12月30日(朝) 前半
「朝飯どうするかなー……」
冷蔵庫の中を見ながら呟く。愛梨と音姫さん達が芳乃家に泊まりに来る今日、俺は少しばかり早く起きて朝食の準備をしようとしていた。
「残ってるもので何か作れればよかったんだけどな……」
準備をしようにも、昨日がお鍋だったからか冷蔵庫の中はほぼ空に近く材料は無いに等しい。
「幸い卵があるし……卵焼きでも――」
作ろうかと言おうとしたとき、玄関のチャイムが押された音がした。
「はーい!」
返事をして玄関に向かう。ドアを開けると
「あ、翔也君。起きてたんだー」
「おはようございます……翔さん」
来客は、弾んだ声をさせながらいつも以上にニコニコしている音姫さんと眠たそうにしている由夢だった。
由夢はいつもどおりジャージだが音姫さんは朝早くても服装はきちっとしているあたりさすが規則正しい生徒会長さんといったところだ。
「えっとね。弟くんもう起きてるかな?」
「いや、まだ寝てると思いますよ?」
一階に降りるとき義之の部屋から物音一つしなかった大方寝てるだろう。
「ほらね? だから言ったんだよ。兄さんは寝てるって」
「むうー……」
どうやら、2人とも義之に用事があるようだ。
「2人とも、上がって良いですよ? 義之ですよね?」
「うん。それじゃお邪魔しまーす」
そういいながら音姫さんは家の中に入ってくる。一方で由夢はその場に立って動こうとしなかった。
「由夢? どうした?」
「や、えっと……」
呼びかけに応じるも困ったように目を逸らす。
「由夢も義之に用事じゃないのか?」
「それは……」
「出来ることなら俺がやっても良いけど?」
「え?」
由夢は驚いたように俺を見る。何かまずいことを言っただろうか? しばらく由夢は
「うーん……」
と唸りながら何かを考えた後
「別にいいよ。後でまた来るからその時には兄さんも起きてるだろうし……じゃ、私戻るね」
そう言って欠伸をしながら朝倉家のほうに戻って行った。もう一眠りする気だろうか?
「ほーら! しゃんとする!」
「分かったから……」
そうしているうちに音姫さんが戻ってきた。無論義之を連れてである。義之は由夢と同じように眠たいのか大きな欠伸をする。
「大体、音姉も翔也も早いんだよ。今は冬休みだろ?」
「ダメだよ? あんまり夜更かしとかすると冬休みが終わる頃には今の時間に寝付けなくなっちゃうんだよ?」
愚痴る義之に音姫さんが指をピシッと立てながら言う。確かに、一度崩してしまった生活習慣を戻すのは結構キツイことだ。おれ自身も付属に入学した年は大人ぶって夜更かしばかりしてたがそのせいで寝付けなくなったことがある。それ以来なるべく規則正しい生活を持続させるように心がけている。
「そんなことないって。それより早く用事を済ませようぜ」
「もう……それじゃあ行こう?」
ため息をつきながらも次には笑顔で言う。今日の音姫さんはコロコロと表情が変わっている気がする。
「にしても、由夢はいったい何を……」
後で義之に言うと言ってたから横槍を入れるのは無粋な気がする。
――♪
「ん?」
そんなことを考えていたら携帯が鳴り出した。着信相手を確認してみると
「愛梨か……」
着信に出ると
「相変わらず出るのが遅いよー? 翔也君」
電話の向こうで少し不満そうな愛梨の声が聞こえた。今回はそう遅くなかった気もするが黙っておこう。
「悪い。ちょっとあってな……」
「そうなの? じゃあ……後のほうがいいかな?」
先程の由夢と似たようなことを言う愛梨。
「何かあったのか?」
「うーん……あのね? 今日がね私凄く楽しみなの」
「ああ、昨日もそう言ってたしな」
「それでね、いつもより早く起きちゃって朝ごはんとかももう済ましちゃったの」
「うん」
「だから、ちょっと早いけどお買い物に行きたいなーって……」
「…………」
つまり、一緒に買い物に行こうという事だろう。昨日決めた予定よりも大幅に早い時間でそれは出来かった。
「あの、愛梨?」
「うん? 何?」
「まだこの時間じゃ店は開店してないだろう……」
「あ……」
そう。こんな朝から空いているお店はコンビニくらいだろう。少なくとも今回買おうとしている物を扱っているところはこの時間には開店してない
「そっか……」
「うん」
「じゃあ、とりあえず翔也君家に行くね? 荷物もおきたいし」
「え? おいそれって――」
「それじゃ!」
その言葉と同時に通話終了の音が鳴った。
「ああ……昨日の予定とかけ離れ過ぎてる……」
昨日の予定で行けば開店の15分くらい前に枯れない桜で合流する予定だったのだが……
「愚痴っても仕方ないか……」
とりあえずは、まだ食べてない朝食を作るため家に戻った。作った朝食を食べ終わり出かける準備を終えた頃に愛梨はやって来た。小旅行に行くようなボストンバック等を持っている。
「おはよ、翔也君。今日からよろしくね」
「こちらこそよろしく。とりあえず荷物置くか。持とうか?」
「ま、
「あ、うんお願い」
ひとまず一階の居間に荷物を置いてからひとまず炬燵に互いに入る。
「それにしても電話からけっこうかかったな……何処か寄ってたのか?」
答えに迷っているのか愛梨は視線を空中に泳がせている。
「え? それは……」
「ま、まぁそんなことはどうでもいいでしょ? ほら買い物行くよ?」
どういう結論に至ったのかは不明だがそういう愛梨は立ち上がり外に向かう。今から行けば待ち時間はそんなに無いだろう。そうなればこれに反対する意味は無い。
「分かったよ」
先程義之が似たようなことをいってた気はするが、とりあえずは要件を済ませよう。午後からはゆっくりしたいと思うし。
「お買い物、おっかいものー」
愛梨を見れば小学生のように歌?を歌いながら歩いてる。今回買うのは先日話に上がった布団だ。それ以外にも商店街を回りながら必要なものがあればその場で判断して買ったり放置したりする考えだ。必要かどうか決めるのはもちろん愛梨になる。
「そういえば、板橋とかには見られたこと無いよな……」
「ん? 何を?」
「いや、こうして手を繋いだりしてるところをさ。前は学校内を追い回されることになっただろ?」
学園内なら勝手知ったるとはいえ商店街で遭遇したなら危険になるかもしれない。
「きっとみんな商店街なら分かってくれるよ」
笑顔で愛梨は言うがそれはいったいどういうことなのだろうか。
「とにかく、面倒なことが起きないように願う」
心からそう思う。その後は買うものは他に何があるのか。どこにあるのか等を愛梨から聞いた。やっぱり予定通りと行かず買うものはだいぶ増えていた。
「翔也君。荷物持つとき頑張ってね」
荷物持ちとしてなかなかハードな一日になるんじゃないかと考えながら俺達は商店街に進んで行った。