枯れない桜 もう一つの物語   作:メレリア

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12月30日(昼) 後半

「弟くーん。出来たよー!」

「翔也君。降りてきてー」

 

 下から呼ばれ、俺と義之は一階に降りた。居間には既に昼食が並べてありすぐに食べられる状態だ。長い時間かかったからか義之は

 

「おー。美味しそうじゃん!」

 

 と目を輝かせている。しかし、

 

「あ、グラタンは由夢ちゃんが作ったから、じっくり味わって食べてあげてね」

 

 音姫さんの一言を聞き

 

「って、まじか!?」

 

 一転して驚きの表情を浮かべる。それを見て由夢は言う。

 

 

「その反応はどういう意味です?」

「概ねお前の予想通りだよ。どうりで時間がかかってるなって思ったら……まさかこうゆうことになるなんて」

「大丈夫だよ、弟くん。由夢ちゃんだって、ちゃんとお料理できるんだよ」

「そうは言っても……」

 

 ここ最近の由夢の努力を知らないからか。義之は納得しきれてないようだ。まぁ俺も完璧だとは思っていないのだがしかしグラタンとは愛梨も音姫さんも随分と思い切ったと思う。

 

「べ……別に、無理して食べてくれなくてもいいよ」

「……」

 

 そう言う由夢が作ったグラタンは、2人のサポートもあったからか一部焦げてたりちらりと見えるマカロニの1部が溶けていたりと少々気になるところはあるが特に問題無さそうに見える。由夢自身は緊張してるのかそれとも失敗が悔しいのかどこかしおらしくしていた。指先には調理中に切ったのか絆創膏が見える。

 

「いや、食うよ」

 

 義之も何かを感じたのかそう言って、一回深呼吸をした後グラタンを口に運んだ。

 

「ぐっ……!」

「……」

 

 由夢は緊張した面持ちで義之の口元を見ている。

 

「あ……あれ?」

「え?」

「何だこれ、意外と美味いじゃないか……見た目はちょっとあれだけど味はわりと……」

 

 先程の躊躇いはなんだったのかもぐもぐと食べていく義之。俺は愛梨のほうを見てみると小さく親指を立てた。由夢は信じられないのか

 

「……お、お世辞なんて言わなくてもいいよ」

 

 慌てたように言うが

 

「別にお世辞じゃないよ。見た目はまだまだだけど味は十分じゃないか。少し薄いくらいで上出来上出来」

 

 そう言って変わらぬペースで食べていく義之。由夢は呆然とそれを見つめる少し頬が赤くなっているように見える。俺は由夢の横でニコニコしている指導の二人に小声で聞いた。

 

「愛梨。あのグラタンって……」

「ほとんど由夢ちゃんが作ったんだよ。ね? 音姫ちゃん」

「うん。由夢ちゃん凄く上手になっててビックリしちゃったもん」

 

 どうやら、音姫さんが見てないところでも練習を重ねていたようだ。努力は報われると言うのはこういう事を言うのだろう。

 

「どうした由夢? さっきからぼーっとして」

「や、な、なんでもない!」

 

 義之に指摘され慌てるようにぷいと顔を背ける由夢。

 

「ふふっ、頑張った甲斐があったね。良かったね、由夢ちゃん」

 

 音姫さんは自分のことのように嬉しそうに言う。

 

「や、べ、別に兄さんのために頑張ったわけじゃないから。しょ、将来のために出来たほうが良いと思って練習しただけだから」

「そっか。まぁ俺のためじゃないにしろ、美味しかったよ。あと、馬鹿にして悪かったな」

 

 そう言って義之は頭を下げる。自分なりのけじめといった所だろう。

 

「べ、別に良いです」

「うふふ」

 

 由夢はそう言ってまたそっぽを向く。そして音姫さんは笑顔でそれを眺めていた。

 

「そういえば……愛梨」

「んー?」

「愛梨が作ったのはこれか?」

 

 俺が示したのはスープのミネストローネだった。

 

「えっとね。それは私と音姫ちゃんの共同作品だよ?」

「へぇー。こっちのサラダは?」

「それは音姫ちゃんだよ?」

「なるほど……」

 

 つまり、今日のメインは先に見た台所の風景のように由夢だったのだろう。それにしても

 

「愛梨はスープのみか……」

「あー。出来は良いんだからね? 驚いて倒れないでね」

 

 よっぽど自信があるのだろうか。小さい胸を張って言う愛梨。

 

「そんなにですか……ならいただきます」

「私も……」

 

 それを聞いた義之を由夢が口に含む。そして驚いたような表情を浮かべて

 

「美味い……」

「本当だ。凄い美味しい……」

 

 口を揃えて言う。俺も口に含んでみた。味で言えば食べたことはないが高級料理のほうが上かもしれない。でもなんというか心の底が温かくなると言えば良いのだろうか? そんな表現しか出来ないが

 

「……美味しい……」

 

 口はそう呟いていた。

 

「やったね! 音姫ちゃん!」

「うん! 愛梨ちゃん!」

 

 それを見た愛梨と音姫さんはハイタッチをしていた。

 

「隠し味か何か使ったのか?」

「えー? それは言えないよー。ねぇ、音姫ちゃん?」

「うん。これは言えないね」

 

 そこまで言われると気になるが口を割りそうにない。

 

「言ってはくれないか……」

「そんなこと気にしないの。ほら早く食べないと冷めちゃうよ?」

「はいはい……でもその前に……」

 

 俺はサラダを口に含んだ。いつも通り美味しい。音姫さんが作ってるのだし特に変わったメニューでもないし当然か。

 

「うん。いつも通り美味しい」

「ふふっ。ありがとう翔也君」

「まぁ、音姉のが美味しいのは食べるまでもないだろうけどな」

 

 義之が言う。これは由夢も頷いている。確かに毎日食べているからそうなのだろうが何が起こるか分からないのが料理だ。

 

「むー……」

 

 俺がそう考えるようになった理由の1つの愛梨が不服そうに唸っている。

 

「どうした愛梨?」

「なんか、さっきの言い方だと私が今回たまたま美味しく出来たみたいな言い方だなって思って」

 

 それはそうだろう。今まで数回愛梨の手料理は食べたが殆どは美味しいし見た目もこだわってるのも分かる。あのお弁当さえなければ……

 

「言ってもいいのか?」

「何を?」

「ほら、あのお弁当……」

「え? えーっと……ダメダメ!」

 

 忘れていたのか少し考えた後慌てたように言い出す。ただ周囲は

 

「私は興味あるなー。そのお話」

「……ああ」

「そうだな」

 

 聞きたい雰囲気全開だった。由夢だけは先日聞いてるから納得したような顔をしている。それを察したのか愛梨は顔を赤くしながら

 

「は……恥ずかしいなー……もう。なら私の口から言います」

 

 そう言って覚悟を決めたのか顔を上げてあの日の話をした。愛梨の弁当を食べて俺が3時間くらい気絶したことをだ。それを聞いて

 

「へぇー。夢宮さんもそんなことあるんだ……」

「やっぱり誰でも失敗するんだよ……」

 

 意外そうに言う義之と安心したように頷いている由夢。ただ音姫さんは

 

「…………」

 

 何かを考えているかのように黙っていた。

 

「音姫ちゃん。どうかしたの?」

「ううん。 ねぇ翔也君」

「はい?」

 

 音姫さんは俺に話を振って来た。どんな味だったかとかだろうか。

 

「翔也君は倒れちゃったんだよね? 3時間くらい」

「そうですね」

「授業は?」

「え? あ……」

「あ……」

 

 俺と愛梨は顔を見合わせる。

 

「えっと……」

「あのね? 音姫ちゃん」

「もぉ。ダメだよ? 2人とも?」

 

 音姫さんは生徒会長モードに入りそうだ。こうなったら長くなってしまう。

 

「音姉。しょうがないでしょそれは」

 

 助け舟は義之から来た。

 

「でも……」

「でもじゃなくて、実際運べれば保健室が良かったかもしれないけど夢宮さんじゃ翔也を運べないだろ?」

「うーん……」

「じゃあ、音姉の弁当を食べて気絶したら音姉は俺を置いて授業に行くのか?」

「そ、それは……」

 

 それは、少し卑怯な言い方ではないだろうか? 今の俺に口を挟めはしないが……音姫さんは諦めたように

 

「むー。分かりました。でもダメだよ? 授業サボったりしたら」

「はい」

「うん」

 

 俺と愛梨は音姫さんの言い分にしっかりと頷いた。それを見た音姫さんは

 

「じゃあ、早くお昼済ませちゃおう?」

 

 笑顔でそう言った。それからはまたいつもの如く楽しい昼食に戻った。

 今度から話をするときは聞かれても大丈夫かどうかを考えてから話すようにしよう。そう思った俺だった。

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