「……すぅ……すぅ……」
「…………ぐぅ…………」
「すっかり寝てしまったな……」
「そうだな……」
「そうだね」
あれから自宅に戻り、5人でパーティーをしていた。だいぶ時間もたち疲れたのかそれとも途中で空けたシャンパン……の代わりに買った甘酒の酔いが回ったのか音姫さんと由夢の2人は眠ってしまった。それも義之に寄りかかる形で。
「……重い……」
「こら、桜内君? 女の子に重いって言ったらダメだよ?」
愛梨が少し強めに義之に言う。ちなみに、俺と愛梨はシャンパンは飲まなかった。愛梨は帰らないといけないし俺はその送りがある。
「そういうものですかね?」
「そういうものなの! 女子に人気なのにそういうのには鈍いんだね」
「ま、今日は早々にお開きだな」
「そうなるな。音姉達は俺が運ぶよ」
俺の言い分に義之は頷く。しかしどうやって運ぶのだろうか? 2人とももたれかかって動けそうに無い。
「いいのか? 俺も手伝うぞ?」
「いいって。それより夢宮さんを送らないといけないだろ?」
「あ、私は後で良いよ? お隣さんなんだしそんなに時間かからないでしょ?」
「愛梨もこう言ってるし……手伝うよ」
俺達の言い分に義之は苦笑し
「なら由夢を頼めるか? 俺は音姉を運ぶから」
「了解」
俺は由夢の肩を軽く叩く。
「由夢? 少しおきてくれ」
「……う……」
由夢の目が少しだけ開く。またすぐに眠りそうな雰囲気だ。
「立てるか?」
「……グルグル……しま……す……」
どうやら、酔いが回っているようだ。自力では無理だろう。俺は由夢に背を向けじゃがむ。
「由夢? 背中に乗れ。家まで運ぶから」
「……ふぁい……」
もそもそと由夢は俺の背中に乗る。そのまま首に手を回してきたと同時に、背中に柔らかな感触が当たる。隣を見ると義之も同じように音姫さんを背負っていた。
「んじゃ行くか」
「そうだな」
「私も行く」
義之が部屋を出ようとしたとき愛梨が立ちながら言った。
「どうした?」
「ふたりともおんぶだったらドアとか大変でしょ? もし落ちちゃったら雪の中だし……だから私も行きます」
俺達の返事を聞かず愛梨は玄関に向かっていった。愛梨の言うことにも一理あるため俺達はお願いすることにした。芳乃家を出てそのまま朝倉家の中に入る。
「おお。おかえり。今日は随分と遅いじゃないか」
出迎えてくれたのは二人の祖父純一さんだった。
「ええ。音姉も由夢も酔っちゃって……」
「そういう義之君だって少し顔が赤いじゃないか」
純一さんは笑いながら言う。そして俺と愛梨のほうを見て
「翔也君は……飲んでないみたいだね。後ろの子は制服からして音姫の友達かい?」
「えと……はじめまして夢宮愛梨と言います。音姫ちゃんとは最近仲良くなりました」
「そうかそうか、2人の祖父の純一です。ごめんね? わざわざ手伝ってもらって。これはお詫びだよ」
そう言って、純一さんは懐に手をいれた。そこからはちいさな饅頭が出てきた。
それを愛梨に手渡す。
「あ……ありがとうございます……」
愛梨は戸惑いながらも饅頭を受け取った。ただ視線は饅頭というより純一さんの手を見ていた。
「じゃあ翔也。上行こうか。」
「あ……ああ……」
愛梨の様子は気になるがとりあえず俺達は由夢達をそれぞれ部屋に連れて行った。そのままベッドにおろし布団をかぶせる。
「……くぅ……」
由夢は相変わらず眠っている。楽しい夢でも見ているのかその表情は楽しげだ。
「おやすみ。由夢」
俺はそう告げ部屋を出た。部屋から出ると愛梨と純一さんがなにか話していた。
「そっか。そうだな」
「はい。はじめて見ました……」
何の話か内容までは分からなかったが、純一さんは相変わらずかったるそうにしていた。
「何の話をしてるんですか?」
階段を降りながら純一さんに聞いてみる。純一さんはこちらを見て笑顔で言う。
「いや、あんな音姫ははじめて見たかって聞いてみたんだよ」
「学校であんな姿は見せないと思いますよ」
「うん。そうだね」
俺は少し苦笑気味に愛梨は笑顔で返す。そこに義之も戻って来て
「ふう。疲れた……」
「お疲れ。じゃあ悪いけど片付け頼むな」
「おう」
「どこか……出かけるのかね?」
「はい、愛梨を送らないといけないので……」
「場所はどこだい?」
「えっと……」
「いつもどおり枯れない桜まででいいよ」
「そっか……」
純一さんはそれを聞き頷いた。やがて、また懐に手を入れる。
「それじゃ、これは道中で小腹が空いたら食べなさい」
そう言って俺に饅頭を2個渡してきた。
「わ……分かりました……」
俺はそれを受け取り頷いた。先程パーティーもあったばかりなので大丈夫な気もするが……
「それじゃ、行って来ます」
「おじゃましました」
「気をつけてな」
「また、いつでも来なさい」
義之と純一さんに見送られ俺達は愛梨の家への帰路に着いた。道中で愛梨が最初に貰った饅頭を食べながら言う。
「……おいしいね……」
「よく食べれるな……」
「デザートは別腹なんだよ?」
女の子はそういうものだと言わんばかりに愛梨は言う。数人の女性を思い浮かべてみる……案外そうかもしれない。
「そういえば……見つかった?」
愛梨が饅頭を食べ終える頃には既に桜公園に着いていた。そしてそう言って愛梨は真剣な目でこちらを見てきた。前の約束の件だろう。嘘をつくわけにもいかないので俺は自分の考えを言った。
「うーん……正直これだっていうのはまだ無い……」
「そっか…………でも何かはあったんだね。良かった……」
愛梨は安心したのかほっと一息ついている。
「悪いな……ちゃんと見つけるって言ったのに……」
「そうでもないよ……翔也君はちゃんと答えに近づいているよ」
肩を落としそうな俺に愛梨は笑顔で言う。俺のほうに何か変化があったのだろうか?
「それって、どういう……」
「それはね…………」
そう言って愛梨は足を止めた。視線の先には枯れない桜がある。
「どうした?」
「誰かいる……」
「え?」
俺も目を凝らして見て見る。よく見ると桜にもたれかかるように誰かが座っていた。長い金髪に小柄な……
「さくらさん?」
「行こう、翔也君」
俺と愛梨は走った。木に近づいてはっきりと分かった。
「何してるんですか? さくらさん」
「え……?」
そこにいたのはさくらさんだった。どこか悲しそうな表情で木にもたれかかっていた。呼ばれたさくらさんはぼーっとしていたのかこちらを見て驚いていた。
「翔也君。それに愛梨ちゃん……」
「こんばんは、さくらさん」
「こんなとこにいちゃ風邪引いちゃいますよ? 何してたんですか?」
俺の質問に対してさくらさんは
「うーん、ちょっと考え事とかね……ここで考えるといいアイディアが浮かぶから……」
苦笑気味に答えた。どこか疲れているように見えるのは気のせいだろうか。ただ次にはニヤニヤとこちらを見て
「それより、2人はどうしたの? こんな時間に外を出歩いちゃうなんて……」
何を期待しているのかそう聞いてきた。
「ただの見送りですよ」
「はい。何も無いですよ」
「ちぇ、なーんだ」
がっくりとうなだれるさくらさん。その時小さくお腹がなる音が聞こえた。同時にさくらさんが恥ずかしそうに頬を染める。
「さくらさん。夕食食べました?」
「うーん。食べたことは食べたよ?」
「そうだ、翔也君。こういうときこそアレだよ」
愛梨に言われて気付く。もしかしたら純一さんは知っていたのではないだろうか。俺は先程貰った饅頭を2つともさくらさんに渡す。
「これ、純一さんからです」
「お兄ちゃんから?」
さくらさんは目を見開く。しかしすぐに微笑み
「そっか。お兄ちゃんが……ありがとう翔也君」
「いえいえ、俺じゃないですから」
「そうだね。翔也君じゃなくて、純一さんのクリスマスプレゼントって所でしょうか?」
愛梨が笑いながら言う。それを聞いたさくらさんは
「それなら、翔也君はボクに何をくれるのかな?」
期待しているように俺を見る。だがあいにく持ち合わせが無い。
「すみません。今は何も無いです……」
「ふにゃー、残念だよー」
「ダメだよ翔也君。いつでも何か出せるようにしないと」
二人に言われるが返す言葉も無い。ただ、最初に見たときと違って笑っていたのでなんとなく俺も笑ってしまった。
それから、俺と愛梨も座りしばらく3人で話をした。クリパの事、準備期間……さくらさんが帰ってこれなかった日の芳乃家であったこと……いつもと変わらなかったこともあったがどれもさくらさんは楽しそうに聞いてくれた。
「さてと、そろそろ戻ろうかな」
そう言ってさくらさんが立ち上がる。
「今日は家に帰ってこれそうですか?」
「うー。お仕事あるから今日はダメだと思う……はあ、翔也君や義之君の手料理が恋しいなー」
俺の質問にさくらさんはため息交じりに答え家があるほうを見る。
「手料理なら……翔也君が学校で作ればいいんじゃない?」
愛梨が思いついたように言う。それを聞いたさくらさんは
「そっか! 鍋パーティーと同じその考えがあったね!」
大きく同意していた。そして俺のほうを見る。
「翔也君からのクリスマスプレゼントはそれでいいよ。今日じゃなくていいから美味しい手料理を学校で食べさせてね?」
そう言われたら断れない。もともと断る気もないのだが……
「分かりました。その時は腕によりをかけて作りますよ」
「にゃはは。じゃあボクは戻るね? 2人も風邪引かないうちに早く帰るんだよ? メリークリスマス!」
「メリークリスマス! さくらさん!」
「気をつけて帰ってくださいね!」
さくらさんは大きく手を振りながら学園に戻って行った。
「私もそろそろ戻るね」
「そっか、気をつけて帰れよ?」
「心配ご無用ですー。それより翔也君も早く家に帰ってね? 明日から冬休みなのに風邪とか引かないでね?」
「……そういえば、愛梨って1人で住んでるんだっけ?」
この前の事を思い出し、愛梨に尋ねる。
「そうだけど? まあ少し寂しいのはあるけど……大丈夫だよ」
愛梨は笑いながら答える。こういう所は女性は強いと本当に思う。家に帰って誰もいないというのは寂しいものだ。
「良かったらさ……これから、夕食は家で食べないか?」
「え?」
「い……いやえっと……なんていうか」
つい口に出てしまった一言。どうすればいいのか慌てて考えるが当然言い答えは出てこない。
「あははは」
そんな俺を見て愛梨は大きく笑い出した。
「そんなに慌てる翔也君久々に見たよ。でもそうだね……」
笑いをこらえながら愛梨は言う。
「せっかくのお誘いだから受けたいなー。翔也君たちがいいなら私も翔也君家で食べたい」
あっさりとOKがもらえた。愛梨は何か考えているのかニコニコしている。
「それじゃ、私帰るね? バイバイ!」
さくらさんと同じように手を振りながら帰っていく愛梨。その笑顔はいつもより嬉しそうな感じだった。残された俺は
「上手くいったの……かな」
こんな事態になるとは思ってはいなかったが自然と頬が緩みそうになる。
「いかんいかん」
こんな所を誰かに見られる前に帰ろうと俺は来た道を急いで帰った。今年の冬休みは本当に何かが変わる……
そんな確信が俺の中で芽生えていた。