「さてと、それでは」
義之たちも帰ってきて。俺達はそれぞれ作業着とまではいかないが着替えて居間に居た。
「これから年末の大掃除を始めます」
そう言ったのは音姫さん。俺や義之なんかは見慣れた光景だが
「みんなで大掃除ってなんかワクワクするね」
愛梨にとっては違うようだ。そして面倒そうに由夢はため息を吐く。
「じゃあ、作業順番と役割分担についてだけど……今年はちょっと変えます」
「え?」
音姫さんの言い分に義之が驚く。いつも通りなら4人それぞれ男女に分かれて……言ってしまえば義之と音姫さん。俺と由夢。といった風に分かれてやっていた。
「今回は愛梨ちゃんも居るから3人と2人に分けます。で人員配置なんだけど。弟くんは由夢ちゃんと一緒にやってもらえる?」
「え? 珍しいね音姉じゃなくて由夢とだなんて」
それは俺も予想外だった。
「だなんてとはなんですか。だなんてとは」
「うーん。正直悩んだんだけどねぇ。2人で一緒にサボっちゃったりしないかなぁとか」
「その意見にはちょっと同意かも。サボるとまではいかなくともなんせものぐさコンビだからな」
音姫さんはまるで妙案があるように得意げだった。
「だからね。去年までは分けてたんだけど。今年は人手が増えたから。弟くんと由夢ちゃんにはある程度のところまでやってもらおうと思うの」
「どういうことだよ音姉」
「ある程度の所までじゃ、大掃除じゃ無いんじゃないのお姉ちゃん」
2人が不思議そうにしている中。
「あ、そっか」
隣の愛梨が1人納得したように手をポンと叩く。この2人思考が近いのだろうか。
「つまり、弟くん達が掃除した後を、私、愛梨ちゃん、翔也君の3人で細かい所まで掃除する。その間に弟くん達は次の場所をしてもらうの」
「なるほど」
確かに良い案だ。要は追いかけっこになる訳だが義之たちがサボろうものなら俺達が確認できるわけだ。
「で、最初のこの部屋だけは全員で最初します。で次の所に行って良いくらいになったら弟くんと由夢ちゃんに言うから。そのくらいにやったら次に進むって感じで行きましょう」
「うーん。要は俺達が先にある程度やっとけばいいんだよな?」
「そうそう。細かい所は私達がするから」
「了解、じゃやりますか」
こうして掃除は始まった。やってみて思ったのは
「これ、最終的な負担は俺達に来るんですね」
畳の雑巾がけをしながら言う俺に
「だからこっちが三人なの」
「前の人の頑張りに左右されちゃうからねぇ」
同じく雑巾がけしながら返してくる二人。要は明確なラインを決めて無い以上どうしておさじ加減次第でこちらに委ねられるということだ。それを考えての三人なのだろうけど。
「あ、プリン見っけ」
「こら由夢」
既に義之達は次の台所の作業に入っていた。だか作業してるのか?今の会話。
「しかし、やっぱりこうしてると汚れてるなぁ。こまめにしてるつもりなんだけど」
「うーん。ここは色んな人が来たりしてるしご飯も食べたりだからしょうがないかなぁ……って弟くーん? 由夢ちゃん? 遊んでないー?」
そう言って音姫さんは台所の方を見る。そこにはプリンを取り合いをしている義之と由夢の姿があった。
「音姫さん。しばらくなら向こう見てきて良いですよ」
「え? でも……」
「こっちはまだ拭き掃除だけですし。しばらくなら大丈夫です。な? 愛梨」
「そうだねー。それよりもあっちが進んでなかったらそれこそ元も子もないよ?」
愛梨も、音姫さんでいう生徒会長モードなのか真面目な表情だ。
「うーん……じゃあちょっと行ってくるね。こーらおとうとくーん」
音姫さんはそう言いながら台所へと向かった。
「よし、じゃあ頑張ろう翔也君」
「そうだな。そういえば愛梨の家は掃除しなくて良いのか?」
「あはは、ありがと。でもこっちに来る前にやってるから大丈夫だよ。ほら手を動かす」
そう言って愛梨と二人で作業を進めていく。そうして居間が終わった時
「っ!……」
スプーンを咥えた状態の由夢が台所から出てきた。そのまま居間を通り過ぎる。気のせいかやけに頬が赤かったような
「どうしたんだ由夢の奴」
台所に移動し尋ねると、そこにはポカンとした義之と
「ふふふ」
ニコニコしてる音姫さんの姿があった。そして義之の顔は確実に赤かった。それからしばらくして由夢も戻り一階、二階と順々に掃除していく。そして
「後はこの翔也君の部屋だね」
「自分の部屋を他の人に掃除されるのは恥ずかしいな」
それぞれの個室の掃除となった。義之の部屋には音姫さんと由夢が。俺の部屋は愛梨が手伝うことになった。
「とはいえ、翔也君掃除してるからなぁ」
物色するように各所を拭きながら愛梨が言う。
「そりゃあな。自分の家というか部屋だし」
「ふふ、そうだね。それにしてもこの家で翔也君は育ったんだね」
「そうだな……」
あと少しすればというか来年にはここに来て10年になる。人生の半分以上をこの家で過ごしてると思うと良かったなと思う。もちろん本島に居た頃の生活が嫌だったわけじゃない。でもこの初音島での生活も捨てがたい物になっている訳だ。
「まーた考え事してる」
「ん? すまん。なんだ?」
「もういいよ。質問の答えはわかったから」
「どういうことだ?」
一体何を質問されたかすら分からない。考え癖を直さないとな……そう思いつつ作業に戻る。
「よし、終わったし――」
戻ろうかと言おうとした時、寒気が走る。あたりの空気が変わった。正確には変わったような気がする。この張り付くような空気。もしかすると
「義之の奴……ばれたか?」
「ん? あぁ。なんだかんだ男の子だねぇ」
愛梨は分かったのか怒るでも呆れるでもなくニコニコしていた。だが普通のニコニコしてるのとはちょっと違って見えた。今後もし持つとしたら気をつけよう。
「まぁ、こっちは終わったし先に下りて待っとくか」
「そうだね。先に休憩しようか」
こうして、居間に戻り休憩をした。それに由夢も加わり。音姫さんと義之が降りてきて隣の朝倉家の掃除に入ったのはそれから大体1時間くらい後だった。
「ここはこんなもんかな……」
場所を朝倉家に移し掃除は続いた。俺は浴室の掃除に1段落付け息を吐く。自分の家とは違い女性物が多いあたりちょっと良くないことも考えそうになる。
「とはいえ、それが発展してえらい目にあった奴もいるし……」
先の義之を思い出す。あれは完全に目が死んでた感じでみっちり絞られたんだろう。それに俺には考えを読む魔法使いまで居るんだからたまったもんじゃない。
「清く正しく生きろってお告げかねぇ」
そんな愚痴まがいのことを良いながら浴室を後にする。
「へぇー。これが小さい時の音姫ちゃんなんだ」
「うん。そうだよ」
リビングでは休憩中なのか、愛梨と音姫さんが楽しそうに話している。
「なんだか今より表情が硬いね」
「そ、そうかなー」
近くまで寄ってみると
「アルバム?」
尋ねながら覗いてみる。そこにあるのは音姫さんや義之、由夢の写真がたくさん貼られている。小さい頃のが多い。、
「あ、翔也君。そうだよ、棚の中を整理してたら出てきてね」
「せっかくだから見ようよって私が言ったの」
「へぇー」
着物を着て写ってるあたり七五三の写真だろうか。確かにその写真の音姫さんは表情が硬い。どこかムスッとしているような、そんな印象を受ける。
「確かに今の音姫さんより硬いですね」
「そうだよね。翔也君もそう思うよねー」
愛梨が賛同を待っていたかのように頷く。音姫さんは恥ずかしそうに目を逸らしながら
「そ、そうかな? きっと緊張してたんだよ。うん」
捲し立てるように言う。そして愛梨が次のページをめくる。
「あっ……」
音姫さんが呟く。そこに写っていたのは音姫さんでも由夢でもなく。ベッドの上で笑顔を浮かべている1人の女性だった。俺はその人を知っている。
「これって由姫さん?」
「……うん」
音姫さんに確認すると頷く。この人は音姫さんと由夢の母親の朝倉由姫さんだ。俺が初音島に来る前に亡くなっているがよくさくらさんや純一さん。それに音姫さんと由夢、そして義之からも話はたくさん聞いている。
「大切な役目……」
「え?……」
ふと音姫さんが呟く。それを聞いた愛梨は驚いたように音姫さんを見る。なんのことだろうか。音姫さんの表情はどこか悲しげに見える。
「あの、音姫さん――」
どうしたのかと声をかけようとした時。
「臨時ニュースです。先ほど商店街のレストランで火災が発生したとの事です」
テレビからのいきなりの話に俺達の視線は思わずテレビに向く。
「警察は、放火の可能性が高いと見て捜査しております。尚、今月は類似の事件が複数発生しており同一犯の犯行と見て調べを進めています」
「火災か…」
冬休みに入ってからやたらと今回みたいなニュースを見かける。
「連続放火するって怖いなぁ……」
「…………」
想像しながら俺に返す愛梨。音姫さんはというと先ほどのニュースの画面をじっと見ている。テレビは火災現場であろうレストランが写っている。
「音姫さん?」
「え? あっ……ううん、なんでもない」
呼びかけたら気付いたかのように反応する音姫さん。明らかに様子がおかしい
「音姫ちゃん、どうかしたの?」
「ううん。なんでもない。なんでもないから……」
そうは言うも音姫さんは心ここにあらず。どこか上の空だった。
「愛梨ちゃん。翔也君。ありがとう。こっちはもう大丈夫だから。私も自分の部屋を掃除しなきゃだし部屋に戻るね?」
「え? あの、音姫さん」
「それじゃあ晩御飯でね。夕食は期待していて良いから!」
そう言って音姫さんは足早にリビングを出て行った。一体どうしたんだろう。
「音姫さんどうしたんだろうな愛梨」
「……」
愛梨の方を見るとこちらはこちらで先ほど音姫さんが出て行った所を見ていた。今までにない真剣な表情で。
「愛梨?」
「ふえっ!? な、なにかな翔也君」
もう一回声をかけると愛梨も反応した。がこちらもどこか様子がおかしい。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
「あー。うん、ちょっとね……」
愛梨は歯切れが悪そうに言う。二人してどうしたのだろうか。
「とりあえず、向こうに戻るか」
「そうだね……」
返答はするも愛梨の表情は硬い。一体2人に何があったのだろうか。尋ねようにも尋ねられない雰囲気のまま俺達は芳乃家に戻った。