枯れない桜 もう一つの物語   作:メレリア

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12月30日(夜) 後半

「どうしたものか……」

 

 自分の部屋で俺は悩んでいた。悩んでいたと言うよりは少し後悔していた。

 

「あんなに早いとは思わないだろ……」

 

 あの後、例のプレゼントを渡そうと思い客間に行ったら、同室だった音姫さんから

 

「愛梨ちゃんならさっきお風呂に行っちゃったよ?」

 

 という事実を聞かされたのだ。それから自室に戻ってきた次第だ。

 

「どうするかなぁ……」

 

 引き出しの中にあるプレゼントをどうするか考える。明日渡すか風呂上りに渡すべきだろうかそれとも……

 

「今から行ってすりかえておくか……」

 

 サプライズとしては大きいかも知れないが見つかろうものなら一発で警察行きになりかねない。

 

「さすがに危険すぎるか……」

「何が?」

「え?」

 

 返事が来たことに驚き振り返ると

 

「音姫さん?」

「うん」

 

 笑顔で頷くのは音姫さんだった。いったい何の用だろうか? それに……

 

「あの、ノックしましたか?」

「え? どうして?」

 

 ポカンとした感じで音姫さんは言う。この人に言うのは意味がないのかもしれない……

 

「どうしてって……一応、俺も音姫さんも子供じゃないんですから……」

「ん? どういうこと?」

 

 頭にはてなを浮かべているような表情の音姫さんを見て俺は言っても無駄だと言うことを思い知らされた。

 

「いや、やっぱりいいです。それで何の用ですか?」

「うん。さっきも弟くん達に言ったけど夜更かししちゃダメだよ」

「夜更かしですか……」

 

 時間を見てみるが確かに良い子なら寝る時間だが俺達と同年齢くらいならまだまだこれからな時間だ。

 

「それをわざわざ言いに来てくれたんですか?」

「うん。まぁ翔也君なら問題ないと思うけど一応ね」

 

 にっこりと笑って言う音姫さん。先程のお説教と言い日頃の行いは大事だ。

 

「それで? 何かあったの? 何か悩んでたみたいだけど」

「いや、別に何もないですよ?」

 

 あるにはあるが言えない事だし。俺はそう返した。

 

「そう? 何かあったら相談してね? これでもお姉ちゃんなんだから」

 

 むんと胸を張って言う音姫さん。単に年上だからと言いたいのだろうがこういう言い方をされたら大抵の男子は勘違いしてしまうだろう。

 

「ありがとうございます。その時は相談しますよ」

「うん。じゃあね」

 

 手を振りながら音姫さんは出て行った。1人になって改めて考えを巡らせようとした時、ドアをノックする音が聞こえた。音姫さんだろうかまだ何かあったのだろうか

 

「どうぞー」

 

 そんなことを考えながら言う。ドアから入って来たのは

 

「やっほー。翔也君」

「……愛梨?」

 

 絶賛考え中の愛梨だった。風呂上り間も無いからか髪は少し湿っぽさを残しており一言で言ってしまえば色っぽかった。

 

「ん? どうかしたの?」

 

 俺の反応が違ったからか顔を覗き込もうとする愛梨。その仕草と同時にシャンプーだろうか、甘い香りもしてくる。

 

「いや、なんでもない」

「うーん? あぁ……」

 

 愛梨は一瞬キョトンとするもすぐにニヤニヤとしだし

 

「さては、お姉さんの魅力に気付いちゃった? 私のお風呂上りは翔也君はじめてだもんね」

 

 そう言ってきた。見事にその通りなのだがあっさり頷くのも何だか恥ずかしいので

 

「別に、そうでもないよ」

 

 冷静に返そうとしたが最後で少しうわずってしまった。

 

「ふふん。そっかそっか」

「…………」

 

 もう何も言い返せなかった。

 

「で? 何の用だ?」

「あ、うん特に無いよ?」

 

 俺の質問に当たり前のように答え部屋の中に入りベッドに座る愛梨。

 

「そうなのか?」

「むー。用事がないと来ちゃダメなの? せっかく風呂上りの私が見れたのに……」

「いや、そうじゃないが……」

 

 改めて愛梨を見る。愛梨と言うよりはその服装を確認してみるそこで思ったのは

 

「何にも無いな……」

「え?」

「いや、そのパジャマ何も無いな……って」

「あぁ……」

 

 普段見かける音姫さんのパジャマは小さいリボン等がついているが今愛梨が着ているのはそう言った装飾の類も模様も無い。色が白と言うのもありどこか寂しい印象を受ける。

 

「うーん。私は気に入ってるんだけどなー。翔也君にそう言われると何か可愛いのも持っておけば良かったかなー」

「由夢のを買った時買おうとは思わなかったのか?」

「その時は由夢ちゃんので頭がいっぱいだったからねー。そこまで気がまわらなかったよ」

 

 笑いながら言う愛梨。それを見ながら俺は心を決めた。プレゼントが入ってる引き出しを開ける。

 

「どうしたの?」

 

 ちょうど見えない位置に居るからか不思議そうに言う愛梨。プレゼントの包みをとり向き直る。

 

「ほら」

「えっ?」

 

 手渡しは恥ずかしかったので膝上に置いた。愛梨は状況が見えないのか呆然として

 

「えっと……これは?」

「……開けてみれば分かる」

 

 俺もかなり恥ずかしいのでそっぽを向いて答える。

 

「…………」

 

 包みが解かれていく音が聞こえる。やがて

 

「うわぁ……」

 

 嬉しそうな呟きが聞こえてようやく愛梨の方に向き直れた。どうやら不評ではないみたいだ。

 

「あの、翔也君。これって……プレゼント?」

「えっと……うん」

「…………」

 

 愛梨は無言でプレゼントのパジャマを抱きしめている。目尻には涙が見えた。

 

「どうした?」

「……え? あ……ち、違うの……プレゼント……なんて懐かしくて……」

「どういうことだ?」

「ちょっと……待ってね……」

 

 それから、しばらく愛梨は俯いて何も言わなかった。部屋の中はしばらく静寂に包まれた。やがて愛梨が顔を上げた。そこには涙の跡はあるも流れてはいなかった。

 

「……ごめんね?」

「いや、もういいのか?」

「うん! もう大丈夫だよ!」

 

 小さくガッツポーズを作る愛梨。無理をしてなければいいのだが……

 

「それで? 何の話だっけ?」

「いや、プレゼントが懐かしいって話だけど……」

「うーんとね……ほら前ここに泊まったとき親が居ないって話をしたじゃない? あれと同じなんだけど……」

 

 あれと同じ? ということは

 

「つまり、昔からずっと家を空けてるって事か?」

「そうそう。さすが翔也君、頭の回転が速い!」

 

 控えめな拍手をしながら言う愛梨。しかし俺は驚いていた。その話が本当なら愛梨は親が出て行った頃からずっと1人で生活してるという事になる。

 

「ちなみに、何時から親は出て行ったんだ?」

「えーっと私が付属に入った年だから……4年……かな」

「そっか……」

 

 自分がその状況になったと考えてみる。付属に入学と同時に親が家を空けて1人で暮らす……

 

「何考えてるの?」

「え? いや俺がそうなったらどうだろう……って」

「うーん。よく分かんないけど翔也君も同じようなものじゃないの?」

「え?」

「だって、さくらさん今日も居ないし。音姫ちゃん達がいなかったらほとんど1人でしょ? ……って義之君が居るんだっけ」

「いや……そっか」

 

 冷静に思い返せば俺もそうだ。実質初音島に来てから少し経った後は、さくらさんの仕事の関係もあり1人で過ごす事が多かった。まぁ、義之たちが遊びに来ることが多かったのでそんな意識は無かったが……

 

「それに、そんな気遣いはいらないよ? 今は楽しいんだから暗い話は無し無し!」

「…………」

「翔也君? 返事は?」

「え? あ、ああ……」

 

 まずい。何を言ったんだ? 愛梨は怪しむように俺を見ている。

 

「ねぇ、翔也君。聞いてた?」

「えっと……悪い聞いてなかった」

「まったく……思い込むと止まらないね翔也君は」

 

 両手を腰に当て呆れたように言われる。それは事実だから返す言葉も無い。

 

「それにしても……綺麗な色……」

 

 愛梨はパジャマを眺めながら呟く。どうやらかなり気に入ってくれたようだ。

 

「どこで買ったの?」

「えっと……朝の店だけど……」

「そうなんだーありがとう」

 

 満面の笑みでお礼を言う愛梨。それを見て純粋に可愛いと思ってしまい少し顔が赤くなりそうだ。

 

「いや、別に――」

 

 良いと言おうとした時廊下から何か投げたような音と

 

「うわ、おいっ! やめろって! 物を投げるな! 落ち着け!」

「もういいから出てって! さっさとしないと、不法侵入で警察呼ぶからっ!」

 

 言い合いの声が聞こえてきた。声からして由夢と義之だろうか。

 

「どうしたんだろう?」

「なんとなく想像はつくが……とりあえずこうなったら……」

「誰かが止めないといけない?」

「ご近所迷惑にもなるからな」

「そうだね」

 

 

 俺達はドアを開け外を覗いてみた。愛梨はパジャマの入った袋を置いて俺の下から外を覗く。そこには由夢に当てた部屋の前で慌てている義之がいた。ちなみに部屋割りは各自部屋に1人ずつの予定だったのだか

 

「私、音姫ちゃんと同じ部屋が良いなー」

 

 という愛梨の一言と音姫さんの同意もあり2人は同じ部屋になった由夢は

 

「別に子供の旅行じゃないんだから……」

 

 と言って遠慮したそうだ。

 

「2人とも! どうしたの?」

 

 やがて、音に気付いたのか音姫さんが来た。俺達も義之たちに駆け寄る。話に寄れば由夢が愛梨から貰ったパジャマを胸に当てたりしてた所を義之が覗いていたそうだ。

 

「ダメだよ、弟くん。人の部屋を勝手に覗いたりしちゃ」

「うん。女の子の部屋は見ちゃダメだよ? 義之君」

「……」

 

 優しく言い聞かせようとする音姫さんと愛梨。無言で義之を睨む由夢。怒っているのか頬が赤い。結局、約30分に渡る三人からのお説教でこの場は幕を閉じた。閉じたと言うよりかは音姫さんと愛梨が揃って眠たそうにしていた為義之と由夢が終わらせたと言った感じだ。

 そして、各自部屋に戻った。

 

「俺も寝るかね……」

 

 部屋に戻って俺は呟く。先の2人ほどではないが俺もたいぶ眠たいのは事実だ。ベッドに入ろうとした時先程のプレゼントが置きっぱなしだったのに気付く。

 

「……届けるかね……」

 

 俺は包みを抱え愛梨達の部屋に向かった。ドアをノックするも反応は無い。

 

「もう寝付いたかな……」

 

 俺はなるべく音を立てないようにドアを少し開け中を覗いた。そこには

 

「…………」

「……すぅ……」

 

 静かに眠る愛梨達の姿があった。まだ10分も経ってない気がするのだがこの2人だしそうなのだろう。俺は静かに移動し愛梨の枕元に包みを置いた。

 

「…………」

「おやすみ、愛梨」

 

 置いたときに静かにそう言うと、愛梨の表情が明るくなった。夢の中で良いことでもあったのだろうか? 悪戯してみたい気持ちもあったが止めておいた。入った時と同じように静かに俺は部屋を後にした。

 

「さてと……」

 

 自分の部屋に戻った俺はベッドに入り電気を消した。

 

「明日は大晦日か……」

 

 一年最後の日だし大掃除やら御節作り等色々あるだろう。明日は明日でまた大変そうだ。そんなことを考えながら俺は眠りについた。

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