「それでは今年も一年、お疲れ様でした」
お辞儀しながらさくらさんが言う。その雰囲気はまるで学園でのスピーチだ。
「音姫ちゃんに愛梨ちゃん。義之君に翔也君に由夢ちゃんそれぞれ健康で過ごせて良かったです。ただ、僕としては義之君の成績が不安になるんだけど……」
「あの、さくらさん」
義之が慌てたように言う。しかしさくらさんは続けて
「もし義之くんが留年しようものなら僕は学園長いや……保護者として――」
「……さくらさん、一年の締めくくりはそのくらいにしてそろそろ食べない?」
耐えかねたのか義之が話題を逸らす。これ以上自分が話の種になりたくないのもあるのだろう。それも悪い方向での話しでだ。さくらさんは驚いたのように目を開き
「えっ、もう!? まだ、原稿の半分も読んでないんだよ!? 昨夜、徹夜して考えたんだよ」
「と、とりあえず、ご飯冷めちゃったら美味しくないですから、早めに食べちゃいませんか?」
音姫さんが助け舟を出す。それを聞いたさくらさんがうーんと悩んだ後
「それもそうだね。それじゃみんな食べよう!」
「いただきます」
みんなで手を合わせ合掌する。
「これ上手いな。流石音姉」
文字通りガツガツ食べながら義之は言う。由夢やさくらさんもお腹が空いていたのかいつもより口数が少ない。
「そ、そうかな? 気に入ってくれたなら良かった……」
音姫さんはどこか歯切れが悪い。どうやら大掃除の時からの状態が続いているようだ。
「……」
それは俺の隣に座って食べている愛梨も同じなようで。この2人が静かなのは違和感が強かった。
「音姫ちゃん。それに愛梨ちゃんもいつもの元気が無いみたいだけど、何かあったの?」
さくらさんの問いかけに対し
「えっ? い、いえ、そんなこと無いですよ。そんな風に見えますか?」
音姫さんは驚いたように返す。自覚が無いのかそれとも……
「ま、大掃除で張り切りすぎたとかじゃない? お姉ちゃん頑張りすぎるから疲れそうだし」
由夢が食べながらさらりと言う。確かに大掃除が原因なのは間違いない。
「そうだね。ちょっと疲れたかも」
「そっかぁ……じゃあ愛梨ちゃんもお疲れなのかな?」
さくらさんは愛梨に目をやる。愛梨も視線に気付いたのか顔を上げ
「あ、えっと……ちょっと眠たくて」
そんな風にいった。
「2人とも普段から頑張ってるもんね。じゃあ今日はゆっくり休んでね。無理しちゃダメだよ。後ご飯も食べる。はい」
そう言って二人のお皿にどんどんおかずを載せていくさくらさん。乗せられた2人は苦笑いを浮かべていた。その後は義之と由夢の食べ物の好き嫌いの話や、この後の予定話した。その結果
「それじゃボクは出かけるから、ガスの元栓や戸締りなんかはしっかりしてね?」
玄関先でさくらさんは言う。これから学園でお仕事があるみたいでそれも1月の2日頃まで仕事詰めのようだ。出る際に義之を呼んでなにやら耳打ちしてる。
「それじゃみんな良いお年を! See You!」
そう言ってさくらさんは歩いて行った。義之の顔色はどこか赤い。一体何を耳打ちされたのだろうか。
「……兄さん? 顔赤くして何を言われたんですか?」
さくらさんが行ったのを見計らうように由夢が質問する。
「な、なんでもないよ。それより中に戻ろうぜ。寒い寒い、コタツで暖まらないと」
「ちょっと兄さん!」
ごまかすようにそう言いながら中に入っていく。
「おい義之! まったく……愛梨、音姫さんも中に――」
入りましょうと言おうしたが
「……」
さっきのやり取りも聞こえてなかったのか、さくらさんが歩いて行った方を真剣な眼差しで見ている音姫さんと、その音姫さんを心配そうに見る愛梨の姿だった。
「2人とも? どうしたんですか?」
「あ。翔也君。 さくらさん上着とか着て無いけど大丈夫かなって。ね? 音姫ちゃん」
「へ? あっ……うん。そうだね」
「とりあえず、中に入ろっか」
そう言って音姫さんは身を翻し中に入っていった。
「ごめんね翔也君。気を使わせちゃって」
愛梨が隣に来て謝る。
「いや、にしても何があったんだ? 大掃除のあたりからだろ?」
「うん……多分だけど、後で確かめてみるから」
愛梨は真面目な顔をして言う。ひとまずは任せるしかない。
「確かめるってどうやって?」
「それは……まぁ何とかしてみるよ」
そう言って愛梨も中へと入って行った。
「どういうことなんだよ……」
思わず本音を漏らしながら俺も家の中へと戻った。
「一体、どうして?」
「それは私から話すよ」
そこまで黙っていた音姫さんが口を開く。
「とりあえず、翔也君は分かってると思うけど魔法使いは実在するの。私の家系もそう。小さい頃にお母さんから受け継いだの」
「由姫さんから……」
「でも当時の私はそれを受け入れきれなくて、お母さんが死んじゃったことに耐え切れなくて」
音姫さんはそういって苦笑する。
「そんな時に当時の愛梨ちゃんが私の記憶を変えた……というよりは忘れさせてくれたの」
「当時の音姫ちゃんは本当に危なかったの。飲まず食わずでずっと」
「そうか」
俺が居ない時の話でもあり簡単に信じるとは言えないがとりあえずそう返す。2人の顔を見るに嘘とも出任せとも思えないが。
「で、愛梨ちゃんのおかげで私は普通に過ごせてたんだけど。今日の」
「アルバムか……」
「うん」
愛梨と音姫さんが頷く。
「そう。アルバムを見て私は役目を思い出したの。大切な役割」
「役割?」
「うーん。簡単に言えば魔法使いの監視者……とでも言えば良いかな」
「監視者ですか」
「魔法は使い方次第ではとても危険なの。例えば人の意思を無視して物を操ったりとか」
確かに魔法を言われたらそのようなのを想像してしまう。一般的な魔法……超能力のようなイメージだろうか。俺の思考をよそに音姫さんは続ける。
「だから魔法をそういうことに使わないように監視する役割を担った魔法使いが必要だったの。で、私のお母さんの家系もその役割を担っていたの」
「なるほど。受け継いだというのは」
音姫さんは頷く。愛梨はそうそうと言い口を開く。
「私は違うよ。監視者じゃなくて……まぁ気ままな旅人って所かな」
「魔法使いも色々なんだな」
それぞれ社会があるのだろうと思う。
「で、ここからは翔也君にも聞きたいのだけど」
「何です?」
「おそらく、最近初音島で起こってる事件には魔法が関わってると思うの」
「最近の事故とかですか?」
「そう。こんなまるで夢みたいな話信じられる?」
音姫さんが俺に言う。愛梨は黙って俺を見ている。
「そうですね……」
「……」
思うところは色々とある。言ってしまえば信じにくいも事実だ。それは正直に言おう。
「正直なところ信じにくいです」
「そっか。そうだよね」
音姫さんはそう言って頷き、愛梨は悲しそうに目を伏せる。
「でも」
「でも?」
「2人が嘘をついてるとも思えないのもあるんです」
「翔也君……」
愛梨が口を開く。先程とは違い嬉しそうな表情を浮かべる。音姫さんは意外といった風に俺を見る。
「とりあえず。2人を信じるって事じゃダメですかね?」
「ね? 音姫ちゃん。言ったでしょ? 翔也君は大丈夫だって」
「うん。 単純に信じるって言うよりは信じれるかな」
ふぅという息を吐き音姫さんの表情が和らぐ。いつもの音姫さんの表情だ。
「それじゃ、決まりだね」
「うん。最初から私は大丈夫だと思ってけどね」
「どういうことですか?」
話が見えない。何が決まったのだろうか。愛梨が
「あ、そっかそっか。ごめんね翔也君。えーっと」
「これはまだ先の話なんだけど。今の初音島に起こってる事件について調査してみようかなって思ってるの。魔法使いとして」
魔法使いという言葉を強調しながら音姫さんは言う。
「それに協力すれば良いんですか?」
「うん。まぁ魔法使いとしてと言ってもやる事はそんなに変わらないと思うけどね」
「まぁ先の話だからね。またその時に言おうとは思うけど」
「そうですか……分かりました。俺に出来ることなら手伝いますよ」
「ありがとう」
そう言って音姫さんは頭を下げる。
「さてと、じゃあ私はそろそろ寝るかな」
そう言って立ち上がる音姫さん。
「ふわぁ……」
愛梨も眠たそうに欠伸をかいている。緊張感は完全に抜けたようだ。
「じゃあ、この件はまた後日だね。そうだ翔也君」
「はい?」
「ちょっと見てて」
そう言って右手を俺の方に差し出し目を閉じる。その瞬間に音姫さんの右手には最中が乗っていた。
「はい。小腹が空いたら食べてね」
「え? これ一体……」
「これもね。魔法だよそれじゃ、おやすみなさい」
そう言って音姫さんは上に上がっていき居間には俺と愛梨が残された。