枯れない桜 もう一つの物語   作:メレリア

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12月29日(夜) 後半

「フンフフフーン」

「随分と楽しそうだな……」

 

 冬休みに入ってから数回目になる帰りの送りでご機嫌に鼻歌を歌う愛梨を見て俺は言った。愛梨は笑顔のままこちらを見て

 

「そりゃ楽しみだよ。だってお泊りだよ? あー楽しみだなぁ」

「その前に布団買ってきたりしないといけないがな……」

「それも含めて楽しみなんだよ!」

 

 そう言って愛梨は俺の数歩先を踊るように回りながら歩いて行く。枯れない桜へと続く道なので道路より足元は少し危ない。

 

「あんまりはしゃぐとこけるぞ?」

「そんなことないよー」

 

 間延びした声で言う。俺は少し歩を早め愛梨に追いつこうとした時愛梨が突然足を止めた。

 

「あ……」

「ん?」

 

 愛梨が見ている方を見る。そこは昼間事故があった場所が見えた。車などは片付けられているも地面などはまだ事故の傷跡が残っており周辺は立ち入り禁止を示すテープが張られている。

 

「けが人がいなくて良かったね……」

「そうだな……」

 

 本当にそう思う。仮に誰か1人でも重傷……もしくは死亡でもしたら残された家族はどうなるのだろう……俺はどうだっただろうか……

 あの日からしばらくは必要な事……返事ぐらいでしか声を出すこともしなかった気がする。

 

「翔也君?」

「……」

「翔也君!」

「……ん?」

 

 愛梨の呼ぶ声で我に返る。最近少し考え事が多くなった気がする。愛梨を見ると少し心配そうに俺を見ていた。

 

「悪い悪い。どうした?」

「あの事故って、本当に操作がきかなくなったのかな……」

「運転手の言ってることが本当ならな……」

 

 ただ、少し気になるのも事実だ。片方だけならまだ機械の異常や運転手の過失等の可能性が高いと思うが両方の車が異常はないのに操作不能になったということが不思議だ。

 

「うーん……やっぱり由夢ちゃんの言ったように幽霊の仕業とかなのかな……」

 

 さっきの夕食の後も一時また事故の件が話題になり、由夢が幽霊じゃないだろうかと言って音姫さんが怖いのに強がっていた。声がちょっと震えていていつものお姉さんぶってる姿はなりを潜めていた。とまぁ、今は関係ないか。

 

「仮にそうだとしたらどうするんだ?」

「そんなの決まってるよ。何でこんなことするのか話をしないと!」

「…………」

 

 言葉が出なかった。幽霊と話が出来るのだろうか。話が出来る幽霊がいるとしたらどんな姿なのか見てみたいがそれ以前に……

 

「愛梨は幽霊と話せるのか?」

「当たり前だよ。私魔法使いだもん!」

「そういえば……そうだったな……」

 

 最近は、ほとんど魔法なんて見てないから忘れてしまいそうだが愛梨は自称魔法使いという事だ。

 

「むうー。自称じゃないもん」

 

 頬を膨らませながら愛梨が言う。顔に出ていたのか分からないが今思ったことを当てられ俺は驚いた。

 

「本当に考えていることが分かるんだな……」

「当たり前だよ? 魔法を使えば翔也君が妙なことを考えてもすぐに分かるんだから」

 

 この言い分からするとどうやら見えないところでだいぶ魔法を使っているようだ。

 

「確か、無差別に使わないって言ってなかったか?」

 

 俺の質問に愛梨は表情はニヤニヤさせながら愛梨は言う。

 

「それも大丈夫。使ってるのは翔也君だけだから! 話が出来る幽霊が見たいって言うのも。音姫ちゃんの事を考えていたのもぜーんぶ知ってるんだからね」

 

 なんで音姫さんなのだろうか。しかしこれは厄介な話だ。妙なことを考えようものなら大惨事になりかねない。何とかほかの事を考えてみる。

 

「…………」

 

 関係の無いこと……とりあえず先程の事故について考えてみる。事故の状況から思い出す。トラックがスピードを落とさず俺達の前を通る。その先にあった保育園の送迎バスと衝突。ニュースから言えばこの時、双方の車は操作を受け付けなかったらしい。

 そしてバスから出て来る園児達と先生。安心したように駆け寄る周囲の人々……

 

「あれ?」

 

 そんな中愛梨がふと声を出した。顔を見ると何か困ったような表情をしている。

 

「どうした?」

「あ……えっとね……翔也君。さっきの考えの中で周囲の人が駆け寄る場面があったでしょ?」

「ああ、確かにあったけど……」

「そこにね? その……知ってる人……居た?」

「え?」

 

 突然言われ俺は先程の光景を思い出す。だが駆け寄った人の顔まで見ているわけでもないのでその中に知り合いがいたかなんて分からない。

 

「いや、分からない……」

「そっか。そうだよね……」

「何かあったのか?」

「ううん。なんとなく翔也君の記憶力を試したいなって……」

 

 俺はため息をついた。何か気になることでもあったのかと思ったのに……愛梨を見ると今度は不満そうにこちらを見ていた。

 

「でもさー翔也君。帰り道に暗いこと考えないでよー気分が沈んじゃうよー」

「そうかな?」

「そうなの! まったく……それより明日の予定考えようよ」

「はいはい」

 

 その後は明日の予定について話し合い、

 

「それじゃ、明日は朝からそっちに行くからね」

「ああ、その後買い物だな。なるべく朝のうちに終わらせよう」

「うん! それじゃ、また明日ねー!」

 

 枯れない桜の下で愛梨と別れた。その後、特に寄り道もせず家に戻ったら

 

「あ、翔也君」

 

 2階に上がろうとしていたさくらさんに会った。

 

「ただいま、さくらさん」

「うん、おかえりー」

 

 さくらさんはニッコリと笑う。そして何かを思いついたように両手をポンと叩き言う。

 

「そうだ翔也君。ちょっと時間ある?」

「なんですか?」

「ちょっとお話、付き合わない?」

「俺はいいですよ? どうせまだ寝付けないでしょうし……」

「やったねー。じゃあ、義之君も呼んできてよ。まだ寝付けてないと思うから」

「義之も? ……分かりました」

「お願いねー」

 

 さくらさんはそう言って台所に向かった。俺は2階に上がり義之の部屋に向かった。さくらさんの言ったとおり義之は寝ておらず話の件は

 

「俺も寝付けないしいいよ」

 

 と言って了承した。そして、居間に降り三人で話をしているなかさくらさんが

 

「で、義之君はどっちが本命なの?」

 

 いつもと変わらない感じで義之に聞いた。

 

「へ?」

「だから音姫ちゃんと由夢ちゃん。どっちが義之君の本命なのかなって」

 

 これはまた凄い質問だ……義之は慌てて

 

「だ、だから違いますって。ふたりはそんなんじゃなくて」

「なくて?」

「何ていうか……姉と妹みたいなものですからそんな感情はないですよ」

「ふーん……」

「だ、だいたいなんで俺なんですか翔也に聞いてくださいよ」

 

 唐突に話題が俺に向けられた。さくらさんは俺を見てニヤニヤとして

 

「だって、翔也君は愛梨ちゃん一筋って感じだもん。あ、美香ちゃんもかな?」

 

 唐突に北上の名前が出てきて俺のほうが驚いた。確かに付属から三年間同じだが

向こうがその気はないと思う……実際前にクラスの女子が聞いたときに

 

「春野と? ないない」

 

 とごく当たり前のように言っていたというのをその話を聞いていたクラスの男子から聞いたことがある。

 

「へ? 北上ですか? それはないと思いますよ」

「そうなの? そっか、やっぱり愛梨ちゃん一筋だもんね」

「……そんなことは……」

「無い訳ないよな。俺は翔也があそこまで向き合った女性を知らないよ」

 

 面と向かって言われると恥ずかしくなる。実際そうなのだろう……この場に愛梨がいなくて良かったと心底思う瞬間だった

 さくらさん達はそんな俺をみて笑う。

 

「にゃはは……でもね?」

 

 さくらさんがそこで一旦区切る。俺と義之はさくらさんに注目する。

 

「ボクは、姉妹みたいに育ったとか単に付き合えそうだからとかそういう理由なんかで本当に大切なことを見逃して欲しくないんだ。もちろん、義之君にふたりのどっちかを選べって訳でも翔也君に愛梨ちゃんを選べと言ってるわけじゃないよ」

「……」

「…………」

「ただ、大切な人と歩めばたくさんの問題や障害があってもものともしない。それを乗り越えて必ず幸せになれる。ボクはそう思うんだ……」

 

 さくらさんは、少し寂しさを含ませた微妙な笑顔を浮かべていた。

 

「さくらさんもそういう出会いがあったんですか?」

 

 俺はそう聞いていた

 

「え?」

「いや、そう言えるのはさくらさんにもそういう出会いがあったからかな……って思って」

 

 義之が俺に続いて言う。さくらさんは少し考えた後

 

「うん。あったよ」

 

 先程とは違う笑顔で言った。思い出したのか少し声も弾んでいる。

 

「それっていつ頃だったんですか?」

 

 義之は続けて言うとさくらさんは

 

「こら、レディーの過去を聞くなんて失礼だよ!」

 

 頬を膨らませて言う。やっぱり年齢に関する事は言わないし聞いてもいけないのだろう。

 

「さてと、ボクはそろそろ寝ようかなー。おやすみ、2人とも」

 

 そう言って立ち上がるさくらさん。その次の瞬間

 

「うわ……っと」

 

 急にさくらさんがよろけた。

 

「さくらさん?」

「だ、大丈夫ですか?」

 

 俺と義之はとっさにさくらさんを支える。その体は予想以上に軽かった。

 

「にゃはは、ちょっと立ちくらみ。大丈夫だよ。少し夜もおそいしねー」

 

 心配させない為か元気そうな声が返すさくらさん。

 

「それじゃあ、おやすみ」

 

 そして、そう言って居間を出て行った。それを見送った俺はさくらさんはどこか無理をしているような感じがした。

 

「……」

 

 義之は義之で何か思うところがあるのだろうか呆然とさくらさんが出て行った戸を見ていた。

 

 

 

 

「うーん……」

 

 ベッドに入ってから先程のことを思い出す。

 

「本当に大切なことを見逃して欲しくない……か……」

 

 さくらさんが言った言葉それと同時に考えることは

 

「私はね? 付き合うなら1つだけすっごく大事にしたいことがあるの……」

 

 愛梨に好きかどうかを聞いて、そして俺に変わって欲しいと言われた時の愛梨の言葉だ。

 

「大事な事か……」

 

 いったい何なのだろう。愛梨曰く、答えには近づいていってるらしいが……何かは聞けなかったし……

 

「うーん……」

 

 思考に耽っていると眠たくなってきた。事故の件や愛梨との件……考えることはたくさんあるが

 

「とりあえず……寝よう」

 

 明日は色々あるので今日は寝ることにした。いろいろあったからか思った以上に早く眠気はやってきた。

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