あれからだいぶ経ち既に夕食の後。いつもなら由夢がつけているバラエティ番組でも見ながらゆっくりするのだがそのテレビでは
「次のニュースです。本日3時ごろ商店街で20歳の男性飲食店従業員が突然意識を失い病院へと搬送されました。男性は病院に到着した後無事意識を取り戻しました。なお医者の話では男性の体に異常もなく男性も急に目の前が暗くなったと言っており過労が原因だろうとのことです」
「過労ねぇ…」
「12月に入ってから、この男性のように突然意識を失い病院に搬送される人が増えています。師走の忙しい時期ですが決して無理をなさらないように気をつけてくださいね」
と言った感じで毎日のようにこんなニュースが流れるのだ。何かあったのかと思ってしまいたくなる位だ。
「みんな気をつけてね。無理とかしないように。特に弟くんと由夢ちゃんは」
ニュースの話を受け音姫さんが言う。それを聞いた由夢は呆れたように
「兄さんが過労で倒れるくらい無理するわけないじゃない」
そう返した。そういわれた義之も呆れたのか
「お前にだけは言われたくないぞ」
と言う。しかし由夢は少し当たり前のように
「や、私は兄さんなんかと違って繊細だから」
「……繊細ねぇ……」
「何ですか? 何か言いたそうですね……」
「由夢ちゃん? 義之君? そんなにカリカリしちゃダメだよ?」
愛梨の一言に2人はと言うより義之は引き下がる。そして話題を変えるように
「でも、1番気をつけないといけないのは音姉だろうけどな」
「へ?」
そう言う。音姫さんは予想外といった感じでポカンとしているが義之は続ける。
「生真面目で几帳面だし、完璧主義者だし。そしてなにより、すぐ無理するだろ?」
前半は客観的に見た印象だろうか。隣で愛梨は
「うーん? そうかなぁ? 無理はするけど優しいし楽しいし……」
そう小さく呟いていた。話に水を差さないためだろう。まぁ印象など人によって違うのだからしょうがない。
「わ、私は大丈夫だよ。無理なんてしてないよ」
音姫さんは、手をわたわたさせて言う。義之には無理してるように見えても音姫さん自身は無理ではないと考えているようだ。でも音姫さん以外にもいるが無理してるのに無理してないと本気で思っている人達もいるのだ。ある意味たちが悪い。
「それに、私は規則正しい生活してるもん。弟くんとか由夢ちゃんは冬休みだからって夜更かしとかしてそうだし」
「うっ!」
「それは……」
胸を張って言う音姫さん。痛いところを突かれてたじろぐ義之たち。
「ていうか、なんで翔也達は入ってないんだよ」
「そりゃ、翔也君達は規則正しい生活してるもん。今日の朝だってちゃんと起きてたし」
「まぁね……」
「夜更かしは体に悪いんだよー?」
俺と愛梨の返事に音姫さんはうんうんと頷く。
「そうだよね。まずは規則正しい生活をすることが健康管理の第一歩だしね。ふたりとも、お休みだからってだらけた生活しちゃだめだよ?」
指をビシッと立てた言う音姫さん。どうやら生徒会長モードに入ったようだ。止めたいが止めようにも手段が見つからない。由夢は物凄く非難めいた目で義之を見ている。義之もこうなるとは思ってなかったのか慌てているように見える。
「ふたりとも、聞いてるの?」
「はい!」
「はい」
音姫さんに言われて背筋まで伸ばす2人。団欒の時間は一転音姫さんのお説教の時間に変わったがこちらに被害は無さそうだ。
「ねぇ翔也君……」
テレビのほうを見ながら愛梨が言う。何か考え事をしてるのか口調は少し固い。テレビではまだニュースをしているが初音島ではなく本島のニュースだった。
「どうした?」
「さっきのニュース……時間は3時頃って言ったよね」
「急に倒れたって奴か? そうだけど」
「私達が見かけた事件の時間も3時頃だったよね……」
「……そうだな……」
正確には3時を少し過ぎたくらいだがそれは大きな問題でもないだろう。
「なにか関係性があるのかな……」
「気になるのか?」
「うん。事故は怖いし……後ね?」
「ん?」
「えっと、関係ないんだけどね?」
そこで一旦愛梨が口をきる。なにか共通点でも見つけたのだろうか。そして声のボリュームを落として言う。
「由夢ちゃんへのプレゼントいつ渡そうかな?」
「……」
本当に関係のないことだった。俺は由夢達のほうを見る。
「だから――」
「……」
「ふぅ……」
今渡せば音姫さんの説教を終わらせられるかもしれないな。
「今、渡すか」
「え? でも今は音姫ちゃんが……」
愛梨は音姫派? のようだ。しかし言葉の端から今でも渡しても言いという気持ちはありそうだ。ここは少し押してみよう。
「このまま説教が続く中で居ても結構キツイだろうしさ。それに、お風呂前に渡せば今日から着てくれるんじゃないか?」
「うーん…………」
「愛梨も早く見てみたいって気持ちがあるんじゃないか? 泊まりの期間も無期限じゃないし」
「…………」
愛梨はしばらく考えた後小さく頷き
「翔也君の部屋だよね?」
「ああ、机の上にある」
「分かったー」
そう返事をして立ち上がり上に上がっていった。ちなみに音姫さんは戸の開く音に気付いてないのか説教を続けている。義之も由夢もクタクタの表情だ。
「ただいま」
「……はやいな」
「うん」
早く渡したいのか笑顔で頷く愛梨。俺達は早速行動に移した。
「音姫さん。少し良いかな」
「ん? どうしたの? 翔也君、愛梨ちゃん?」
声には気付くのか説教を止めこちらを向く音姫さん。2人もこちらを見る。
「いや……」
「ちょっと由夢ちゃんに渡したいものがあって……」
そう言って愛梨がプレゼントを背に回し由夢に近づく。
「私に?」
由夢は覚えがないのかキョトンとしている。
「うん。はいこれ」
愛梨はそう言って、プレゼントの入った包みを渡す。
「これって……」
「開けてみて?」
由夢は丁寧に開けていき、中身を取り出す。
「パジャマですか?」
「うん」
「うわー可愛いね」
女性陣はそれぞれ反応を示す。
「由夢ちゃん可愛いんだから、ジャージ以外も着たほうが良いよ? そう思うよね? 義之君?」
愛梨はそう言って話を義之に振った。不意打ちであっただろう義之は
「え? えっと、そうですね由夢は……うん可愛いしジャージはもったいないな……」
一瞬の間にパジャマ姿を想像したのか確信したように頷く。そりゃジャージかパジャマかで言われたら大抵の男なら後者が上だろう。そしてそう言われた由夢は
「…………」
誰から見ても分かるくらいに顔を赤くしてした。一方愛梨と音姫さんは
「ねー愛梨ちゃん? 私のは?」
「音姫ちゃんは既にあるでしょー? 十分だよ?」
「そうかなー。えへへ……」
そんなほのぼのトークを広げていた。そんな中俺は自分の買ったプレゼントを思い出す。あれを渡したら愛梨はどんな反応をするだろうか? 由夢みたいに顔を赤くするのだろうか。それとも割と普通に受け取るだろうか。
「なぁ、翔也……」
気付くと義之が近づいていた。どうやら俺も想像に耽るとボーっとしてしまうようだ
「あぁ悪い……何だ?」
「いや、由夢の件お前知ってたのか?」
「ああ。知ってたけど?」
「そういうのは先に言っといてくれよな……」
そう言って義之は頭を抱える。
「何でだ? 別に困るわけじゃないだろ?」
「そうかもしれんが、いきなりああ言われたら……」
さっきの回答を意識しているのだろうか、義之の顔も少し赤い。だが
「ねぇ。由夢ちゃん早く着替えようよ」
「ダメだよ? 愛梨ちゃん。ちゃんとお風呂に入ってからじゃないと……」
「ちょっ、お姉ちゃん。愛梨さん」
それ以上に顔の赤い由夢は無邪気な2人のおもちゃになっている。しかしまだ顔が赤いとは……
「由夢の奴もしばらく尾を引きそうだな……」
「…………」
俺の呟きに義之は反応せず、女性陣のほう……由夢の方だろうかそっちを見ていた。
「義之?」
「え? あぁ悪い悪い」
「変な妄想でもしたか?」
「そんなことねーよ」
悪戯に聞いてみたが軽く返された。どうやら少しは立ち直ったのかもしれない。それから、女性陣は何を考え付いたのか由夢を連れて2階に上がっていった。
「さーて、音姉達も居ないしゆっくりするかね!」
先程説教されていた顔はどこへやらそう言って義之はコタツの1番暖かくテレビも見える通称ポールポジションに入った。そしてニュースから変わったバラエティ番組を見ながら俺は、いつ自分のプレゼントを愛梨に渡そうかという事を考えていた。