「翔也君、買い物行こう?」
昼食も終わり、三人で居間でのんびりしていた所に愛梨が言ってきた。
「何でまた? 今買うものなんて無いだろ?」
「違うよ。音姫ちゃんに買ってきてってメールが来たんだよ」
そう言って、愛梨が携帯の画面を見せてくる。そこには音姫さんからのメールで
「愛梨ちゃん。お願いなんだけど晩御飯の材料買ってきてー」
と書いてあった。下には材料の数などが箇条書きで書いてある。量からして1人じゃ大変そうだ。
「ああ……そういうことね。つまり荷物持ちって訳か」
「そうは言ってないでしょ? ねえ、いいでしょ?」
小さい子のように言う愛梨。まあ用事も無いわけだからいいのだけど
「分かった。行くよ」
「ありがとうー。由夢ちゃんも一緒に行く?」
愛梨は由夢にも言う。だが由夢はコタツに入ってテレビを見ながら
「や、私はいいよ。外寒そうだし」
あっさりと断った。どうやら今日の残りはのんびり過ごすようだ。
「そっかー。残念」
「それじゃ行くか?」
「え?」
「どうした?」
「その服装で行くの?」
愛梨に言われ自分の服装を確認する。由夢のジャージ姿のような寝間着ではないが普段外に出ている服装ではないだろう。
「……大丈夫だろ。上にコート羽織るし」
「そっか。そうだよね……男の子って楽だなー」
俺の回答に愛梨はうらやましそうにため息をつく。そういうものなのだろうか。
「まあいいや。それじゃ行ってきまーす!」
「行ってくるな」
「いってらっしゃーい」
こうして俺達は買出しに向かった。外に出て思ったのは
「寒いな……」
「そうだねー」
年末だけあって寒さは前よりも増していた。家の中で温まっていた体もすぐに冷えてくる。
「手袋ないから手とかすぐ冷えちゃうねー」
自分の手に息を吐きかけながら愛梨が言う。手袋を持っていないのだろうか。
「それなら、商店街に売ってるから買おうか?」
「…………」
俺の返答に愛梨は呆れたような目で俺を見る。
「翔也君……やっぱり鈍いね……」
「え?」
「分からないないなら……えい!」
掛け声とともに愛梨は俺の手を握ってきた。握られた手は俺の手よりも温かくすこし驚いた。
「これは?」
「あのね? こういうときは普通男の子のほうから手を握ってくるものなの。これなら温かいでしょ?」
「それはそうだが……」
果たして男からするべきなのか……一歩間違われれば不審者として通報されないだろうか? 例えば北上にしたとしたら、する前に叩かれるだろう。それ以前にあいつはちゃんと手袋をしているか……
「ぐずぐず言わないの。ほら早く行かないと遅くなっちゃうよ?」
考えをまとめている内に愛梨は俺の手を引っ張り歩き出す。その時後ろから声がした。
「へえー。これは珍しいもの光景だねー」
「そうかな? 私は結構見るけど……」
声のほうに振り返ると
「やっほー。翔也君」
「買出しの途中?」
そこに居たのは音姫さんと高坂先輩の生徒会タッグだった。高坂先輩は獲物を見つけたような目でこちらを見ている。
「どうも……」
「あ、音姫ちゃん。やっほー」
愛梨は片手を挙げて返事をした。それを見て音姫さんもニコニコしだす。本当に仲が良い2人だ。
「それで? 翔也君はこんな所で何をしてるのかなー?」
ニヤニヤとしながら先輩が聞いてくる。
「さっき、音姫さんが言ったように買出しの付き添いですよ」
「買出し?」
「うん。さっき愛梨ちゃんに頼んだんだ。まだ生徒会の用事かかりそうだし……」
「なーんだ……ようは音姫の友達の荷物持ちか……」
つまらなそうに先輩は言う。何を期待していたのだろうか。
「それにしても、生徒会がわざわざ学校外で何をしてるんですか?」
「郊外のパトロールだよ。 半分はまゆきの杉並君捜索も兼ねてるけどね……」
音姫さんが苦笑しながら事情を説明してくれた。どうやらついさっき義之と話す杉並を目撃したらしく何を企んでるのか捜索中といった所らしい。義之は何をしてるんだろうか……
「それで? 見つかったんですか?」
「うんにゃ。まったくの成果なし。地面の下にでも隠れてるんじゃないのかな……」
うんざりしたように先輩は言う。実際にありそうで怖い。
「それは残念ですね……」
「まったく、でも次は捕まえてやるんだから……」
「まゆき? そろそろ戻らないと」
音姫さんが時計を見ながら言う。どうやらまだまだ仕事は残っているみたいだ。
「翔也君。私達も行かないと……」
「そうだな。じゃあ俺達行きますんで」
「2人とも買い物お願いね。まゆき、私達も行こう?」
「うん。翔也君? 変なことしちゃダメだぞー」
2人共違う笑顔を浮かべながら学校に向かって行った。一方で俺達も商店街に向かった。
「けっこう多いな」
「そうだね。後は……」
あれから商店街に着いた俺達は、愛梨が貰ったメールを参考に買い物を進めていった。材料からしてお鍋だろうか? さすがに6人分となればそれなりの量になる。それにいつもより肉の量が多い気がする。愛梨は貰ったメールを見ていた。これ以上になると片手では少々キツイ気がする。
「まだ何かあるのか?」
「えーっと……ううんさっきので最後みたい」
「じゃあ、戻るか」
「うん」
家に帰りながら時計を見る。時刻は3時を少し過ぎたくらいだ。今から帰って音姫さんがいないなら少し準備を始めたほうが良いかもしれない。
「とは言っても鍋だから問題ないか……」
「どうしたの?」
「いや、夕食の件でな」
「これだと晩御飯はお鍋だよね? 早く食べたいなー」
横断歩道での信号待ちでそう言った愛梨は、自分が食べている所を想像したのかうっとりしている。ちなみに、行きと同様に片手は愛梨が握っている。商店街では材料を選んだりするので離していたが帰路に着いたらまた繋いできた。俺のほうも特に断る理由もなかった。
「…………」
一つ懸念があるなら先程言われたように俺からしなかったことぐらいだろうか。そして想像に耽ったまま愛梨は立ち止っている。それは同時に俺も動けないという訳で……
「愛梨」
「……」
信号が変わったので愛梨に呼びかけてみるがよっぽど楽しみで想像しているのか返事が無い。
「愛梨!」
「え? な、何?」
少し強く呼びかけて愛梨は反応した。
「いや、愛梨が立ち止ると俺も動けないわけで……」
「あ、ごめんごめん。じゃあ、急ごうか」
そう言って愛梨は走り出そうとした。その時横からクラクションが聞こえた。そちらを見るとこちらに走ってくるトラックが見えた。その表情は急いでいるのか焦っているように見える。その証拠にスピードが落ちる気配はまったく無い。
「愛梨っ……!」
俺は愛梨の手を握る手に力を入れ自分の方に引き寄せた。
「きゃっ……」
小さく聞こえた声と共に愛梨はポスンといった感じに背もたれた。まあ引っ張ったからそうなるんだが、その後すぐトラックが俺達の目の前を通過した。トラックの進む先を見ているとバスが見える。確か保育園の送迎バスだろうか。次の瞬間、トラックが突如進路を変えバスに突っ込んだ。
――キキィィ!
止まろうとブレーキをかける甲高い音と共にトラックはバスにぶつかった。
「……え?」
その光景を俺は呆然と見ていた。あまりにも唐突過ぎて動けなかった。
「翔也君!」
愛梨の呼びかけでふと我に返る。愛梨はトラックのほうを指さしながら
「早く行こう!」
そう言って、愛梨は手を離し駆け出した。俺もそちらへと向かう。どうやら周囲の人も手助けに向かっているようだ。俺も急いで事故現場に向かった。駆けつけたところ不幸中の幸いかトラックの運転手と送迎バスに乗っていた人達に怪我は無いようだ。その後警察が来て立ち入り禁止となって俺達は再び帰路に着いた。
「何か不思議だったね……」
「ああ……」
「あんな事故がいきなり起こるなんて……」
「確かに、今まで無かったのにな……」
とにかく、怪我人が出なくて良かったと思う。その中で俺はトラックの運転手の表情が気になった。そこまでして急ぐ用事でもあったのだろうか。
「翔也君? 聞いてる?」
「え? 悪い。何だ?」
「もー。いきなり立ち止ったうえに無視なんて酷いよー」
気付けば足が止まっていた。愛梨を見ると頬を膨らませる。何を言ったのか考えてるとふと手に目がいった。繋いでない手は暇なのかそわそわしていた。それを見て先程言われたことを思い出した。
「悪い悪い。それじゃ行くか」
事故の事は一旦置き俺はそう言った。そのまま愛梨の手をとって歩き出す。愛梨は一瞬驚くも手を握り返してきて
「うん」
と大きく頷いた。こうして俺達は家に帰った。その途中で
「さっきは何て言ったんだ?」
「えっとね。翔也君はお鍋頑張って作ってねって言ったの。私食べる専門だから」
こんな会話を繰り広げながら……