「さてと……まずは」
「布団だね」
商店街に着いた俺達はまず寝具店に向かった。中に入ってみると朝で客も少ないかった。俺達含めて数人といった具合だ
「いらっしゃいませー!」
奥から店員が出てくる。若い女性店員だ。新人なのだろうか凄く張り切っているように見える。
「今日はどんな用件ですか?」
「えっと……布団を一組探してるんですが」
「お客様がお使いに? それともお連れの方ですか?」
「はい。私が使います!」
大きく頷き愛梨が答える。
「なるほど……なら実際に試しながら選んでいきましょうか。そちらの方がお客様も納得できそうですし」
「そうですね。愛梨、それでいいか?」
「うん。でも」
「でも?」
「試してるところを見られたくないから翔也君は待ってて?」
「え?」
以前、寝ぼけてるところを見たことがあるのだがどうやら愛梨の記憶には無かったようだ。それを聞いて店員さんも頷く。
「そういうものなのか?」
「そうなの! だからここに居てね。それじゃ行きましょう!」
「はい。とことん付き合いますよ!」
意気投合したのかそんな掛け合いとしながら奥へと向かっていく愛梨。とりあえず辺りを見回してみる。こう見ると随分と品揃えも増してる気がする。まあ、前に来たのは数年前だから当たり前なのだろうが……
「あら? 翔也じゃない」
いきなり名前を呼ばれその方を見ると
「こんな所に居るなんて珍しいじゃない」
「雪村か……」
「随分な物言いね……」
そこに居たのは雪村だった。俺と同じように誰かを待っているのか暇そうにしている。
「何か買い物か?」
「ええ。ちょっと美夏のパジャマを買いにね」
「美夏? 天枷さんか?」
確か由夢と一緒のクラスの転入生だったはず。いつの間に雪村と仲良くなったのだろうか。
「そうよ。それより、私がここに居るよりも翔也がここに居るほうが珍しいと思うのだけど? 何の用なの?」
「別に、ただ布団を買いに来ただけだよ」
「へぇ……」
そう呟いた雪村はニヤニヤとしだした。
「これは、面白い情報ね……誰が使うの?」
「別に大したことじゃないよ」
「そう? てっきり夢宮さんが使うのだと予想してたのだけど……」
「っ……」
「その反応だとあたりみたいね」
勝ち誇ったように言う雪村。その時かまをかけられたのだと理解した。
「ふふ。翔也って一部のことに関しては義之以上に顔に出るのね……意外な一面だわ」
「ほっとけ……」
「杏先輩。遅くなりました」
そうこうしてるうちに、雪村の連れである天枷が戻ってきた。既に会計も済ませているようだ。
「結構時間かかったわね」
「すみません先輩……」
頭を少し下げてる天枷に雪村は意地の悪い笑みを浮かべながら
「気にしないで。おかげで面白いものが見れたし聞けたから……」
こちらをチラッと見て言う雪村。これはしばらくからかわれるネタにされるかもしれない……
「じゃあ、私達行くわね……行くわよ美夏」
「分かった」
雪村達は外に向かう。天枷が先に出て、雪村も出ると思ったとき雪村がこちらに降り向いた。
「そうだ。翔也」
「何もすることがないなら何かパジャマでもプレゼントしたら?」
「プレゼント?」
「そう、露出の激しいのにすれば色々と困らなくて済むかもよ?」
いやらしい笑みを浮かべながら雪村は言う。最後がなければまともなのに……
「別に困らないよ」
「そう?」
「それより、天枷が待ってるぞ」
外を少し行ったところで天枷はこちらを見て待っていた。
「そうね。じゃあね翔也」
「ああ、またな……」
小さく手を振りながら雪村も出て行った。
「……プレゼントか……」
先程雪村が言った事を思い出す。
「仮に送るにしても、何にするか……」
辺りを見回してみる。やっぱりパジャマだろうか、それともクッション類のほうが良いだろうか……
「何をお探しですか?」
「え?」
気付いたら、俺の横にさっきとは別の男性店員が立っていた。
「おっと、失礼しました。お客様が何かをお探しのように見えたものですから」
店員が笑顔を浮かべながら言う。客も少ないから目に付いたのだろう。
「それで何をお探しなんですか?」
「えっと……ちょっとプレゼントを買おうかなと思って……」
「プレゼントでございますか。先程の彼女さんにですか?」
「彼女?」
俺が聞き返すと意外そうな表情を浮かべ
「先程、奥に行かれた方にですよね? てっきり彼女かと思ったのですが……」
「いや、まだ彼女じゃないですよ」
「あ、まだですか」
しまったと思ったときには口を滑らせていた。店員は安心したように笑う。そして少し考え
「少々お待ちください」
何か思いついたのか、やや駆け足で行ってしまった。そして何かを抱えて戻ってきた。
「なら、これはいかかでしょう?」
そう言って見せられたのはパジャマだった。特にデザインにこだわったものでもなくシンプルで着やすそうな物で、色が薄い桃色で桜を思わせるような色だ。
「お連れさん綺麗ですからこういったシンプルな物が良いかと思いますよ」
「……色合いが綺麗ですね。それと模様も」
「これを作った方はこの島の桜の色をイメージして作られたそうですよ。だから模様も桜の花びららしいです」
楽しそうに話す店員。俺はこれを着た愛梨を想像してみる。うん、なかなか似合ってると思う。
「えっと、おいくらですか?」
値段を聞いてみる。店員さんも気まぐれなのか値札の金額よりもだいぶ安くしてくれた。
「いえ、ただ応援の意味を込めただけですよ」
と言うのが安くした理由だそうだ。そんな理由で値下げして大丈夫なのだろうか。
「お待たせー」
会計を済ませたところで愛梨が戻ってきた。だいぶ試したのだろう。後ろに居る女性店員にはけっこうな疲れが見える。
「いいのはあったか?」
「うん。ばっちり!」
両手をグッと握って答える愛梨。どうやら満足いくものが見つけられたようだ。
「えっと、お値段はどのくらいになりますか?」
「は……はい。えっとですね……」
掲示された金額は予算内で納まるものなので問題なかった。
「それでは、こちらのほう後ほどお届けしますので。何時くらいがよろしいでしょうか?」
全部の会計を済ませた後男性店員が聞いてくる。
「昼過ぎからは居ると思いますので……」
「あ、ちょっと待って翔也君。後一つ買いたい物があるから」
そう言って愛梨はパジャマ売り場に走って行った。自分の分を買う気だろうか。戻ってきた愛梨は可愛らしいデザインのパジャマだった。
「それ、自分で着るのか?」
「ううん。由夢ちゃんにあげようかなって思って」
「由夢に?」
「うん。だって由夢ちゃん凄く可愛いもん。ジャージも良いけどパジャマでもより一層可愛くなると思うの」
「そうか……」
愛梨の言い分を聞き心の中で安堵する。自分の分を買われたら意味がなくなってしまうからだ。
「それではそちらも含めて家のほうに届けさせていただきますので……」
店員はそう言って話を進める。どうやら先程俺が購入したのも含めて送るようだ。
「はい。お願いします」
「ありがとうございましたー」
俺達はそう言って店を後にした。愛梨はそのまま鼻歌を歌いそうなくらい上機嫌だ。
「良いのが見つかったみたいだな……」
「うん! あー楽しみだなー!」
「じゃあ、次はどうするか……」
「そうだねー。後は少し日用品を買って戻りたいな。さっき持ってきた荷物も整理したいし」
「分かった。でもそんなに荷物多くなかったよな……」
家に来たとき愛梨が持っていたのは、少し大きめのボストンバック1つと小さめのトートバックの2つだっだ。
「そりゃそうだよ」
愛梨は笑顔で頷く。そのまま
「だってこれから買っていくんだから」
「…………」
それから俺達は、愛梨の必要と言う物を買って家へと戻った。女性って言うのは買わないといけない物が多いのだと改めて感じさせられた。