「今日も多いな……」
クリパも二日目を迎えて俺達のクラスは昨日までとはいかずも忙しい状態だった。昨日の反省を生かして調理人数とシフトを少し変更したので昨日の様に調理が追いつかないという事は無かった。
「春野君、そろそろ交代だよー?」
今焼いてる分がちょうど良い焼き加減になった頃、後ろから声がかけられた。振り向くと次のシフトのクラスメイトが着替えて待っていた。
「分かった。これで上がらせてもらうよ……」
焼きあがった焼きそばをパックに詰めながら返す。集中してたらだいぶ時間がたったようだ。
「よし、これで終わり…っと。ほい、出来たぞ」
「ありがと」
パックを売り子の北上に渡す。昨日は調理をしていたが本来北上は売り子のほうをまとめる予定だった。俺は調理班のまとめ役になってはいるが元々しっかりしている為そこまでとやかく言う必要も無かった。
「後、俺のシフト終わりみたいだけどさ……」
「あ、もうそんな時間なの? 分かったわ。お疲れ」
腕時計を見ながら感心したように北上が言う。短くそう言ってまた来客対応に戻る。どうやら手はいらないようだ。俺は他の調理班に離れる旨を伝えて本校に向かった。
「既に、1時は過ぎてるか……」
本校に入り愛梨のクラスを探しながら時間を確認する。既に1時は過ぎていていた。愛梨も待っているかもしれない。
「ここか……」
本校を探して喫茶店のようなものを見付ける。どうやらこの場所のようだ。俺は店内に入っていった。
「いらっしゃいませー!」
中から聞こえた声は愛梨のものでは無かった。このクラスの生徒さんだろう。こちらを見て確認をとってくる。
「お一人様ですか?」
「えと……はい」
「分かりました。こちらにどうぞー」
店員に連れられ店内を進む。辺りを見ると意外にも1人客のほうが多かった。こういう店には基本恋人同士で行くものだと思っていた。
「こちらでお待ちください。後ほど注文をお聞きしますので……」
「分かりました……」
「では、失礼します」
そう言って、優雅に礼をして去っていった。本校の制服にはない長めのスカートがひらりと舞う。新鮮な光景だ。気を取り直してメニューを見る。
「けっこうな品揃えだな……」
意外にもメニューはデザートや飲み物だけでなく、軽めの昼食なども取れるようなメニューの種類だった。
「ご注文は決まりましたか?」
「いえ……まだですね……」
「悩まなくても私が決めるからいいよ? 翔也君」
「え?」
突拍子も無いことを言われて俺は思わずウェイトレスのほうを見る。そこには
「やっほ、翔也君!」
「……愛梨」
「やっと来てくれたんだねー。待ちくたびれたよー」
約束していた愛梨がいた。普段見る格好とは違いウェイトレス服に身を包んでいるからかいつもと違う可愛いという印象を受けた。
「ごめん、ちょっとシフトが変わってて……」
「ふーん……まあいいよ。とりあえずメニューは任せてもらっていいかな?」
「そうだな……いいよ」
「ふふ、ありがとう」
そう言って愛梨はこちらにウインクをして見えないようにしてある厨房のほうへと駆けて行った。周囲の一部の男子の頬が緩む。どうやらかなりの人気があるようだ。
「知らなかったな……」
ここまで人気があるとは思っていなかった。確かに見た目はきれいな方だが出会ってからの印象はどこか子供のような感じだったので、男子にモテているとは考えてもいなかった……
「お待たせ。翔也君」
そんなことを考えていたら完成したらしく、愛梨がテーブルにまで来ていた。
「はい、どうぞ?」
テーブルに置かれたのは、オムライスのようだ。卵できれいに包まれておりケチャップはお店の物のような美しさを感じるようにかけられている。
「これは……すごいな……」
「ふふ、ちょっと本気を出してみたんだよ?」
どこか勝ち誇るように言う愛梨。周囲の男子は
「なにあれ? メニューにあるか?」
「なんであいつが……」
等々……どうやら驚きと嫉妬にあふれているようだ。これが付属なら追いかけられること間違いないだろう。
「これ、メニューにあるのか?」
「ううん。無いよ? サービスするって言ったでしょ? じっくり味わって食べてね?」
「そうだな……ありがたくいただくよ」
「うん。それじゃ私他の仕事があるから……」
そういって愛梨は戻って行った。人気な分忙しいようだ。あれでよく代役で済んだものだ……
「ねえ君、ちょっといいかな?」
「はい?」
さっそく食べようとしたとき声をかけられた。スプーンを置き声のほうを向くと席を案内してくれたウェイトレスの先輩がいた。
「えっと……何ですか?」
「うーんと、君名前は?」
「春野ですけど……」
「君が春野君かー……愛梨とどういう関係なの?」
ニヤニヤしながら聞いてくる先輩。単純に興味本位で聞いてきているのだろうか……それとも……
「そうですね……」
「うんうん」
「い――」
「ちょっと、離してください!」
言おうとしたところで不意に大声が聞こえた。声には聞き覚えがある、愛梨の声だ。半ば反射的にそちらを向くと
「すみません……今は取り込み中なので……」
「いいじゃん。俺とパーティーを楽しもうぜー?」
これまた見事な迷惑行為だった。昨日もこんな光景を見た気がする。ただその被害者が愛梨というのが俺の中での重大さを引き上げていた。
「いえ……私、予定ありますので……」
「予定って何? 彼氏? 俺のほうがいいに決まってるってー」
そういってそいつは愛梨の腕を半ば強引に掴む。それを見て俺は既に席を立っていた。
「先輩、少しすみません……」
「え? ちょっと……」
少しばかり残っている頭を使って先輩に言う。返事も待たず俺は愛梨のところに向かう。
「おい」
「あ?」
俺の呼びかけにこちらを向く男子生徒。そいつの顔には見覚えがあった。
「お前、昨日の……」
「な、何でてめえがここにいるんだよ!?」
そいつは明らかにうろたえていた。昨日の一件で分かってなかったようだ。
「別に良いだろ……それより、これで二回目だよな……」
「う……」
「まずは、その手を離せ。それと二度とこんなことするな」
「う……うるせえよ!」
口ではかなわないと思ったのか。殴りかかってくる。だが杉並や高坂先輩といった面々の動きに比べれは十分に遅い。
「…………」
俺は、そいつの拳をかわして鳩尾を狙って拳を突き出した。拳に入る衝撃と
「うっ……」
そいつから漏れる息。蹲りはしなかったが片手で鳩尾付近を押さえる。そして
「お、覚えてろ!」
またも惨めな台詞を吐いて逃げて行った。ああいうタイプはまた同じ事をするだろう……俺以外に会ったときにはこんなものじゃすまないかもしれないのに
「あ……翔也君……」
安心したのか気が抜けたのか、愛梨はへたりと座り込んでいた。気丈のふりをしていたのかそれとも他に理由があるのかは分からないが
「立てるか? ほら」
「えっと、うん……」
手を出すと愛梨はそれを掴んで立ち上がる。やっぱり軽かった。愛梨は制服の裾をパンパンと払い
「ありがとうございます」
頭を下げてきた。今は仕事中だからだろうか? 敬語を使われるのは久々だったので思わず
「いえ、そんなことないです……」
俺も頭を下げていた。お互いにそのまま顔だけ上げる。その時
「…………」
あいりが笑顔を浮かべ唇が数回動いたそして頭を上げて
「それじゃあ失礼します」
そう言って厨房のほうに戻って行った。それを受け俺も席に戻る。そこにいた先輩は呆然とした感じだった。
「あの、先輩。大丈夫ですか?」
「あ、ううん。春野君度胸あるなって驚いちゃって……」
「はあ……それよりさっきの質問ですけど……」
「あ! それいいよやっぱり、何か分かったから! じゃあ、私も仕事あるから!」
「あ……」
そういって先輩も他の席に向かった。いったどういう関係に見えたのだろうか? それを聞いて見たい気持ちもあったがまずは
「少し冷めちゃったかな……」
愛梨の作ってくれたオムライスをこれ以上冷めさせない為に食事をとることにした。少し外は冷めてはいたものの中の部分はまだまだ温かくとても美味しかった。