「緊張した~」
音姫さんが上に上がってのを確認してから大きく息を吐きながら机に突っ伏す愛梨。
「いろいろあったみたいだな」
「うーん……まぁね」
顔を上げ仕方の無いことだからと咥え愛梨は小さく笑う。
「とりあえず頑張ったご褒美欲しいなぁ……」
「ご褒美?」
「そう。何のことか分からない?」
「そうだなぁ……」
この状況から考えるとそういうことだろうか。しかし
「ココア」
愛梨が口を開く。
「え?」
「ホットココア飲みたいの」
「そういうことか……」
1人で何あたふたしそうになってるのだか。俺はキッチンに向かいココアを作りにかかるついでに自分用にコーヒーも作る。どっちも粉を溶かすだけなのですぐに出来た。
「はい。出来たぞ」
「ありがと。はぁ~」
一口のみ幸せそうに息を吐く愛梨。
「上手いな」
俺は先ほど音姫さんからもらった最中を食べる。上品な甘さが口の中に広がる。
「こういう魔法もあるんだな」
「それは対価が自分のエネルギーみたいだし、練習すれば翔也君も出来ると思うよ」
「そうなのか」
「うん……」
そんな俺の様子を見ながら愛梨は言う。口調は真面目だが目だけは俺ではなく俺の手元にある最中に向いていた。
「食べるか?」
「うん!」
残った最中の半分を愛梨に渡す。
「おいひい」
最中を頬張りながら愛梨は言う。そのまま食べ続け
「ご馳走様」
食べきってしまった。こちらのはまだ半分。正確には3分の1くらいだが残ってる。
「ところで、俺でも出来るって本当なのか?」
「うん。素養自体は翔也君にもあるから」
「なんでそんなことが分かるんだ?」
自分の生まれなどを省みても魔法に関わった記憶なんて無い。なのに素養があると言う愛梨。その根拠はどこにあるのか。
「そんなの簡単だよ」
愛梨は笑いながらそう言って続ける。
「私が、翔也君の夢の中にに入れるからだよ」
「……」
「ってごめん。これだけじゃ分からないよね。ちゃんと順を追って説明するから」
愛梨はそう言って座りなおす。姿勢正しく真面目な顔つきになって
「だいぶ……とはいってもそれほどじゃないけど私の夢の中に入れる条件については説明したよね? 覚えてる」
「条件? ……確か、波長。だったか?」
「うん。正解。あの時の翔也君には魔法の知識に興味無さそうだから色々と省いたんだけどとりあえず覚えてくれてて嬉しい」
正直、正解かどうか怪しかったが何とかなったようだ。
「で、波長。分かりやすくチャンネルって言うね。私の魔法は簡単に言えばラジオみたいにチャンネルをその人の夢に合わせて入るって事なの」
「なるほどな。よく俺を見つけられたな」
みんながみんな同じ夢を見るわけではない。十人十色、人の数だけチャンネルがあると考えればその中の特定の人間に合わせるのは手当たり次第にやろうものならかなりの作業だ。
「うん。でも翔也君は簡単に見つけられたの。他にも音姫ちゃんの夢にも入ろうと思えば入れるかな……後――」
最後の方は聞こえなかったが音姫さんも出てくるとなると
「つまり同じ魔法使いは見つけやすいということか」
「そういうこと。理解が早いね。ついでに言うなら魔法の力は「想いの力」なの。強い想いもあれば見つけられる。今だから言うけど翔也君自身のチャンネルはずっと前に見つかってはいたんだ」
大事な事をさらっといわれた気がするがそれはひとまず置いておこう。
「一度合うチャンネルを見つけてしまえば後は簡単。夢の中に入る魔法は多々あるけど。私が習った魔法は数は極々限られるけどまぁマーキングみたいなのが出来るから」
「その分マーキングすればするほど他の人のには入れなくなるとかか?」
「うん。より限定的にすればするほど魔法の力は強くなる。覚えておいて」
何かしたのギブ&テイクというものだろう。しかしずっと前からマーキングされていたのはちょっと怖い。ひとまず強くしたいなら限定的にするというのは覚えておこう。
「ま、魔法の事に関しては今後私が少しずつ教えていくよ。私が教わってきたように。本当はご家族の役目だけど」
「家族の……」
脳裏に忘れかけてた光景が浮かぶ。前の夢で見た家族との帰り道。猛る炎、ただただ呆然とする俺の前に走ってくる人影。そして――
「……くん、翔也君!」
「……え?」
気が付くと対面に居た筈の愛梨が俺の横に居た。頬が温かい気がするのは愛梨の手が当てられてた。
「え? じゃないよって私のせいか。ごめんね?」
「あ、いや……」
「……」
お互いに無言が続く。無言と言うよりはお互いに何を言えば良いのかといった状況なのかもしれない。
「えっと、愛梨」
「何かな?」
「ひとまず、手を離してくれるか」
「え? あ、ごめん」
慌てて愛梨は手を離す。頬がひやりとして頭が幾分か回るようになった気がする。
「そういえば、事件の調査をするって言ってたけどいつぐらいから始めるんだ?」
話題を変えるため先ほどの音姫さんの話の件を聞く。
「えーとね。多分、新学期が始まってからになると思うよ? それまでの間に私と音姫ちゃんのタッグで翔也君に魔法の知識を叩き込む予定だから」
「叩き込むって……」
普段の学業の成績も良さそうな2人から教えられるのは人から見ればありがたいことだがまるで知らないものを教え込まれると言うのはある意味怖いものだ。
「お手柔らかに頼む」
「分かってるよ。それにそれの一番重要なのは翔也君の向き合いだから」
「向き合いか……」
愛梨と付き合う前からずっと問われてきたこと。その答えももうすぐ出るということなのだろうか。
「ま、今日の所はこのくらいにしておこうかな」
「まだまだかかりそうだな」
「上出来な方だって。なんたって私が……ふわぁ~」
続けようとした所で欠伸で止まってしまい愛梨が顔を赤らめる。時刻は先程より40分ほど経っており普段の愛梨や音姫さんならとっくに寝ている時間である。まぁ先に上がった音姫さんは既に寝ているのだろうが。
「そろそろ寝るか?」
「うん。そうする」
そう言って愛梨は立ち上がり階段へと向かう。途中で振り返り。
「そうだ翔也君。おまじないかけてあげる」
「おまじない?」
「そう、よく眠れるためのおまじない。いまの翔也君の心の中、けっこうこんがらがってるでしょ?」
「それは……」
一度にあれだけのことを言われたら困惑もするだろう。
「はい。じゃあ目を瞑ってて。おまじないかけるから」
「……分かった」
言われたとおりに目を瞑る。
「……ちゅっ」
頬に柔らかな感触がした。そのうえその感触の部分が少し湿って……
「え?」
思わず目を開けると少しばかりあった距離が縮まった所に愛梨の姿があった。顔色は真っ赤に染まっており
「え、えと、その……じゃあおやすみなさい!」
捲し立てるようにそう言って愛梨は今から出て行き上へと上がっていった。
「……」
残された俺はその場に立ち尽くす。少ししてようやく出来た行動は先程の頬を触っていた。
「えっと……」
つまり、アレだよな。キスされたんだよな。
「……っ!」
途端に自分でも顔が赤くなるのが分かる。何かしていないとどうかなりそうだ。
「と、とりあえず洗い物するか」
誰か居るわけでも無いのにおれはそう言って、今のコップを持って台所に行く。そこには誰かが使ったのか、食材の残骸やら使われたままの調理器具が水につけられてるだけの状態だった。
「ありがたい……」
誰かは知らないがこの状態に俺は感謝の言葉を呟く。それからは洗い物に没頭した。その後横になったが興奮冷めやらずあまり眠れなかったのはいうまでもない。