

「そっか、なら由夢は仕事に戻ってくれ。生徒会への説明は俺がしとくから……」

「で、でも……」

「大丈夫! 被害者役なら私が代わりにするから」

 

 愛梨は笑顔で言う。一緒にくるつもりなのか……

 

「えっと、すみません……」

「いいって、次は気をつけろよ?」

「はい、それではお願いします。翔也さん。夢宮さん」

「またねー由夢ちゃん」

 

 そう言って、由夢は階段を下りていった。それから少しして高坂先輩とエリカが来た。

 

「へ? 翔也君?」

「春野……先輩?」

 

 2人とも予想外といった感じで驚くが

 

「お疲れ様です。高坂先輩、それにエリカ」

「な、なんで春野先輩がここに?」

「取り合えず、翔也君は生徒会室に来て」

「あの、私も行きます。私のせいなんで……」

「……そう。分かったじゃあ一緒に来て」

 

 そういい、俺と愛梨は生徒会室に連れて行かれた。そこで事情を説明し、それならしょうがないだろうと許しを貰うことが出来た。生徒会室を出た後愛梨の携帯がなりその通話が終わり

 

「ごめん翔也君。クラスのほうに来てって言われて……」

「そうか……分かった」

「ごめんね。明日サービスしてあげるから……」

 

 といった感じで愛梨とも別れて一人で残り少しの時間を見て回った。こうして少々慌しかったクリパ1日目が終了した。

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