「由夢~、そっちはどうだ?」
「もう十分だと思うけど、まだ煮込むの?」
あの後、夕食はロールキャベツに決めて俺と由夢は作っていた。作ったとはいっても、基本は煮込むことなのであんまりやることはない。煮込み具合の確認は由夢に任せて俺は他の付け合わせを作っている。
「もうちょいしたら、一番美味しい感じになるんだよ」
「や、翔さんの作る料理は元が美味しいんですから変わらないですよ」
料理を作ってる身としてはこの言葉は、素直に嬉しい。
「褒めてくれるのは嬉しいけど、なんでロールキャベツを一個別の器に入れてるんだ?」
「や、味見です。なんかいつもより柔らか過ぎる気がするんで……」
そう言って、由夢はロールキャベツをほおばった。
「はふ、熱いでふ」
「つまみ食いなんかするから熱いんじゃないか?」
「む……」
何が気に食わないのか、由夢は今さっき食べたロールキャベツを箸で掴み俺に向けた。
「じゃあ、翔さんも食べてみてください」
笑顔で言ってきた。断れない雰囲気がある。
「まぁ、いいけど……」
実際に食べてみると、想像していた以上に熱く飲み込むまで時間がかかった。煮込みすぎだったのだろうか。
「ね? 熱かったでしょ?」
「確かに、由夢の言うとおりだったよ……」
しかし、勘かもしれないけどいつもより煮込みすぎてるのに気付いたのは成長していると思った。
「分かれば良いんですよ。それじゃ居間にもって行きましょう」
由夢は上機嫌で居間へと向かった。これって間接キスなのではないだろうか……
「翔さんはやくしてください」
「そうだー。早く食べたいぞー」
居間から賑やかに声が聞こえてくる。
「言わない方がいいな……」
俺は、そう結論付けて居間へと向かった。
「で、今回はなにをやらかしたわけ?」
夕食の最中、クリパの話をしていたところに音姫さんが不意に話題を変えた。
「俺ですか?」
「あ、違う違う。翔也君じゃなくて弟くん」
「は? 俺?」
義之がしたことは、大体予想ができるけど…
「お昼よお昼。水越先生に呼び出されてたよね?」
水越先生は、昼休みに義之と天枷を呼んだ保健室の先生だ。
「あ、いや……別に音姉が心配するようなことはしてないよ」
追求されたくないのか誤魔化すように答える義之。そんな風に言っても、音姫さんと由夢は
「…………」
完全に疑ってる視線だった。まぁ、現場に居た俺も気にならないといえば嘘になるし怪しい感じもある。
「本当だって。ちょっと仕事を頼まれて」
「ふ~ん、天枷さんと一緒に?」
にわかに信じがたい光景だな。
「天枷さんってだれ?」
昼休みに食堂に居なかった音姫さんが由夢に聞く。
「今日、私のクラスに転入してきたかわいい女の子」
かわいいという部分を強調して由夢がいう。確かに容姿はかわいいかったけど、それでも本人を見ていない音姫さんは目を細め
「かわいい女の子……ね。へー。で、なんでその天枷さんと一緒に水越先生に呼び出されて、仕事を頼まれたわけ?」
より疑っている目で音姫さんが詰め寄る。
「いや~、あの、その……」
女性ふたりが無言のプレッシャーを放っている中で義之が口を開いた。
「あっと、その彼女は……」
義之は、言うのを躊躇っているがふたりのプレッシャーがそれを許さない。やがて静かに言った。
「ロボットだから、ばれないようにって水越先生から……」
「…………」
なんか、言葉が出ない。そんなことがあるとは思えないし…天枷さんがロボットなんて言い訳にも無理がある。音姫さんと由夢は可哀想な子を見るような目で義之を見ている。
やがて由夢が
「ま、兄さんと天枷さんが内緒でなにしてても別にいいけど。妹のわたしには関係ないし」
とだけ言い、音姫さんは
「あれだよ? セクハラは犯罪だからね?」
と言われている。こうなると義之がちょっと哀れだな。それから、しばらくして
「ただいま~。なんか楽しそうだね~」
玄関からさくらさんの声が聞こえて来た。そのままコタツに入る。
「さくらさんの分も用意しますね」
「あ、だったら俺が」
今日の担当は俺ですし、と続けようとしたら…
「いいの、いいの、一日一回は台所に立たないと腕が鈍るから」
楽しそうに言う音姫さん。そういうことならお任せしてもいいだろう。
「じゃあ、お願いします。熱いかもしれないから気をつけてくださいね?」
「うん」
音姫さんは手際よく用意をしていた。その様子を見ていた義之が
「やっぱ家庭的な女性って魅力的だよな~」
と言って何故か由夢を見た。先程の仕返しだろうか?
「……なんですか?」
「別に」
「ふん。どうせわたしは家事全般できませんよーだ」
少し拗ねたように由夢が言う。
「でも、由夢の料理の腕は少しずつだけどあがってるぞ?」
さっきの事が良い例だ。
「それに、由夢ちゃんには由夢ちゃんのいいところがたくさんあるから大丈夫だよ」
にこにことさくらさんもフォローする。その後、温めなおした料理を食べながら
「で、さっきはなんの話してたの? すごく楽しそうだったけど」
気になっていたのか聞いてきた。
「クリスマスパーティーのことです。弟くんのクラスで人形劇をやるって言うから」
「しかも兄さん、主役なんだって。なんて言うか兄さんのクラスってチャレンジャーだよね」
「まぁ義之のクラスはメンバーがメンバーだからな」
俺達はそれぞれ思うことを言う。それを聞いたさくらさんは
「へ~、それは楽しみだね」
「はい」
「ある意味」
「全然」
答えは三者三様の言葉が重なった。俺は黙っていた。それに気付いたのかさくらさんが俺に聞いてきた。
「翔也君はどう思う?」
「そうですね~……本当にあのクラスが真剣にやったら良い劇になると思いますよ?」
事実、義之達のクラスは本気になれば体育祭で、運動部のトップ集団が集まったクラスに勝つぐらいだし。色々ハプニングはあったが。
「そうだね~」
「それで、今日から家でもお稽古をしようって話してたんです。本番まで時間ないし」
「兄さんのことだから、放っておいたら絶対自主練とかしないだろうしね」
「あ~、それはあるね」
俺たちの意見に対して
「そんなことないぞ」
そういった義之は、嘘をつくときにでる癖を指摘されてまた、哀れな目にあっていた。
実際、義之たちのクラスのメンバーの能力は目を見張るものがあるのは事実だしどのようになるのかという話しと音姫さんが義之の練習に付き合っていくという形で決まり俺達の夜はふけていった。
「…………」
不意に目が覚めた。時計を見てみると時刻は三時。深夜だった。
「……水」
上手く寝付けていなかったのか、冬だというのに汗をかいていてのども渇いていた。
「下に行くか……」
一階に降りてみると居間はまだ灯りがついていた。
「さくらさんか?」
こんな遅くまで時代劇を見てるのかと思い、居間に向かった。
そこで俺が見たのはさくらさんではなく
「あ、やっほ」
コタツに入っている見知らぬ女の子だった。
「…………」
俺は状況が分からず固まっていた。俺の気持ちを知らない少女は、いつの間にか、近くまで来てて俺の顔を覗き込んでいた。
「どうしたの?」
「……ああ……少しぼーっとしててね」
「ふ~ん。変なの」
少女は、クスクスと笑いながらコタツに戻りまるで自分の家のように言った。
「まぁ、立ち話もなんだから入って入って」
疑問は多くあるがとりあえず、汗も引き少し寒かったので俺もコタツに入った。
「率直に聞いていいか?」
「ん? 何?」
「あなたは誰だ?」
その一言に少女は
「ガガーン」
分かりやすい効果音で返してくれた。
「ひどい。忘れないって約束してくれたのに…」
少女はうなだれながら言う。嘘も何も本当に知らないんだからしょうがない。「あったってどこで」
「覚えてない? 私の声」
「声?」
確かにどこかで聞いたことが…
「まさか、あの夢?」
「思い出してくれたね」
「ということは、ここも夢の中なのか?」
少女は、にっこりと微笑み
「うん。自己紹介は、この前時間がなくて出来なかったからね」
少女は座り直して
「私の名前は、夢宮愛莉。よろしくね」
「よ……よろしくお願いします。俺は――」
「春野翔也君だよね? 知ってるよ」
夢の世界でも知られてる俺……。
「夢宮。俺の夢に現れるけどあんたは何なんだ?」
「それは、前にも言ったよ? 私は魔法使いだって」
前もこんな感じのことを言ってたからな。
「俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて――」
【パリン!】
「…………」
この音には聞き覚えがあった。
「時間みたいだね……」
「やっぱり今のは……」
少し寂しそうに、そして残念そうに夢宮がいう。
「うん。君が夢から覚める予兆。また質問に答えられなかったね」
「いや、名前が分かったからいいだろ。それに俺が忘れなければまた質問できるだろ?」
そういうと、夢宮は笑顔で頷いた。
「うん!」
「それじゃ」
そういって、俺は夢から覚めた。