あれからしばらく、掃除、列の誘導や在庫品の授かり所への補充など色々と奔走した。最初は愛梨の手伝いだけだったがどうやら人員が足りていないらしく何でも屋よろしく借り出される事態になったのだ。
「えーっと、学業成就のお守りは……」
「おお、いたいた」
倉庫の中でお守りを取り出している時に入り口付近から声をかけられた。
「君。そろそろ休憩の時間になるよ。そろそろ戻りなさい」
声をかけてくれたのは、人当たり良さそうなおじさんだった。ちょっと小太りな見た目と声のかけ方がそんな印象を強くしたのかもしれない。
「分かりました。じゃあこれが終わったら戻ります」
「すまないね。急な飛び入りの君に色々やらせちゃって。休憩中は彼女さんとゆっくり楽しんできたら良いよ」
「は、はい……」
さして知らない人から言われるとどうにもむずかゆい。それが声に出たからか、おじさんは顎に手を当てながら
「その反応だとまだ日が浅いのかな?」
ニヤニヤしながら言ってくる。
「いいねー若いねー。私も君くらいの頃はそんな風にドキドキしながら付き合ってたものだよ」
「そ、そうなんですか?」
「驚くのも無理ないか。今はこんな体だしな。ハハハ」
少し主張気味なお腹に手を当て笑う。
「ともかく。若いうちは色んな事をするべきだよ。今回みたいなアルバイトも立派な社会経験の1つだ。たとえ無理だろうと思えることでもやってみなきゃ分からないくらいの意気込みでやるくらいが君達くらいの年齢はちょうど良い」
「昔はそうだったんですか?」
「私かい? いやぁ恥ずかしながら違うんだ。出来るかどうかを天秤にかけて安全そうな方ばっかり進んでしまってたよ。その方が当時は気も楽だったからね」
「……」
どこか遠くを見るように視線を上げる。
「しょうやくーん!}
そんな中、唐突に愛梨の声が聞こえた。それに気付いたのか
「おっと、時間を取らせてしまったね。代わりに私がやっておくから君は行きなさい」
「え、でも……」
「懐かしい話をさせてくれた礼だよ。大丈夫君ほどではないけど私もまだまだ働けるからね」
そう言ってお守りの入った箱を持ち行ってしまった。名前を聞いておけばよかったかもしれない。
「翔也君。休憩だよー!」
「そうだな」
入れ替わるように来た愛梨は一目で分かるほどテンションが高い。お祭りに興奮するタイプなのだろうか。
「色んな出店があるよ! 早く行こ!」
そう言うや俺の手を握り走り出す。
「そ、そんなに焦らなくても」
思わずそう言うと愛梨は一旦止まり
「焦ってなんかないよ。ただ、翔也君と楽しみたいだけ」
「そっか」
「そうなんだよ」
そう言ってニッコリと笑い再び走り出す。
「あ、あれ食べたい」
出店の通りに出て愛梨が指さしたのは綿アメ屋だった。
「綿アメか……」
随分と言うかやはりと言うかどこか子供らし……
「綿アメって子供っぽいかなぁ」
「いや、そうでも無いと思うぞ」
そう返すも愛梨は俺の顔を覗き込むように
「そうは言っても考えてたよね? まぁ、しょうがないか」
翔也君は男の子だし。と付け加える。
「すみません。1つ貰えますか?」
「あいよ。袋はどうするかい?」
「そういえばそうか。愛梨、どうする?」
「そうだねー……うーん」
愛梨は一通りの袋を見た後
「そのまま食べるから要らないかな。ちょっと捨てがたい気もするけど袋持ったままお仕事は出来ないし」
「そっか」
「お? お嬢ちゃんアルバイトの子かい? て服装見れば分かるか。なら安くしとくよ」
そんなノリで営業していいのか悩んだが店主が良いと言うのなら言いのだろう。
「ほい。服とかに引っ付けないようにね」
「ありがとうございます。ほら愛梨」
「ありがとう翔也君」
受け取った綿アメをその場で一口食べる愛梨。
「うん。甘くて美味しい」
「まぁ砂糖だからな」
「翔也君はドライだなぁ……まぁいいや、翔也君はどうするの?」
「そうだなぁ」
歩きながら周りを見回す。そこまでお腹は空いてるわけでも無いけど菓子類という気分でもない。
「あれにしようかな」
買うものを決めた俺は愛梨に指で示す。愛梨は指からその先を目で追い
「あれって、たこ焼?」
そう口にした。
「そう。まぁ簡単に食べれるしお菓子よりは腹に残る」
「こういう場所では雰囲気を楽しむものじゃないの?」
「ただ、遊ぶだけならな。そういうのも悪くないんだけど。とりあえず買って来るから待っててくれ」
「結構並んでるしそうしようかな……」
愛梨は最初はそういうも、ふと何かを思いついたように
「さっきの撤回。私も一緒に行く。折角だし休憩所で食べさせてあげるよ。というかさせてさせて」
そう言って来た。その目は「断ってもやっちゃうよ?」と訴えるような言ってしまえば悪戯したそうな目だった。
「あー……1つくらいならな」
「わーい。じゃあ早く買いにいこ」
話の間に綿アメを食べ終わり串をゴミ箱に捨ててから愛梨が急かす。
「分かった分かった」
それから特に寄り道もせず、せずと言うか許されず。たこ焼を買い俺達はバイト用の休憩所に戻った。
「美味しそうだね。こういうのはやっぱり出来立てを食べるのが醍醐味だね」
隣で興味津々と言った様子で目を輝かせる愛梨。
「じゃあ1つ食べてみるか?」
「え? いいの!?」
愛梨は思わず顔を上げ目を輝かせるがすぐにハッとしたように首を振り
「や、流石にそれは申し訳ないよ。一口目は翔也君が食べなよ」
「そうか。それじゃ冷めるのももったいないし……」
「あ、ちょっと待って」
そう言って愛梨は俺から爪楊枝をひょいととる。そしてそのまま1つに刺し
「はい、あーん」
笑顔でそう言ってきた。そういえばしたいとか言ってたな。
「……あー」
「はい」
口を開けるとゆっくりたこ焼きを食べさせてもらう。しかも丸々一個。
「どう? 美味しい?」
「……あふい」
そう言ってひとまず咀嚼に専念する。流石出来立てホカホカだ。時間をかけ飲み込む。味はもちろん
「美味しいよ」
「そっか。じゃあ私も」
そう言って今度は自分の分をとり口に持っていく。巫女服を汚さないよう意識したからか先ほども素早くかつ丁寧だ。
「はふ、はふ、あふいね」
「そりゃ出来立てだからな」
「ふぉれも、ふぉっか」
同じ様に時間をかけ飲み込む。
「たこがちょっと小さかった気もするけど美味しいね」
「え? そうか? 結構大きかった気もするけど」
「じゃあ私が食べたのがそうだっただけかな?」
愛梨はちょっと悔しそうな顔をする。
「出来るなら大きいの食べたかったなー」
「それじゃ、もう1つ食べてみるか?」
どれが大きいたこが入ってるかは分からないが
「うーん。食べたいけど翔也君は大丈夫なの? あんまり食べて無いでしょ?」
「別に大丈夫だよ。そんなに食べない日も無いわけじゃないし」
遅刻しそうなときとか。それこそ食欲無い時とか後はそんなに食べたくない時とか。
「ふーん。じゃあ貰っちゃおうかな。ちなみに……」
「ん?」
「翔也君はどれが大きいのだと思う?」
「そうだなぁ……」
正直分かるわけ無いので少し考えてみる。
「これかな」
「むー、それ単純に1番大きいからって考えでしょう?」
「まぁ、そうだな」
割ってみれば分かるんだろうがそういうのはあまりしたくない。
「しょうがないな翔也君は……じゃあはい」
そう言って愛梨は「あー」と口を開ける。これはつまり……
「……」
とりあえずたこ焼きを持っていく。声をかけようにもなんて掛ければよかっただろうか。
「……フフ」
愛梨がにこっと笑う。
「たこが大きかったか?」
「ううん」
首を横に振る愛梨。なら何故笑ったのか。
「今の翔也君凄く面白かったから」
飲み込んだ後で愛梨にそう言われ俺には言い返そうと思うも言えなかった。何故なら
「フフ、新年早々いいもの見れた見れた」
楽しそうにニコニコしてる愛梨を見たらこういうのも悪くないのかもなと思う自分が居たからだ。こうして俺達の休憩時間は過ぎて行った。