枯れない桜 もう一つの物語   作:メレリア

3 / 48
12月16日(夜)

 その日の夜

 

「弟くん。みりん取って?」

「あい」

 

 芳野家の台所では、音姫さんと義之が仲良くというのもおかしいが互いに声をかけながら料理をしてた。

 

「なんか新婚さんみたいだねー」

 

その光景をみながら由夢がいった。調理担当じゃない俺と由夢はコタツでのんびりしてた。

 

「そうな感じだな。ためしにそういってみたらどうだ?」

「いや、かったるい」

「まぁそういうと思ったよ」

 

 学校の生徒の大半は知らないだろうが学校以外での由夢は、かなりのめんどくさがりで服装もジャージである。学校では猫をかぶっているからこの姿を知っているのは、俺や義之、音姫さんといった極々限られた人達だけだ。

 

「やっぱり失望するんだろうなー」

「何が?」

 

 この時の由夢は俺にも敬語なしで話す。まぁその方がこっちもらくなんだが

 

「いや、今の由夢の姿をみたら男子は失望するんだろうなって」

「……翔さんは失望するんですか?」

 

 少し頬を膨らませながら由夢は質問で返してきた。

 

「やっぱり翔さんもお姉ちゃんみたいに完璧な人が……」

 

「おーい由夢。皿の用意してくれー」

 

 台所から義之の声が聞こえた。

 

「え~、かったるぃ~」

「そんなこと言わないで行くぞ由夢」

「でも~」

「由夢ちゃん!」

 

 音姫さんの声には由夢も

 

「や、冗談ですってば」

 

 そう言ってコタツから出た。向かう前に俺はさっきの質問に答えておくことにした。

 

「まぁ、俺から見れば別に今の夢も十分魅力あるぞ」

「……え?」

「ほら、さっさと台所に行くぞ」

「うん」

 

 気のせいか、それから準備中の由夢はご機嫌が良さそうに感じた。

 夕食の最中に音姫さんが口を開いた。

 

「そういえば、弟くんのクラスではなにするの?」

「あぁ、人形劇だってさ」

 

 聞いていた由夢が

「人形劇ってあの人形劇?」

 と聞く。

 

(あのって他に何があるんだろう)

 そんな俺の思考をよそに音姫さんと由夢は続ける。

 

「へー、創作系の出し物やるんだ? てっきり露店とかなのかなって思ってたよ」

「そうだな。義之達のクラスのメンバーを考えると一風変わった露店とかかと思った」

「そだね。なんか兄さんのキャラじゃないよね。どっちかって言うと兄さんはメイド喫茶とか言い出しそうだし。あとバニーちゃんとかチャイナとか」

「お前らな……」

 

 俺も含めみんな言いたい放題だ。しかも由夢の言い分は義之の嗜好を的確に把握しているみたいだし少し感心した。

 当の義之もそれを感じており反論は出来そうに無い。

 

「杏と茜がやりたいって言い出してさ。ま。俺もちょっと面白そうだと思ったし」

「あの二人がねぇ……」

 

 なんとなく狙いは分かるがそこは黙っておこう。

 

「ふ~ん、でも大丈夫? 本番まであまり時間ないよ? お稽古とかちゃんとできる?」

 

 几帳面な音姫さんはそんなことを気にしてた。さすがは生徒会長といったところだ。その心配をよそに義之は

 

「大丈夫じゃね? 脚本の構想はできてるって言ってたから。俺のセリフは少ないって話しだったから」

 

 その一言に音姫さんは

 

「えーっ! 弟くんセリフあるの!?」

 

 身を乗り出した。なんか興奮気味に見える。いきなりで驚いたのか義之は一息置いてから答える。

 

「……えっと、一応は」

「ど、どんな役なのっ!?」

 

 間髪いれずにさらに近くにより音姫さんは追及する。

 

「え、あ、……しゅ、主役……なのかな、一応」

「しゅ、主役ーっ!」

 

 こうなった音姫さんは止まらないだろう。

 

「で? でで? どんなお話なの? 弟くんはどんな感じの役?」

「まだ台本見たわけじゃないからよくわからんよ。確かロマンチックな話とか言ってたような……」

 

 この言葉に由夢の目つきが変わった。

 

「相手はどなたです?」

「…………」

 

 二人とも義之のほうから目を話さないでいた。

 

「……えっと、こ、小恋?」

 

 何故か疑問系で回答する義之。その後も長い時間を経て音姫さんと由夢の質問に答えるのであった。

 

 風呂も入り後は寝るだけになった。

 

「明日の授業は……」

 

 確認しても、どうせ教材は学校においてるし問題ないが一応しておく。

 

「…………」

 

 コンコンとドアがノックされた。

 

「どうぞ」

「やっほー! げんきー!」

 

 近所の事などお構いなしといった感じで入ってきたのはこの家の主であるさくらさんだった。

 

「どうしたんですか? こんな時間に」

「うー。翔也君も義之君ほどじゃないけど、テンション低いなー」

「まぁ普通ならもうすぐ寝る時間ですから。というか、今日は仕事片付いたんですね」

 

 さくらさんは相変わらずの年齢不詳の笑顔で頷いて

 

「あ、うん。思ったよりも早く片付いたから。あー、そうそう、それよりも翔也君」

「何ですか?」

「一緒に大岡裁き観ない? 全26話。帰りにレンタル屋さんで借りてきたんだ。義之君を誘ってみたんだけど明日も学校だからって断られて」

「それで、俺の所にきたんですか?」

 

 義之が明日学校なら俺も明日は学校があるということなのだが、たまにはいいだろう。

 

「まぁまだ眠気もありませんし、少しならいいですよ」

 

 俺自身も時代劇は好きだし内容が気になる。

 

「じゃあさっそく観ようよ」

 

 目に見て分かるぐらいさくらさんのテンションはさらに上がった。

 

「分かってますから。そんなに引っ張らないでください」

 

 時代劇を見ている最中にさくらさんがぽつりと言った。

 

「もう六年か……」

「なにがですか?」

「翔也君がきてからもう六年がたったんだなーって」

 

 朗らかな笑顔を浮かべてさくらさんは言う。確かに、ここ、芳野家のお世話になってから六年の月日がたっている。

 

「もう、そんなになるんですね…」

 

 今から六年前のあの日、俺の両親は事故により亡くなった。その事故の中でさくらさんに助けられた。それ以後、俺はこの芳野家の世話になっている。

 

「今年からは、義之君もぼくの家に居るし、良いことばっかりだよ」

 

 心から嬉しそうな笑顔を浮かべるさくらさん。この人にはいくら感謝しても足りないくらいだ。

 

「あぁ!」

「どうしました?」

「翔也君との話に夢中で今のシーン、見逃しちゃった…こうなったら、翔也君」

「はい?」

「今の話もう一回最初から見るよ!」

 

 さくらさんは楽しそうに提案してくる。

 

「……わかりました」

 

 せめて、仕事以外の時は楽しく過ごして欲しいと思ったら、返事は出ていた。

 その後、俺とさくらさんは2時間ほど時代劇を見てから床についた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。