12月31日(朝) 前半
「……んん……」
冬場の寒さで目が覚める。時刻を確認してみるといつもより少しだが遅い。
「……ふわぁあ。とりあえず顔洗うか……」
寝足りないのか欠伸が出る体に鞭打って俺は一階に降りた。
「あ、翔也君。おはよう」
「おはようございます。音姫さん」
顔を洗って朝食でも作ろうと思い台所に俺は向かった。しかし、既に音姫さんが居て朝食を作っている最中だった。
「やっぱり早いですね。音姫さんは」
「ううん。そんなことないよー」
調理の手を止めず音姫さんは言う。そうは言っても俺だって学校の日なら十分早い時間に起きたのにそれよりも早くしかも身支度までしっかりしてるとなるとやっぱり凄いだろう。
「そういえば、愛梨はどうしたんです? 一緒の部屋でしたよね」
「えっとね。私が起きた時に起きたんだけどぽーっとしてるって言うのかな。まだ眠そうにしてたよ」
何かあったのだろうかクスクスと音姫さんが笑う。寝起きといえばこの前は割と普通だった気がするのだが……
「んにゃー……おふぁやぁー……」
そんなことを考えていると背後から声がした。振り返ってみると、寒いからか毛布を頭からかぶり裾をずるずる引きずりながらコタツに向かうさくらさんが居た。
何時ごろ帰ってきたのだろうか。起きたばかりなのもあり寝癖で髪の毛は感心してしまうくらい目茶目茶だった。
「おはようございます。さくらさん」
「んー……」
挨拶するも、コタツに入ったさくらさんは目を擦りながらぼーっとして返事が無い。やがて体を小さく丸くしたのかこちらから見えなくなった。
「猫みたいだな……」
「ふふふっ。さくらさん、もうすぐ朝御飯できますからね?」
朝御飯という言葉に反応したのか、見えない所から
「んー……温かいミルクが欲しいぃ」
そんな要望が聞こえてきた。
「温かいミルクねー」
「目覚ましに温かい飲み物って言うのはよくある話だからねー」
「そういうモノですかね。じゃあ俺が作りますよ」
「うん。お願い」
さくらさんの要望に答えるべく準備を始めた時また戸が開く音がした。
「おはよう……ございまふぅー……」
そう言って入ってきたのは愛梨だった。その姿を見て俺が思わず手を止め
「親子なのか?」
そう呟いていた。何故なら愛梨もまた眠そうにしており、さくらさんと違って毛布をかぶってはいないがおそらく店で買っていたのだろう抱き枕を抱えてうとうとしている。そして愛梨はさっきのさくらさんと同じような足取りでコタツに入った。そのまま枕を炬燵台の上に置き顔をうずめる。
「あ、愛梨ちゃんまだあの調子なんだ」
支度が済んだのか音姫さんは愛梨を見てニコニコしていた。
「まだって事は起きてからずっと?」
「うん。あんな調子だよ」
それは知らなかったというか予想できなかった。前に泊まった時は普通だったのに……まさか、寝たふりだったとか? いや、そうだとしたら……
「愛梨ちゃん? 何か飲む?」
「うーん……温かいココアが良いー」
音姫さんの呼びかけに顔だけこちらを向いて愛梨は答えた。しかし、その目はまるで開いていない。
「ココアかー。翔也君」
「確か、そこに粉ありますよ」
「うん。ありがと」
そう言って、音姫さんは簡単に見つけてくれた。もはや勝手知ったる我が家といった具合だろう。
「翔也君ーはやくぅー」
さくらさんの急かす声が聞こえる。
「もうちょっと待ってくださいね」
愛梨の分も一緒に温めながら俺は返す。音姫さんは一緒に朝食を済ませるためそちらの準備をしてる。
「はい。出来ましたよ」
出来あがったミルクとココアをそれぞれの場所に置く。2人はそれぞれそれを飲んだ後
「はぁー」
「にゃー」
と言いながらやっと目が開いてきた。
「はーい。朝御飯だよー」
それを見計らったように音姫さんがテーブルに朝食を置いていく。今朝は洋風なのかトーストしたパンと、サラダそれにスクランブルエッグといった割と軽い朝御飯だ。
「あれ? もうご飯出来てたんだ」
さくらさん達がトーストに齧りついてる時に驚いたような声が聞こえた。声の主は戸の方に立っている由夢だった。こちらは先の二人に比べて目も開きしっかりしている。それに、服装も昨日貰ったパジャマを着ているので率直に言えば凄く可愛い。
「おはよう由夢」
「由夢ちゃんも食べる?」
「うん。そうする」
「だったら、弟くん起こして来ようかな」
おそらくまとめて洗いたいのだろう。音姫さんはそう言って立ち上がる。
「あ、だったら私が起こしてくるよ。お姉ちゃんは準備があるでしょ?」
「そう? じゃあお願いね由夢ちゃん」
「うん」
そう言って由夢は二階へと上がっていった。
「準備ってなにかあるんですか?」
「え? あ、ううん。朝御飯を出したりすることだから。大したことじゃないよ」
確かに準備といえば準備だが、長いこと料理をしてるとそれが当たり前の事になってくる。人が来たら出すのは俺の前では当たり前のことだったが。そういう慢心が事故に繋がるのかもしれない……
「なるほどー」
そう思った俺は頷いていた。音姫さんは立ち上がり義之の分も持って来た。そして座りなおしてから
「そういえば、さくらさん。昨日は何時まで仕事だったんですか?」
「んー?」
ふと思い出したようにさくらさんに聞いた。質問を受けたさくらさんはトーストに齧りついたまま音姫さんを見る。そして齧ったトーストを飲み込み
「んー。何時くらいだったかなー……」
うーんと唸りながら考えるさくらさん。やがて諦めたのかさっぱりした表情で
「分かんない」
「やっふぁり学園のしごふぉですか?」
同じようにトーストに齧りついていた愛梨が言う。だが齧りついていたまま喋ったので少々おかしかった。
「うん。それもあるかな……」
「無理はしないでくださいね。」
「にゃはは、ありがとう」
俺の言い分にさくらさんは、笑顔で答える。ただその笑顔が少し無理をしているような印象を受けた。追求しようかどうか悩んでいると戸が開いた。
「…………」
そこから出てきたのは由夢だけだった。どことなく不機嫌そうにしておりそのまま座り朝食を食べ始めた。
「由夢ちゃん。弟くんどうだった?」
「冷めるまでには来るんじゃない?」
ぶっきらぼうに言う由夢。何かあったんだろうか。
「あれ? 由夢ちゃん。パジャマなの?」
その由夢を見てさくらさんが驚く。さっき見てなかったのだろうか。
「買ったの? それともプレゼント?」
「えっと、愛梨さんからです」
「そうなの? 凄く可愛いよ」
「え? その、ありがとうございます」
昨日、2人に散々言われた言葉だが人が違えば違うのか由夢はまたも顔を赤くしていた。それを見ていた音姫さんは
「うー。やっぱり私も欲しい!」
そう言って愛梨の方を向く。
「愛梨ちゃん。今日一緒に買いに行こう?」
「え?」
「一緒に買いに行こう?」
「でも……」
「一緒に買いに行こう? ね?」
愛梨は渋るものの音姫さんは譲る気はないようだ。やがて愛梨は
「うん。わかった」
そう頷き続けた。
「翔也君も一緒に行こう?」
「……は?」
「だから、翔也君も買い物行こうよ」
何故か俺の方に飛び火させてきた。今日は家でのんびりしようと考えていたのに俺は音姫さんのほうを見る。
「そうだね……おせちの材料も買うから……うん。どうかな? 翔也君」
あっけなく賛同し二人から迫られる。2人の目が既に断らないと信じきっている目をしている。これを断れる男はいるのだろうか。
「はぁ、分かりました。おせちの材料なら人手が要りますしね」
「わーい。ありがとう翔也君」
「どんなの買おうかなー」
喜ぶ二人を見て後さくらさんが
「いいなー。新しい服ボクも欲しいなー」
口を羨ましそうに呟いた。何故か俺のほうを見ながら。さくらさんの寝巻きはパジャマではないだろうに
「ボクも欲しいなー」
再度催促するように少し声の大きさを上げて言うさくらさん。正直財布に余裕は無いのだ。
「……勘弁してください」
「にゃはは。冗談だよ。ボクのこれもまだ新しいからね」
まったく冗談に聞こえなかったのは気のせいだろうか。そこから一旦間をおいてさくらさんは
「でも気をつけてね。最近は事故も多いから」
そう言った。確かに最近は事故が増えていっている。それも原因不明な物が多くケガ人が出ていないのが唯一の救いだろうか。
「はい。気をつけます」
「うん。翔也君がそういうなら心配ないかな。今の音姫ちゃんたちはちょっと心配だから」
そう言って音姫さんたちを見る。
「音姫ちゃんおせちまで作っちゃうの?」
「うん。そうだよ」
「楽しみだなー。音姫ちゃんのおせち」
「頑張っちゃうからね」
「でも、その前にパジャマだね」
「うん!」
まるで子供のようにはしゃぐ2人。確かにいつもと違って少し不安だ。
「どうする? 由夢も行くか?」
「や、いいです。外寒いですし着替えるのかったるいし」
由夢はいつも通りのようだ。とりあえず俺は、先にある買い物のためにも朝食を食べ始めた。腹が減っては仕事は出来ぬ。
そうして、朝の賑やかな時間は過ぎていった。