1月1日(朝) 前半
ピピピと時計のアラームが聞こえる。半ば無意識に手を伸ばし俺はアラームを止める。
「……ん?」
そこでふと気付く。昨日目覚ましはかけていなかった筈だ。時刻を確認してみるとⅴ5時半だった。外もまだ暗めだ。
「一体どうして……」
「あ、起きた? 翔也君」
そう言いながら部屋に入ってきたのは愛梨だった。服装からしてどこかに出かけるのだろうか。
「愛梨か。どこか出かけるのか?」
「そうだよ。神社に出かけるの。もちろん翔也君もだよ」
愛梨はそう言ってニッコリと笑う。
「神社に? 初詣か?」
「そうそう。それと音姫ちゃんがアルバイトするみたいだからお手伝いもかねてね?」
音姫さんがアルバイトというのは初耳だった。おそらく音姫さん自身が隠していたのだろう。
「で、俺はなにをすれば良いんだ? こんな時間に」
「うん。お正月と言えばもうひとつ欠かせないものがあるでしょ?」
「えーっと……」
なんだろうか。愛梨のことだからお年玉とか言い出してもおかしくないのだが……
「流石の私でもお年玉とか言わないよ……」
「そっか」
「あのね。おせちがいるでしょ? おせち」
「あー。そういえばそうだな」
材料を買ったばかりですっかり忘れていた。つまり今作ってるといった所だろう。というか
「もう普通に俺の考え読んだな」
「うーん。翔也君にはもう遠慮しなくていいかなって思ったの。じゃあ、先に降りてるから早く来てね」
それじゃと言って愛梨はさっさと下に降りていった。遠慮しなくていいと思ったか……
「今までどこで遠慮していたんだろう」
浮かんだ疑問を呟きながら俺は着替えを済ませ下に降りた。
「おはようございます。音姫さん」
「あれ? 翔也君? 随分早いね」
一瞬だけこちらを振り返り驚きの表情を浮かべるもすぐに調理中の手元に視線を戻し言う。
「愛梨に起こされて……手伝いますよ」
「そうなんだ。じゃあ、お願いしようかな」
「了解です。そういえば愛梨は……」
先に下に降りた愛梨の姿が見えず音姫さんに尋ねる。
「あ、愛梨ちゃんなら居間に居ると思うよ」
「居間に?」
言われて居間の方を覗いてみると
「む、むむ……」
重箱の前に正座し唸っている愛梨の姿があった。
「あれは一体」
「調理は足引っ張りそうだから詰めるのするって言ったの」
「なるほど」
「それじゃ、お手伝いお願いできるかな」
「分かりました」
重箱の数から見て今年は五段のようだ。去年までは4段だった気がするのだが。今年は愛梨も居るからだろうか。と考えたが一旦置いておいて手伝いに没頭した。そして
「ふぅ。こんなものかな」
「うん。凄いよ。彩りも鮮やかだし」
愛梨が詰め終えてようやくおせちは完成した。
「ありがとね。愛梨ちゃん、翔也君。随分助かっちゃったよ」
音姫さんが笑顔で言う。この量を1人でするとなるとかなりの労力が必要だろう。4段でもそれはあったのだと考えると
「来年も手伝いますよ。というか毎年ありがとうございました」
「え? ううん。別に、私が好きでやってることだから」
「だけど……」
「あ、音姫ちゃん。仲良くしてるところ悪いけどそろそろ時間」
愛梨が僅かばかりに目を細めて言う。嫉妬だろうか。
「時間って、ホントだ。愛梨ちゃんは大丈夫?」
「私は全然大丈夫だよ」
「そっか。じゃあいこっか。翔也君はどうするの?」
「乗りかかった船ですし行きますよ」
音姫さんはメモに何かを書いておせちに貼り付ける。義之達に対しての書置きだ。
「よし、それじゃ行こうか」
「うん」
「はい」
こうして俺達は神社へと向かった。
「流石に冷えるな」
真冬の早朝だから当然と言えば当然なのだが寒い。もう少し防寒着を持ってくればよかっただろうか。
「しかし、時間かかるな」
事は少し前になる。
「今日はよろしくお願いします」
「わざわざありがとうね。忙しくなるかもだけどよろしく頼むよ」
神社で俺達を出迎えてくれたのは、神主の奥様だろうか、
「それで? 隣のお嬢さんも手伝ってくれるのかな?」
「はい。一応そのつもりです」
「あなたもありがとうね。じゃあ着替えましょうか。付いてきて」
そう言って愛梨と音姫さんは本堂の奥へと歩いて行った。
「お兄さんは寒い中申し訳ないけど少し待っててもらえるかしら」
「いえ、分かりました」
という経緯で今は待っていると言う状況だ。
「おや、春野じゃないか」
「ん?」
名前を呼ばれ、声のするほうを振り返るとそこには
「よっ! あけましておめでとう」
杉並の姿があった。新年最初に会う友人が彼とは
「杉並か。あけましておめでとう」
「ああ。にしてもここに居るとは珍しいな。しかもこんな時間に」
「俺だってそんな時があるさ。そっちは調査か?」
「いや? 今回は普通に初詣だよ。道中何人かお払いしてきたがな」
一体何をしてるんだか。まぁ杉並に関しては気にするだけ無駄なのだろう。
「翔也く~ん」
背の方から声がする。
「なるほど。そういうことか」
杉並の目がギラリと光る。まぁ仕方ないか。
「ふむ。俺はお邪魔なようだな。ではさらばだ」
「何か悪いな」
「何、気にするな」
そう言って杉並は凄い勢いで走って行った。忙しい奴だ。
「お待たせー」
そう言って来た愛梨の姿は巫女装束だった。これって貴重なものじゃなかっただろうか。
「愛梨ちゃん。待ってー」
続くように走って来たのは音姫さんだった。正確には走ってなく早歩きと言った感じだ。そして同じく巫女装束である。どうやらそう貴重なものでも無いようだ。
「ふぅ。やっぱりこういった服は動きにくいね」
「そうかな。そんなに変わらない気もするけど」
服装に対し対照的な感想を述べる二人。男なら袴の様なイメージだろうか。
「それで、二人は何をするんだ?」
「私は授かり所担当で、愛梨ちゃんは境内の……正確には本堂周辺の掃除みたい」
「まぁ、飛び入りみたいなものだからね。授かり所も捨てがたいけど……こう」
そう言って愛梨は竹箒を持つ。
「こう竹箒使いながら掃除って絵になるでしょ? 巫女服だし」
言われてみればまぁ様になっている。大部分は服装のおかげだろうが。
「俺はどうすれば?」
「翔也君はね。特にないって。だから私のお手伝いしてもらうって話をつけたよ」
「掃除か……」
大晦日に大掃除したからしばらくはしないと思ってた掃除だがこうも早い段階ですることになるとは。
「後、私も音姫ちゃんもそれぞれ自由時間があるからその間は初詣自体を楽しもうね」
「そうなのか。時間はどうした?」
「翔也君と私は同じ時間帯に、音姫ちゃんはちょっと後だね」
「多分、弟くん達が来ると思うからその時間にしようかなって」
まぁ、勘なんだけど。と音姫さんは言う。流石長年姉弟してるだけあってお見通しということだろうか。
「それじゃ、頑張っていこう」
「おー」
音姫さんの号令に愛梨が答える。
「じゃ、また後でね」
号令後、音姫さんは授かり所の方へ向かって行った。
「さてと……改めてどう? この服装」
2人きりになった所にで愛梨がそう言ってくるりとその場で回る。裾がふわりとなりチラリと足が見える。
「そうだな。似合ってはいる」
「まぁそうだね。私達は結構これ着てたから」
「どういうことだ?」
コスプレ趣味でもあるのだろうか。前も衣装作ってたりとか色々してたみたいだし。
「あー……そうじゃないそうじゃない。単純に魔法使いでの話。やっぱり服装も大事らしいんだ」
「補助的なものか」
「そうそう。で、日本だと巫女服が1番多いの。元々は神に仕える女性の衣装だからね」
「ふーん」
魔法の力は想いの力とは聞いたがまだまだ分からない事だらけだ。今の話なら想いの力なのか神の行いなのか分からないラインだ。愛梨の話が前提とするなら人の思いに答え神々が想いの力を行使しているのだろうが。
「こーら翔也君。思考に耽ると手が止まるんだから今は置いとくよ? はい」
「ん? あぁ悪い」
愛梨から竹箒を受け取る。さらりと自分の心を読まれたが、もうしょうがないことなのだろう。そう割り切って俺も掃除を始めた。