時は、昼休み。俺は、義之と一緒にいた渉もついでに、学食に来ていた。学食は客が多く混雑していた。
「なんつーか、大盛況だな。相変わらず」
「いつきてもこんな感じだもんな」
俺と義之の言い分に常連なのか渉悟ったように言う。
「所詮、我々学生は経済ヒエラルキーの最下層に位置してるからな。この……」
そこで、渉は一回区切り
「安い! 早い! 美味くない! の三拍子揃った学食に人が集まるのは自然の流れだよ」
「切ない話だな」
義之は一言で返した。しかし、この学食にはごくまれに高いメニューや、出てくるのが遅いメニューもあったりするし、天文学的な確立で超美味なメニューが出てくることもあるらしい。そういう気まぐれなところがあるのも学食が人気の理由の一つかもしれない。
「あー、たまには職人技を遺憾なく発揮した、ジューシーな肉が食いてー!」
「だったらバイトでもしたらどうだ?」
「それはありかもな」
渉は体力だけは無駄にあるし、金が絡めばけっこうな働きをしそうだが…
「学生の本分は学問です」
残念なのは、こいつは面倒くさがりな所だ。
「お前が言っても、なんの説得力もねぇな」
「うっせ。それよか、今日は何にすんだ?」
確かに、早く決めないと時間がなくなる。
「義之は何にするんだ?」
「金もないし素うどんかな」
「うっわ。学食の中でも最もお買い得プライス商品かよ。わびしい奴だなー」
確かに、この学食で最も安いのを頼むってかなり厳しい経済状況だな。
「そういうお前は?」
「スープ ウィズ ウ・ダンヌ」
「……」
英語っぽく言ってるが、渉も同じようだ。
「翔はどうする?」
「まぁ、俺も素うどんで」
ここで、きつねうどんとか頼んだらなんか言われそうだし。次の機会まで辛抱しよう。
「ってことで、素うどん三つは買ってくるから二人は席取っといてくれ」
「りょーかい」
席がないと食べられないので、俺と義之は席を探しに向かった。
「翔、あそこが空いてるからあそこにしようぜ」
「そうするか」
先に座った時に隣の席から声が聞こえた。
「あ、翔也さんと兄さん」
声の主は由夢だった。
とりあえず、由夢と一緒の席に座ることにしたが気になるのは由夢と一緒にいる女子だ。
「ちっ!」
俺達というか、義之を見た途端に盛大な舌打ちをしたこの子は誰なんだろう。義之は面識はありそうだが話したくなさそうだ。
「あら、もしかしておふたりはお知り合いでしたか?」
「あ、いや、知り合いってわけじゃないけど、一度会ったことがあって。名前とか知らないし」
答えている義之の顔は明らかに焦っている。
「そうですか。えっと、こちらは天枷美夏さん。今日、私達のクラスに転入してきたの」
「……」
「この人たちは桜内義之と春野翔也。一学年上の3年生で兄弟みたいなものかな」
天枷は俺の方を見て
「……」
少し頭を下げた。あれが彼女の挨拶なのだろう。しかし、義之に対してはまったくの無視を決め込んでいた。さすがの由夢も苦笑いを浮かべている。義之に向かって小声で何かを言っている。
義之の返答がおかしかったのか由夢はじと目で義之を睨んでいる。
そんな気まずい空気の中で食事は続いた。その空気は義之の一言で崩壊した。天枷さんが、バナナを食べようとした時に何か言ったのか。天枷さんはテーブルを叩きつけ何かを言おうとした。その時にどこからか電子音が聞こえてきた。
「ちぃぃ! バナナミンがっ!」
そういい天枷さんは、一心不乱にバナナを食べた。やがて鳴り響いていた電子音も止まった。そんな光景を見ていると放送が聞こえた。
「えー、2年1組の天枷美夏さん、3年3組桜内義之くん、至急保健室まで来てください」
「ふんっ!」
天枷は義之を無視して食堂から出て行った。
「義之。お前も呼ばれてるぞ」
渉の一言に義之は我に返ったように
「わ、わかってるよ」
「また何かやらかしたんですか?」
「別になにもないよ」
そういって義之は、片付けを俺に頼んで行ってしまった。残された俺達は
「あの2人…何なんだろうな?」
当然浮かぶであろう渉の問いに、俺と由夢も
「…さぁ」
としか言えなく、そんな疑問に頭を悩まされていた。
それから午後の授業も終わり放課後。
「今日の夕飯どうすっかな~」
そんなことを呟きながら俺は廊下を歩いていた。今日の料理担当は、俺と由夢だ。俺と義之を除く学校の男子は知らないが由夢の料理の腕は正直絶望的だ。
だから、由夢でもできる簡単なことを作りつつ料理をしないといけないから献立を考えるのは難しいのだ。
「やっぱり、煮込むものがいいよなー」
そんなことを言ってると廊下の曲がり角から
「どいてーどいてー!」
と大声が聞こえて来た。俺はとりあえず壁際に寄った。そこから出て来たのは
「義之くん、おそーい!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「白河と……義之?」
なんとも意外な組み合わせだった。義之の手を引っ張っている白河ななかは、歌が上手で、顔もスタイルも良く、学園のアイドルと言われている。全男子生徒の憧れの的だ。
「なんで、白河さんとお前が一緒に居るんだ、義之?」
「翔也?」
義之は俺に気付くと困ったような笑みを浮かべた。
「それがいまいち、状況が分からないんだよ」
「分からないって」
なんで、と続けようとした所を
「君は……春野翔也君?」
白河の声に阻まれた。
「白河さんだよね、なにかあったの?」
「うん。ちょっと追われてて。逃げてる最中」
楽しげに話す白河。どうやらそれに義之は巻き込まれているようだ。
「……お前も大変だな」
「なら、助けてくれ」
義之の願いも
「あ! 義之くん。おしゃべりはおわり。行くよ」
白河の一言で叶えられなくなった。俺は白河達に言った。
「まぁ、頑張って」
「うん! ほら、行くよ義之くん」
「翔也~」
白河に、腕を引っ張られて義之は行ってしまった。
「……買い物に行くか」
残された俺は、とりあえずの商店街に向かった。